表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月30日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

208/531

邂逅中です(うろなの平和を守る者?)

lllllllllll

ふわふわ

llllllllll









 白髪頭の少女が、夜の闇を見つめながら、瓦の上をふわふわと歩いて行く。長いワンピース、ふわりと揺らしながら。家から家へ、空を飛ぶような軽やかさで。ふくよかな胸で支える様に両の腕に抱きかかえられた一升瓶の中身が静かに揺れる。

 瞳は赤く、透明度の高いピジョンブラッドの紅玉のように輝く。誰もいない。夜中と言えど、うろな町の人口密度は低くはないはず。また、この町の『夜』に住む住人達がそこに居てもいいハズなのに。誰も見てない、誰も知らない、そんな夜の散歩。

「ねーこんばんわ。お久しぶり」

 誰ともなく彼女は声を向けた。

「珍しいわね、本当におねえさんびっくりしちゃうわ」

 少女のあいさつに答えが返る。彼女が瓦の上に腰を掛けるとその隣に黒髪を結い上げた女性が立った。

「巫女がナツにかなり『妖怪』をあやめちゃったでしょ? あいさつはいるのかなってね? だってこのあたりの『まとめ』を引き受けたらしいから。せんり」

「ふふふ、よくご存じね。それは『神』だから?」

「『神』ねぇ? なら何でも知ってるせんりも神かしら?」

「私はどこまで行っても妖怪よ。それが誇り」

 言葉を交わした後で、豊かな胸に挟まれるように抱きかかえていた一升瓶を、少女は一度ぎゅと大切な物のように抱きしめる。強い明りもないのに瞬くばかりに瓶の液体が金色の光を放ったかと思うと、静かに銀色に、そして何事もなかったかのように透明に戻る。

 二人が立つのは瓦屋根の上であったが、その山になった安定した場所に少女が座ると、その側に黒髪の女性も座った。

「おさけなんてわからないけれど、ていねいなほうほうでつくられた御酒よ?」

「ふふ、いただくわ」

 少女は一升瓶と共に持って来ていた袋から小さなコップを取り出し、渡した。先程光を放った一升瓶を空け、傾ける。せんり、千里と呼ばれた女性はなみなみと注がれる酒を嬉しそうにコップに受けた。

 見た目の年など超越した長い月日を生きている少女の中身とその女性は二人、静かに笑う。

「あれから『誰か』もどった?」

 赤い目を瞬かせながら、質問をすると、千里と呼ばれた黒髪の女性は口の端を微かに動かしただけ。それが返事だった。自分の為に持ってきたペットボトル入りの『うろな天然水』を開けて、白髪の少女は喉を潤し、その後、コップとそれを入れてきた袋は小さくたたんで傍らに置きながら、

「そう。太陽が月に憧れ闇を望んでも、月が太陽に憧れ光を望んでもそれはない物ねだり。もしそれに成れたとしてもいずれ太陽は朝に恋し、月は夕に愛を求めるというのにね」

 のんびりした口調が凛として、その場を振るわせる。千里はにたりと笑って、

「皆、貴女のように達観できないから、貴女は神で、私は妖怪なの」

「そー? せんり、今はたのしそうであんしんしたの」



 神と一口に言ってもいろんな神がいる。大切にされた物に魂が宿る『九十九神』や、人から何らかの信仰を集め力を得た『信仰神』など、派生や起源は色々である。

 水羽は神代の時代からそこに在る神で、水や滝を好んでいた為、広く水神として讃えられた。

 そして彼女は『千里』という妖怪と、何度か出会っている。




 最初に出会った頃、人間の暦だと何と言ったろうか。

 ふじわら……?みなもと……? そんな名の誰かが巫女を訪ねて来た気がするけど……と、水羽は首を捻ったが思い出せなかった。人間のまつりごとには興味が薄かったのである。

 ただ当時、自分が『闇御津羽クラミヅハ』と呼ばれていたのは思い出せた。

「もーしらないから」

 今は水羽が『体を借りる』のは彼女ユキの意識が寝入った時を見計らっていることが多い。

 だが、この頃は今の比べると信仰も篤く、空気も澄んでいた。

 だからその気になれば巫女の体を借りずとも『幽体』として簡単にひろひろと現れていたような時代。

 いや、今だってできない訳でもないが、清くもない空気に晒されるのが嫌でやりたいとは思わない訳だ。出来る事とやりたい事、そしてそれを実際にやるかは水羽の自由意志による。

 遠い昔の日、呼び出されて巫女と同じ顔と姿を取った水羽は、巫女の隣に一段高い位置にちょんと座らせられ。

 そしてその場でそう言って切れていた。

「なんなら、『しはいいき』のかわ、ぜんーぶ、はんらんさせてやるから!」

「お、おやめください、闇御津羽様」

「そのナマエきらいなの~」

「く、闇御津羽様、そういう問題じゃなくて、ですね?」

「ま、またその名で呼んだ! しんじらんない!」

「お、お静まり下さい。ここは私の命を削っても皆を……」

「またそんなコトばかり言う、巫女はいや! うーうーうーとにかく毒をおしながして埋めちゃうから。でも、巫女のいのちをつかって『ナニゴトもなく、ぜーんぶなかった』はムリ。ものごとをおこせばこうなるのよ? だってもともとのいくさの原因なんてこちらにもあったのでしょ? わたしのこえをきかず、巫女も止めたのに!」

 当時の『巫女』とそれを守る『刀守』に説得されていたが、水羽は怒っていた。

 戦の折に、土壌に『毒』を落され、民も土地も死に瀕したのであった。新たな水で押し流す、それしか方法は見当たらない現状。全てを無かったかのようにするには巫女は力を賭し、それは死を覚悟せねばならないような状態だった。



 そこにどこからともなくあらわれたのが『千里』だったのである。



「物騒なのね、『神』も」

 近くに居た刀森が抱えていた赤い剣を抜きかけた。だが巫女と水羽はそれを軽く手と視線で制した。

「おまえの手におえるモノではないわ、ひいていなさい、ともり」

「しかしその者は、聞き及ぶ所のヤマネコの妖怪『嘘吐き』の『千里』と思われます、巫女神」

 その名を聞いた途端に水羽は羨ましそうに溜息をついた。

「ああ、せんりぃ~なまえ、かわいい~そのなまえ、うわさにはきいてるよぅ」

「私も神にしられるなんて有名になったモノね」

 悠然と笑いながら近寄ってくる千里。水羽を神と見分けた事で、『普通ではない』と刀守は警戒を強め、剣をカチリと言わせた。だが、その刃が抜かれる事はないと知っているかのように彼女の歩みは止まらなかった。

「で、せんり、なんの用?」

「貴女は……水神と呼べばいいかしら?」

「それならまあ、ゆるしましょう。で、なに? せんり」

「水神よ、その件の『毒』をどうにかしてあげましょうか?」

 にたっと意味深に笑う妖怪に、黙って水羽と千里の話を聞いていた巫女は目を見開き嬉しそうに、にこりと答える。

「できるのですか? 千里」

「巫女! その者は嘘吐きです。信用してはなりませぬ」

「うーるーさーいー! ともり。だまっていなさい」

「お控えなさい。いいですね?」

 巫女と神に言われて、剣を抱いたまま沈黙する男を尻目に千里は笑う。

「けれどもタダで何かをするようには思えませぬ……」

 咎められた刀守は蚊の鳴くような声で反論すると、巫女の姿を真似た水羽はこてんと首をかしげ、人差し指を唇の辺りに当て、

「たーしかに、そうかもねぇ。なにかのぞみがあったりするの?」

 そういうと、我が意を得たりとばかりに千里は嬉しそうに笑った。

「おねえさんは楽しい事が好きなの。それに一族あのこたちが『なりたがった』神とか、それにかかわる巫女とかとおしゃべりがしたいわねぇ」

「ええっ! つまり千里さんは、お友達になって下さるんですか?」

 当時の巫女が嬉しそうにそう言って、千里の両手を取った。流石にその行動に驚いた様だったが、すぐに彼女はふふっっと笑った。

「お友達、いいわね。初めての響きだわ」

「ええ、ええ! この地の民を救って下さる術を教えて下さる上に、友達になってなんてなんと嬉しい事でしょう。この地で飲める水が美しくなった折には、ぜひとも茶会をいたしましょう!」

 巫女は何の警戒もなくそう言って喜んだ。純真無垢、ユキと違いその母のように真っ黒な髪だったが、その眼差しは今の彼女みこに通じるものがある。だが、異論を唱える声が飛ぶ。

「ま、待って下さい! この者が嘘をついているとも限らないのですよ?」

 黙っていろと言われた刀守が言を発した事に巫女は睨んだ。千里は気にした様子もなく、

「おにぃーさん、『約束』するわ。私はこの件で嘘はつかないから」

 そう言われると巫女は千里の手をぎゅっと握って。彼女を見て、それから水羽と刀守に視線を投げた。

「お友達がここまで言って下さっているのよ、刀守。異論は巫女として許しません。闇御津羽様も……」

「うーまたそのなを……ま、いーよ? どうしてものトキはだいこーずいーするだけだし、そんなことになれば、せんり、わかってるよねぇ?」

「うふ。久しぶりに楽しいわ。皆が帰るまで、ただ待ってるのは退屈なのよ」

 そう言って小さな袋を取り出した。中には少量の土が入っていた。クンと巫女は匂いを嗅いだ。

「この土は……森の……この森の土?」

「そう、ココは穢されていなかった。だからこの地の土を穢れた土壌に撒いてみるといいわ、人間の手で……だって引き起こしたのは人間。当然、始末するのも人間であるべきなのよ」

「なるほど、ね。ビセイブツにそのばでしまつさせるのね」

 微生物、当時にそんな言葉はなかったが、水羽にはその仕組みがわかっていた。

 実際、じぶんが洪水をおこす事で、毒を流した上、更に土砂で穢れた大地を覆うのが目的なのだ。その方法は人を巻き添える事は必至だが。神としては『罰』を込めた当然の行いだった。

 だがそれを人力でやれと千里は示していた。

 巫女は意味がわかっていなかったが、何らかの有効な手段だとは判断で来たらしい。また神が認めた事でそれは神託の形となると巫女は確信する。

「言われた通りに触れを出しなさい! 私の刀守。『この森の土に巫女わたしが『言祝』をかける。それ故、穢れた場所にその土を撒けば、穢れは落ちると』」

 これで全く効果がなければ、それこそ巫女は『嘘吐き』として始末される所だっただろう。だが、その方法は時間はかかったものの、土壌は息を吹き返したのだった。



うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

千里さん


上記作品の、

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/52/

『10月21日 仙狸、大役を受ける』

この話を受けた対応、

また『遠い時間かこ』を振り返っております。



『このりょういきは……いのち惜しくば、ふまないようにね……ふふ』


問題があればお知らせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ