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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月30日

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207/531

戯れ中です

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おでかけしましょ

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「ユキ、おめぇ、どこに行く気だ?」

 暗い玄関先。

 タカの質問にクルリと振り返るユキ。その普通の仕草であったのに、全身の何かを痺れさせるような感覚が襲い、彼は警戒の色を濃くした。そこに居るのは自分が引き取り、自分の息子が愛した女子が産み落とした白髪紅眼の少女。絵が上手で、思いやりがあり、緩く、笑う少し変わった少女のはず。

 なのに、彼女の気配を残しながらもそこに居るのがユキではない事にタカは気付いていた。この日、もう遅いと言うのに、まだ賀川は戻っていない。タカの知る所ではなかったが、彼は別の少女の件で治ったばかりの足で浜を走っていた。

 だから今、この家で彼女を守るのはタカの仕事であった。

「お前、夏に出てきた『水羽』さんかよ?」

「そんなこわい目をしてもダメなんだよう? なげやり」

 氷点下のタカの視線に、彼女はクスクスと笑う。人の名を呼び捨てで呼ぶ、それだけで、もうそこに在るのはタカの知るユキではない。

 その腕には抱きかかえるようにタカがこの頃愛飲している『海江田の奇跡』と書かれた一升瓶が抱きかかえられており、腕には小さな袋が下がっている。

「未成年なのに酒とは感心しねぇな」

「わたしがのむわけじゃないわよ?」

「じゃあ、誰が飲むってっ言うんだよ。おめぇには聞きたい事が山とあんだ。こっちに来いや」

 口調は軽かったが、緊張した面持ちで、ユキの体が家を出て行くのを止めようとする。だが彼女は笑い、逆にタカは苦痛そうに顔を歪めた。

「ふつうならかんじもしない『気』さえわかる、たかやりだから、よけいにとめられない、『わたし』を」

「う、うるせぇ」

 必至で縋る様にユキの腕にとり付く。抱えた一升瓶がタプンと波打つ。

「い、行かせるわけにはいかねぇ、数日前に攫われかけたばかりなんだ。それでもお前は動かなかった、そんな奴にユキの体を使わせるわけにはいかねぇ。神だろうが何だろうが知った事かよ!」

 ノンビリだったユキの中の『水羽』の口調が強く、変化する。

「ねえ、鷹槍? 『神』がもてる力をいつでも思いのままに振るうなら、この世の中は全部破壊しているわ。こんな腐った世の中、本当に必要と思ってる?」

「なん、だ、と?」

「でもそれを選ぶのは『わたし』じゃない。ココは神が人間に与えた人間の為の地。そして腐っていない『光』を放つ原石を『私達』は愛しむ。ごく偶に私達は手を貸すわ。又は強制的に動かす者もいるけれど。とにかく人間はそれを『奇跡』と呼ぶけれど、それが起こるには神の『心』を動かすほどの必然やその者の持てる命の長さや、色々が噛みあって、『必然』を起こすの。無理矢理起こした『必然』は更なる『必然』で零に戻る。この世に『偶然』はないの」

「無理矢理の『必然』?」

「例えば戦争に勝とうと巫女を立て、人柱として殺して得た勝利は『奇跡』で、物も知恵もなく戦に明け暮れる計画性のない国がいずれ負けるのは『必然』なのよ?」

 ふんわりとタカの手を払う。

 まるでそれは風を靡かせるように軽かったと言うのに、彼は吹き飛ばされる様に尻餅をつく。腕や力を幼い頃から磨いたタカが、そのくらいで倒れるはずはないのに。

「人間と同じくいろんな『神』が世のなかには居るから、もしかしたらもっと貴方達に便利な神もいるかもね。でも少なくとも私の意思は『巫女』だからと言って彼女に贔屓はしない。彼女を現実の敵から救い守るのは基本、現実に生きる貴方達の役目なの」

「なら、ば、余計に俺はお前からもユキを守んなきゃなんねぇ」

「そーいうコト」

 そう答えた彼女の口調は静かに和らいでいた。

「わたしはこの巫女がしんだり、いなくなったら、ココの地をはなれるとおもうの。でもわたしは『うろな』がすき。だから、これからもよろしくね」

「地を? 今はこの辺の守神って事か」

「まーそんなところ。わたしいがいにも、この地には神がいるけど。ここはひのくに。『やおよろずのくに』だからね? じゃ、いってくるねぇー」

「ちょっと待て! どうしても行くならオレもついて行く。それなら良いだろうがよ?」

「むりねぇ、こまったわねぇ」

 困ったと言いながら全く困った感じもさせず、

「こよい、いかなければわざわいになる」

「『禍』だと?」

「それはにんげんにはいりこめないりょういき。だからアナタをつれてもいけない。どうする? もしきょう、わたしを行かせずに、そんな『わざわい』からもこの巫女をまもれるの?」

「ああ、ああ、守らないわけにはいかねぇ!」

 ユキ、正確にはユキに降りた神は、そう言い放つタカにツイと手を伸ばした。

「いいこね、たかやり」

「お、めぇ」

「ごめんね、アナタのようなやさしいモノのかぞくをうしなわせてしまった。あなたはかみをしんじないでしょう。でも、それでいいの。にんげんはそんなものがなくてもいきていけるし、いかなくてはならないの。いいこ、いいこ」

 そう言いながら固く撫でつけられた黒髪に、白髪が一房混じった中年男の頭を撫でる。そうするとユックリ彼の目は閉じていき、玄関の段差に凭れる様に眠ってしまう。

「では、いってきます」

 いつも彼女がするように。そう言って白髪の少女が、一升瓶を抱えて前田家の玄関を出て行った。



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いってきます

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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

お酒『海江田の奇跡』


お借りしました。

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