電話中です
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頭を下げてから、オレは電話に応じる。
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『ユキに一体何があったっ!!!!!!』
予想通りと言おうか、梅原 司、今は清水か……とにかくその小梅ちゃんから殴り込みにでも行くかのような電話が入ったのは、ユキが秋祭りの様なのに出かけた夜、帰宅した後、遅くだ。ユキには気付かれないよう、部屋にて電話を受ける。
「まぁまぁ、妊婦が落ち着きやがれや」
『こ、これが黙っていられるかっ。タカさん、あの子。自分の父親が誰か? 巫女と言う者の父親について、私に尋ねたんだぞ? 何もなかったと言っていたが、全く何もなかったなら、あのユキがそんな事言ってくるわけがないだろう!?』
「…………こないだの決闘があった日曜の朝、攫われたんだと。賀川が追走して、そこで知り合った天狗仮面と二人で救出したそうだ。オレが辿り着いた時には終わっていたが、ユキは見事に服が破かれていて。気を失っていたんだ」
ユキは偶然と思っているだろうが、今日、ユキを小梅ちゃんと行くように仕向けたのはオレだった。オレは知る限りでその日の状況を語った。
「一応医者に見せたが、外傷は掌に傷。男に『そういう行為』には及ばれてはいないそうだが」
『タカさん、知らない男に服を裂かれて。流石にユキも何をされるのか、その、気付いただろう……』
正確にはそうされても気が付かない緩いのがユキで。彼女の心を揺すったのはオレも知ってる少女の他愛ないような言葉だったのだが。この際、重要なのはユキが『怖さ』をおぼえるような行為に及ばれていた事だ。
「気が付く前には着替えさせておいたがな」
『そ、そんな事で全てが消えるわけじゃ……』
「わかってらーな、だがそうしてやるくらいしか思いつかなかったんだ。ただ……そんな事聞いてやってくれとか、小梅ちゃんに男のオレから言えねぇだろ? 色々、何も言わずに任せた事は謝る」
小梅ちゃんに見えるわけでもないのに頭を下げる。
オレはあの日に思いが走って『なかった風』にしちまったから、それ以上は突っ込めなかった。葉子さんが『間に入りましょうか』と言いつつ、『機会があれば先生に入って貰った方がイイかも知れないわ。妊婦さんだから無理は言えないけれど』と言っていた。
賀川のは夜勤で、今回のお祭りでの送り迎えは俺の役目だったが、昨晩調子を崩したのもあった為、この際と小梅ちゃんに入って貰った。
ただしユキに何があったと予備知識は与えてなかったのに、その気持ちを吐露させる小梅ちゃんは流石だと思う。ユキの信頼度が窺える。ただ……妊婦の彼女には済まない事をした。
だが妊婦であり母になる彼女だからこそユキは心を開いたのだろう。そう思う。
『ユキ、どんなに辛かったか!』
小梅ちゃんはユキの心を思い、その感じた事をオレに素直に伝えてくれる。微かに涙の入った怒りの声は、真っ直ぐで、清かった。
『私はどんな事情があろうがその子供は祝福される、そんな話をした。ユキは良い子だからな。すぐに色々を理解して笑ってくれた。だけど……私はユキの為に、私の全てを賭けると、ベルさんにも約束した。その気持ちは変わらない……ユキは、ユキは……可愛い私のもう一人の……娘なんだ! 娘が、娘が、傷モノにされそうになって怒らない母親なんか居ない!』
『司さん、落ち着いて下さい』
……電話の向こうで少々……いやかなり小梅ちゃんは落ち着かない様子らしく、清水の先生の声が聞こえる。
『コレが落ち着いてられるか。ええい、ユキにそんな思いをさせた連中、この刀の錆びにしてくれるっ』
『って、本当に刀を抜きかけないで下さい! もう終わったって言ってたみた……わぁーわぁー、に、妊婦なんですよ。タカさんだって、病み上がりなのに……』
『何?』
『今日の今日で、一緒に行ってくれなんて変だと思って。タクシーで行った時に葉子さんに聞いたんですが、今朝方玄関で、タカさん、倒れてたって……』
『倒れたって……』
清水の先生の説明に、オレが舌打ちをしたのを小梅ちゃんは聞き逃さなかった。声のトーンが落ちる。心配されまいと、言わなかったのだがな。
『確かに急だったから何かあるとは思ったが……タカさん、大丈夫?』
「あーあー……オレの事は心配するなよ。大丈夫だ。ちいっと立ち眩みしちまったのか、よくは憶えちゃねーんだ」
本当に昨夜の事は余り覚えてねぇんだ、ユキと……話していた気がするし、何故か飲んだ覚えのない酒瓶が一本消えていたのが気になるちゃーなるが。飲み過ぎで忘れたにしろ、空の酒瓶すらないのは変だが。オレの酒に手を付ける様な命知らずはいないはずだが、そもそも数が間違えていたのかも知んねぇし。
『憶えてないって、それって悪いんじゃ……』
「何だよ、そんなこたぁねえ。医者もてぇした事ないって言ってたしよ。恥ずかしいじゃねーか、言い触らすなよ? 小梅ちゃん」
『た、タカさん……その……』
ココだけに秘密だが、……医者が言うには、脳に小さな血栓が幾つかあるのは間違いないらしい。すぐに抜けた上に、初期に気付いたから薬でコンクリート……コントローラー……何か違うな、まあ、薬でどうにでもなるという。今回の程度で気付いて、健康診断に来たのは正解だと医者は言った。とりあえず血液をサラサラにする薬とやらを貰って帰ってきた。
皆にゃ内緒だがな。
小梅ちゃんが口ごもりながら言葉を繋ぐ。悪いのは色々隠している、こっちなのにな。
『その、とにかく、心配してる。子供にとっては確かに父親が誰でも愛される、母も父もその覚悟がなければ血縁があっても親にはなれない。ユキにはそう言った。……けれどその前段階の行為が望まない者に乱暴に行われるのは女にとって一生の傷になる。今のユキには『そちら』を見ないように、突っ込まない形で話したが、とにかくそんなのは許されちゃ駄目なんだ……タカさん……。何かあれば声をかけてくれ』
「わかってらぁな」
そう答えながらも、今回は甘え過ぎちまったなと思う。オレは深く頭を下げて感謝を述べる。
「……本当に、本当に、協力、感謝する。小梅ちゃんは丈夫なイイ子を生んでくれよ? 清水の先生に替わってくれるか?」
『ん? ああ、渉、タカさんが……』
『とにかく刀は保管ケースに戻して下さいね。あ、替わりました。タカさん、本当に……』
「あんまり年寄り扱いすんなや。大丈夫だって言ってんだろ? それより済まなかったな。思いが強いな、やはり小梅ちゃんは。それを知っていて、妊婦を煩わしてすまない」
『いいえ。後から知る方が司さんは堪えたかもしれません。それにしても知らない間にそんなに直接的に手を出してくるようになっていたんですね』
ベランダかどこかに出たか、別の部屋に移動する気配がして、清水先生はそう答える。
「賀川のが言うには、まだこれは手始めではないかと。実行犯が二人、何の躊躇もなく撲殺されたという。つまりは鉄砲玉って事だろう。遺体は消えたとか変な事を言ってたが……」
『話半分でも不穏ですね。誰がどうって話はしませんけれど、うろなの治安が一部で悪いんじゃないかって話もあるから、いろいろ検討はされているんです。タカさん達も見回りの強化とか協力願いが行くとは思いますが……』
「ああ、こちらの事情につき合せちゃ悪いが、それに噛ませてもらえれば」
『お願いします。町の治安は、ユキちゃんの安全に繋がりますので』
「何かできる事があれば連絡してくれ」
そういう話を幾つかして、電話を切った。
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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水先生、司先生、『お酒』と『刀』を。
うろな天狗の仮面の秘密 (三衣 千月様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
天狗仮面様
悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
ベルお姉様お名前を。
うろな高校駄弁り部 (アッキ様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7660bq/
ハロウィンの章『10月31日』のパーティがあった設定を。
話題としてお借りしております。
問題があればお知らせください。
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今回昨日更新分で10月終了予定でしたが、
司先生が『女』がそういう目に合った時の怖さにユキの目を向けすぎない配慮をした事、それと聞いて、大人しく収まらない事など、上手く書けていないように思い、緊急追加いたしました。
急な申し出にもかかわらず、受け入れていただいたYL様に感謝です。
確認していただいた時より変わっている部分がございます。色々突きつけた形になってしまっている気がして申し訳ないのですが、もし問題がありましたら、修正、加筆いたしますので、よろしくお願いいたします。




