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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
冴と魚沼(11月7日{木}~11日{月})

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起2(11月8日:冴と魚沼)

lllllllllllll

がたん、ごとん。

lllllllllllll








 翌日金曜日、小さい彼女は私を連れて電車に揺られていました。



「ユキちゃん、ちょっと付き合って欲しいの」

 タカおじ様と、バッタのオジサマを籠絡した冴ちゃん。それでもある場所に行くのに私を指定した事に、難色をしめしたのはタカおじ様でした。

「さえちゃん、おめぇ、色々わかってるなら。今、ユキを連れまわすのは……」

「私の身の回りはそれなりに『安全』ですわ。お父様がいろいろ気を回してくれていますの」

そう言って笑うと、タカおじ様の肩にバッタのオジサマの手が置かれ、

「そう言う事だから大丈夫だそうだ」



 そして朝早くに家を出て、電車にだいぶ揺られています。そうしながら冴ちゃんは色々話してくれました。

「私の経営理念やヴィジョンをわかって、更に深めてくれるような言葉をくれたのは魚沼様だけですわ。うわべだけわかっているフリをしたり、真似をする者も居たりするし、何年もかけて人材育成すればそれなりには育てたりしますけれどね。外見や年齢に捉われないのが何よりも素晴らしいのですわ」

 ぎょぎょのオジサマがとても好きなようです。仕事の事だけではなく、言葉少なながら交わす会話や、毎日がとても楽しいと言います。

「私は『行き過ぎて』いましたけれど、本当に『弟』を思っていましたの。いつしか……だいぶ歪んでいましたけれど。だから……魚沼様が妹様を思う気持ちは痛いほどわかるのですわ」

「昔を……思い出しているのですね」

「そう、私に玲ちゃんが酷い目にあった記憶がなかったのは、最初の二週間くらいかしら……もう、随分前になるわ」

 そう言うと、とても遠くを見る目つきをして、

「そうちょうど玲が帰ってくる日の明け方……記憶が戻って。『水羽様』に会ったの。貴女は覚えていないのね、ユキちゃん」

「はい、冴おねえ……」

「呼ぶのは……今まで通りで良いわ」

 冴ちゃんはぎょぎょのおじさまの見立て通り、結構早い段階で記憶を取り戻していたそうです。上品な紺のスカートに、同じ色のボレロ。白いブラウスにハイソックス、黒い靴のつま先を所在無げに揺らしています。

「早く玲に謝らなきゃって思ったけれど、あの家は居心地が良かったですわ。それに魚沼様はきっと妹様に重ねて私の相手をしてくれているんだと思ったら、元に戻りたくなくなってしまいましたの。でも、そんなにしないうちに嘘をついてみんなに笑うのが辛くなって、でも言ってしまったなら、ココに居られなくなって、皆笑ってくれなくなって、何より魚沼様ともう……それが怖くなりましたのよ」



 冴さんは水羽さんにそれが『罰』だと言われたのだと呟きます。



「嘘と虚構で作り上げたのが今、ココに居る子供の私。その気になればすぐにでも姿は元に戻るようですわ。その方法はわかっていますの。でも戻った時、今まであったモノが壊れるのが怖い、とても、本当は怖いの。でも魚沼様は戻れと言うし、葉子お母さんも大丈夫と言ってくれてますけれど……」

 私はすっと冴ちゃんの小さな手を取りました。

「私も言いますよ。『大丈夫』ですよ、皆、冴ちゃんが大好きですから。それはどんな姿でも、です。でもお兄様達には内緒の方がいいかもですね?」

 俯き加減に話していましたが、そう言うとやっと硬い表情を崩してくれます。

 そして私の瞳を見てから、

「まず……貴女に謝りたいの。だから今日は一緒に来て貰ったの」

そして一呼吸置いて、頭を下げる冴ちゃん。

「……ゴメンなさい。貴女に酷い事をしたわ」

「いいんですよ。あ、頭上げて下さい。あの、えっと私じゃなくて。その賀川さんにも、ですが。いつかベル姉様とリズちゃんに謝って、感謝しないと。……ですね?」

 ベル姉様の名前が出た途端、冴ちゃんが少し引き攣ります。かなり苦手みたいです。それでもコクリと頷きます。そしてのどかな車窓を見ると、スカートの後ろを飾る大きなリボンを揺らしながら、

「今日は……昨日のタカさんや抜田様のお二人のようにはいきませんでしょうね。ちゃんと一筆、いただけると良いのですけれど。……信じていただけるかしら?」

「きっと大丈夫ですよ。ぎょぎょのオジサマの古くからの御親友だそうですから。難しい方ですが、悪い方ではないです。そう言えば、ぎょぎょのオジサマが弁護士になられた理由はご存知ですか?」

 梓お母様から聞いた事を思い出し質問すると、冴ちゃんはコクンと頷きます。

「だから今から『そこ』に行くのよ。……ねえ、ユキちゃん。玲の事、頼んだわね。貴女も、色々あるでしょうから。気をつけて」

 冴ちゃんは緩やかに笑うと、また電車の外を見ながら、

「私、戻ってきた玲に命令した事があるのですわ。ピアノを弾きなさいって。確かに弾けるわ、けれど気持ちを入れて弾くと、自分の奥底の何かで、指がとまってしまうの。そんなあの子が貴女に、貴女の為にピアノを弾いたと聞いたわ。その時、本当に『玲を盗られる』って思ったけれど、違う……あの子の心を癒せるのは貴女だけなのね。ようやく分かったわ、そんな存在がこの世にある事が」

 車窓を見る冴ちゃんの目がとても不安そうでしたが、真っ直ぐ前を見て揺るがない表情に切り替えます。冴ちゃんはきっと『罰』を乗り越えられる……その先を一緒に歩む人を得る為に、今、前を向いたのだと私は思いました。



 冴ちゃんの心を癒せる存在はきっと魚沼様……ぎょぎょのオジサマだったのでしょう。

 自分の能力を正当に認められ、受け入れられる感覚、微笑み、和みながら過ごす時間が、とても大切で愛おしい事。

 それでも。

 本当に、本当に自分を選んでくれるのか、その前に役場に駆けつけて来てくれるのか。

 内心とても不安だったのでしょう。

 実は『実力行使』といって、まさか子供の姿のまま役場に突入して、呼び出させるとまでは、私も聞いていなかったのです。

 そしてまずは今日行く場所で、『一筆』がいただけるか、という事に、冴ちゃんはとても緊張した顔をしていました。




 私達が電車に揺られてやってきたのは町外、それもかなり離れた、と、ある町。

 『ある場所』に行った後で、役場にて資料を手に入れ、そして最終目的地にやってきました。

「ここが司先生の生まれ育った家……」

 冴ちゃんとぎょぎょのオジサマが役場には揃って提出する事。

 タカおじ様とバッタのオジサマは冴ちゃんにもう一度ソレを約束させてから。差し出された用紙の証人にタカおじ様、そして本来はぎょぎょのオジサマが書き込まなければならない所をバッタのおじ様が埋めていました。

 ですが、婚姻届提出に必要なぎょぎょのオジサマの戸籍謄本を本籍地から取ってくるついでに、もう一人分ある『証人欄』をある人が書いてくれないなら、冴ちゃんはその用紙は破棄するとオジサマ達に宣言していました。



 その証人としてオジサマ二人が指名したのが『梅原 勝也』さん、私がよくお世話になっている司先生のお父様でした。


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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

司先生 梅原勝也氏 梓お母様


悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

ベルお姉様、リズちゃん、お名前を


お借りしております。

問題があればお知らせください。

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