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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月17日

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240/531

訓練中です(海さんと:謎の配達人)

llllllllllllllllllll

 地の文でもちょこちょこ説明していってますが、補足です。

 賀川は九日よりレディフィルド君に『耳の訓練』を頼んでおります。

 今回三回目。

 現在、小藍様宅は十一月四日の『第二回汐ちゃん争奪戦』を連載中。賀川も参戦中です。

 時間ズレが生じておりますが、こちらではその先の話となります。

 よろしくご理解、お楽しみいただければと思います。


 では、こちらでは少し先に、聴覚訓練三回目、十一月十七日、お楽しみください。


llllllllllllllllllll








 すっ……と、綺麗な姿勢で笛を口に当てる。

 俺は後ろを向き、衝撃ソレがくるのを待つ。

 穏やかな風に揺れる洗濯物とは、真逆のソレが形を取って襲いかかってくる。

「ちょ!」

 激しい痛み、俺の命はここで朽ちる、そんなイメージが俺を縛り、ガクリと膝を付く……

 息がとまり、詰まって、呼吸を再開する事さえ、多大な気合が必要だった。

 昨日は楽しいデートだったのだが。一転、今日は死と隣合わせの笛特訓中だったりする。端から見れば何も音なんてしてない。レディフィルドの音は常人には聞こえないのだから。それなのに一人で汗をかいて苦しんで喘いでいる図であるから、本当に間抜けだろう。

「……ゼぇ、ゼぇ、ぜぇっっったいオカシイだろ」

「やっぱ、ダメじゃね〜かよ、お前。耳で聞いてた時より、ダメージでけぇぞ」

「し、『死神』が見えるからな、毎回心臓発作を起こしているか、殺されていると思ってくれ……てかっ! 『中』で頼むって言っただろーがっ!」

 レディフィルドの胸倉を掴んで揺する、この頃、お馴染みになって来た構図を繰り返す。

 肩にとまった白い鳥は勝手にしてくれと言う表情で何事もなく、安定の顔で彼の肩に存在している。この鳥に額を突かれたのは一度だけ。俺が無茶をした後。鳥なりに心配して突っ込んでくれたのだろうが痛かったし、レディフィルドときたら心配より、訓練より、悪戯が楽しいようだ。

 今も『中』でと頼んでいたのに、『特大』……全てを集めて掻き回した音を鳴らしやがった。

「んん〜? お前ぇ今日は左手、調子いいんかぁ?」

「ん? あぁ……」

 レディフィルドに突っ込まれて、彼の襟首を握ったのが左手だったのに気付く。手を離して、手を動かしてみるが、咄嗟に上手く動いただけで別段治った訳ではなかった。昨日ユキさんがキスをくれたから何て甘い考えが過ぎらなくもなかったが、現実はそんなに甘くない。お手上げポーズをしながらも、

「まぁ、昨日より良さ気か、な」

「あーホントだな~今日はあったけぇ~なぁ」

「ちょ、人の手を頬に寄せるなっ。さ、続きを頼む。今度こそ『中』だ」

「へいへい、照れてやんのぉ~」

「うるさい、レディちゃんが!」

「またっ呼んだなっ、お前こそあきらちゃんのくせに」

「ちっ、その呼び名は止めろっ」

 その時、俺らに声が飛んだ。

「うるせーのはお前もだろ、しかしピーシャカ、ピーシャカ、何処から鳴ってるかと思ったらうちじゃねーか」

「タカさん、どうしたんですか? こんな時刻に……」

「いやな。客も来るし、昼飯食いに戻ってきたんだよ。おめぇが賀川の言っていたレディ何とかか? 本当にユキ並みの白い髪だな?」

 目の前に現れた厳ついオッサンに、明らかに誰だ?と言う顔をするレディフィルド。

「うろな工務店の社長で、この家の主の前田 鷹槍。俺はここで世話になってるから大家さんみたいな人だよ」

「よろしくな、大家! 俺の事はフィルって呼んでくれよな」

「フィ、フイ? まあいいか、笛坊主、賀川のを頼むな」

「坊主? そんな小さくねぇし。それにピーシャカって、聞こえてんのに大丈夫なのか?」

「はははははっ! 何となく耳障りって感じだな、フィー坊。ま、気合だ気合!」

 笑いながらタカさんが自分の部屋に消える。実際どこまで聞こえているのかわからないが、こっちが相当苦しんでいるのに、ああ言われるとどうも悔しい。




 今日の訓練は家の庭に来てもらってやっている。家と言っても俺の家じゃないけれど。

「息は整ったな、もう一度行けっか?」

「ああ、頼…………む前に、もう吹いてんじゃねーっ」

「やっぱ余計に悪くなってんじゃねぇかよ?」

「うー……」

 がっくり庭の芝に座り込みながら頭を掻く。音を『目』で見ようと頑張っているのだがなかなか難しい。

「死神って言っても、どんな感じに見えんだぁ?」

「そうだな……『下』だと鎌で切られたイメージか。『中』では喉元を掻き切られてるな。『上』だと心臓が鷲掴みされて持って行かれているが……『特大』とか見える暇もなく……」

「……何か凄まじーし、全部、死んでんじゃねぇか」

「だからブロックできないと、凄まじいショックなんだよ! それなのに散々いたずらに吹きやがって! 上に行くほどスピードが上がってブロックは難しいし、ダメージが激しくなるんだ」

 冷汗はだいぶかかなくなっていたが、それでもこの季節で雑巾絞りできそうにシャツが濡れている。

「おい賀川の、そんなモンがはっきり見えてる時点でダメだろうがよ? ほれ、二人共、飯にしろや」

 タカさんが戻ってきて声をかけてくれる。俺は崩れるように返事して呟く。

「…………ふう……はっきり見えてる時点でダメ……か」

「おー飯、飯」



 置いていたシャツに着替えて食堂に入ると、今日は大きな土鍋二つに、大量すぎる煮込みうどんが作られていた。

 隣には良い色が失われない程度に炒められたいろんな野菜が盛られた大皿。これを混ぜて、濃い味のうどんの調節を各自する。これだと、野菜の栄養も火の通し過ぎがなく上手く摂取できる。そんな寸法だ。

「美味しそうだね、海さん。葉子さん」

「おおお~、すっげぇ良い匂いじゃねぇ~かぁ」

「うん、美味そうだな。ほら、笛坊はこっちに座りな」



「終わったぁ〜?」

 海さんは耳に嵌めていたヘッドフォンを外した。ヘッドフォン『That's (ざつ) 音、聞こえなくなる~よ』は発明好きの渚さんが作ったらしく、レディフィルドの怪音を断ち切ってくれる防音グッズだ。彼女は俺と同じく『怪音』が聞こえるのでこれがないと今日はココに居られない。一応レディフィルドの賄いに来てる名目だったが、『なんか一番君と、面白い事してるらしいじゃ〜ん?』って言うのが、一番だったようだ。小一時間ほど俺がのたうってるのを、防音グッズを付けて笑って眺めていた。

 ただこのヘッドフォンは、聞きたくない音だけを消すわけではないから、物音で諸々を察しなければならない戦闘中には不利になる。だが場合に寄ってはこれも必要な手段かもしれない。

 葉子さんが皿を並べながら、

「間違いなく美味しいわよ。お出汁からしっかりいい味が出せているから。流石、海さんは夏のお店で厨房やってるだけあるわ。うろなは女子力が高い子多いわね。良いお嫁さんがいっぱいだわ」

「お嫁……」

 微かに赤くなっている海さんを放置し、タカさんにレディフィルド、俺は並んで食べ始める。葉子さんはお茶を入れてくれて、海さんに席を勧める。

「それにしても海、この量は多すぎ。作り過ぎじゃねーかよぉ?」

「後はユキさんだけですよね? 呼んで来ましょうか?」

「一番君、さっきユキっちには声かけたから。後少し、描いて来るんだと。量は沢山作れって葉子さんに言われたんだよー」

「そう、私が頼んだのよ、だって……ほら、来たわ」

 呼び鈴が鳴って、葉子さんが飛ぶように嬉しそうに玄関口へ向かう。

「やっぱり痩せたんじゃないの? まあまあ上がって?」

「身長が伸びたんだよ、五年経ってるんだから痩せたも何もないと思うけどなぁ。ねぇ、タカの小父貴はいる?」

「ええ。帰ってるわ。昨日はありがとう。ビックリしたわ」

「一日早く来れたからさ。ちょっとね」

「何やってるのよ。まあいいわ。さ、貴方も食べると思ってたくさん用意して置いたわ。ただ、お客様もいるから……」



 そこに現れたのは俺から見てもガタイのいい男だった。

 ……タカさんより全然良い。日本には相撲と言うスポーツがあるが、アレの競技者に似た圧迫感。でも体格的にはプロレスと言った格闘技を思わせる。どこがどう痩せたか、葉子さんに聞いてみたいと思った。それほどデカい。

「誰だよ、賀川、知ってっか?」

「いや……」

 レディフィルドの言葉に否定的に首を振る。

土御門つちみかど 高馬こうまです」

 彼は体格が良いのにそれに見合わないとても温和な口調でそう言った。名前を聞いて誰かが俺はわかる。

「確か、葉子さんの息子さん……か」

「え? 葉子さんの息子? こ、子馬? あれで子馬だってぇ?」

「高い馬って書いてそう読むらしいよ、海さん。配送の札がそうなってたから」

「ど~う見ても名前が間違ってるだろ?」

 海さんとレディフィルドがコソコソ突っ込んでいる。

「……こちらの白髪の子がフィル君、海の家の子で海さん、この二人はお客さん。それから賀川運送の賀川君、ココに下宿してるの」

 葉子さんは俺達三人を高馬さんに紹介していた。

「久しぶりだな。でっかい子馬」

 バシバシと容赦なくタカさんに叩かれている高馬さんが席に着くと、俺達が食べ終わる前に大皿と土鍋が一つ消えた。正確には大皿と土鍋ではなく、その中身が、ではあるが。掃除機で吸い込まれる様に、子馬と言う名の大男の胃の中に、一瞬で中身は消えていた。



「子馬、こっちは客のだからやらんからな」

「ぅ……わかってますよ。タカの小父貴」

 タカさんの牽制にそう言いながらも、まだ物足りなさそうな顔をしていた。

 いつぞや、タカさんの仲間であるケンさんの経営している建設会社から来ていた、弥彦と言う名の男性に近い食いっぷりと気配を感じた。

 あの時、悲鳴を上げていた葉子さんだが、大皿には俺達用にもう一度野菜を炒めて出してくれて。自分の息子だと何も感じないのか、近くにあったミカン一箱をポンと勝手に食べろとばかりに渡していた。ミカンの皮が積み上がるのを、海さんはうどんを食べながら面白そうに眺めている。

「ねえ、母さん、小父貴、この辺で白髪の少女を見た事がない? そっちの子は男の子だし、目が青だ。目が赤いと聞いてる」

「白髪の? 目が赤い?」

 それで想像する人と言えば、ユキさんしかいない。



「捕獲しないといけないんだよ。宵乃宮しょうのみや 雪姫ゆき



 体格に似合わないホワンと優しい顔で笑いながら、前田家に住む者にはゾッとする言葉を男は吐いた。

「ユキっちを? あんた……」

「あれ? 海さんだったかな? 宵乃宮 雪姫を知ってる? 俺は警視庁公暗部特殊に所属しているんだけど。それにしても可愛いね、君」

「ななななな……何ぉぅ……」

 照れたのか驚いたのか、鋭い海さんのパンチが飛ぶ。だけど子馬を名乗る大男はふんわりと拳を止めて、

「握手してくれるんだ、普通の女の人は僕を見ただけで怖がるのに嬉しいなぁ」

 本気で嬉しそうに笑って、手を握ってブンブンしていた。

「で、小父貴。その子、何処?」

 彼は明らかにココにユキさんが居る事を知っている感じだった。

「高馬! やくざな仕事は辞めなさいって言ったのに」

「やくざじゃないよ、母さん。警察だし。土御門の人間に拒否権はないんだ」

「この家で暴れる気かよ、子馬、オレに勝てると思っているか?」

「いや、勝つ気はないけど、負ける気もないよ?」



「あの……お取り込み中ですか?」



 緊迫した空気の中、緩い声が辺りに響いた。

 な、何でこのタイミングでユキさん出て来るんだ! 俺達は心の中で叫んだ。

 俺はその場をすり抜けて、即座にユキさんを背にした。タカさんが子馬の腕を掴んで止めようとしたが、物凄い勢いで俺とユキさんに迫る。これだけの肉塊、針を刺す様な攻撃では効くまい。俺は一気にラッシュの態勢に入らないとマズイと決め、一呼吸の間、彼の接触を待つ。左腕? ココでユキさんを攫われるくらいなら腕なんか惜しくない。

 だがその一瞬、俺はギラリと煌めく銀色の何かを見た気がして、咄嗟に行動を取っていた。



「な、何が起こったのでしょうか?」



「こ、こ、この怪音は……」

「い、今のはちょっと効いたぞ……」

 目の前で悶絶する大男子馬、その後ろのタカさんも顔を顰めている。

 俺も心臓が締め付けられるようだったが、聴覚を塞ぐ方が早く、何とか防げていた。初めて死神の服の裾を薙ぎ払うイメージを見ていた。

「レディフィルド……」

 その場を席巻していたのはレディフィルドの笛の音だった。

「超特大だぜ!」

 どうやら子馬も音が聞こえるタイプの耳を持っていたらしい。もし聞こえなかったら意味がない所か、俺も倒れて、最悪を招いていたかもしれないが、とりあえずその場は凌げた。

 海さんは鳴らせる瞬間に『That's ( ざつ) 音、聞こえなくなる~よ』を付けさせられて無事、もともと聞こえない葉子さんは何事が起きたか驚き、どうやら色で見えているらしいユキさんは、

「何か視界が悪いです」

 と、俺の背後で呟いていた。



 そして足元にうずくまってレディフィルドの音に耐えて居た子馬が、震える手で、

「警視庁公暗部特殊所属、土御門 高馬です。宵乃宮 雪姫さん、まず事情聴取にご協力を……」

 そう言いながら何とかニッコリと笑うと、警察手帳をユキさんに見せていた。


llllllllllll


キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

海さん。レディフィルド君、渚さんの発明品を増やしてしまいました。


うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

後藤剣蔵(後剣)さんと弥彦お兄様のお名前を


問題があればお知らせください。


llllllllllll

葉子さんと『おんま』の息子、子馬がやっと出せました。

色々とありがとうございます。

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