見舞中です(隆維君)
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早速行くのです。
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「こんにちわ……」
頭を下げながら今は水族館ではないその建物に入ります。水族館だった時、来てみたかったなぁ……
「いらっしゃいませ」
少し年の召した方が多い店内。美味しい匂いがしますが、今日は食事の為に来たのではないのです。でも良いな、なんて横目に見て。その後、笑いながら、
「あの、りゅーい君、いますか? 具合悪いと聞いて。お見舞いです」
昨日、涼維君から隆維君、具合が悪くて学校をお休みしていると聞いたので。他のお子様たちが学校に行って、邪魔にならない時間を選んでお邪魔してみました。
私を誰と聞く事も無く、お店ではなく住居スペースの方に案内されて、
「おーい、隆維、見舞いに来てくれたよ」
「えー……だーれぇー」
彼の部屋でしょう、その前まで案内して下さった男性がノックをして声をかけます。
「白髪のおねーさん」
そう言った途端、部屋の中でガタガタ、バタバタっっと凄い音がしました。
「あ、私、前田 雪姫、です」
「うん、話に聞いてるし、前に賀川君と店に来たろ? また食べに来て。ほら、入るぞぉー病人がアワアワしてるんじゃない」
「ええっ!! で、でもさ」
「まぁゆっくりして行って?」
そう言って入ったお部屋には、ちょっと赤い顔をしたりゅーい君。
「具合、どうですか? 寝てないとダメですよ?」
「ひ、一人で横になれるって……」
もぞもぞと布団に横になるので、私はポフンとお布団をかけて、その額に触ります。少し熱いです。
「早く熱が下がると良いけど。学校行けないと退屈でしょ?」
「う、まぁね。雪姫ねーちゃん」
椅子を勧められて、座ります。側には本とか簡単に食べられそうなモノとか、昨日涼維君が買って置いて行ったのではないかと思うモノが置いてあります。
「納涼会以来かな? りゅーい君、元気にしてるかなって思ってたんだけれど…」
「うん、ちょっと」
「なかなか教えてはくれなかったんだけど、海で溺れたって聞いてとても心配したのです」
さわっと頭を撫でると、不安そうな顔をしていて。手を握ると安心したように、少し熱っぽい頬をその手に寄せながら、
「へへ。ねーちゃんってフラスコプレパラートな感じ。やっぱいいよな」
「どういう事ですか?」
「どんな溶液に入れてもプレパラートは変化しないよね」
確かにいろんな化学物質を調べるのに使うプレパラートが変質してたら困ります。
「フラスコにどんな濃い液体に入れても、その中に入れたプレパラートって、光に透かせばそこにあるよね……ねーちゃん、そんな感じ。キラキラしてるんだ」
ちょっと想像してみます。
うーん。
何だかキラキラしてるイメージみたい。私はそんなに綺麗かわからないけど、褒められてるみたいです。嬉しいけど照れちゃいます。
「なんだか……恥ずかしいです」
そんな私の顔を見ながら、とてもりゅーい君は嬉しそうです。
その後も暫く取りとめのないおしゃべりをして。楽しかったのでもっと居たかったけれど。でも余り居て熱上がっても迷惑になるので、おいとまします。
「疲れさせちゃったですかね?」
「雪姫ねーちゃんなら、いつでも来てくれて歓迎だから」
「私も楽しかったのです。あ、これ」
私は小さめの枠に入れた羽の生えた馬さんの絵を差し出します。昨日頑張って描いたのです。
「溺れても助けてくれるように、いつでも駆けつけてくれるように。それより、その前に溺れない様に。体が早く治る様に。お守りです」
油は匂いがするので避けて。水彩とアクリルでの彩色です。
「食べ物の方が良かったかなと思ったのですが……それは家族の人が用意しそうなので」
「ううん……ありがとう」
そう言ってくれたので、それを置いて私は旧水族館を後にしたのでした。
「お友達、元気だったかなぁ? ユキ君」
「ぐったりって事はなかったです。けれど中途半端に元気だから、逆に暇だと熱があっても出歩きそうな勢いで」
「早く良くなるとイイねぇ。今の間に僕もお祈りしておいたよ」
少し離れた場所で待っていてくれたのは、カトリーヌ様でした。彼はもう一度水族館の方を見ながら十字を切って、それから私に微笑みかけてくれます。そこに舞い降りてくる蝶。
「え? 子馬さん?」
蝶の語りかけで気付き、振り返るとそこには現れたのは子馬さんでした。その巨体を見て、カトリーヌ様はとっても目を大きくして、
「こりゃぁ……御馬君かと思ったよ」
「久しぶりになります。香取の小父貴。貴方は相変わらずですね」
「来たのを聞いてなかったら、間違う所だったよ。子馬君。すっかり大きくなったねぇ」
そう言って嬉しそうに目を細め、カトリーヌ様は私の肩に手を回します。何だか顔が近くて、恥ずかしいのですが。
「また、連れ去る気ですか? あの時のように」
「連れ去る? ヒト聞きが悪い言い方をしないで下さいよぅ。私は任されただけ……守りきれなかったのは計算外でしたが……調べたのですねぇ」
「ああ。彼女の母には刀流兄が居たし、この巫女には賀川が、ちゃんとした刀森の血を引く者がいる。それより何より彼女が居るべき場所は彼女が決めるべきだ」
「そう言う貴方こそ保護を申し出たのでしょう? 一課が出てきたら押さえられるのかなぁ」
何だかわからないけれど、二人共最初の挨拶以降、喧嘩腰なのは何故でしょう? 蝶が心配そうにふわふわと辺りを漂って行きます。
「あのぅ、二人共仲良くしないと鬼の角や悪魔の尻尾が生えてきますよ?」
「え?」
「ふはははは、確かに。いがみ合うのはよくないですね。皆、人類は神の兄弟なのですから、喧嘩はいけませんねぇ」
子馬さんは驚いたかのように、カトリーヌ様はすっかり今までの会話を忘れたように笑顔を見せます。私はすかさず間に入り、
「そう言えばですねぇ、聞いて来たのですけれど。『シャーロック』って、パン屋さんがある様なのです。一緒にお昼にしましょう」
「ああ、あそこのパン屋。今日は焼き立てのライ麦パンはありますかねぇ」
「焼き立て……じゅる」
私達は海浜公園駅の付近にあるパン屋さんに行きました。駅からは思ったよりも離れていましたが、木でつくられたテラス席からは海を望められて、とても気分が良いです。
でもテラス席では少し寒そうだったので、綺麗な木目の室内席で買ったパンをみんなで食べました。
焼いてから三十分以内のものにはメニューに「焼きたて」と書かれた丸いシールが貼られていて、すぐわかる様になっているんですよ。
私はパリッとしたクロワッサンに、白いクリームとダークチェリーの美しく飾られたデニッシュを選びました。
カトリーヌ様はご所望のライ麦パン。
子馬さんはカレーパンやソーセージなどが入った惣菜系のパンを買ってきては、サカサカ何度も行き来して食べていました。その系統のパンが全部子馬さんのお腹に消えたので、お店の人は焼き足すのが大変だったかもしれません。
あまり喋りもせず食べていましたが、食べ終わる頃には幸せだったので、ニコニコして帰途に着いたのでした。ただ、いずれお二人にはいろいろ聞かなきゃいけない気がするのですが。
でもお腹がいっぱいで幸せだし、今触れると二人の間にまた火を入れそうな気がしたので、とりあえず、まあいいか、って事で。
「歩いて帰りましょうね、食後の運動です」
色々は今度にしようと思ったのでした。
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URONA・あ・らかると(とにあ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n8162bq/
日生隆維君
ばかばっかり!(弥塚泉様)
http://book1.adouzi.eu.org/n1801br/
ベーカリーシャーロックの設定を。
お借りいたしました。
問題あればお知らせください。




