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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
冴と魚沼(11月7日{木}~11日{月})

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225/531

承5(11月10日:冴と魚沼)

lllllll

すごーい。か。オレも初めて見た時は喜んだっけな。

lllllll

 








「これですかぁ? ユキ君」

 カトリーヌがユキの頼みに応じてオレの足を縛った金色の『蛇』を出してみせる。

「何でこんなのが出せるんですか? 他にも風の塊みたいなのを出してましてよね?」

「風蛇のこと? まあ、気合かなぁ」

「へぇ……そうなんですね」

 ユキは疑いもせずに、ニコニコと笑ってそう言った。

 おいおい……人間がよ、ただ『気合』だけでそんなモンが出せるなら出してみてぇよ。

 世の中にゃオレの理解できない者はちらちらいるんだとは思う。目の前にいるんだし、否定はしねぇがこいつらが、現実離れしている事くらいは理解できる。

 小さい時は、回りと違っている事で悩んでいたとも思えない、今のカトリーヌ。こいつの髪、今は染めてるけれど、本当はオレンジみたいな金色だし、顔立ちも微かに西洋混じりで、目立つから当時はホントに小さくなってた。そこにオレが『かとりーぬ』なんて横文字かぶれに呼んじまって、まぁ本当に当時の奴としてはいい迷惑だったろうなぁ。

 ただ現実離れしてようが、オレにとってこいつは幼馴染の一人だ。

「カトリーヌ様は暫くはココに居るんですか?」

 ユキは屈託なくカトリーヌに笑いかける。見た目ならやはりユキの方が異様だしな。異様と言っても不気味と言うより、綺麗であり、美しいと思う。この頃は前までになかった艶も感じるが、それは人離れした妖しさだ。だが本人は警戒心が薄く、全くの無垢。この頃、賀川のがまたツレナイから、自分の尊敬する画家が目の前に現れた事で、とても嬉しそうだ。

 カトリーヌが『よいの ゆきひめ』としてのユキを知っているのはバッタに聞いていたが、ユキ自身も彼に興味を持ってるとは知らなんだ。

「二日ぐらいお世話になって、いいよね? 投げ槍君」

 銀の十字架がちゃらりと揺れる。

「ああ、ずっと居たってかまわねぇ」

「布団、干しとかないとねぇ。晴れてよかったわ。でも朝が明けてから今度は来て下さいね?」

 葉子さんはそう言って釘を刺す。カトリーヌは葉子さんの言葉に頭を掻いて、茶を啜る。奴の朝日嫌いは今に始まった事じゃねぇ。

「じゃ、二日、とりあえずお願いだよ。で、その後は恋詩ケ崎にある教会にいるよぉ」

「恋詩ケ……海浜公園のもっと……うろな比由より先ですよね?」

「そうそう。今回そこの教会に飛ばされてね。遊びに来るからねぇ」

「わー嬉しいです。後から私の絵を見てくれますか?」

「もちろん。でも用事を済ませてからね?」

 お茶を飲み干すと、カトリーヌはユキとの会話を終了させた。

「では。申し訳ないのですけれど、ユキちゃん、香取神父様を借りますわ。タカさんも一緒にお願いいたします。お部屋を貸して下さいましね?」

 ソツなくそう言って、カトリーヌの手を取って連れて行く。



 何だかさえちゃん、気配が変わったな。



 子供らしくなくなっちまった。けれども元々が子供ではなかったのだから仕方もねぇのか。ともかく敵意や邪悪さなんかは感じないから、ユキにもう手出しする様な事はないと思うが。

 それにしてもオモシロい事があるかもとバッタから聞いてカトリーヌの野郎が、重い腰を上げてきたと言っていたが、どうやらそれだけとは思えねぇ。

 ユキはちょっと残念そうにしながらオレ達を見送る。ただ背後で、

「ユキさん、暇なら後少し編み物が残ってるの、袖のゴム編みお願い出来る?」

 などと、葉子さんが声をかけていて、嬉しそうにそれに答える声がオレの耳にも届いた。



「入れや」

 オレが襖を開けて招き入れると、近くに重ねて置いていた座布団を冴ちゃんが手際よく配置し、オレ達を上座にちゃんと座らせた。やっぱりその一つをとっても、ただの子供じゃないと思う。

「酒、いっぱいだねぇ~あんまり飲んでると体に良くなくない? 倒れたんだってバッタ君に聞いたよ?」

「うっせーよ。それより、さえちゃん、こいつを招ぇたのはお前か?」

「はい」

 彼女はオレの問いに静かに答えた。

「私、いろいろ調べましたの。うちのあきらちゃん、死なせるわけにはいきませんから」

「賀川の、ため、か」

「ええ。明日の事が済めば、間違いなく私はどんな形にしろココを出て行くでしょう……本当は、ずっとココに……」

「そんな事言うなよ、なぁ、さえちゃん、おめぇもココの娘だ。気にするこたぁねぇ。いつまでもココに居て、そして離れてもいつでも気軽にココにくりゃあいい」

「……そう言って下さるからこそ、私は、私はココを出て行けるのですわ。話を、元に戻しますわね」

 フルフルと黒髪を揺らすと、やはり賀川のにどこか似た頑固な少女がオレに話を繋ぐ。

「あきらちゃんの安全の為には、ユキちゃんを守らなければならないから。味方になりそうな手勢を探しておりまして。敵も幾つか動きが見られるのですわ。それで抜田様にも相談して。大きな所では、『公安』も動き出しているようですけれども。あそこは一課だと敵になりそうですわ。それも『公安』は日本国内ですから、何かあった時に海外にも目が届く『教会』にお願いしましたの。この身を小さくした『奇跡』をネタに」

「我々、教会は神の起こした『奇跡』を探して、その小さな奇跡を神が存在しているという『証』にするのですから。奇跡を起こした白髪紅目の少女、ネタとして上出来ですよぉ」

「ま、待てや! ユキを宣伝に使おうって言うのかっ」

 オレの焦った顔を見て、幼馴染は笑う。

「大丈夫ですよっ、投げ槍君。私だって、君と仲間のつもりだけど。立場的に表だって彼女の守りに入る為には口実が要るんで、出しゃばれなかったんだよねぇ。これでやっと役に立てるかと思って飛ぶように来たのに……」

「だが、よ」

「奇跡の体験者として私が矢面に立ちますわ、そのくらいの余裕と詭弁、私には出来ますことよ? でもユキちゃんはダメ。あの子は疑いも何もないわ。心の中でせせら笑いながらでも、涙を浮かべて見せたなら。ユキちゃんはそれを信じて命まで投げ打つような、そんな子だから。あきらも心配だけど、今は彼女も心配なのですわ」

 さえちゃんはこの家に起こり得そうな騒動をきちんと把握しているようだった。その上でオレ達が守るべきユキと、その威力を補助してしまう恐れのある賀川のの安全の為に、色々考え、バッタに相談していたのだろう。戦力として使え、オレが安心して側における、それを考えてカトリーヌとその組織も利用する事にしたようだ。

 下げた小さな頭をそっと撫でる。

「顔を上げてくれや……頭を下げなきゃなんねぇのはオレだ。娘のユキの為に色々考えてくれて助かる。おめぇの弟も家族だって言ったろ? さえちゃん、ぎょぎょとうまく行っても行かなくても、オレ達の、『家族』の縁が切れるわけじゃねぇ。笑って帰って来いや」

 そう言うと顔を伏せたまま、頭を撫でられていた彼女の膝の上に、涙が一つ落ちた。



lllllll

冴の布石が終わり。

本来なら転が明日ですが。

先に転が来ているので、明日は転2をお送りする予定。

カトリーヌはもう少し後に出す予定でしたが、前倒しした為、

文章調整の為に毎日更新とは行かなくなるかもです。

ご了承ください。

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