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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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192/531

昼食中です(喧嘩もいつか)



『現在小藍様の所で汐ちゃん奪還戦(30日付)に賀川参加中。当方現在27日『ユキ奪還戦(大筋終了)』は『汐ちゃん奪還戦』より少し前の話になります。各々別日の話になります。お楽しみくださいませ』


lllllllllllllllllllllll






 俺は車の運転席でじっと目をつぶって、時折薄目でユキさんを見ていた。

 バンの中で葉子さんによって綺麗にされた彼女を助手席に、軽で清水先生の試合会場に来ていた。彼女は全く気付かず眠り続け、ここまで運転してくれたタカさんは先に会場で待っている。タカさんが降りてから俺は彼女が良く見える運転席に移動していた。彼女は葉子さんが買ってきた新しい服を着て、眠り姫のように寝込んでいる。

 廃工場入り口でバンに乗り込んだクラウド女医……ココでは八雲先生の方が良いのか? とにかく彼女と葉子さんは、裾野へと戻ってしまった。葉子さんは『行きたいけれど腹減りが今日は四人ほど待っているのよねぇ』と言いながら。

 八雲先生は予約のみしか受け付けていない、『八雲医院』というほぼ閉店休業の病院を北うろなに持っているらしい。葉子さんを送った後、そちらに戻っただろうとタカさんは言っていた。

 足、痛い。体が気怠い。本当は熱が出ているのを薬で押さえているのだろう。たまにゾクリとしたり、波のように襲ってくる痛みに耐えていると、

「食べる気力があるか?」

 そう言いながらタカさんが会場内で売っていたおべんとうを買って来てくれた。最初は食べられないと思いながら受け取った弁当だったが、すこぶるいい匂いがして、車内で二十分。お腹も減っている事に気付ける俺は健康なのか、大量の薬剤で身体調整をしてもらっている賜物だろう。

 凄い顔で睨みつけて来るが、タカさんがこうやってココに連れて来てくれた事に感謝だ。怪我人は安静にしてろとか、何故連絡を早くくれなかったかとか、もっともっと言いたい事はあるだろうに。



 もうすぐお昼になる。

 そろそろ試合が始まってしまうから、起きてくれると良い。そっと彼女の髪に触れようと手を伸ばした時、赤い瞳がパチリと俺を見た。手が……どうしたら良いのか空中を舞う。

「え、あ、何? こっ……ココどこですか?」

「あ、起きたね。おはよう。会場に着いたよ?」

「ええっと、あれ? 私、その。他の人の車に乗って……あれ? これ賀川さんの車? あれ? 天狗さんは?」

 そう言いながら何かを思い出したのか、言葉を出す唇に震えを乗せながら、その瞳に涙が溢れて落ちる。俺は慌てて。うまく言葉が出て来なくて。そっと彼女を抱きよせた。

「天狗さんが君を連れ返してくれたから。ユキさん起きないから会場に連れて来たんだよ?」

「私、服、あれ? 破けてない?」

 どうやら葉子さんが懸命に着せてくれた事にも気付いていないらしい。

「おかしいなぁ」

「どうかした?」

 出来るだけ穏やかに話を聞こうとする。本当は攫われていた間の話をつぶさに聞きたい。けれど彼女は首を傾げて、

「いいえ、その……ま、いっかぁ」

「え、いや。いいの? 話聞くよ?」

「いいです、何か服破かれたような気がするんですけれど。元に戻ってるし」

「そ、それはね……」

 服はこないだの冴姉さんと三人の買い物で購入した物で、今年の新作だったので同じ物を程なく手に入れる事が出来ていた。頭に付けていた髪留めは同じ物がなかったけれど、気を利かせて葉子さんが幾つか買って来ていたモノから一つを選んで、

「可愛いね、その服。とてもユキさんに似合っているよ。葉子さんに貰ったんだけど、中でも特にこれが似合うと思うんだ」

 ガラスのようにキラキラした緑のヘアバンド。それをそっとつけてあげて。白い髪に森の色を詰め込んだようなそれに、小さなガラスの赤い紅葉が二枚小さく輝いている。



挿絵(By みてみん)



 カワイイ、と、唇を耳に寄せて言うとユキさんが下を向いて赤くなった。

 そしてそっと頭を撫でていると、安心したのか彼女が頭を肩に預けてくれる。少しの間そうしていたけれど、余り感傷に入り浸るよりと、俺は話を切り替える。

「ねえ、お弁当、食べてしまおう。会場内で売ってる奴だよ? タカさんが持って来てくれたんだ」

 もともと朝ごはんも食べていなかった俺達は、確かに空腹であったし。手作りと言った感じの素朴な包装紙に包まれたその弁当に付いた名を見て、ユキさんのテンションが上がる。

「これ! こないだ食べに行った流星のお弁当です!」

「へぇ、まくのうち、か」

 流星特製、『洋風幕の内弁当』。

「美味しそうだし、いろどりも綺麗です」

 中身は冷えても味の落ちていないオムライスを中心に、柔らかなハンバーグ、エビフライに蟹クリームコロッケ、グリルサーモンのマリネとベビーリーフのサラダと、他にも色々入ったとてもボリュームのあるものだった。味はそれぞれメリハリがあり、とても美味しい。これで足のしびれが無かったらもっと集中して食べられて良いだろうが仕方ない。

 朝から自転車を漕ぎまくって、ラッシュを放ち、怪我したままでユキさんを運び、エネルギーの消費は半端なかった。胃が驚いて痛いが気にせず流し込んでやる。死にそうな時こそ食べておいた方が良い、体力回復の食事が貰える日本、アンダーの頃の俺にとっては贅沢なことだ。

 デザートにと添えられた三色のキラキラゼリーが、果物を食べている以上のフルーティーさでユキさんは大絶賛している。ユキさんからハンバーグを半分貰ったので、ゼリーを一つスプーンに乗せて彼女の目の前で揺らして、

「欲しい?」

「え、あ、いいですよぅ……」

「ホントに? ハンバーグくれたから、その分。あげるよ? 要らないの」

「い、いいんですか?」

「ほら」

 彼女の口にゼリーが含まれ、喉へと落ちて行く。俺もゼリーになりたいとか、ベタな事を考えてみる。美味しい物を口にするのは幸せだ。ユキさんの心の中はわからない。けれどとりあえず落ち着いてくれたようだから、その様子を見ながら俺も残ったゼリーを口にして笑う。

 何よりユキさんが笑い返してくれるから。

 何て幸せなんだろう。

 添えられた緑茶の苦みはいつまでも俺にはなれない味だけど、それさえもきっと幸せの一部なのだ。







「さ、行こうか」

「はい」

 食事を終えて、車を降りた。鞄を持ってユキさんも付いてくる。

 十歩ほど歩くと違和感はあっても、足の裏に確かな感覚が戻って来ているのに俺は安堵した。痺れの中にある痛みが苦しいほどだったが、とてとてと歩くユキさんに合せて、笑いかけるのにはまったく支障がなかった。





 会場に入ると今日、試合場になる場所が見えた。ラジオも入っているようだし、いろんな照明やアナウンサーらしい雰囲気の人も居た。その中少し遠くにある長机に天狗仮面を見つける。え? っと思ったが、何をやっているんだろう? ユキさんもその姿を見て、

「賀川さん?」

「なにかな?」

 少しだけユキさんは考えてから、

「さっき、私、天狗さんに会いました。それも『二人』いたんです!」

 とっても自慢げに言っている気がする。なので俺は笑って、

「ああ、俺は『五人』見たよ」

「ええっ! 天狗さんって一人じゃないんですか?」

「ん、たぶん、な。うろなを守りたいって気持ちは一つでも、そう思う者は一人じゃないんだろうね」

「二人……五人……何だか負けた気分です。お礼も言いたいけれど、忙しそうだからいずれの方が良いのかなぁ……」

 と、呟いているユキさん。

「あー来ましたわ。あきらちゃーん」

 その後、すぐ飛び込んで来た声は、姉さんのものだった。俺に飛び付こうとしたのだが、さっと魚沼先生が姉さんを掴まえた。

「え? あ、う、魚沼様?」

「あまりはしゃぐではない」

 タカさんに聞いて魚沼先生は俺の体を労わって、きっと何も知らせていない姉さんを止めてくれたのだろうが。すごく姉さんの目が、嬉しそうだ。魚沼先生の腕に甘えながら、ぷらぁーんとぶら下がっている。簡単な感じで顔色一つ変えていないが、子供と言っても重みはある。魚沼先生は小柄なのに。全く意に介せず、

「いいか、冴、試合までだ」

「ふふ。あきらちゃん、ユキちゃん、タカさんは二階席ですわ。で、魚沼様、試合終わったらいいって事ですかしら?」

 無言で一階のフロアに向かって歩き出す魚沼先生、その腕の姉。

「仲が良いですね、冴ちゃんと魚沼先生。さ、二階、行きましょう?」

 目の前には折れ階段。何げなく登ろうとして痛みに唸りかけるのを、堪える苦行になるのに気付いたのはすぐだった。




llllllllllllll


うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

天狗仮面様


"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生、決闘の日会場の駐車場にて


うろな町、六等星のビストロ(綺羅ケンイチ)

http://book1.adouzi.eu.org/n7017bq/

決闘の日会場にて売られていたお弁当を

(中身は適当に決めましたが大丈夫でしょうか?)


お借りしました。

問題があればお知らせください。

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