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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月31日

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212/531

続々・収穫祭中です


lllllllll

波の音が響く浜で。

答えのない回答に、教師は……近く母となる彼女は口を開いた。

lllllllll










 答えのない質問。それはきっと司先生を困らせてしまったのに。先生は表情を穏やかに戻すと、

「タカさんだろう?」

「え?」

「ユキの出生についてはハッキリしていないとは聞いた。でもお前の父親は……かつてはタカさんの息子さんであり、今はタカさんで間違いない。そうだろう?」

 そう言いながら司先生は私をそっと私を抱き寄せてくれて、

「お前を一番大事に思って、お前を育てていく覚悟を心に決めた人間が『本物の父親』だ。だから今は、タカさんはお前の『本物の父親』だ」

「覚悟を、心に……」

「そうだ。聞き及んだ状況を推察すると、お前の母とタカさんの息子さんが一緒にいた時間はほとんどなかったのかもしれない。でも死の間際までお母さんとお前の幸せを願っていたタカさんの息子さんは、お前の『本当の父親』と呼んでおかしくないし、今はその思いも責任もタカさんが引き継いでいるのだから、今はタカさんがお前の『本物の父親』だよ。違うか?」

 いつも『おはよう、ユキ』と声をかけてくれるタカおじ様の声を思い出します。その眼差しは怖いようでいて、ずっと見守ってくれる力強さです。強くて、優しくて、温かい。それが本物で無ければなんでしょう? 今朝、タカおじ様が倒れていて、家の中に漂った不安感。そして病院で異常なしと言われた時の安堵感はタカおじ様があの家の家長であり、皆『父親』のようだと感じているからでしょう。

 あの家に来るまではなかった安心感に満たされて、満たされているからこそそれが当たり前になっていて。過ぎった不安が口にさせた疑問はとても重かったけれど。

 見た事も感じた事もない血の繋がった誰かよりも、『確か』な物はそこに在るのを司先生は明確に示しています。他の人が口にしていたら上辺だけに聞こえるかもしれませんが、先生のその口調は、波と同じ調子で、信じられないほど心に染みてきます。

 何故でしょう? でも納得できたので、深く頷きます。

「そうですよね? ごめんなさい。考えすぎたみたいです」

 私が笑うと、司先生が空を見上げて、

「謝る事はない。周りの誰がどんな勝手なことを言おうが、母親と父親が、そしてなにより子ども自身が誰を母親なのか、父親なのか思っているのかが大事だ。その子の遺伝子上の父母が誰であるかなんて、……もちろん医学上も心の上でも色々あるのだろうが、決して一番大事なことではない」

 そっと、そっと、背中を撫でる手。壊れた工場の地面に荒く投げ捨てられて、足を縛る感触、押しかかる重さを忘れさせるように。司先生は優しく私に触れてくれます。

「怖い目に、あったのか?」

 そこで。

 私はやっと思い至ります。

 生徒指導をずっとやってきた司先生は、いろんな形で『望まぬ交渉や妊娠』をしてしまった生徒さん達と数多く接してきているから、そう言うのを雰囲気で察してしまうのかもしれません。私はそういう生徒さんに比べると、とても運が良かったのです。

 そしてそんな子達と出会って、導いて行った生徒指導の司先生の言葉だからこそ、さっきの言葉も心に染みるのでしょう。きっとそんな目にあった少女達と同じだけ、いや、その何倍も泣きながら、『生まれた命』の行く末を見守って来たのでしょう。

 生を受けた者、儚く死を迎えた者。

「女は生もうが生むまいが、子を宿せば『母』となる。子を宿さなくとも、無理矢理の、その『傷』の深さは普通の者より感じる立場にあったから、な」

 私はハッとして、

「先生、あの、そこまで、し、心配しなくて大丈夫です。何か……その、ある前に、天狗さんが二人も来てくれました!」

「天狗? ああ天狗仮面が……ただ、二人だと?」

「はい。賀川さんは五人見たと言ってました」

 そう言うと『そうか小天狗か、それは天狗仮面に感謝せねばな』と言い、

「それでもそういう思いに至るというのは……怖かっただろう? よく耐えたな」

 無理矢理に押さえつけられたたった一瞬、夏に無理矢理に口を奪われた事も、確かに思い返すと怖かったです。

 でもそれが司先生の言葉に香る梅の匂いがとても優しくて、怖さがゆっくり溶けて行きます。

 その時、体を巡る様に仄かにベル姉様の炎も感じて、猫夜叉の二人がくれた気持ちも思い出して。私を愛してくれている存在を幾つも思い出して行きます。『怖さ』が私を盲目にしようとしていた事に気付き、

「ありがとうございます、何だか、見えなくなっていた温かさが戻って来たようです」

 首から吊り下げている、賀川さんとお揃いの夜輝石が温かいのも、やっと今、感じます。まるで私を励ますように。

「それはよかった」

 司先生は囁くように、私に語り掛けます。

「なあ、ユキ。子供が無償の愛を感じられる存在、それが母親であり、父親だ。私だってこの子達を産んだからって、それだけでこの子達の母親に本当の意味でなれる訳ではない。渉だってそうだ。この子達の遺伝子上の父親は、……間違いなく渉だが」

 そう言った所で、何か思い出したように又ぽっと頬を染める司先生。

「本当の父親になれるかはまだまだこれからで、この子達が独り立ちする時、もっと言えば天寿を全うするとき、私たちに少しでも『両親への感謝、愛情』なんてものを、感じてくれた時にようやく私たちは本当にこの子の親になれるんだ」

「親になるって大変ですね」

「ああ。だからユキ、お前がどんな状況であれ、子供を授かった時、大事なのはお前がその子の母親になろうと覚悟できるかどうかなんだぞ? 誰が、父親でも、子供は愛されるものだ。何も、心配するな。その前にユキが望まない妊娠など誰も、許さないから、な?」

「……ありがとうございます」

 私はここでなら笑っていられるはずです。ここ以外、居る場所はないのだから。そしてここ以外、居たくないのだから。

「で、そのお相手は目下、賀川なのか?」

 悪戯に。

 急ににやにやしながら司先生がそんな事を言うので、私の顔を赤くなっていると思います。

 司先生はその様子に声を立てて笑い、

「まあ、男として色々まだまだだが、賀川はお前が産んだ子に対して母親としての覚悟を決めたのなら、

 どんな事情があろうと関係なく一緒に親になるという十字架を背負ってくれると思うぞ。タネがお前の望む賀川あいてなら言う事はないんだが……ああ、タカさんは相手が誰であれ一度は噛みつくかな? で、その辺、どうなんだ?」

 こないだモールで背後から抱きしめられたのを思い出します。熱い、体。大きな白いその手を爪を立てるように握り返しても返事も反応もなくて。何が起こっているのかわからなくて怖かったけれど、思い返せば人通りもあって、恥ずかしいシーンだったような……あんな風に抱きしめられて、押し倒さ……

「は、はな、話し、変えますね! こ、この頃、絵を描いているのです」

 恥ずかしい話ですよね、赤ちゃんの出来る『事』なんて……話を切り替えます。

「それが『一枚だけ』上手く描けなくて」

 クスクス笑いながらもそれ以上は追求せずに、話に乗ってくれます。

「スランプか? 珍しくないか?」

「それがその、描けないのは『その絵』だけなのです。初めてなのです、こんなの。それでちょっと困っていて。一人で集中して描いているのに描けないなんて……明日も賀川さんが夜勤から帰ったら森の家に連れて行ってもらおうかなぁ」

「焦るなよ? きっと描けるから」

「はい、話を聞いてもらったら少しは描ける気がしたのです。頑張ります。そう言えば萌ちゃんのお兄様から連絡がありました」

 萌ちゃん、夏の前に病院で知り合った少女です。今は学校にも元気で通っているそうで。

「ん? 何でだ」

「それが。お兄様、モールの偉い方だったみたいですね。ラウンジに飾る絵を依頼していただいたのです。清水先生が色々に売り込んで下さっているから」

「いーや、あいつの場合、違うと思うな」

 そこに清水先生が現れます。

「妹の絵を描いてもらって嬉しそうだったけどな? 見せてもらったけど、妹だって言うのを差し引いても、優しい笑顔の絵だったよ。相応の評価でユキちゃんを推薦したみたいだし。それも最終的には何人かの候補が出て、その中から選ばれたんだ。俺のおかげでも、あいつのおかげでもないさ」

 そう言ってくれたのがうれしくて、私は考えていた事がそろそろどうでも良い事なのかな? っと思えて来ました。父が誰だって、母は私を大きく育ててくれた、その愛は司先生が愛おしそうにお腹を撫でる時の眼差しと同じだから。

 そして私の未来について今考えてもどうしようもないのです。

 そこで、ハッとして立ち上がります。

「そう言えば清水ご夫妻、えっと、ドレスや結婚指輪のデザインご依頼ありがとうございました。責任もってやらせていただきますね」

 立って、ペコっと頭を下げると、お腹に二人の子を宿した魔女姿の司先生とガイコツ男の全身タイツ姿の清水先生が目に入って。何だかとっても楽しい気分になって大きな声で笑ってしまいました。

「何やってるんだぁ」

「あー涼しい」

 もう、パーティもお開きのようです。皆が入口から出てきます。

 名残惜しくて、外に出た後もテーブル違いの人達とも写真を取り合ったり、話したりして。タクシーでまた司先生と結婚式の事や他にも取りとめのない話をして。

 ハロウィン、とっても楽しいお祭りでした。



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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生、司先生、萌ちゃん、鹿島さん(萌ちゃんのお兄様)



キラキラを探して〜うろな町散歩〜

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/

夜輝石を。


うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

天狗仮面様、子天狗さん。


うろな町 思議ノ石碑(銀月 妃羅 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n4281br/

猫夜叉の二人を。


悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜 様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/

ベルお姉様お名前を。


うろな高校駄弁り部 (アッキ様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7660bq/

ハロウィンの章『10月31日』のパーティがあった設定を。



話題としてお借りしております。

問題があればお知らせください。


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今回の梅原 司先生の言葉セリフにつきましては、YL様から全面的にご協力いただきました。ありがとうございます。

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