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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月16日

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238/531

理解中です(悪役企画)

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ゆらりゆらり

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 彼女が入って行った公園は思ったより中が広くて、回りは茂みが覆っていて、中には葉を散らした桜の木も目立ったわ。少し肌寒いからか人影はなかったけれど、遊具も整備が行き届いている。

「きっと暖かい、早い時刻は子供達の憩いの場じゃないかしら?」

「……そうですね、葉子さん」

 彼女はブランコをキィ……と揺らし始める。私は少し離れたベンチに腰かけたの。

「葉子さんは乗らないの?」

「私は良いわ。たくさん桜の木があるわね。春になったら貴女の髪や目の色と同じ、綺麗な桜が見れると思うの」

「ええ、きっと、それは美しいでしょうね」

「来年、その頃にお弁当を作ってココに宿舎の皆で来れると良いわ。桜さんも来たらいいわ」

 それを聞いた途端、彼女はコロコロと笑ったのよ。

「それはムリよ、葉子さん」

「あら、桜さん、もう予約があるの? ああ、やっぱり彼氏さんでも居るのかしら」

「違うわ……」

「じゃ、教授と約束があるのかしら?」

 彼女の舌がちろりと動いて、その艶めいた唇を舐めるの。きいきいと、ブランコは次第に揺れを早くして行き、冷たい冬の気配を帯びた風がサッと吹き出したわ。紅茶と散歩を兼ねた帰途で、温もった体が冷えるのを感じて、私は座っていたベンチから立ち上がる。

「ね、帰りましょ、ここは冷えるわ」

「それは……ムリなの。帰る事も、来年桜を見る事も、貴女には……」

 その時、私は信じられないものを見たの。どう考えても飛び降りたら怪我をするような高さにまで漕ぎあげたブランコから。ひらりと和装を揺らした桜さんが鎖から手を離す。そしてフワリと跳躍すると、私の散歩手前に私の帰路を邪魔するように着地したの。

「凄いジャンプだけど、それよりどう言う意味……なの?」

 ちらっと桜色の瞳がこちらを見るわ。ユキさんの赤い瞳を見慣れているから、さして驚かなかったけれど。こうやって見るとその色が異常なほど深く、私をまるで獲物のように睨んだの。

その豹変が信じられなくて、でも彼女が間を詰めて来るのが怖くて、逆方向に踵を返そうとした時、しゅるしゅると何かが擦れる音がして、足元にガシャンと何かが舞い落ち、突き刺さったわ。私はとっさに身を引いたけれど、尻餅をついてしまう。

「鉄の……扇子?」

 大き目のソレは重いようなのに、手持ち部分の取り付けられた細い鎖に引っ張られると、ふわりと少し遠くの木に腰掛けた女性の手元に戻るの。その縁の鋭さはどう見ても刃物のそれで。もし首や胴に向けて放たれていたなら、私は二つに斬れていたと思うわ。

 その女性は桜さんより年上で、変わった髪型をしているの。その片目しか見えないのにそら恐ろしい雰囲気がしたわ。服は桜さんの色違いの青色で。間違いなく仲間、きっと桜さんが『教授』と呼んでいたのは彼女ではないかと思うの。

「何でなの? 桜さん。良いお話し相手だと思ったのに」

「ええ、とても良い獲物あいてでしたわ。私達の『雲隠』へ喰わせる供物として」

「く、わせる?」

「ええ、あの白髪の巫女はそのままでも良い餌になりそう。でも……」

 彼女が手を閃かせると、緑の重そうな棒切れに赤い玉が二つ揺れるモノが現れるわ。名前なんてわからないけれど、きっとこれは『武器』なんだと、素人の私でも分かったの。

「その前に、あの子の回りの人間を減らした方が良いと思うの。みんな彼女を守るから。邪魔なの。葉子さん、貴女は戦闘力はない。けれど」

 重そうに見える鈍器が彼女の細い腕で、すうっと高く掲げられる様は恐ろしくて。今まで微笑んでいた相手が態度を変えた事に心が付いて行かないの。

「その社長さんの奥さんが死んだのは交通事故で、顔がなかったそうね」

「あ、貴女、そんな事何処で……」

「ふふふふふ、知ってたのよ? 驚いた? 調べたのよ。ね、彼女みたいに貴女の頭を吹き飛ばしてあげる。それを見た社長さんはどう思うかしら?」

「何ですって」

「きっと貴女は奥さんを越えられないけれど、彼の胸の中に焼き付くわよ。素敵、でしょ? 貴女の携帯で写メ送って、呼び出してあげる。頭の無い貴女を見たら、きっと絶叫するでしょうね? 絶望の淵にある彼の体も同じように葬ってあげる。そして同時に喰わせればとても良い餌になるわ」

 やっとその時になって、ユキさんの傘を拾えたのは、偶然じゃなかったのだと。そしてそれを届けたのは、私を殺すこの時間と場所に導くためだったと気付いたわ。それもユキさんを守るタカさんを誘き出す為に。

「仲間だったの、ユキさんを攫った人達と」

「あんな不躾で、美しくない仕事をする人達が仲間なんて失礼するわ。わざわざ『回収』して捧げたのに、ほんの数文字にしかならなかった、価値のない者達」

 私は恐怖に震え、足が立たなくて、逃げられそうになかったわ。けれども、偶然、風に煽られて運ばれて来たのか、小さな小さな折鶴がそこに舞って落ちたの。



 昔。



 私とうちの人と小さい息子の三人、そしてタカさん夫婦に息子さんの居るあの家の縁側で。在りし日に皆で笑いながらそれを息子に教え、折った日の暖かい日差しを思い出して。

 怯えを唾と共に飲み込んで、痛む腰の事も忘れて、背筋を伸ばすの。きっちり正座をして、きりりとその桜色の者を見上げる。

「なに、その、目は?」

「私を殺すのなんて簡単でしょ? 頭でも足でも好きな所を持って行くと良いわ。でも貴女のような小娘にタカさんは殺せないわ。それに残念だけれど、私の頭を捥ごうとどうしようと、タカさんがブレる事なんてないから。お気の毒様!」

「黙りなさい。もうお喋りは終わりよ。綺麗に、綺麗に……散って下さいね」

 鈍く光る緑の武器が自分の頭を吹き飛ばす所を想像して、明日、楽しみにしていた事が出来ない自分が残念だったけれど。こんな卑怯なやり方に、泣き喚いたりみっともない所は見せたりしたくなくて、奥歯をぐっと噛みしめて悲鳴を堪えた時。何とも表現しにくい音がして、更に自分が温かい何かに包まれるのに気付くわ。

「おめぇら、うちの葉子さんに何する気だよ? あん?」

「た、タカさん? なんで?」

 私は……タカさんに抱きしめられるようにその右腕の中にいて。彼は左手で桜さんの緑色の鈍器を軽く受け止めていたわ。軽く、と言ってもその筋肉の切迫具合や、歪んだ桜さんの顔から凄い攻防が静かにあるのが見て取れたの。

 その時、少し遠くにいた女の方から鉄の扇子が弧を描きながら、タカさんの体を狙って飛んでくるわ。桜さんの唇が笑いで歪み、

「せっかく計画したのに。いいわ、教授と二人でこのまま同時に送ってあげるわ! 光栄に思いなさい!」

「けっ! こんなモノ!」

「な! 何っ! わ、私のトンファがっ」

 タカさんが指に更に力を入れた途端、彼女の緑の棒は飴のように、ヘニャリと折れたわ。でも差し迫る鉄の扇は止まらないから。私はその鋭い刃でタカさんと共に切られてしまうのではないかと思ったわ。

 けれど次の瞬間、私とタカさんの前に『壁』が立ったの。

 壁の向こうで鉄扇の唸る音や鎖が噛みあうような金属音と共に、壁の微かな動きで、思い切り吹き飛ばされた桜さんの悲鳴が響くの。

 何がどうなったのかわからないけれど、『壁』はタカさんに向けて声を放つわ。

「早く! 時間を稼ぐから。安全確保、頼みます!」

「おめぇ……」

「俺は大丈夫だからっ!」

 タカさんは呆然としている私の体を軽々と抱え上げ、その場から離脱したの。

「ど、どうしてここが? それにアレ……」

「いやな。普段の葉子さんが見たいなんてスニーカー……? ん? まあ、今日はアイツの希望に応えてやってたんだが」

「え? すに? もしかしてストーカー? つまりは私の後を付けてたんですか?」

 私はふと病院で小梅先生が『さっきから見られてる気がする』と言ったのを思い出すのよ。するとバツの悪そうな顔で、誤魔化すように笑いながら、

「うにゃ……その、な、まあ。そういう訳で、姿が突然、追えなくなった時は嫌な予感がしたが。本当に間に合って良かった……」

「…………じゃあ、今日病院で私が『話』を聞いて来たのも知ってますね?」

「ああ、まぁな」

「体、大切にして下さいよ。お願いしますからね?」

「わかってら。それよりあんな事、言うなよ」

「何を、です?」

「オレはもう首のない遺体なんか見たくねぇんだ」

「それは、誰でもそんなもの見たくありませんよ……でも泣き喚くなんてみっともないじゃないですか」

 そう言って私は笑って見せるけれど。ぎゅっと力強い、温かい腕が私を抱きしめる。

「震えてるじゃねーか……でもあの毅然とした態度、流石おんまの嫁と褒めてぇが。オレはよぉ葉子さん。そんな姿、想像しただけで背筋が寒くなった。おめぇは……葉子さんは側に居てくれないと困んだよっ!」

 その腕は失ったあの人と同じくらい大きくて。一瞬だけ、とても短い一瞬だけ、私はその腕に失った暖かさを感じて。またうちの人が、面白そうに笑うのをどこかで聞いた気がしながら目を閉じたのよ。



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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

小梅先生(司先生)


『以下2名:悪役キャラ提供企画より』


桜さん『桜嵐さくらん』呂彪 弥欷助様より

余波なごり教授』 アッキ様より


問題があればお知らせください。

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どうも風邪をひきました。

明日更新は不明とさせて下さい。

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