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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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思考中です(喧嘩もいつか)

llllllllllll

賀川さん……何でしょう?

llllllllllll



 







 試合が終わると、ほうっと息をついた賀川さん。ちょっと汗が浮いています。

「さて。今日をやり直さなきゃだな」

「賀川の? おめぇ、何考えてやがる?」

 賀川さんはタカおじ様に答えるわけでもなく、私に笑いかけてきます。

「さ、行こうか?」

「え?」

「午前中の予定だったけれど、今からじゃダメ? 買い物行こうよ? ユキさんが大丈夫なら、だけど」

 その台詞に隣にいたタカおじ様とバッタのおじ様が言葉を失って、それでも凄い目で見上げているんですけれど?

「か、か、か、賀川の、お前っ!」

「わかってるのか? もし……」

 やっと紡いだ二人の台詞は賀川さんの笑みで閉ざされます。

「二人共、デートの邪魔ですか? ユキさん、どうする?」

 デートって、改めて言われたら恥ずかしいです。オジサマ達は口をパクパクします。賀川さんは全く意に介さずに、

「じゃ、行こうか?」

「あ、ま、待って下さい。ここでちょっと用事があるんです」

「じゃ、用事が済んだら行くって事でOK?」

 迷いながらも頷くと、賀川さんがとても嬉しそうに笑います。

 先程までの張りつめた感じが取れたので、この選択で間違いはないと思うのですが。文句がありそうにタカおじ様が口を開こうとした、ちょうどそこに審判を終えたぎょぎょのオジサマがもどってきました。

「あの……」

 賀川さんとタカおじ様、そしてバッタのオジサマがこそこそ話していますが、私は戻ってきたぎょぎょのオジサマに声をかけます。

 薄い髪の毛にメガネ、スーツに金バッチ……なかなか絵にするには手ごわそうなオジサマです。

 でもいつも黄色で優しいタンポポみたいな光が。け、決して頭の光沢を指しているのではありませんよ?

「ユキちゃん」

 審判を終えた途端、ぎょぎょのオジサマに飛びついてぶら下がる様に腕をぐっと握っている冴ちゃんが、私に気付いて可愛らしく手を振ります。

 彼女は毎日葉子さんの料理や掃除、洗濯を手伝い。ならった食事を弁当箱に詰めて、何故かぎょぎょのオジサマの所に冴ちゃんは通っています。

 散歩したり、公園で遊んだりもしていますが、お友達はいないから。基本はパソコンを叩いたり、賀川さんとの時間を楽しむ……これの繰り返し。

 長く小さいままなら小学校か中学校に通わせないと、と、オジサマ達は話しています。ですが、元々経営者としての素質が高かった冴ちゃん。

 賀川さんがさらわれた辺りの記憶は抜け落ちているようですが、勉強した事や経験などはすべて覚えているようで、こないだはパソコンでコンサルタント事業を始めたとか、株を運用してるとか。普通の学校で習う事なんてもうないのではと思います。



 冴ちゃんは今、十歳より前に見えるから、ぎょぎょのオジサマがお父さんか、間違ったらお祖父ちゃんの年に見えます。

 少し何か揉めていたようですが、開放された賀川さんが冴ちゃんに声をかけます。

「冴姉さん、魚沼先生の邪魔しちゃだめだよ」

「大丈夫。あすのこーはん資料ならちゃんとつくったから」

「いやいや……ねえ、姉さん、弁護士にでもなるの?」

「うーん、こくさいべんごし、ならいいけど。それより私、魚沼様のお嫁さんになるの~」

「ちょ、冴姉さん!」

 こ、この姉弟二人は置いときます。

 オジサマは冴ちゃんの話をぼんやり黙って聞いてるだけで、うむうむ言ってるだけです。冴ちゃんのいう事、冗談だと思ってるみたいですけれど。

 とりあえずその話も横に置いておきます。

「ぎょぎょのオジサマ、司先生のお父様とお知り合いなんですよね?」

「まあな、どうした」

「ちょっと司先生のお父様とお話したい事と、渡したいものがあって……」

「こま……勝也に? ふむ、よかろう。ついてくるがいい。どうせ行くつもりだったからな。冴は投げ槍達と居なさい。俺はこの後、接見に行かねばならないから」

「泊りでのお出かけですか? 魚沼様」

「明日の朝にうろなに戻る」

 ごねるかと思った冴ちゃんでしたが、きっぱりそう言われると、頷いて承諾します。素直な態度に賀川さんの方が驚いているようです。

「じゃ、俺もそのままユキさんについて行って……」

「賀川の! ちょっと待てっ! どうやらお前には説教する時間があるよーだなぁ?」

「こ、怖っ! ……あああ、お、終わったら電話して、ユキさん。そっちに行くから」

「では魚沼様、また明日。夜メール入れますから、暇があれば返して下さいね」

 冴ちゃんはバッタのオジサマに連れられ、タカおじ様に賀川さんは今までの座席に座らされています。

 いい加減に冴ちゃんの言葉に、ぅぬと頷いたぎょぎょのオジサマの後を追います。

「あのあの、冴ちゃん、本気っぽくないですか?」

「物珍しいだけだ。すぐ飽きる。または本当に弁護士になると良い、痛みを知る者ほどいい弁護士になれる」

「痛みって……」

「俺の予想だともう賀川の事で狂った自分を思い出していると思われる。と、言うより元来ほぼ……忘れてはいなかったのじゃないか、と、思う」

「え?」

「体が小さくなった、記憶も退行した。俺達はそう思わされているだけなのだ。彼女から感じる寂しさや罪悪感は、犯罪を犯し悔い改める者のそれに近い」

 オジサマは断定しました。弁護士としてそう言う身の上の人と接見する事が多い、ぎょぎょのオジサマの言葉だから、尚更重く感じます。

「お前の『神』は冴に忘れているように振る舞いながら、現実を見て、自分の罪を振り返れとでも言ったのではないか?」

「そうなのでしょうか……」

「予想だが。だが罪と真正面から向き合うのは苦しい事だ。だから俺に興味を傾けておけば、少しは不安が取り除かれるのだろう。他に面白い事を見つけるか、賀川に自分の過ちを素直に謝罪できれば、気を紛らわす材料は要らない……つまり冴とはそれまでの付き合いだ」



 私の中の水羽さんは『かのじょはね、やり直すべきだから、ちいさくしてあげたの』と言ったそうですが、記憶を消したとは聞かなかった気がします。『あまり覚えていない』という冴ちゃんの言葉を皆信じただけ、彼女もよく聞けば『全部忘れた』とは言ってないのです。

 タカおじ様は『忘れられたこの時期を上手く生きる事で今後の人生の足しになるはずだ』と、言っていました。思い出してしまった、または忘れていない彼女の人生はこれからどう傾いでいくのでしょうか?



「どうする? 今度にするか?」

 ぎょぎょのオジサマに言われてハッとします。

「行きます。はい」

 梅原先生のお父様のいる控室前はがらんとしていました。

 きっと清水先生の部屋の前はヒトが溢れているでしょう。

「賀川はお前にとっていい人か?」

「……はい」

 いきなりの質問でしたが、素直に頷くとぎょぎょのオジサマは、

「そうか。なら好意は素直に受け取れ。多少の事は気にするな」

 私の返事は待たずに、ぎょぎょのオジサマはドアノブに手をかけたのでした。



lllllllllllllllllll


"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生、決闘の日会場内、試合終了後!

梅原勝也氏 司先生


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