買物中です。
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あれ?
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暫くして。
迎えに来てくれた賀川さんはいつもより上機嫌に私の手を取ります。その手が微かに熱いのは、試合を見ていた熱が残っているからでしょうか?
「モールで良いよね? タカさんがね、行きは送ってくれるって。帰りはタクシーで帰って来いって」
「ええ? 決まりですか?」
「そこまでは条件飲まないと、今日のデートはナシって言われたんだ。譲歩してもらってるから、ね? 家帰って閉じこもるのはいやだろ?」
確かに今帰って、今日買いたかったアレコレを考えたりするより、確かにお出かけしたいのです。賀川さんとこうやってお買い物って初めてだし、だから私は嬉しくて頷いてしまいます。
笑いながら賀川さんが色々を隠しているなんて知らずに。
賀川さんの軽、車内では終始黙って運転していたタカおじ様。到着し、出かけて行く私達の背にようやく声をかけてくれます。
「賀川の。忘れているぞ?」
「それ、帰るまでは要りません」
「何を言うんだよ? おめぇ、これは……」
「持って帰って俺の部屋にでも入れといてください」
タカおじ様が差し出すペットボトルが何なのかも知らず。
「飲み物だったらモールにもありますよぉ」
「そうですよ。ああ、タカさん、夕飯まで食べてきます。そんな顔しないで下さい。何かあればちゃんと連絡します」
「……何か、なんて起こすんじゃねーぞ?」
「相手の出方もありますが、今日の今日ですから、ね。流石に来ないでしょう」
「おめぇは大物なのか、ただの考えナシなのかよぉ」
「ただ楽しく過ごしたい、それだけなんです、清水先生が教えてくれたんです。笑いは正義って、ね。さ、ユキさん、行こう」
私はこの後、モールを回っていろんなモノを見て、冬のコタツやらも注文して来ました。買った小物は持ち帰り。コートや冬服は後日お家に送ってもらうよう手配して。
ゆっくり食事して。
帰る事にしました。
「ああ、ごめん。俺トイレに行ってくるから。ここから動かないで」
タカおじ様が持って来てくれていた携帯をさっき買ったネックストラップで吊り下げて、賀川さんは私から離れます。
「楽しかったなぁ」
今日買ったコタツの布団は淡い黄色に柔らかいピンクの模様がついた、優しい色。試合中に見た不思議な色合いの光に似たソレは、きっとタカおじ様が綺麗にしてくれたお部屋を暖かく見せるでしょう。
白いポンポンの付いたふわふわコートはちょっと高かったけれど、賀川さんが選んでくれたから、きっと似合っているよね?
一緒にお好み焼きを焼いて食べたけど。賀川さん、ソースもかけずに食べようとして。あんまり食べた事ないみたいだし、ひっくり返す時、凄い真剣な目をしてて……
ポフンと柱に寄り添いながらそんな事を考えていると、嬉しくて。
でも。
誰かが。
私に『ねぇ』と囁きます。
それは太い四角の柱、大人が二人くらい並んでも楽に隠れられるくらいの大きさで、その声は私の居る面の左側直角から聞こえたのです。姿は見えませんでした。
けれど、その声は続きます。
「あかちゃん、いないなら、つくるところ、みててあげるっていったよ」
ゾクっと背筋に寒い物が走ります。向こう側からチラリとのぞく子供の手、そしてユラりとおかっぱの少女が見えた気がした時、
「ユキさん?!」
「か、賀川さん」
「また、どこかに行く気だっただろう?」
「その向こうに、女の子が……」
「ん? あの子の事かな?」
顔は見えないけれど。その子は遠くのベンチで、水筒から何かを飲んでいた黒いスーツの男性に飛びつきます。男性は水筒をそそくさと片付け、そこに現れたセーラー服の少女にそれを持たせて。三人はエスカレーターで降りて行ってしまいました。
「あれ? 何でもなかったみたいです、ごめんなさい」
「うん、いいよ、今日の今日だからね。一人にさせてごめん。怖かった?」
そっと後ろから抱きしめられて、振り返る事が出来ず。抱きしめられて自分が震えているのに気付きます。賀川さんの体が酷く熱い。とても。
「大丈夫?」
彼、熱がある事に気付いていない? そっとその手に指を絡めてみるけれど、ピクリとも反応がなくて。軽く爪を立てても何も言わず、笑ってるだけ。何だかおかしいです。
「だ、大丈夫か、はこちらの台詞です。賀川さん何か隠していますか?」
「え? バレた?」
賀川さんは少し離れると、私をクルリと正面に向けて、
ポケットに手を入れてひょいっと出したのは……
「なななななな、何であおむしっっっ!!!!!!!!」
よく見ればおもちゃだってわかりましたけれど。とてもびっくりしました。虫は嫌いです、でも、自分の驚き様に笑ってしまいましたよ。
「これね、一度解くともう戻らないらしいんだけど」
青虫に見せる為に縛っていた細い糸をほどくと、中からプラスチックで出来た蝶の模型が現れます。羽が稼働できて結構大きいですよ。
「イーゼルだっけ? あれに飾ったらイイかなと思って。もうカマキリも居なくなって、ほら、冬になるとコオロギも居なくなっちゃうだろうから」
この蝶、私が今朝無くした髪飾りよりも、細かく出来ていて、キラキラかわいいです。
「でも雪の森には余り行けないからね?」
そう言われたので少し不満でしたが、真剣な彼の視線に頷くしかできませんでした。それからはタイミングがなくて、繋いだ掌が異様に熱いのに賀川さんが汗一つかかない事を問いただしたいと思いながら、口にする前にタクシーで帰宅したのでした。
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『悪役キャラ提供企画より』
三人……後ろ姿のみ




