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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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治療中です

『現在小藍様の所で汐ちゃん奪還戦(30日付)に賀川参加中。当方現在27日『ユキ奪還戦(大筋終了)』は『汐ちゃん奪還戦』より少し前の話になります。各々別日の話になります。お楽しみくださいませ』


lllllllllllllllllllllll





 八雲さんはオレ達の仲間の一人。



 女っ気のない俺達の中で貴重な女子だった……女子だよな? ま、生物学上は今も。

 彼女は医者で、オレ達のまぁ……そう言う時の駆け込み寺だった。ただ、今はうろなを空けている事が多く、この数年、姿を見ていなかった。荒いが腕のいいこの医者に面倒を見て欲しい人間は多いと言う。たった一回の手術に億とか積まれた、そしてそれを断ったと言う眉唾をバッタから聞いた事もある。

 値段はともかく、気まぐれでいろんな場所を旅して歩いているから、そう言う事もあったかも知れねぇな。

「こんなに縛る必要あるのかよ?」

「見てなって、前田。それ取ってくれさ」

「どれだよ、この布か? おら」

「それそれ。ん、ありがと。これを噛むんだわさ、トキ」

 彼女がその旅の中で勤めた組織に『トキ』、今、目の前で口に布を咥えさせられ、ベンチに横たわらされた賀川のが居たらしい。

 現在賀川のは全く痛そうではない、だがさっきまでその足はおかしな方向に捩じれていた。自分では良くわかっていなかったらしい。よくこれで歩けたもんだ。それもユキを抱っこしてだと言うからもう呆れて声も出ない。早く声をかけてくれればと思うが、聞けば頼りになる助っ人がが居たという。天狗の面をかぶっていたと言うから、間違いなく商店街を闊歩しているあいつだろう。今度会ったら礼と経緯でも聞かせてもらおうかと思う。

「さて。かかろうかねぇ……」

 とにかく賀川の、骨はまったく折れていないと言う。おんまから、ぎょぎょ、そして賀川のに渡り巻かれた布のおかげで。それから運がいいのか、こいつが丈夫すぎるのか。だが骨があるべき位置から外れ、完全にズレまくって捩じれていた。

 筋肉を挟みズレて捩じれた状態、その痛みは想像を絶するのに。

 賀川のは特に何も感じておらず。俺はその体を八雲さんに言われるままにベンチに縛り上げていた。

「骨の位置は戻した。さて、痛みを戻すよ」

「痛まないのならほっときゃいいんじゃないか?」

「馬鹿言わないさ、前田。傷みを消すためにβ-エンドルフィンとか出っ放しの、ハイの状態が続くのはよくない。普通だったら戦闘が終わったら戻って来る。それが戻らないのは、体がそれの痛み自体を脳みその方が拒否してるんだろうけどさ。こんなのを続けていたら脳みそが中毒を起こしてしまうさね。それにこのまま感覚もない足でどうやって歩くんだい?」

「ああ? うんなの聞いて俺がわかると思ってんのかよ?」

「おバカだね、前田は。まあ、だからこそ突っ込んで行けるんだけどね」

 まあ、医者は八雲さんだ。俺じゃねぇ。説明を聞いてもわかる必要なんかねぇんだよな。わからないが、とりあえず戻ってないとダメというのだけは理解できたので、俺は口を噤んだ。

「痛みでショック死しそうなら、全身麻酔、かけてあげるさ」

 そう言った途端、賀川のが青ざめて、口の布を吐きだした。

「とにかく! あ、歩ける状態にしてくれるって話で、別に楽にしてくれって頼んでない、クラウド女医! いや、八雲さん! その、あ、足への軽い麻酔くらいは良いけど、全身麻酔は嫌だ。や、っうっぷ」

 慌てた様に文句を垂れる賀川のの口に、八雲さんは布を再度押し込むと、

「ああウルサイね。ショック死しそうならって言ってるだわさ。アンタの麻酔嫌いは知ってるさね。だから前田に結んでもらったんだわさ。ただ、これに耐えきれると良いけれど。とにかく『戻す』さ」

「ううっ!」

 そう言い切った途端に、用意していた注射を賀川のに差し込んで行く。その数たるや相当で、たぶん最初の一本が効き始めたのはものの三十秒も待たなかった。

 賀川のが更に青ざめ、赤くなり、汗をかいたかと思うと、白くなって、声にならない唸り声をあげ、苦悶に歪む顔はオレが目を背けるほどだった。

「し、死んじまうんじゃないか、八雲さん」

「私の体なら確実に全身麻酔を選ぶさね。今まで遮断して、蓄積した痛みのデータに脳が侵されている感じだと思うわさ。でもどちらにしろ、傷みを薬でブロック掛ける前に、脳を元に戻っているか確認しなきゃなんないからねぇ。痛いのは耐えてもらうしかないねぇ」

 そう言いながらも足や手から注射を刺していく。

「困ったもんさね。痛いだろうさ? 脳は正常そうに動き始めたみたいだけどねぇ。さ、ここで一気に全身麻酔をかけても良いレベルさね?」

 その台詞を聞いた途端、更に賀川のが一層暴れ出す。何を嫌がってるんだ? 賀川が噛みしめていた布を口から外し、拒否をしようとすると、八雲さんは布を口に突っ込み直して、

「わかったよ。全身麻酔はしなければ良いんだわさね」

「こいつ、何が嫌なんだよ?」

「知らなかったかい? この子、麻酔が嫌いなんだよ。ほら、これを持って、前田」

 点滴を下げる棒の代わりに使われる。仕方ないので、言われた通りにオレは立ち尽くす。

「全身へはかけないから。安心しな。今日は辛いし痺れるだろうけど。とにかく落ち着くまで耐えな」

 八雲さんの言葉に頷いた後、頭を振り回しつつも、肩で息をしながら出来るだけ静かに痛みに耐える姿は、賀川のの奴を家族であると思ってるオレからすれば居たたまれなくて。

 早く楽にしてやってくれと思うが、いろんな色の薬が点滴の管を使いながら差し込まれれば差し込まれるほど、状態が悪くなっていくようだ。

 いつだったか脳に血腫が出来て、失明しそうな状態になっていた。それでも我慢していたような奴だ。痛みに強いのは知っている。だが、見ていられなかった。あん時はヤツもフラフラで、知らないでさっさと麻酔をかけたが、あれだけ激しい拒否をされたら大変だったろうな。

「しかし、なぁ、八雲さん。大丈夫なのか?」

「信じられないなら面倒は見ないさ」

「そうじゃないが痛そうで、な」

「終わってしまえばそう心配する状態でもないさ。私が居なきゃどうなってたかは知らないけどもさ。しかし珍しいさね。本当に刀流ちゃんがちっさい頃に熱を出した時に見た、前田みたいだよ」

「……ウルサイ」

「ははははは。大丈夫さ、あの地獄を生き抜いたすこぶる強い子だから、波さえ越えれば大丈夫さね」

 あの地獄を……そこに突き落とした赤いネジは俺の刀流むすこが作ったもんだ。考えれば不思議な縁で、俺はこいつの為に何がしてやれるかわからねぇ。

「しっかりしろや、賀川の」

 無意識なのか、賀川がソレに頷く。その仕草を見る俺の目は、たぶん息子を見る時のように。そんな気分になってしまうのは何故なんだだろうな。本当は息子どころか、賀川のには恨まれ殴られても仕方ない繋がりであるのによ。刀流とどこが似ているわけでもないのに、どうしてもユキとアキヒメさんを想うと、こいつが息子と同位に愛しくてならないんだが。

 ベンチに縛ってなければ落ちそうに体を捻りながら、何とか痛みの縁で耐えている賀川だったが。点滴が落ち終わる二十分で、すっかり落ち着いていた。

 口に布を咥えなくてもいいほどに。

「て、テキメンだな、おい」

「私を誰と思ってるのさ。ま、自分の感覚や脳内伝達物質を薬で調整し、足への麻酔が効いただけだけれども。ま、一週間もすれば平気さね」

「こんな痛めていて一週間?! 早いな、おい」

「これもおんまのおかげ、だよ。骨が逝ってなかったからねぇ。粉砕されてたら二度と歩けなかったろうさ。複雑骨折しなかったのも大きいね。でもそれ以上に早く落ち着くと言ったら、その方が良い? どう、前田?」

「そりゃ、早く治るに越した事ぁねえが」

「このトキが、あの娘と対になる『王』なんだろう?」

「『王』だが、奴自身は『歩』のつもりだ、世話する方も骨が折れる……」

「トキらしいね。わかった。傷負いの『王』は心許無いだろうしね。じゃあ、明日、この子をうちの病院に来るようにするんさね。さっき古い友人に会って。彼に少しでも早く回復させられないか頼んでみるさね。当座で明日までの痛み止め出すから」

そんな話をしていると賀川のが口の布を外し、

「綱、外して下さい。もう、耐えれます。で、ユキさんはどうしてます?」

「買ってきた服を着せてやっているはずだが」

「行けるかな? 彼女、今日の清水先生の試合楽しみにしていたんです…………」

「おめぇ……まさか、とにかく歩けるようにって……」

「…………今日をやり直したいんです。できれば二人で」

 あくまで彼女の為に動こうとする賀川のが、やっぱり目が離せねぇオレは、自然にこいつらの『親』にさせてもらっているんだな、と……そんな事を考えちまった。



llllllllllllll


うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

天狗仮面様

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