調理中です
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ジュージュー焼けてます。
さて明日は誰が来るのかな?
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昨晩の夕飯はお好み焼きでした。焼きそばを焼くのじゃなくて、小麦粉に卵や野菜やお肉を練り練りして焼く方です。
葉子さんが準備はしているので、混ぜ直して、ホットプレートに油を敷いて焼くだけ。
でもお出かけ前にコレだけ用意するのは大変だったろうなと思える量でした。お兄様達の食欲は凄いのです。私と賀川さんは今日、森で過ごす予定でしたが、汐ちゃんとレディフィルドさんと一緒に行動し、その時にだいぶ食べていたので、お好み焼きは口にしないまま。私はお兄様達の焼き焼き大会を眺めて楽しんでいました。綺麗にひっくりかえせるお兄様も居れば、焦がしているお兄様も居て、実に見てる分には楽しいです。
賀川さんは少し疲れた様に、
「それにしても遅いね、葉子さん。タカさんも帰って来ないし。仕事が立て込んでるのかな」
そう言って。私が焼き焼き大会を眺めている間もずっと側に居てくれます。
「明日、訓練にレディフィルドが来るから昼飯を頼みたいんだけど。汐ちゃんはついて来るのかな?」
「どうでしょう? それより何だか疲れてませんか? 賀川さん。私が葉子さんには言っておきますから、早く休んだ方が良いですよ? 明日も訓練とか言ってましたし」
「どうしようかな……ユキさんと居るのは楽しいんだけれど。今日は少し疲れたよ。そう言えば……電話も掛けないといけないし、な。……お願いしていい?」
「はい、いいですよ」
そう言うと微かに笑いながら彼は立ち上がり、私の側を通り抜けて二階のお部屋に向かいかけます。でもふと足を止め、私の頭をクシャッとすると、上を向いた私に、
「じゃ、頼むね」
そう言ったかと思うと、私の額にかかった髪を分け、軽くキスして部屋を去りました。それを見ていたお兄様達は唖然としていますよぅ。私、きっと真っ赤ですよぅ。
「……賀川君ってたまにアメリカナイズされてるよな?」
流石に同じ屋根の下にいるので、賀川さんのそういう所に気付いているお兄様がぼそりと呟きます。
「そう言えば、オンラインのゲームで助けてくれたのが英語圏のアバでさ。俺、返事に困ってたら、賀川君が英語で対応してくれたぞ」
「あ、それ、俺も見たぁ~」
「嫌味ってほどはないけどさ、驚くな」
「タカのオヤジが気に入って仕込んでいるが、もう俺じゃ相手が無理だな。未だに外で会うと制服なしだと首傾げちまうのは何なんだろうな、あれ」
「それにココに来た頃は堅かったけど、この頃は危ない冗談にも変な色気で応えて来るし」
「教えたの誰だよ、あれ。お前だろ?」
「お喋りも大概にしてないと焦げてるぞー」
「お、俺のスペシャルえび玉がやられた~ぁ。無残にもこんな姿に……今度、賀川君に責任を取って貰おう、……体で」
「そーいうのがだな……」
ワイワイ言ってる声に紛れて、玄関で声がします。
「降ろして下さいな、恥ずかしいわ」
「ちゃんと歩けるか? 皆には……」
「はいはい、ちゃんと気を使うなら言いませんよ。ああ、電話が……も、もしもし貴方! 大丈……もう、ええ、明日、はいはい、わかったわ。タカさん、ちょっと替わってくれって」
「何だよ、ああ? 逃がした……いや、気にすんな……」
葉子さんとタカおじ様は一緒に帰宅したようです。
どうやら電話がかかってきたようで、先に現れたのは葉子さんでした。みんな大合唱で葉子さんを迎えます。
「お帰りなさい、葉子姐さん」
「ちょーどうかしてくださいよ、こいつのお好み焼き!」
「あらあら、ただいま。ごめんなさいね、遅くなってしまったわ。焼けない子は焼いてあげるから……あら、焦げちゃったの?」
「すんませーん」
葉子さんが手を洗ってエプロンをかけている時に私は、賀川さんからの伝言を伝えます。
「明日、賀川さんお昼にいて、フィルさんってお友達が来るんです。もしかしたらもう一人か二人増えるかもです」
「お客様? わかったわ。明日のお昼は多めに作っておく事になってるから大丈夫よ」
そう言って笑う顔が少し疲れているようでしたが、タカさんが部屋に入ってくるとニッコリして。
「明日は俺も戻るから頼むな」
「わかりましたよ。もともと居るようにお願いするつもりだったんですよ」
葉子さんはタカおじ様の手に握った携帯を受け取る時、その手が触れたようだったのですが、どうしてかお二人共どぎまぎしているように見えたのは気のせいでしょうか?
「仲、イイですよね。タカおじ様と葉子さんって。こないだぎょぎょのオジサマと冴さんが結婚しましたけれど、結婚とかはしないんですかね」
何げなくそういうと、近くのお兄様が『しー』っと口に手を当てて言います。『その辺、この家では触れないのは暗黙の約束だから、ユキ姐さん……』そう言った途端、タカおじ様が真後ろに居て、そのお兄様の首根っこを掴まえて。
「お前、明日、朝練こいよ、なぁー? 嫌とは言わねぇよな?」
っと、言って凄んでいました。何か気に障る事があるのでしょうか? 私が首を傾げていると葉子さんは、お好み焼きを新たに焼きながらにっこりと静かに笑うのでした。
お風呂に入って出て来て聞いてみると、賀川さんも少し前に一度出て来て入浴していたみたいです。でも少し前にもう部屋に入って行ってしまったんだそう。
何となく気になってとてとて二階へ上がる階段を見上げます。あんまり遅い時刻にはいかない様に言われているけれど、気になって。
その時、鍵盤ハーモニカを弾く音が聞こえて。
「お、起きてます、ねぇ」
とりあえず二階に上がって襖の前に立つと。ノックをしようとした私の耳に賀川さんの声が飛び込みます。
「……れは、きょうしょくの人が言っちゃダメですよ」
強食? ああ、教職かな? っと言う事は清水先生かな? 電話中のようです。そんな事を考えつつ、彼の途切れ途切れに聞こえる言葉を拾うと、どうやらピアノの演奏を断っているようでした。聞いちゃいけなかったかなと後退する私の足音を聞きつけたのか、
「……と、言うわけだから。俺、ピアノは弾かないかもしれない……いや……」
私はそこから立ち去るのをやめて、部屋に入ります。でも、どう言ったいいんでしょう?
「あの、どうしたんですか? 何かあったんですか? 私、わかってなくて、ピアノ弾いてって頼んだりして迷惑だったですか?」
「違うんだよ。ユキさん。俺、今、本当にピアノが弾きたいのに、弾けないんだ」
「冴さん、あの子は『気持ちを入れて弾くと、自分の奥底の何かで、指がとまってしまうの』って言ってました。だから弾けないんですか?」
「そうじゃなくて、機能的問題……左手が壊れたんだ」
さらっと私の顔を触る彼の手はとても冷たくて。何て言って良いのかわからない私を見て賀川さんは穏やかに笑って言います。
「そんな事しても何にもなんないんだよ。ね、ユキさん。キスしてくれる?」
「へ?」
今なんて言いました? きす? 私から?
「そしたら、弾けるかもだよ?」
「えっと、えっと、そんなんで弾けちゃうんですか? じゃぁ……」
「え、え、ええっ! ちょっと待って、じょ、冗談だよ! ユキさ……」
アワアワと何か賀川さんが言ってますが、恥ずかしくて。顔を寄せてみたのですが、それはどうにも恥ずかしくて。俯きます。
その時私は気付くのです。
壊れたのは左手、なら、顔や口にしなくてもいいんじゃないかな? って。
えっと、えっと、左手に……
「治りますように!」
こ、こんなので治るのでしょうか? ま、ぁ、いいかな? おまじないぐらいにはなるかも知れないなって思いながら私は後ずさりします。ぱちくりする賀川さんの目が、きょとんとしていて。
「えっと、えっと、こ、これで治りますよね。お、おやすみなさい!」
襖を開けて。出て。閉めて。
こけないように気をつけながら、階段を降ります。離れまで全速力で走ったせいでしょうか? とってもグッタリしてしまった私はベッドにそのまま倒れるように寝てしまいました。
翌日、目は覚めたのですが、何時になっても体がだるくて起き上がれません。
ごろんごろん……眠いよう。たくさん寝た筈なんだけどなぁ。
暫くゴロゴロしていて。
「この俺様がわざわざ、来てやったぜぇ〜。カガワ〜いんのかぁ?」
「お前が今日訓練するって言い出したんだろ? 居るに決まってる」
っという声が玄関の方でしていましたが、それでも起きられずに更にゴロゴロしていました。
……それから更にどのくらいして、部屋の扉がノックされます。もう明るいなと思えば時計はお昼でした。体のだるさも随分良くなってます。
扉越しに聞こえたのは、この家の人の声ではありませんでした。
「ユキっち~ぃ! 起きてる?」
「あれ? 何で海さんが?」
「フィルの飯、賄いに来てんだ〜、葉子さんと野菜載せ焼うどん作ったんだけどさ、食べれるかぁ? ユキっち朝、飯にも起きてこなかったらしいじゃん。どうかしたのかぁ?」
青空 海さん、海の家のARIKAでちょっとあったけれど、私にとってのお友達の一人です。私は嬉しくなって、そのまま起きようと思いましたが、面白いように寝癖だらけでした。今まで寝ていたって言うと、心配させる気がしたので、
「えっと、今、筆が乗ってるので。後少し描いて行きます!」
そう答えて身支度を始めたのでした。
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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水先生。
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
海さん。レディフィルド君
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やってきたのは海さんでした。
当てた方には拍手を。
明日から日付を変えて訓練三回目。
よろしくお願いいたします。




