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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
11月6日

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214/531

考証中です

lllllllll

ここ一週間ほどを振り返る。

lllllllll

 









「お前、こないだ綺麗にしてやったのにさ」

 呆れ顔で八雲先生が俺の傷を見る。

 まだラッシーに慣れない頃に開いた、海外で受けた傷。傷跡は塞がっていたが、確かに目立つ。

「綺麗にしてないと逃げられるわさ。あの子、かわいいから。あの白髪に赤目は人を寄せ付けないかもしれないけれどもさ。アルビノは見た事あったけれど、ありゃ際だってるさねぇ」

「で、アホ。ユキちゃんは森にいるのかよ?」

 白衣を纏うとマッドサイエンティストに余裕で見える凶悪顔の鈴木 寿々樹が俺に尋ねる。彼に調薬された点滴を受けながら俺は頷く。

 この強面が調合していると思うと、効く薬も効かないなんて口が裂けても言えないけれど、頼りにはなるらしい。准看資格は持っているとかで、注射も手際よく簡単にこなしてくれる。薬剤師で、准看護師で、美容師って……どれだけ国家資格マニアなんだろう? どれか一つで食って行けるだろうに。

 更に教諭免許も取得に向けて励みながら、ゲームを嗜んで知るようだ。いや、ゲームへの情熱は嗜んでいるというには異常な……それを別の方向に傾けたらもっと大成しそうな気がするが、個人の趣味にとやかくは言うまい。

 俺は溜息をついて、

「一人になりたがるんだよ、彼女。創作に気持ちが入っているだけかも知れないけれど」

「一体いつごろから、そうなんだ? アホ賀川」

「うー? ニ十九日、か、な?」

 象を寝かせるつもりの睡眠薬が効かなかった事で、目の前の男は俺に少し興味があるようだ。と、いうか、他の薬の効きも悪いかも知れないと今、薬剤の血中濃度を調べている所だ。

 点滴中で暇なのと現状整理を兼ねて、俺は昨月末頃からの動きを話し始める。



「まず清水先生とその義父の決闘日の朝にユキさんが攫われて。その日は決闘の観戦と冬支度の買い物に行ったんだよなぁ」

 帰り際、少しおかしかったもののの、彼女はそれなりにご機嫌だったように思う。

「その日の薬が夕方まで効かなかったんだな? アホ賀川。 他の薬は水に溶かした痛み止めと、ねーちゃんが治療で使った薬剤、抗生剤系か。飲み合せなどに問題はないはずなんだが」

「ココでねーちゃんって呼ぶんじゃないさ、寿々樹」

「わかってるよ、ねーちゃん」

「……わかってないし。そう言えば薬は効いてない訳じゃないんだ、朝まではよく寝たよ?」

「だーっ! 効力時間が設定の三分の一ってあり得ん。フラツキは?」

「ん、ちょっと一日怠かったけど車は運転したよ」

「……ッントあぶねぇ。あぶなすぎっだろっ。アホで、アホだ、アホかアホだろう、アホだったんだな。自殺行為だろっ」

「しらねぇよ。無理矢理飲まされて、どのくらい効力があるかなんて、わからなかったんだから」

 そう、帰宅後、俺はタカさんに薬を飲まされて眠り込んで、朝までは寝た。

 その後、何とか起床して仕事へ。

「仕事帰りに皇さんに足を治してもらう術をかけてもらって帰宅したから、遅くて。ユキさんに会わなかったんだけど。起きて夜勤前に森へ行きたいって彼女が言い出してね」

「前田が良く行かせたねぇ」

「小父貴は女子供によえぇから」

「それをお前が言うか、エロゲーマー」

「何だと! 愛のあるエロは二次元だろうが、三次元だろうが、ノーマルはもちろん、百合でも薔薇でも複数でも正道、正義だっ!」

「……お前の思考は尊敬に値する」

「アホに褒められてもな」

「いや……褒めてない」

 二十九日は夜勤の前に森へ行きたいと言う彼女を送って、翌三十日に買い物を申し出てもらったものの、この凶悪顔のエロゲーマー、心優しき口悪い鈴木の配慮? で、行き道が逸れた。

 この鈴木、本当にフリースクールを小規模ながら慈善でやっているようだ。

「あの日、突然会社から呼び出しを喰らって、夜まで働いた帰りに汐ちゃんに……会ったんだよな」

「汐って?」

「その……知り合いの女の子の名前だよ。十くらいかな?」

「お前、アホのくせに。ユキちゃんと言うモノがありながら……」

「アホはお前だ、鈴木。汐ちゃんはユキさんの友達だよ」

 そう、正確には『会った』と言うのは語弊がある。

 だって彼女は袋に入って攫われかけていたのだから。

 謎の郵便配達屋のレディフィルドと事に当たって……最後は不気味な『生き物』にラッシュを放った。

 その後の浮遊感たっぷりの帰宅は楽しかった気がするが、ぐったりだった。

「その帰った玄関先でタカさんが倒れて居たんだよ」

「頭を打ってないのは幸いだったさね。話を聞いた時には脳をやってないか心配したけど。前田も丈夫だけど、年には勝てないのかねぇ」

「飲み過ぎじゃねーのかよ、小父貴」

「いや、一滴も入ってない。匂いもなかったし」

 俺は救急車を呼びかけたが、聞き付けた葉子さんが出て来てくれて『揺らさないように肩を叩いて声をかける!』といい。それで程なく目覚めた。

 ただその騒ぎの最中。

 玄関の方からユキさんが来た気がしたのは……気のせいだろうか?

 彼女は寝ぼけていたのか、暫くぼーっとしていて。俺や兄さん達がタカさんを部屋に送ると、程なく離れに帰っていたその背を見た。

 数時間で朝になって葉子さんに『病院に行って検査!』と強制的にタカさんを病院送りにしてしまった。

 結果は異常なしと言われ日帰りだった。とにかく前田家にホッとした空気が流れた。

 ただ帰ってきたタカさんは俺を部屋に引きずり込むと、左腕を捻り上げる。

「おめぇ、自分の体を大切にしろ。昨夜、何やらかした?」

「それは」

汐ちゃんが攫われかけていたと言えず沈黙していると、

「まあ、いい」

 傷はアプリと言うシャボン少女の持つ薬やシートのおかげで見た目ほぼ治癒していたものの。コザコザと怪我をしている事に気付いたタカさんがそんな事を言った。

 玄関口で倒れていた貴方の方が心配ですと言ってやりたいのは、俺だけじゃないはずだ。あの人は皆から慕われていて、精神的な支えである。俺なんかとはワケが違う。とりあえず検査には何も引っかからなかった様だが。



「三十一日は夜勤で。ハロウィンにお出かけ前のユキさんに会ったんだけど」

「ハロウィン?」

「ああ……」

「て、事はコスプレかっ! ユキちゃん、どんな格好だったんだ!」

「鈴木……お前には絶対言わない……」

「アホかっ、そう言う物は皆で共有して楽しむもんだろっ」

「アホはお前だわさ」

 夏に見たミニのゴスロリに猫の尻尾や耳、寒くないようにか猫手の手袋を付けた彼女。

 急に見てしまって台詞が出なかった。

 ミニ。

 可愛い。

 白猫。

 このまま連れて行きたい。でも夜勤に向かわなくてはいけなくて残念だった。

 ちなみにハロウィンにはタカさんが送り迎えにつく予定だったが、葉子さんに止められたのもあり。ハロウィンに行く予定になっていた、司先生にタカさんは簡単に連絡して、ユキさんと行き帰りを任せたようだ。ユキさんは偶然メールが来ただけと思っているけれど。

「翌日、夜勤から帰った俺にユキさん、森にまた行きたいと言って」

「その日に暫くはあれだけ必ず飲めと言って渡していた薬を飲み忘れたんだな、アホは」

「昼に帰宅して疲れていて、起きたらもう二日になっていたんだ。不可抗力だ」

「それからいつまで寝込んだいたんだわさ?」

「三日、いや四日の朝かな?」



 切らさない様に飲むように言われた薬を、眠り過ぎて飲み忘れたのを皮切りに、俺は寝込んでしまった。

 高熱、倦怠感、激しい痛み、皇さんに足を急激に治してもらったのに安静にもせず、薬で抑えていた反動が一気に出たのだろう。それも猛烈に左腕が痛く、重くなった。タカさんが『この面倒なヤツを診てやってくれ』と八雲先生に頭を下げてくれた。 

 会社にも結局穴をあけてしまい、その間、ユキさんが家に居ずに、バレなかったのだけが救いだった。

 その間に来てくれた八雲さんが俺の体を診てくれて。左腕の痛みを訴えたら『……これ、折れてるさね』と言われた、左腕。そういえばレディフィルドと共に敵と我慢大会あそんでやったの時、逝った気はしたけど。薬やら何やらで殆ど痛みを感じなかったのだ。

「だいたい骨折ってたのに気付かないってバカな子さ」

「い、痛まなかったから」

「俺の作った痛み止めが凄いんだよ」

「……その前の睡眠薬が効かなかったから強めていたのが敗因だったさね」

 四日にやっと少し体調が整った俺。左腕は重かったが動けない事はなく、三日ぶりの運送の仕事帰りに見つけたおかしな影を追って。

 レディフィルドと天狗仮面達と共に、汐ちゃんにまつわるゴタゴタがあって。

 左腕の骨折……三十日のラッシュでは持ちこたえたのだが、今回は解放骨折となり。シャボン少女に手当はしてもらったものの、流石に血塗れではそれを見咎められ、早急に八雲先生が来てくれた。

 五日、また会社に休みをもらい。

 眠りから覚めた俺は地下道場に引きずられていき、タカさんと抜田先生の鉄拳が俺に唸りかけ、魚沼先生がいなすと言う事態になった。

「さえちゃんの弟だからって、イイ顔すんじゃねーやっ! ぎょぎょっ」

「そんなつもりはないが。まだ本調子ではない奴をこれ以上痛めてどうする、投げ槍」

「いや、普通だったらこういう無茶には一番に制裁に入るぎょぎょが、どうしてか大人しい気がするなと投げ槍も俺も言っているだけだが?」

「うぬぅ、他意などない!」

 後は子供の喧嘩状態……子供と言うには地下の道場被害は絶大だったが。

「たまに何かにカコツけて騒ぎたいだけだから。こっちへ来てなさい」

 そう言う葉子さんに導かれて、俺は難を逃れていた。今度、鍛錬へ地下に行ったらどんな目に合うか恐ろしかったが、まあそれもまだ時間があるしとタカを括って。



 会社には悪いが、今日までは休みを取っている。本当は昨日コタツ布団を森の家に運ぶ予定だったのだが、抜田先生に任せてしまった。

「それにしても傷も骨折も治りが早いさね。このシートの成分は特殊さ。この混合が難しい貴重な成分がよくまあさ……」

「そうだな。温度管理が難しい筈なのに常温で持ち歩きか。と、とりあえずアホ賀川、この傷を治した魔法のシャボン少女の顔、借りて来いや。是非とも話を……」

「お前、……目的が違うだろ? 鈴木」

「はっ! アホかっ、後学の為だっ!」

「寿々樹、顔が笑ってるさね……さ、もういいさ、トキ」

「データ的には問題はないな。はっ、アホには薬が効かねーのかって思っちまったが、て、わけでもないようだ。痛覚やらがイカレてんのか、アホは痛みは感じないか。ともかくもうちょっとゆっくり調べて行こうか」

「とにかく、左腕がそれなりに治るまでは仕事は休むか、事務仕事や軽い仕事のみ。当たり前だけどラッシュって技は厳禁さ。足は移動に必要だから皇さんに頼み込んだけれど、腕は自力で治すんだわさ。それは大事にしなかった天罰さ。二週間、二日か三日に一度はココに通院! そこからは様子を見る。いいさね?」

「はい」

 答えた後、ふと尋ねる。

「俺、ピアノ、弾けますか」

「馬鹿を言うんじゃないよ! 治っても普通に握るくらいが関の山で。まあ何年も時間をかければ……そうかお前は……」

「昔の、五歳までの夢です。忘れていたくらいで」

 やっと弾けるようになったピアノが弾けなくなった事に今更気付き、愕然とする。腕の骨が折れて突き出たのだ、指自体はどうでも、そこまで行く途中の神経がオカシイのか、上手く動かない。昨日今日と仕事は休んでいて、今まで左手は支えに使っていただけだから、気付かなかった。やってみて俺の指、バラバラに動かない事にハッとする……ピアノ、弾けない、また、ユキさんに、聞かせたかったのに。それが……まあ、何年かかければ弾けるなら……

「何て顔してる? アホ賀川、な、おい!」

 点滴の管から解放された俺は、診察台から逃げるようにユキさんの迎えに森の家に向かう。



「ピアノを弾く事なんて忘れてたのに、弾けないとなったら悲しいものなのな」

 ごわつきのある左手の指を空に翳す。曇って濃いグレー色の空から、止んでいた雨が再び降り出し、俺の手を濡らす。その雨粒を受ける感覚を鈍くしか感じる事が出来ていなかった。

 俺の気持ちはユキさんに向いていて、彼女の問題さえ解決できないのに。ピアノなんか、どうでも良いじゃないかと思おうとして、そう思えない自分自身に驚く。



 この時の俺にはもう一人、心の暗闇を抱えている人が側に居るのを忘れていた。その人が急激に自分の道を掴もうと動き出し、その結果がどうなったのか知るのは少し後の事になる。



 俺はいろんな事に気付かず、時折降ったり止んだりする森の中、右手で傘をさし。一時間半ほどかけて辿り着いた目の前にあるチョコレート色の扉を叩いた。だが扉がなかなか開かない。途中止んで、閉じていた傘を置いて。ユキさんの携帯はこの家から動いていない事を確認し、ヤキモキしながら彼女に電話を入れた。


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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生の決闘があった日の設定を



キラキラを探して〜うろな町散歩〜(小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

レディフィルド君、汐ちゃん、獣面の男、郵便配達人。アプリちゃん(魔法少女? 笑)鳥さん達。


うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

天狗仮面様。


うろな高校駄弁り部 (アッキ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7660bq/

ハロウィンの章『10月31日』のパーティがあった設定を。

『以下1名:悪役キャラ提供企画より』

『鈴木 寿々樹』吉夫(victor)様より。


話題としてお借りしております。

問題があればお知らせください。

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賀川、ここ暫く仕事は軽い物しか運搬しません。

足は完治扱いとしています。

左腕解放骨折により、指が上手く動かない事になりました。

どうしてそうなったのかは、

『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』11月4日の更新をお待ちください。

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