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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月19日

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248/531

昔話中2です(葉子)

lllllllll

葉子さんの昔話。

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 施設を出たのは高校卒業の18の年。決まりだもの、里親の見つからなかった子は出て行かなきゃならない。良縁はあったと思うの、この人の家に引き取られれば幸せになれそうって思える里親候補は居たけれど。実の親を恨む私には、そのとても優しそうな義理の親をいつか恨むようになるのかと思うと、それが怖くて踏み切れなかった。

 母親がたまに面会に来たけど会わなかった、死ぬほど顔が見たくなかったから。もし会っていれば、この時に幼いユキさんの母親であるアキさんに会っていたかも知れないけれど。幾つかの年で本当に来なくなって、死体で見つかったとか何とか聞いたけれど、私は葬式には出なかったしその遺体がどうなったのかも知らない。

 もし本当の私を思って側に置かなかったなら……生きているうちに、いや葬式くらい、どうして出てやらなかったのかと今更ながら後悔してる。

 そんな事情を知る事もなく、親を恨みながらも……そんな事だけ考えていてもしょうがないから。施設からだけれど高校はそれなりに良い所に通ったわ、成績は悪くなかったもの。

 それしかする事がなかったって言うのはあるわ。学校では聖子さんって華道の家元のお嬢さんや今は整体院の院長である藤堂君と同じクラスだったりしたの。良い思い出だわ。

 でもどんなに成績が良くても、社会に出れば意味はなかったの。高卒の親のいない子供なんて雇い入れてくれる所がホイホイあるわけもなく。施設長が小さなお店の店員の口を探して来て、ありがたくその職で細々生きていくつもりだった。

 けれど、事情があってすぐに店が潰れて、では看護婦さんの学校や寮のある職業校に入る事も勧めてもらったけれど、試験日に体調を崩したり色々あってタイミングを逃して。

 これ以上迷惑はかけられないと行き場のない私は職を求めてうろなを離れ、身元の割れない場所で年を誤魔化して夜の仕事につくのは時間がかからなかったわ。

 苦いのを無理してあの頃に飲み過ぎたせいか、今もお酒は好きになれないわね。






 ある日、その店に摘発が入ったの。違法な事なんていろいろまかり通っているからね。探られて痛くない所なんて無いような店。それでも私にとっては住処だからとても困ったわ。

「君、未成年だよね? 親は?」

 仲間でも海外組は強制送還とかで他の場所に行ってしまい。引き取る親が居る子やら、もろもろが帰ってしまって。警察署に残ったのは私一人になっちゃった。

「言いなさい! じゃないと困るのは君だ」

「わ、私、未成年じゃないです」

 続く押し問答。怒りだす警官の前で私は施設の名だけは言うまいと口を噤む。どうしてこんな事になったのか、何故ここにいるのか。誤魔化してここを出たら、誰か次の店が決まるまで置いてくれるトコはないかなんてぼんやり考えていたわ。次は毎日がお酒だけでは済まない、むしろそちらがメインになる事を視野に入れながら。

「あれ? ちょっといいですか?」

 その時降ってきたのは優しい声音。けれど振り返ると恐ろしいほどの大男が、温和そうに笑っていたわ。

「君、刀森 葉子さんじゃないかな?」

 会った事もない人、だのに名前を呼ばれて驚いてしまって。その表情が自分がその本人だと答えているようなものだったわ。明らかなミスに私は一度顔を伏せ、そして彼を見上げて睨んだわ。このままだと施設に連絡が行くでしょう。あそこには迷惑をかけたくなかったのに。

「この子、ウチの件で探していたんです。身元は俺が一度受けますから……」

「土御門君、君が?」

「ええ、問題なく処理します」

 話が自分の予想とは離れた形で動いて行く。一時間も経たないうちに私はその見知らない大男と二人で外にいた。このままどこかに連れ去られてもおかしくなかったけれど、とにかく警察署から出たかったから仕方ないわ。

「俺は土御門 和馬と言うんだよ。おんま、って呼んでね」

「何の用事ですか?」

「え?」

「ウチの件で探していたって、言ってました」

「ああ、刀森の家の『件』で……」

 あの家は不審火で消えたから。その事だとわかったわ。けれどそれが不審だろうと、普通の火事だろうと、何故か時間が経ってから母が遺体で見付かったのだろうと、関係なかったから。

「私、あの家とは関係ありません」

 その時……そうね、思えばあの人とても口ごもっていたから。もしかしたら、賀川君の母になる姉の事や、母が誰と居たのか、知っていて、いろいろ『それの確認』だったのかもしれないわ。聞いていればなにかが変わっていたのかしら……

 だけど頑なな私に、あの人は笑って、

「うん、わかった」

そう言ったので私は彼から少し離れるの。

「じゃ、私、帰ります」

「え? ああ。俺、君の身受けしちゃったから、どこに帰るかは確認しないとだけど」

「そ、そんなの困ります」

 困るのはあの人なのに、私も勝手なモノで。

 地域の元締めの所で仕事の紹介でも受けなきゃと腹を括りながら、サッサと街へ戻って行くの。

「帰る所あるの? ねえ、君、家族もいないハズだよね?」

「ほっといて下さ……」

「どこに行くの? またあんな違法な店に戻るの? 毎日ではないけど、酒だけじゃ、ないよね?」

 私が何をさせられていたのか知ってるのは警察なら当然で。それを改めて言われて、恥ずかしくて顔に朱が走るの。

「それにあそこの店は暫く駄目だよ。店長が捕まったし」

「じゃ、別の店に拾ってもらいます」

「何、言ってるかわかってる? いろいろ、させられるよ? あの店はまだ親切な方だ。今までだって……」

「関係ないでしょう? それとも『お相手』しましょうか?」

「関係なくないし、そんな事言わないで……自分を貶めてどうするんだ」

「貶めて? 違うわ、生きる為にやってる事。食うために盗みを働く様な真似だけはしてないわ」

「ごめん、そんなつもりではなくて。でも、そこに居たくているんじゃないんだろ? 食えるならいいんだったら。俺と行こう!」

「え? って、どこにっ! あの……」

 最後まで言わせる事もなく、あの人は私の手を握って引っ張って行って。その後は私に『いいから、いいから』と宥め賺し言って、ただニコニコ笑って、うろなに連れ帰って。『柴』と言う小料理屋の下働きに押し込んでくれたの。そこの裏方で何年か働いて。母のいない私は、ここの大女将に料理のイロハを習ったわ。もしこの時、彼に引っ張られていなかったら、今の私はなかったでしょうね。

 その間、彼はちょこちょこ様子を見に来てくれて。

 厳つい見かけと違って優しい微笑みで、いつの間にか私の心に住んでいて。けれど私は何となく拾ってもらえただけだと、迷子の汚い猫か、良くて妹くらいにしか思われてないのだと思ってた。年は十も離れていたしね。

 けれど、あの人は言ってくれたの。

「ねえ、葉子さん。僕の彼女になって。俺は君を置いて行くかもしれない。それでも最後の瞬間まで。君を想って、必死に生きるから。俺と付き合って欲しいと言うのは……迷惑だろうか」

 今、思えば不思議な言葉。

 まるで最後の日を予期したように。

 でも、嬉しかった若い私はあまり考えもしないで、その手を取ったわ。

 そして暫し付き合いを経ているうちに、彼が少し変わった家系の生まれで、私との付き合いは祝福されないのを知って。躊躇した。それも一族の男を名乗る、あの人と同じ大きな体の者に『和馬の事を思うなら離れてくれ』と言われたの。

 もう二十歳も半ばになって、料理の腕を持って雇われれば生きていけるのもあって、大女将に暇をもらい、私は彼の前から姿を消したの。



「見ぃつけた!」



 でも彼は私を追ってきた。

 別れた後に妊娠がわかって、お腹が大きくなって途方に暮れていた頃。酷く重い悪阻で厨房で食品の匂いをかいだだけで吐くのに、雇ってくれる店なんかなくて。小料理屋で貯めたお金も底をついて。住む所もお金が払えず、追い出される寸前。

「私が困ってると、おんまさんは現れるのね。でもダメ。貴方は私と居ては駄目だって」

「兄が何を言ったか聞いた。真に受けなくていいのに。大丈夫なのに」

「だめよ。帰って……」

「ごめんね。ごめんね。僕より先に、君から置いて行かれると思わなかったよ」

 追い返す私に、泣きながら謝ってくれたの。私が悪いのに。

 でも安心したのか、何だったのか、その場で私は気を失って倒れたの。

 起きたら、お腹が酷く痛くて。

 もうだいぶ大きかったお腹は空っぽで。

「私の! 私の赤ちゃんは!」

 半狂乱になった私を抱きしめて、あの人は言ったの。

「大丈夫、大丈夫だよ、でも僕らの赤ちゃんだからね」

「誰の子かなんてわからないでしょ?」

「もう、言わないで。あの子は俺達の子だから。わかるんだよ」

 私も赤ちゃんも、諦めてくれと言われ。私は子供を生んだ後、何日何日も眠っていたと。その間、あの人が巨体を揺らして病院でオロオロしていた事……そんな色々を聞いたのは後日の事。

 赤ちゃんが生きていると知って、ホッとした。

 それもつかの間だった。

 見に行った保育器の中には掌ほどの小さな赤ちゃんが居て。言われなければ子猫と思うほど、小さくて。

 それを見る私を、あの人が覗き込んでいるわ。笑わなきゃって思うのに、涙が出て来たのよ。

「何て小さいのかしら……私のせいね……」

「大丈夫だよ、この子はすぐ大きくなるよ。弱々しく見えても、きっと生まれたての馬みたいにすぐに立ち上がって、走れるようになるから」

「……子馬みたいに早く立つと良いわ」

御馬おれのの子だから……じゃ、あの子の名前はこうま、かな?」

「え? 子馬って付けるの? あなた?」

「流石にそのままはどうかな……あ、高いって漢字を使って。『高馬こうま』って読ませよう! 俺に鷹槍って俺の仲間がいるんだけど、あいつくらい元気で真っ直ぐに育ってほしいから、タカって音が読めるの、いいなぁ」

 そう言って、ガラスに張り付くように私達は……高馬を見たの。

「照れくさくて紹介してなかったけれど…………俺の仲間とか。面倒で紹介できなかった家の事とか、これからは出来る限り説明する。だから『家族』になろ? 結婚しよ? てか、するから。もう……俺を置いて行かないで」





「よ、嫁かぁ~おんまが、奥手のおんまがヨメ連れて来たぞ。それも器量よしじゃねーか。なにぃ? もう子供がいる?! うへぇ~房子ぉ~三番の離れ空いてたろぉ! 鍵持って早く来い! ま、とにかく頼むよ。葉子さん!」

 この後、やはり折り合いがつかずあの人は土御門を出たの。名前までは変えなくて済んだ事が何とか『許し』の欠片だと思ったの。高馬も出て来てしまったから仕方なかったのかもしれない。

 でも土御門の警察関係の仕事は辞めて今まではバイト程度にやっていた、幼馴染のタカさんのうろな工務店での仕事を生業にして。裾野の宿舎に迎えられたの。

 タカさんの奥さんには世話になって。育児の合間に、宿舎手伝いをたまにしたわ。息子の刀流君とアキさんの姿を何回か見かけたわね。



 そして、あの日がやってきたの。



うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

藤堂君 聖子さんちらり。


問題があればお知らせください。

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