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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
冴と魚沼(11月7日{木}~11日{月})

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230/531

結(11月11日:冴と魚沼)

lllllllll

湯船の中で考えてみる。

lllllllll

 







 ぷくぷくとお湯に茹で揚げられながらぼーっとする。

 投げ槍がわーわーとバッタと湯をかけ合い、もろに被った後剣が無言で二人を成敗するのを苦笑いしつつ眺める。水に濡れると本来の色に近くなる髪をのんびりとカトリーヌが洗っていて。寿々樹がリーゼントを解き、オールバックにしていて、これはこれで変わらぬ不動の凶悪顔だなと思う。

「おい、ぎょぎょ、嫌なのか? 満更でもなかったろ?」

「そうでもないだろうがよ? シャイなんだよ。我らが弁護士様はよぉ」

「ははは、好きだから迷うんだな。年とか、責任とか。ぎょぎょらしいが、お前は男だろう」

 バッタと前田、最後に後剣が俺の退路を断つような会話をしながら湯船に浸かる。

「……わかってるさ。俺には出来過ぎた嫁だ」

「んにゃ、わかってないな。この日の為にどれだけ、さえちゃんが気を揉んで、用意してきたか。お前は何にもわかっちゃいねぇ」

「何だか娘を嫁に出すみたいだよぉ、投げ槍君」

「期間は短くとも俺の家族だからな、彼女も」

「小父貴達は女子供に本当に弱ぇ~な」

 寿々樹に言われる筋合いはない、生意気だと皆にもみくちゃにされている。奴の喧嘩の仕込みは俺達だから、一対一ならまだしも、多数から乗りかかられてはたまらない。シャワーで応戦する様を見ながら、俺は湯気に曇る天井を見上げる。







 こうやって……俺達は自分達の道を歩みながら、時にうろな町を離れたり、戻ったりして、お互いの青春に関与しながら人生を積み重ねた。それを思い出す。

 そうしながら俺は願った。

『巴を想って後悔してくれるなら、このまま二度と姿を現してくれるな』、と。



 巴を奪った、『奴』に。



 心の底から、本当に願って……大人への階段を登った。貧乏をしてもかまってくれる仲間とうろなの人情味あふれる町が、俺に法曹へ進ませる意味を悟らせていく中。

 願いはかなわなかった。

 もう関わりたくなどなかった、『奴』の顔を新聞で拝んだのは法律実務家……弁護士、裁判官、検察官……いずれになるかを決めるような時期だった。



 その時は正直心が歪むのを感じた。

 過去に……家族を奪われた者だという事を隠し、ある事ない事でっち上げ、最高刑へ持って行く為の復讐を選べる立場であったから。



 だがヤツを追い落とす為に握った剣は、尊く、使い方で『救える者』がいるという事に気付いた頃だった。

 寄り添わねばならない者は、『加害者ヤツ』ではなく、被害者、そしてその家族だという事に。



 肉親を失くしたり、大切なモノを奪われる被害を受けたというのに、訴えれば『そんなにしてまで、金が欲しいか』『盗られるやつ、殺されるやつが悪い』そんな言葉を浴びせられる事も少なくはない。

 そんな理不尽な言いがかり。確かに、例え勝訴しても戻ってくるのは金だけで、命ではない。けれども明らかにしたい真実がある者の剣に、そして今度こそ盾となる為に。




 だから。

 幼き頃、奴を追い落とす為に選ぼうと目指した、検察ではなく、俺は弁護士になった。




 巴の事は既に起訴出来ない案件であったが。関係者であったから奴の事件に直で関わる事は倫理上出来なかった。だが影ながら他の被害者や弁護士達の補佐をし、その立場で巴の死にざまを唯一見た男を見送る事になった。









 酒が一気に抜けてしまったのを感じる。



 皆で風呂に放り込まれるように入った後、一つの部屋に布団が二つ並べられたそこに押し込まれた。

 その状況をみて葉子が満足そうに笑う。

「逃げたらただじゃおきませんから。女に恥をかかさないでね、ぎょぎょさん。今夜からは冴ちゃんと仲良くして」

 葉子に逆らえるうちのメンバーはいない。腕っぷしがどうとかはないのだが。

「オレの酒が台所の排水にならねぇように、頼むな。数日はココで寝て仕事場に通えや」

「投げ槍……」

「上の部屋を新居に改装してもらうまでの辛抱だってな。どうせ使ってなかったから、安く貸してやる。な、おとなしくしてろ。ゴルフバックがどうもヤバいんでな」

「バッタ、お前もかっ」

「ははは、まあココで美味い飯が食えるんだ良いじゃないか」

「葉子の栗きんとんで買収されたなっ、後剣! 寿々樹のその訳知り顔はやめろっ」

「いいじゃねーか、冴さん、可愛いし。守備範囲、守備範囲!」

「がんばってねぇ~ぎょぎょ君」

「カトリーヌ、な、何を頑張るのだ……」

「神に仕える私の口からは具体的に言えませんよぅ。全ては神の導きですよ」



 動揺しているのは冴も同じようだった。この家の養女ユキはおたおたとその後ろで成り行きを見守っている。

「あの、葉子お母さ……葉子さん」

「お母さんでいいのよ、冴ちゃん。決めたのでしょ? 照れないの」

「でも、こんな急に。ココに居る間は葉子お母さんのお部屋が良いですわ」

「ダメよ」

 強く、だが優しい微笑みを手向けて、葉子は続けた。

「何も『ここで』って訳ではなくて、まず二人でいる状況に慣れておきなさいって事よ? ふふ。そんな顔しないの。見合いだったらこんなモノよ?」

 葉子はそっと冴の髪を撫で、

「こんな可愛い娘を持って、嫁に出せる日が来るとは思わなかったわ。ねえ、ぎょぎょさん、冴ちゃんの為に式をして欲しいのだけど?」

「うぬぅ……よ、葉子」

「それは後ほどの話にしましょうかね…………でももう籍は入れたのだから。今日からちゃんと夫婦として過ごしなさいな」

「……………………ぅ」

「そうするなら形式はどうでも良いでしょう。追々夫婦で考えるといいわ。けれど、最低写真ぐらい取りに行くのよ。手配してあげるから。とにかく今夜はココで。お二人共、おやすみなさい!」



 ぱたん。



 無情にか、愛情にか、襖が閉まった。

「飲むぞー後剣」

「ああ、栗きんとんが待ってる」

「タカさん、お酒も程々にね」

「ま、堅い事言うなよ、葉子さん。風呂で酒も冷めた。さ、バッタ、飲みなおしだ」

「例の酒、開けてくれたらな」

「ユキさん悪いけど、お皿さげて」

「はぁい」

「まだ飲んでたのかよ~ねーちゃん」

「八雲君は一番飲むよぉ?」

 皆の声が座敷の方に消えていく。



 居候の冴に、その旦那となった俺にこの家で選択権はなかった。

 二人きりだ。

 今までだって、事務所ではそうだった。けれど冴は真っ白なパジャマにふわふわなカーディガンに身を包んでおり、俺は過ごしやすい甚平に寒くないよう袢纏を着せられて。

 投げ槍のお古ならサイズが大きいはずだが、あつらえてくれたのだろう。もうレールが敷きまくられていたのを自覚する。

 何より、今までの冴は小さかったのだ。

 それが大人な女で、家でこんな寛いでる風の衣装は邪だ。子供ほどの年の差はあっても、小学生ではない。いやいや小さい冴も可愛かった。ただ幼女趣味とか、そ、そういう意味ではなく。

 微かな化粧水と乳液の匂い。洗い立ての髪の匂いに襟首の後れ毛も程々に色っぽく感じる。

 ともかく一番上のボタンを留めるのだ、冴。見えそう、だ。




「おい、冴」

「何でしょうか?」

 ボタンの件、言えば見ていたとバレると気付き、俺は頭を振って言葉を止め、

「考えていても仕方がない。とりあえず布団はバラバラだ。寝るぞ」

 冴の顔をまともに見れず、有無を言わさず電気を消して袢纏は脱いで、眼鏡を置くと横になった。



 何でこんな事になったか、よくわからないが。冴の事は大切だ。彼女が望むならママゴトに付き合ってもいいのではないか。どうせ俺には相手はいないのだから。役場に出すモノも出してしまった。

 撤回するなら離婚届か? いや、出来るならこのまま……そう思いながら目を閉じる。急激に疲れと冷めた筈の酒が回って来て、眠りに落ちかかった。

「やはり、お嫌でしたでしょうか?」

 気付くと布団に正座した冴が小さな声でそう呟いた。暗いが俺の目は余りによく利いて、涙を落とす冴が見え、跳ね起きる。

「どうした冴、どこか痛いのか? 葉子を呼んで……」

 俺が出て行こうとするのを冴は手を引いて止めた。

「気の迷いで、寝所を共にするほど、私はおかしくなっておりませんわ。鉄太様」

 わからない、何故、俺か。

 いや、わかっている。年や容姿などは関係ない、置かれた状況の為か、もともとの気質か。細かな感覚が合致していて、側に居る事を苦痛に感じない。それどころか……

「側に居て欲しい、俺だってそう願う……だが……」

 そう言った途端、有無を言わさず俺の体を冴が包む。武芸には通じている、それなのに逃げられなかった、いや、逃げたくなかった。

 彼女の着た柔らかい毛糸で編まれた繊細なそれが、鼻をくすぐる。盛大にくしゃみをすると冴は笑う。

「かわいいですわ。鉄太様」

「この毛糸がくすぐったいのだ、冴」

「お気に召しませんか? それなら脱ぎますわ」

「ちょっ……」

 俺はどんな顔をしているだろう。

「今度、巴様のお墓参りと、そのままご実家にも挨拶に参って下さいますか?」

「う……実家にはあれ以来、一度も足を踏み入れてはいない」

「存じ上げております。知る限り、わかる限り、調べています。でも」

「何だ?」

「一番知りたい鉄太様のお気持ちが、私には……」

 眼鏡の邪魔がない俺の目には冴が眩しい。

 俺はさっきチラと考えたことを反省する。冴が望むのはママゴトではない。弟に強要しようとした強制的な偏愛でも、俺の情けでもない。

 彼女が望むのはお互いを知り、認め合え、互いに遺憾なく側に居られる。そう人生を共に歩める相手。

「俺は、冴の『相手』に適う者か?」

「! ええ、私の先見に間違いはありませんわ。もし間違いであってもそれでも貴方となら笑って歩んで行けますの。だからっ……てっ……鉄太さ……」

 俺はそっとその手を取る。

 不格好で太いが小さな俺の指を、すらりとして美しい彼女の指に絡ませる。

「明日にも指輪を買いに行くぞ。いいな?」

「…………いいのですか?」

「良いも悪いもない。妻にそのくらいしてやる甲斐性はある。後、式はカトリーヌの所で小さくで……良いか?」

「い……良いも悪いもないのですわ」

「く、苦しいぞ冴」

「だって……」

 泣き笑いする女性の腕の中。

 今生、もう出会う事はないと思っていた愛するべき者が近くに居るのを感じる。だが勿体無いほどの若さと器量の持ち主に、俺の学んだ大量の法律は全く役に立たないのだった。



llllllllll

うろなの雪の里(綺羅ケンイチ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9976bq/

後藤剣蔵(後剣)さん


『以下1名:悪役キャラ提供企画より』

『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。


お借りいたしました。

問題があればお知らせください。


lllllllllllll

これにてこの十一日は終わりとなります。

賀川はピアノ弾けない程左手がおかしい状態。(耳訓練中)

ユキはカトリーヌにおかしな話をされた状態。(気付いてないけど)

こんな形で続きはスタートです。

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