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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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187/531

続・戦闘中です(うろなの平和を守る者)

『現在小藍様の所で汐ちゃん奪還戦(30日付)に賀川参加中。当方現在27日『ユキ奪還戦』は『汐ちゃん奪還戦』より少し前の話になります。混乱するかもしれませんが各々別日の話になります。お楽しみくださいませ』


lllllllllllllllllllllll






やられ……








 腹部をナイフで刺されて、平気なわけないよな。



 ああ、これ。

 死んだ。

 この角度、深すぎる。



 と、思った。



 頭の中で、ぐるぐるした。



 腹に空いた穴から腸が出たらイヤだ、ユキさんにそんな姿を見られないといい。な。

 そう。

 そんな事考えている『暇』があるなら動けばいいのに。

 俺は動けなかった。

 いや、足が動かなかった。

 何度か感じた事がある死線。毎回、何とか潜り抜けてきたけれど。

 今回はリアルに自分が内臓をぶちまける様が想像ついて。諦めた訳じゃない、だがユキさんが倒れたのが、俺の気力を削いだ。アリサの遺体を見た時の脱力感を思い浮かべ、それと重なったかのように足が、動かない。



「やらせるかっ! 次郎よ! 賀三郎を!」

「あいさっ! 兄貴ぃ」



 天狗仮面の声が俺の耳の中に飛んだ。その音が俺をハッとさせる。それは俺の体が腹から上に突き上げる様に青い男の両手で持った渾身のナイフに、串刺しにされそうになっていた。

 ナイフが腹に達する紙一重の瞬間。

 俺は。

 天狗仮面が俺に向かって傘を振るうのを見る。途端、俺の体がそこから吹き飛んだ。目標を失った青髪男のナイフが俺の腹ではなく、空を切る。

 それは河原で火鋏の攻撃を受けた時に感じた風圧、だが今回は距離もあった。それでありながらまるで局地的台風にでもあったかのように俺の体は空を舞う。あの時、感じたのとはケタ違いだった。

 だが、側に居た青い髪の男の前髪が軽く揺れただけ。風を受けたのは俺のみ……あり得ない高さ、悪くすれば死ぬと思った。たぶん今までの俺ならそうなっていたかもしれない。



『最初の頃は慣れなくて、スカート破っちゃったけど。賀川さんも逆らわないといいわよ』



 俺の中に響くゆったりとした彼女の声が風の中に聞こえたから。慌てずにマントの靡くまま体を乗せると、それは優しく俺を地面に返してくれた。

 たぶん端から見ると俺が『飛んだ』ように見えただろう。

「と、飛んだっ! ごめん、今、飛んだ?!」

「知るかっ!」

 俺はその流れに乗せて、そのウルサイごめん男の顔面にストレートを決める。奇妙な音を立てて、眉下がりの綺麗な顔が凹んだ。と、見る間もなくユキさんに向けて走り出す。足の痛みはない、そんな物はどうでもよかった。俺は行かないといけない。一瞬の時でも死の淵に捉われかけた自分自身の気持ちを蹴り飛ばし、

「助かった、天狗仮面に傘次郎?! 後は頼むっ」

 きっと彼が相棒と呼ぶじろうには何かがあるのかも知れない、それが天狗仮面の作った偶像で、起こした風も何らかの偶然であろうが、天狗仮面と傘が揃わなければ起きるはずもなかった気がしたから礼を言う。

「拘束したら加勢に行くぞ! 賀三郎!」

 天狗仮面は俺を助けながらも着実にツンツン頭の男を追い詰めていた。

「加勢に行く、だ。舐めるな」

「誰が貴様のような不埒で不作法、若き娘の拉致などと言う悪辣かつ卑劣な事をする輩を舐めようぞ。この天狗仮面に、うろなの地で不遜な行為を行う者に容赦などない!」

 俺がその頼もしい声にその場を任せ、そこを走り去った。



 天狗仮面は俺の去りゆく背後を狙おうとした茶髪の男の前に立ち塞がる。

「私がお相手する。さあ、ゆっくり自分の悪事を反省するがいい」

 ヤツは短すぎてはいないのに、ツンツンしてる茶色の髪を撫でつける。

「ふん、貴様を吹き飛ばす良い事を思いついたぞ」

 かなりもう足腰に来るような攻撃を仕掛けているはずなのに、どこか余裕のある表情。先程握っていた長いパイプも弾き飛ばしてやったと言うのに。天狗仮面は仮面の下の眉をひそめた。

「兄貴、こいつオカシイでやんす」

「どうオカシイのであるか?」

 俺がその場にいない事で、傘次郎は天狗仮面に語り始める。この傘は、『唐傘化けの傘次郎』であり、天狗仮面は事情により妖力が落ちているが確かに『天狗』の一族の男だった。俺は知らない事ではあったが。

「見た目より重い感じはしやせんかい?」

「初めの男が重かったのでさほど気にはならなかったが」

「気が狂ってるのか? 何を話してるんだか、さ、天狗仮面と言ったか。そこを守り切れるか?」

 そう言って背中に背負っていた袋から筒のような太い銃を取り出した。

「そのような重い物を背負っていたとは思わなんだ」

 天狗仮面はそれを置いて打ち込んで来たらもう少しイイ勝負になっていたかも知れないと思ったが、

「先程も言ったが慣れぬ得物は難しかろう」

「うるさい!」

 そう言った天狗仮面にヤツは太い銃を撃ち放った。

 それはまるでコルク栓が『ポンっ』となるような、軽く間抜けな音がした。ひらりと軽く天狗仮面がかわし、余りに勝負にならないと傘次郎はつい笑いかけた。だが、飛んだ弾はそこに置き去りにされた不法投棄のテレビや冷蔵庫の壁を、轟音と共に木っ端みじんに吹っ飛ばしてみせた。

「こりゃ、破壊力だけはあるでやんすね?」

「確かに見た目以上のモノであるようだが、当たらねばただの賑やかしである。大道芸ならば余所でするがいい」

 途端、仲間内で『治』と呼ばれているこの茶髪男は下卑た笑いを浮かべた。

「確かにお前にはこんなモノ当たらないかもしれないが、確かに武器は使いよう、だよな」

 そう言いながら『治』はそれを天狗仮面よりやや離れた方向に向かい、撃ち放った。的をワザと外した弾に、天狗仮面は避ける必要すらない様に見えた。だが天狗仮面は『治』の意図を瞬時に悟り、地面を蹴る。

「防ぐのである!」

 傘次郎には全くワケがわからなかったが、言われるままに気合を入れ、それを受ける。

 間抜けな音で発された弾であるのに、やはり威力は絶大だった。この戦いで初めて天狗仮面が低く唸り、その足を踏ん張り、爆発に耐える。

 俺もその音が聞こえたが、自分の戦いに集中しており意識を傾けられない。

「げへっ! 兄貴ぃ、ワザとに当たりに行かなくとも……」

「そういう訳には行かぬ。奴の銃の先には賀三郎の守るべき者がいる。ココを任された以上、退かぬ!」

「なっ! ちきしょうめ、くうぅっ……そう言う事とは! 卑怯な輩め!」

 そう、奴の弾の先には…………ユキさんがコテンと寝ていたのだ。縄で腕を結わえられ、切り裂かれた服を纏った姿で。

 天狗仮面の努力も知らず、俺の焦りも知らず、何事もないかのように。

「必ず守り切るのである!」

 天狗仮面の台詞に、『治』の口の端に浮かんだ笑みが、更に深く歪み、濃くなった。守ると決めた者を背後におけば、攻撃に転じる事は難しい。その瞬間に茶髪男は一気に事の終結を図ろうと攻撃を激しくした。

「行け! イケ! 逝ってしまえ!」

 三連続で気の抜けるような音が響く、その度に天狗仮面は傘次郎に『力』を込め、弾を受け続ける。すさまじい破壊力をかなりの近距離で浴びる事、それも連射されれば削がれる力は半端なかった。

「こ、これ以上は……」

「言うな傘次郎! 守るのだ」

 マントを翻し、弾を包みこむ様にして爆発させたが、天狗仮面の『力』は無尽蔵ではない。

「ちきしょうめ!兄貴が万全ならこんな奴ら……」

「詮無き事である。妖力も残り僅かであるが……、負けるわけにはいかぬ!」

「さっき賀三郎を吹き飛ばすために、瞬間とは言え渾身の風圧を出したんでやんす……もう」

「イイ様だな」

 天狗仮面は溢れだした汗をぬぐいながら、思案する。そしてふと思い当たる。

「傘次郎、あやつは何発撃った?」

「に? しー……五発でさぁ、兄貴」

 それを聞くと、天狗仮面はその口角をニヤリと上げた。仮面に隠れて見えないハズのその表情が、仮面の角度の為か、茶髪の男にもじわりと伝わった。

「な、何、笑っていやがる! この変態仮面め!」

「へんた……何を言う! 私は天狗仮面! このうろなの平和を守る者である。貴様のような小物から、アノ者を守れずその名は名乗れん! 限界はお主も同じであろう。その銃身と玉の大きさから言って、備えられるのは六発が限界。重い弾故、予備はないのだろう!」

 天狗仮面の推量は当たっていた。茶髪の男は顔を歪め、

「ふん! これを喰らって倒れるがいい!」

 今までユキさんが倒れていた場所を狙っていた銃が、再度天狗仮面の方に向いて放たれた。それならば、無駄にあたる筋合いはないのだ。飛びずさろうとした天狗仮面の体がズンと重くなる。

「な!」

「ごめんね、逃がさない……よ」

 それは俺が顔面を殴って撃沈させていた青い髪の男だった。背後を取られ、動けない天狗仮面に最後の弾丸が迫った。守りに使うべき力はもう少ない。

「兄貴ぃ」

「諦めるなっ」

 そう言いながら天狗仮面は傘次郎を高く投げ、その手を自由にすると、真後ろに居る青い髪の男の襟を無理矢理に掴んで、前方に投げた。

「ぎゃあ!」

 その体は飛んできた弾をまともに喰らって悲鳴を上げた。焼け焦げる背中。悲鳴を上げながら青い髪の男は気を失った。天狗仮面は落ちてきた傘次郎を受け止めると、やみくもに弾の無くなった太い銃身を半狂乱で振り回す男のそれを薙ぎ払い、

「慣れぬ得物はやめておくのだな」

 そう進言して脳天に一発喰らわせて、沈黙させた。

 その二人などもはや放って俺の手伝いに行きたいと思う天狗仮面だった。だが彼は過去の経験で倒したと思った者の反撃の怖さを十分熟知していた。その為、二人を縛り上げ、柱に止めた。それが繋がれたものの自業自得なれど、ある惨劇を招くとも知らずに。

「さ、賀三郎の元に……」

 作業を済ますと、加勢に加わろうと俺の方を見て、天狗仮面は沈黙した。

「兄貴ぃ……」

「これは賀三郎のこやつらに対する以降の対応を示すモノだろう。今は待とう……」

 そう言って、暫し、天狗仮面が佇んでいたのを俺が知るのは少しこの後になる。



llllllllllllll



うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/

天狗仮面様、傘次郎君。そして鼻の低い天狗……



お借りしています。何かあればお知らせください。


lllllllllllllllllllll


『以下3名:悪役キャラ提供企画より』



しずく』『なお』パッセロ様より

金剛こんごう』弥塚泉様より



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