続・邂逅中です(うろなの平和を守る者?)
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遠い昔と同じように。
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「あの、数年後の茶会はとても楽しかったわねぇ」
そう言って、コップを空にして、また注がれる透明な液体を彼女は飲む。
約束の茶会……それが酒会に変わるのは時間がかからなかった。飲んだのは千里と初めは苦言を呈していた刀守だったが。巫女は一口で頬を染めて後は茶だったが、それでも桜舞う中、千里を眺めてはただ微笑んでいた。
「巫女もたのしそうだった。巫女は『友達』なんてそれまでいなかったから」
水羽と同じく初めて会った頃の日を思い出していたのだろう、千里の言葉に水羽も答えた。
その時の『千里』は、巫女と水羽を見て面白そうにしていた。土壌の改善法については、旅先で得た知恵だったと言い、旅をしながら待っている者達がいると簡単に話をしてくれた。
「一も二もなく、やるとは思わなかったけれど」
「だって……お友達が教えてくれて、闇御津羽様も御納得の様子でしたから、それを伝えるのが巫女の役目です」
巫女は長い黒髪を揺らしながら千里が飲むのを見て、微笑んだのを水羽は忘れない。
水羽は再び『昔』を回想する。
次に水羽が千里に会った時。
もう当時の巫女は死んでいると聞くと、彼女はとても退屈そうにしていた。『そうだったわね。巫女も人の子。死ぬのが早いわね』と。
待っていた者達が帰らないと風の便りに聞き付けた千里は心底『面白く』なかったのかもしれない。
そして水羽も余り『良い』状態ではなかった。その昔に亡くなった巫女は、千里の関わったあの神託で名が知られる様になり、更に『白巫女』を生んだ。
その『白巫女』の時代、この地が戦で荒れ、滝で生んだ『奇跡』に、人はまた巫女を信用するようにはなったが、宵乃宮を名乗る集団に巫女は利用され始めていた。
その為、浮かない表情が多かった水羽が、千里の訪問に嬉しそうだった。それを感じた当時の巫女は水羽と仲のよさそうな千里を客として迎え、その中で判を押したように『友達に』と言い出した。
その時は半ば呆れながらも千里は暫しの時を巫女と水羽と過ごし、帰って行った。
次に会った頃はそれから更に更に時を経て、人間が文明開化と叫んだ頃だったろうか。
水羽はもう、姿を自分で取るのが面倒になるほどだったが、旧知の知り合いに姿を見せた。
そんな水羽に千里は少し前に『私と供にあろうと言う者が現れた』と言う。
水羽は『したのー? するのー?』としつこく聞く。ちょっと呆れたように『下世話な水神だコト』と千里は言った。
それは……本格的に巫女が無理矢理に犯されて、子を生した上、人柱とされ、使われるようになっているのだと告げると、千里は興味がなさそうに『つまらないことをするのねぇ』と呟いた。
その後、更に空気も至る所が汚れ、信仰も廃れた。
水羽は人間の文明が進むと共に、激しくなる『戦争』に巫女がそれまでに増して人柱として殺された為、それを忌んで、つい最近までなりを潜めていた。
だから……水羽も千里も、その後は行方をお互い知ったようで、知らず、お互い関与する事はなかった。
力ある者達だからこそ、不要な時にはお互いの存在をスルーするスキルも大切な事なのである。
「そーそー私あたらしいナマエもらっちゃった。これからは水羽ってよんでねぇ~」
「赤き髪の堕天使から?」
「そーそ~♪」
白い髪を揺らして赤い目の少女が笑うと、千里と呼ばれた女性が目を細める。酒によって少し頬が染まり、上げた髪から見えるうなじが色っぽかったが、決して誰もが出せない孤高の妖艶さを湛えていた。
「名付けは契約だったり存在を縛ったりするモノなのに相変わらず暢気なものねぇ」
「あーあーそうかな?」
「神にとってはどうでもいいのね。ふふ、やっぱりオモシロいわね」
「そーなのよ。名前なんてどーでもいいけれど、気にするヒトおおくてこまっちゃった。でも私のまえまでのナマエ、しってるからわかるよねぇ。かわいくないし、ながいし、ひどいネーミングセンスだわ、ちゅーにびょーだわ」
顔を伏せ、首を振る。その白い髪に千里が触れるとバッっと白い火花が散って落ちた。でも特に気にした様子もなくそのまま彼女が撫でると、蛍火のように辺りに光が流れ、夜の闇を煌めかせる。
「そういえば、てんぐちゃんに会ったわ。あれがレイの『供にあろうとする者』よねぇ、たすけてもらっちゃった」
「自分の依代である巫女くらい自分で守ればいいのに」
「うーん、あなたが『約束』でコトを違えないというように……」
「貴女は偏った力を使わないのだったわね」
「それに、ナツの時の、たいりょうの血でけがれた巫女なんて、せいりテキにムリだから」
そう言うとコロコロと千里は笑った。
「だからこそ小角はそうしたんでしょうね。で、小角の導きがあったとはいえ、その巫女が夏に妖怪を殺した件だけれど……そうね。それに水羽を追い出して何かを『詰めれば』面白い事になるわねぇ。ここでそうしてみましょうか?」
千里の鋭い黒の瞳と水羽の大きな赤い瞳。
一瞬、火花が散ったように思えたが、
「どう? 貴女とコトを構えないとダメ?」
「いいえ、それは面白くなさそうなので止めておくわ。『友達』の子孫だし」
千里は結い上げた黒髪から落ちた後れ毛を揺らすと、
「この地を少し前までまとめていた『鍋島』は人狼系。その人狼系『大妖精』エインセル、また西の山の守護たる猫夜叉の母、雪影から『その巫女には手出し無用』と伝達が出されているから。なかなか手を出そうと言う者は少ないと思うけれど」
「でも、『雪鬼』のような『力』が、てにはいる……ならば、『禁を犯す者』は、いるとおもうのよね~」
そう言うとするりと後れ毛を耳にかけ、
「それはさせない。『約束』してあげるわ、水神……いえ、水羽」
にんやり千里が微笑むと、あたりの空気が揺れた気がした。
「だってその『白巫女』には、まだうちの平太郎と遊んでもらっていないものねえ」
そう言うと、クスクスと笑った。
「わたしはこの巫女とせんりが、なかよくなるかもたのしみだけどぉ」
「さあ、どうかしらね。それこそ“神のみぞ知る”ところではないかしら?」
「むー、せんりのいじわるぅ」
「だって私は妖怪だもの」
チビチビと飲んでいた水羽のペットボトルが空になり、千里のコップも空いて二人の手元の飲み物が無くなった。空のコップと引き換えに、半分ほど残った『海江田の奇跡』と書かれた一升瓶を水羽が渡すと、申し合わせたように二人は立ち上がる。水羽はコップと空になったボトルを袋を広げて収めながら、
「で、こんやはてんぐちゃんはどこにいるの?」
「この時刻は見回りよ。たぶんビーチの方にでも行ったのではないかしら?」
「きぐう、ね。うちのいそうろうもその辺にいるようなのよね」
千里が手を差し出し、その白髪を撫でる。雪の様な光がそこから溢れた。
そして二人はさらりとお互いに背を向け、
「またねぇー」
「ええ、長い時を流れるうちに」
そう約束とも違う言葉を交わすと、触れた時に溢れ零れた光が消え、そこに二人の姿はなかった。
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うろな天狗の仮面の秘密 (三衣 千月様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
千里さん、てんぐちゃん、小角
上記作品の、
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/52/
『10月21日 仙狸、大役を受ける』
この話を受けた対応、また『遠い時間』を振り返っております。
この話の裏では、同上記作品の、
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/57/
『10月30日 天狗、振り返る』
キラキラを探して〜うろな町散歩〜
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
で、10月30日は、『汐ちゃん奪還戦』が繰り広げられており、
賀川は、そこにおりました事をお知らせしておきます。
『……ふふ、たのしかった。いのちしらずはいないようね。ではまた』
"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
お酒『海江田の奇跡』(二話前に書き損ねてました。謝)
悪魔で、天使ですから。inうろな町(朝陽 真夜 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6199bt/
夏に町にいた堕天使の影を。
人間どもに不幸を! (寺町 朱穂 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7950bq/
『人狼』『鍋島』のお名前を。
うろな町 思議ノ石碑(銀月 妃羅 様)
http://book1.adouzi.eu.org/n4281br/
人狼系『大妖精』エインセル様、猫夜叉、その母、雪影様。
話題としてお借りしております。
問題があればお知らせください。




