続々・戦闘中です(うろなの平和を守る者)
『現在小藍様の所で汐ちゃん奪還戦(30日付)に賀川参加中。当方現在27日『ユキ奪還戦』は『汐ちゃん奪還戦』より少し前の話になります。混乱するかもしれませんが各々別日の話になります。お楽しみくださいませ』
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少しだけ。
「誰が貴様のような不埒で不作法、若き娘の拉致などと言う悪辣かつ卑劣な事をする輩を舐めようぞ。この天狗仮面に、うろなの地で不遜な行為を行う者に容赦などない!」
それは、青い髪の男の顔面を殴り倒し。
天狗仮面の口上に強い物を感じながら、その場を任せ近くにあったバールのような工具を拾い上げつつ、俺がユキさんの元に走り出した所まで、時を戻す。
俺はこの建物に入って最初に蹴り倒した白服の男に向かっていた。
あの硬質感、普通では勝てない。
だが、ユキさんに手を上げた瞬間を見ており、無残に切られたワンピースの裾やはだけた下着にまで目が届いた瞬間、頭の中が『狂う』のを感じた。
だが、かちりとスイッチが入るのを何とか踏みとどまる。冷静さを欠いてはいけない、だがどうしようもない気持ちが心を占める。
足を拘束していた縄は、彼女がどうやってか知り得て『金剛』と呼んでいた白服の男の手によって引き千切られて。彼は白いユキさんの体を抱き上げようとしていた。
金剛の顔は精巧に作られた人形で、白兎のように真っ白な髪をしたファンタジーな彼女のお相手役に似合っていたが、そんな些細な事に腹が立った。
「その体に……ユキさんに触れるなっ!」
俺が迫って来るのに金剛は攻撃を忘れた様に俺をじっと見ていた。まるで俺を観察するように。その瞬間は『違和感』に気付かなかった。
その眉間に容赦なくバットのような要領でバールを振りかざし、頭をボールのごとく打った。
ボキリ……
おかしな感触がした。
もともと天狗仮面の初撃で緩んでいたのかも知れない。頭がまるでサッカーボールよろしく素っ飛んで行った。確かに足で『鉄』の重みは感じていた。そのすべてが機械で創作されたアンドロイドが居る噂は海外時代に聞いた事もあった。
だが、人の形をした物の頭が取れた瞬間は、誰でも驚くのではないだろうか。それが故意であったにせよ。覚悟した赤い血が溢れるわけでなく、よくわからない細かな部品もぱらぱらとすっ飛んだ事が、逆に俺には恐怖と感じられた。
「う、あっ」
彼女をそのまま地面に置いた金剛の体は、俺の脚を一瞬の隙で掴んで立ち上がる。奴は頭のない姿のまま俺をフリスビーのように投げ飛ばした。
俺はマントを翻し、地面に降り立ち、攻撃に入ろうとしたが、一気に体が崩れる。
「な、んで?」
足の踏ん張りが利かなくなっていた、というより、感覚がない。掴まれた時に神経を潰されたのかも知れない。感覚がないから、体が支えられているかもわからない、片足を泥沼に取られている感覚に陥る。
それでも、俺は。
ぐっと手元の工具に力を込めた。
痛みはない、だから、逆に良いのかも知れないと考える。足が無いような錯覚に陥るが、間違いなくあるのだからコケはしないと自分に言い聞かせた。太ももの動きの感覚だけで、自分を動かしながら、奴に向かう。
頭を失くしても起動し続けるそれは、目が無くても肌で感知でも出来るのか、的確に俺に向かってくる。
「壊れろっ」
肩から袈裟懸けに殴るが、ぐらりとしたのは一瞬で、態勢を整えて来ると、鋭い拳が飛んでくる。鋼鉄の拳に『あ、ヤバい』と思ったが、思ったほどに身が引けない。足が無いような状態を操るのは難しく、それでもなんとか肩口を掠めるだけに留める。だが掠めただけなのに俺の体は物凄い勢いで反転させられる。だがそれは態勢的に足で一撃を……そんなタイミングが見えた。
反撃の糸口、躊躇ってる場合じゃない。もうどうとでもなれと思い、負傷している足で気味の悪い四肢だけの人形を蹴った。軸足がきちんとしているから、効果は高かった。痛みはない。たぶん感じなくてよかったのだと思う。
その一撃で奴の体が吹き飛んだ。振動で上から数本鉄骨が降ってくる。俺は何とか逃げたが、頭のない金剛は俺の蹴りの衝撃の為か。目がない為か、身動きが遅れた。鉄骨に挟まれ、ばしっと電気の音がしてその腕が一本落ちた。
人間なら苦悶に歪んで闘えなくなるだろうが、ヤツは違った。
「それじゃ、ユキさんを抱いても連れて行けないだろう?」
頭もない、腕も一本取れたそんな姿でも立ち上がる人形。それでも向かってくるそれが、可哀想な気がした。作った者の意図だけに従順に、命令を守っているのだろう。人間がここまでやられて立ち上がる事はないが、人間であったなら交渉の余地もあるのだろうに。
そう思った時、取れた筈の腕が、モゾモゾ動き、指五本でタカタカとこちらに向かってきた。
「な! ぅ、腕だけで自律運動できるのかっ」
それは思わぬ跳躍をみせ、俺の首に飛びつく。その力は恐ろしく、呼吸と血流を奪われた俺の頭は酸素を失い、そのまま意識を奪われかけた。
「苦しぃ……」
俺は手に握った得物を取り落としながらも、両手をかけて必死にその指を一本ずつ折って行く。その間に三肢になったもう人とは呼べないおかしな生き物が俺の腹に蹴りをくれる。
痛くても苦しくても、耐えられるのは大切な人の未来に続いているからだ。
酸素不足は俺の力を削って行くが、気力だけで、指をもぎ、あらぬ方向に逸らせる。一本一本が太い針金のように俺の気管や血管を潰し、呼吸困難にさせようとするが、何とかそれを取り外す。
有り得ない指の曲がりとなった腕を、俺は振り回す。距離を取った壊れかけのおもちゃに俺はそのまま飛び掛かり、その手前で跳躍する。
「返してやる」
あるかわからないその足で踏み切ると、俺はその腕を頭のあるべき位置に、ポケットからペンを数本突っ込み、更に腕をダンクシュートのようにがつんと差し込んだ。
大きくバシッと音がした。その後もその『体』の中で奇怪な音が続く。回線同士が触れてスパークし、誘爆を体内で起こしているようだった。
俺は残った腕に掴まれる前にその場を逃げ、落ちていた鉄の棒を再び握り、
「止めてやるよ、終わりにしよう」
俺は壊れた足を目で見て、自分の体に足がついているのを確かめ、そう言う。
そして手が頭のある部分に活けられた、夢には出て来て欲しくない化け物に向かって走り、長めの麻紐をペンに括り付けてビンっと張った。そして足を目掛けてそれを投げつけ、円弧を書くように体を縛り上げて引き倒して、渾身の『ラッシー』を放つ。
ユキさんに手を出した恨みもさる事ながら、二度と俺達の前に姿を現さぬように。警告として。それを破壊する。次に来た時は、お前達もそうしてやると示すために。
腕がテグス入りの紐をブチ切り、俺を掴もうとした。俺はその腕に朝に拾ったナイフを突き立てて千切った。そして再び動き出さぬ様に全て、指の先まで、原形をとどめない様に細かくたたき割る。回線が火花を放ち、真っ白な服が焼けて行く。
そうしておかねば。もしまた先ほどの手首のように小さな部品が動き出したら、ユキさんに危害を加えるだろう。
だから徹底的に壊した。
「もう二度と、現れないでくれ」
人が攫われるなんて、そんなのはごめんだ。人生を狂わされるのは俺だけでいい。
だけどこれは始まったばかりだと感じたから。悲しいけれど、これは、ユキさんに対するただの挨拶程度なのだろうから。
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うろな天狗の仮面の秘密 (三衣 千月様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
天狗仮面様、傘次郎君。そして鼻の低い天狗……
お借りしています。何かあればお知らせください。
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『以下3名:悪役キャラ提供企画より』
『雫』『治』パッセロ様より
『金剛』弥塚泉様より




