続・試合中です(喧嘩もいつか)
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今日は賀川目線で。少し時間を巻き戻して。
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抜田先生に呼び出されて、ユキさんを攫ったやつらの始終を報告する。アンドロイドが出てきたと話すと驚くかと思ったが、特に気にした風もない。世の中には信じられないような世界があると知って置くようにとやわりと諭された。流石、昔の立場からか嫌みのない言い方だ。ただしっかりと苦言は呈された。
「お前がやられて誰が困るかはわかってるのだろうな?」
「はい、巫女の……ユキさん……です」
「わかっているならいい。試合観戦も……嬢ちゃんが大切なのはわかるが、休める時は休むんだ。投げ槍がそわそわしてるだろうが」
「……はい」
「とにかくあの天狗仮面には感謝だな。足は……八雲さんが請け負ったなら大丈夫だろうが、無理はするな」
「……そう、ですね。あの、クラウ……八雲さんは付き合い長いのですか?」
「同級だからな」
「他に仲間って言うか、居るんですか?」
「気になるか? 同級だと後二人、つるんでいたのがいるな。土御門と香取っていうのが……ああ、そろそろ始まるようだ。席に戻ろう」
同級と言う事は五十台も半ばなのか。そうは見えずにちょっと驚く。
とにかく八雲先生の腕はやはり信用が置けるモノなようだ。それにしてもタカさん達と繋がりが深いなんて考えた事なかったけれど。
席に戻るとプラスチックボトルに入った水をまた僅かに飲む。すると又、襲いかかろうとしていた酷い痛みが和らぐ。薬の力は偉大だが、その分負荷もかかりそうだ。そう思いながら試合に見入る。
試合前にまだぶら下がったままになっていた冴姉さんの視線が、本気すぎる件については保留にしておく。
「時間だ。それでは試合を開始する。よいか?」
「はい!」
「おう!」
魚沼先生と清水先生の義理の父親が幼馴染らしく、珍しい喧嘩腰のやり取りがあった。が、試合は問題なく『それでは始め!!』という、魚沼先生の声で始まった。
「清水先生、守りにいかない!?」
始まりに防御や観察に入らず、竹刀で捌きつつ、更に速攻で『回転回し蹴り』蹴りを入れる清水先生。
「手段なんか選んでいられない、か」
その気持ちは俺にもわかる。
「マゾ清水、汚ねーぞー!!」
「本当に本番で使うとは・・・」
「何というか実に策清水っぽいけどね♪」
俺的には引かずに最初から攻めに回る清水先生の姿に、惚れ惚れするが、卑怯と言えば卑怯だろう。でもルールには準じているから良いと思う。
一か月前に必死で稽古をつけて欲しいとタカさんの前で頼んでいた日を思い出す。
ちょうど俺は自分のラッシーを受けてもらう相手を探していて、清水先生に手を貸すと言うより、手を貸してもらった方で。
清水先生との特訓がなかったら、今日『金剛』を叩き潰せていたか、疑問だった。ラッシーが棒越しとは言え、鉄をも潰す衝撃を持って、それを翳して倒れずに平静に振るえる事は一か月前にはなかったろう。
ただ天狗仮面のお蔭で三対一ではなく、一対一でやれたから何とか行けたのだが。
この足の不調で三人相手ならココには居ずに、死んでいたかもしれない。鋼鉄人形以外の二人も天狗仮面が強かっただけで、それなりに武器もあったから、三人で組まれたら俺に勝ち目は低かった……いや無いに等しかったろう。
最後に現れた二人、あの『うちわ』の攻撃も天狗仮面が居なければ危なかった。
とにかく気味悪かったアンドロイド、アンデットの戦闘機。死を与えられていないその体はとてもイヤなモノを見た気がした。余りホラーは好きじゃない。突然叩き殺されたり、銃で撃たれて倒れる人の返り血の生ぬるさは思い出すだけで背筋に悪寒が走る。
だがその返り血がない事に驚くとは思わなかった。
目の前の竹刀のやり取りは流石に血なまぐささはない。
それでも本人達は真剣で、その覚悟は強く、激しく、お互いの『思想』を賭けているようだった。命とはまた違ったモノをかけたそこに闘志がぶつかり合う。
「厳しいな、でも清水先生も気迫で負けちゃいない」
やはり経験の差がそこここに出ている。本気で剣を振り回してきた御仁と清水先生の差はどこかにある。必死で喰いつく清水先生のペースが作り上げられてはいるが、それさえも屈強な男には半ば楽しみなのかもしれない。
結んだ口がたまに面白そうに歪むのは、タカさん達がたまに俺に見せるそれと同じだ。それは後から何か大技を試し掛けする時や、現状の俺の力を図っている時に見られる。
清水先生に具体的に内容を聞いたわけではないが、彼が人間とは思えないような修行を積み重ね、ここ一か月で色々を伸ばして来ていた。その様子はほとんど毎日相対してきたから俺は良くわかっている。
もしかしたら義理の父親も清水先生の『そういう所』が知りたくて、そして感じたくて切り結んでいるように思えた。
自分の義理の息子として迎えるのに、そんな『熱い』事をしなければならないのか、それを『ウザい』と切るのは簡単だ。だが、剣に生きた男には儀式として必要で、きっとそう言う家庭で育った女性を迎えるならば、清水先生にとっては通らないわけには行かない『道』であったのではないかと思った。
だから、けして手を抜いてはいない。そして向かって来る先生の姿は、きっと相手の心にもしっかり焼き付くだろう。
清水先生がかなりの間合いで飛び込む、だが『何か』を感じて素早く引く。
更にその体が追い打ちをかけられたかのように、衝撃で吹き飛ばされ、先生は目を見張る。
「梅原流・桃華翔閃。久しぶりに使ったが、少しキレが落ちたか。まあ、必殺の間合いにありながら、攻撃への欲を見せずに即座に防御に切り替えた判断の素早さは褒めてやろう」
完全には決まらなかったと言うのに嬉しそうに評価を下す相手に、清水先生は逆に苦い顔を見せる。
お互いがそこに賭けている『者』はとても大きいのだ。
そしてこの試合が二人の未来の関係を大きく形作るのだろうから、お互い退けない。
「少々お前のお遊びに付きやってやりすぎたようだ。今度は多少力を入れて打ち込んでいくぞ。避けられるものなら、避けてみるがいい!!」
今までの打ち込みが遊びだったなんて思えないが、交わす竹刀がギシギシ軋む音がその激しさを示す。
清水先生はどうしてもある『差』を自分の重ねた特訓や知恵や機転で埋めようとし、相手は実直に積み上げて築いた技でそれを突き放そうとする。お互いにない部分を見やり、真似をするわけでもなく、自分の中にあるもので対応し、更なる高みで戦おうとする姿は賞賛に値する。
そして『死んでも勝つ覚悟』を語る義理の父親に清水先生は返す。
「だからこそ、俺はあんたには負けたくはない。あんたが強さを求める人間であるように、俺は弱さを知るために歩き続ける人間であるから。弱さが強さに劣るものではないことを、証明したいから。多くの人の力を借りて何とかこの場に立っていられる弱い俺だからこそ、強さを一人追求し続けたあんたには負けられない。・・・いや、多分それだけじゃない」
言葉が、思いが、力を生むのか。二人の力が皆を釘付けにする。
別々の時と場所を生きてきた二人の男を繋いだ者は『娘』であり『妻』となった梅原先生。春にはやがて二児の『母』となる彼女は、固唾を飲んでそれを見守っていた。
「あんたは司さんの父親だ。あんたがいたからこそ、あんなに優しいのに強い、泣き虫で怒った顔が可愛い、素敵な女性が育ったんだ。あんたにも『弱さを育てる強さ』がある。それを俺が証明してやる!」
集中して見ていたせいだろうか、そこまで見た辺りでぞくりと痛みが上がってくる。
薬はボトルに一本、一日分だ、たくさん飲むわけには行かない。まだ今日だけでも、やる事があるんだから。明日だって仕事がある。病院に行けるのは夕方だ。二十四時間以上をまだこれで耐えねばならない。治ると言う一週間のうちで敵が来ないとも限らないのに。
体に揺らめく薬で抑えきれないふら付きを覚える。ユキさんの前で絶対におかしな態度を取ってはならないと痛みから気を逸らす。
「清水先生!!」
目線の先の清水先生は、相手に向けて、きわどい形で突っ込んで行く所だった。
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"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)
http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/
清水先生、決闘の日会場内、試合!
梅原勝也氏 司先生
うろな天狗の仮面の秘密 (三衣 千月様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
天狗仮面様
お借りしました。
問題があればお知らせください。
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『以下5名:悪役キャラ提供企画より』
『金剛』弥塚泉様より
『治』『雫』パッセロ様より
『桜嵐』呂彪 弥欷助様より
『余波教授』 アッキ様より




