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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
6月24日

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海・散歩中です

まだ24日やってます。


28日とか夏祭りの早朝とかだいたい書き終わったのになー

 





「覗かないで下さいね?」

 一応、釘を刺してからパジャマを脱ぎました。余り人影はないし、日除けのシートをフロントに置いてくれてます。それでも白い下着を外から見られない様に隠しながら、新しい匂いのするワンピースに着替えるのですが。



 あ、これ、後ろファスナーだーーーーーーえーーっと、うーーんと……軽、狭い。じゃ、なくて。



「い、痛っ……」

「何? 大丈……ご、ごめん、で、て、て、手伝う?」

 ファスナーに髪が引っ掛かって上がらなくて出てしまった声に、賀川さんが振り返って、でも途端に顔を赤くして前に向き直る。



 みたーーぁ?



 でも手伝いを申し出てくれたので、

「うん」

 って言ったら、難なく、さらさらと縺れた髪を器用に外して、後ろを止めてくれました。何処からか櫛を出して、梳いてくれます。縺れない様に毛先から、柔らかく。男の人ってこんなに繊細に女の人の髪を触る物なのかなぁ。

「慣れてる?」

「よく商品の髪を梳いて、拘……いや、服着せてたから。ほら、終わった」

 何だか気になる言葉もありましたが、まあ、いいか。

 だって、車の外に出ると、海なんです。



「だ、大丈夫?」



 海が余りに青くて、潮風に触れる、それだけで涙が零れてきました。

 防風用の松の緑が青に映え、暑い夏にはない心地のいい風が頬を撫で、涙を攫います。風は賀川さんが買って、着せてくれたワンピースをふわふわとさせて。髪の先まで生きている事を感じさせてくれます。まるで母がおいでと言っているようで、私は走り出そうとしましたが、

「ま、ちょっと待って、ユキさん、靴」

「あ、熱いかも」

「サイズあまり関係ない靴買っておいたけれど」

 揃えておかれたのは、ピンクのリボンが一つだけついた、スリッパに近いヒールのないシンプルなサンダル。ワンピも靴も海に来る前にショッピングモールに寄って、私を車に放置してたので、すっごく焦って買ってきたみたい。

 それもワンピ、だいたいのサイズで買ったので、腰回りなどは良いのですが、少し胸が窮屈なのは私が太っているせいではないと言っておきます。

 いや、ちょっと入院で太ったのかも。前のリボンを緩ませるといい感じだったので、それで調節して結ぶと、縦結びになってしまい。

 ま、いいかと思っていたら、何気に賀川さんが綺麗に結んでくれました。細かい所、気にするんだね。



「それから、これ、サインお願いします」

「え」

「俺から。少し早いけど、退院祝い」

 サインして渡されたのは、私宛の包み。送り主は『カガワ』になっていて、ネットショップから直で届いた形でした。

「開けられる? 少しだけ荷を開けてくれたら俺がやる。配達人は荷ほどきは出来ないんだ、手伝いの形でないとね」

 自分で頼んだ物は違うと思うんだけど。でもそう言うので、少しだけぺりぺりすると、後は賀川さんがナイフで荷を解いてくれました。

「え、わーーかわいい」

 つい歓声を上げてしまいます。

 青い包装紙から出て来てたのは、真っ白な日傘。

 沢山のレースがついていて、貝の裏が七色に光っているようなキラッとした輝きがある柄には、銀色の星のチャームが揺れています。

「かわいい、これって……」

「余り焼くと、良くないんだよね? ユキさんにパソコン貸す前に、注文しておいたんだ。それが今日、倉庫に届いてたからそのまま持ってきた。これ少し重いけれど、それ紫外線カット率高いし、雨傘にもなるんだって。今年はたくさん出かけるんだろうから、使って」

 そっとそれを無言で受け止め、広げます。

 内側には青空が描いてあり、雨の日も楽しい外出になる事でしょう。森では木に引っ掛かるので、使えないけれど。町に居る時はきっととても助かります。

「ありがとう」

 そう言ったけれど、振り返らないので、聞こえてなかったみたいです。



 砂浜には余りまだ人がいません。海の家もまだ空いてないです。そう言えば私病院から出て良かったのかなぁ? 賀川さんが連れて来てくれたから良いんだよね?

 海を見ながら母と最期に交わした言葉を思い出します。『うろなの海も綺麗なのよ。東の方にあってね、夏は人がいっぱい来るの』って。

「……夏はもうすぐだよ、それも二度目だよ? お母さん、私がカレンダー作るの遅かったから日付を忘れたままなのかな?」

 賀川さんはいつもの水玉帽子をかぶりながら、次はちらっと私を見ましたが返事はしませんでした。ただ、少し間を置いてから、

「ユキさん、おいで。砂浜を歩こう」

 誘われて駐車場から砂浜まで移動します。

 暑い砂が、海の水で冷やされている辺りで、裸足になって歩きました。傘を風で持って行かれないようにしながら、ふわふわと。



「賀川さん?」



 彼は私を見ているようで、でも見ていない様で、見ている。

 不思議な視線です。

 賀川さんとは一年くらい前、うろなの森中まで取りに来てくれる奇特な業者を探して、辿り着いた先でした。いつもにっこり笑っていたけど、ちょっと私を窺っている感じでした。

 一週間前、倒れていた件から、ずっとお見舞いに来てくれるようになってハッキリ気付いたのは、彼には色を感じないと言う事。

 だいたい姿を見て、名前を聞いたりすると、溢れてくる色。それが、ない。例えば、母はこの広がる海の色。オジサマは藍色の空が赤く燃える様な火が見えたし。

 色がない。

 それはお人形のように、ぬいぐるみのように。ただ手足が付いた無機質な人の形。

 いや、人形でもモノでも、大切にされれば色を帯びると言うのに。何でこの人はこんなにも色がないんだろう? そこまで考えて、ふと、



「賀川さん、名前……」

「ん?」

「本当は名前、何っていうの?」

 集配に来た人の名前なんてわざわざ聞かないし、名札も良く見た事なかったから聞いてみると、

「今更? なら賀川、それでいい。あそこにいってみようか?」

 賀川さんが服に付いた砂を叩きながら立ち上がると、側に寄ってきます。だいぶ距離はありますが、砂浜を渡って船着き場を見ながら行ける建物があります。

「ほら、元水族館だったらしいよ。食事とかお茶が出来るらしいよ」

「わーーーー甘いの食べたーい」

「甘いもの好き?」

「ここ一年くらい食べてない。森では木苺のジャム作ってクッキーとかパンは焼いたけど、やっぱりお店で食べるのは違うもの」

 疲れながらも歩いてついたその先で。賀川さんとゆっくりして行きました。

 チョコとオレンジマーマレードのパウンドケーキ、美味しかったです。それから何故かご老人が多かったのですが。

 



とにあ様 URONA・あ・らかると より、旧水族館の設定(食事ができる、ご老人の憩いの場)使わせていただきました。

誰かに絡ませたかったけれどうまくできませんでしたので、その辺はご想像で。賀川は配送にでも来た事があったのかな?


飛ぼうかなーどうしようかなー

うーん。この更新頻度だと夏祭りは次週末になりそうな。

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