続・接触中です(うろなの平和を守る者)
こ、ここは……
おい……! (怒
少し時間を戻して…
俺達がドリーシャの案内で辿り着いたのは……とても綺麗な工場だった。
どう見積もっても築五年に満たない、整備の行き届いた建物。大きな門は施錠されており、不審車が入り込む余地などなかった。
「どう見ても間違いだろう!」
「ど、どういうことであるか? 鳥車」
そうするとぐるぐると俺の肩に載っていたドリーシャは何事か言い出した。と言うか、タイミングがイイだけな気がするが。そう言えば借りた鼻の低い仮面はつけなくていいので、今は頭上で待機中だ。場所を取られたドリーシャは当たり前のように、俺の両肩を闊歩しつつ、
『ぐるっぽ』
「ほう、それで」
『ぐるぐるぐるぽっぽ』
「うむうむ、そうであるな」
『ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぽっぽぽぽ!』
「なるほど、なるほど、そうであったか。ならばその方が良いのであるな!」
「何が『なるほど』なんだよっ。ドリーシャもノリ良すぎるぞ! もともと美味そうな名前なんだ。焼き鳥は……好きだぞ?」
『ぐるぽっ!』
俺は拳を握る。ドリーシャが俺から離れて、門に止まった。
「天狗仮面……面を借り、ついて来てもらっている義理はあっても、これ以上遊ぶつもりなら容赦しない」
頭にある天狗の短い鼻が、まるで鬼の一本角のように見えたかもしれない。本家天狗仮面は慌てて、
「あ、焦るではない、賀川殿。そこの自転車用の通用門は開いている」
「俺達が追っているのは車だぞ?」
「だから、焦るなと言うに。その通用門を抜けて新しいこの工場を抜けた先に、廃工場があるのだ。本来そこへ入る通用門は正攻法で行けば、かなり遠回りして行かねばならない。だがコレを抜ければ……」
「そ、そう言う事か」
俺の推理は正しかったのだ。
追った車がコの字を描いたコースで入り込んだ場所はこの辺に間違いなかった。
だが俺達はショートカットで自転車に乗ってきたため、少しコースをそれて、やつらが隠れた工場の真裏に居たのだ。つまりこの新しい工場の裏が目的地……ドリーシャが言っている事? が正しければだが。
この新しい工場を突っ切りまっすぐ走れば、そこに辿り着くのは明らかに容易となる。先程からの工場巡りで嫌と言うほど学んだ事だ。ただ、俺の耳は微かに動く監視カメラの音を捕えていた。
「いざ参らん!」
「待ってくれ、あそこにカメラが……たぶん警備員室に繋がっているだろう」
「な、何と……。無理に押し通れば捕まってしまう。ならば、ここは一つ急いで迂回路を……」
「天狗仮面、慎重になるべきなのはわかる。だけど……俺は、行く。待っている人が居るかもしれないんだ!」
「だがここまで来て賀川殿一人で行かせるなど、この天狗仮面、出来るわけが無い」
「頼む、それなら君はアイツらの車が入った門に回ってくれ。そこにはカメラもないだろう。今は時間が惜しい。だけど俺が捕まったら、後を……」
俺がそう言った時、ドリーシャが飛んだ。そして件のカメラの上をバサリと占領して、レンズを覗き込み始めた。天狗仮面がマントを颯爽と翻す。
「賀川殿っ、『塞いでいる間に早く行け』との事! 急ぐである」
「ええっ???」
いや、驚いている暇などなかった。
鳥がわかるのか……この鳥は何か特殊な訓練を積まされているのかも知れない。それとも、何なのか? 俺には想像もつかない。だがこの先にユキさんが居るならば、今の俺には有難い事だった。
俺達はこれ幸いと入り込むと、人気のない工場を自転車で疾駆する。内部にはカメラがなく、警備員も巡視の時間を外れていたのか、居ないのが幸いした。
暫くすると肩にばさばさと羽音が戻る。
「ドリーシャ、その、ありがとう」
ぐるっと胸の中で唸るようなその『音』は誇らしげだった。この情報、信じていいのかも知れない、俺のペダルを漕ぐ足は力強く、それを回し続ける。
その後、ドリーシャは全く風を受けてないかのように、俺の肩でバランスを取っていた。
前を走る天狗仮面の背中で揺れる緑地に白の模様という何とも目立つマント。
それが俺の背中でも揺れている。借りるのは仮面だけでいいのだが、何となく逆らえず、面とセットで借り受けている。それを仲良く揺らしながら、目的に向かいひた走る。
その工場は広く、思いの外遠かったが、やがて道が舗装されていない、雑草が深い場所に入り込む。廃工場と新しい工場の敷地は同じだったのだが、簡単な杭と網で仕切られていた。
それでも荷物置き場としてでも使っているのか、自転車を押せば簡単に潜れる場所がいくつかあった。
俺はクルリと静かに面を顔におろした。
勘が、目標に近い事を告げる。何言う事なく、天狗仮面は自転車を止め、するりと傘を背から降ろす。俺もソレに習う。
「賀川殿、こちらへ」
「名前を呼ばないでくれ。俺だってバレるだろう?」
「うむ、では、……賀三郎だな」
「なっ? 何で?」
「この私の相棒である傘の名は傘次郎、とすれば次ぐは三郎であるからな。賀三郎、音も似ていてよいではないか?」
「そう、か?」
「では賀三郎、急ぐのである」
どこからか『何だか弟が出来たみたいで、嬉しいでやんすよ?』と聞こえた気がした。
だがそんな事より、どこからかユキさんの声がした気がして、俺はその音の方向に走り出した。いや、それは気のせいではない、間違いなく『いる』。
「か……賀三郎っ!」
「聞こえた! いる! ユキさんだ」
「なんと? 何か聞こえたのであるか」
「耳だけは…………耳だけは普通以上だ!」
そこは薄い鉄板塗装で出来た建物だった。回りの木は刈り込まれておらず、足元は雑草が生い茂り、まだ数日前の雨を残して乾ききらない地面を俺は飛ぶように掛ける。天狗仮面もその僅か後ろに付いてくる。扉も外されてしまった、その建物に近付いた時、廃工場には似つかわしくない幾つかの笑い声の後に、
「やだ、やめて」
っと、声がした。
扉も外されたその建物の薄暗さに、目が暗順応を待つ暇はなかった。
声の位置はその奥、白い手足……その体は誰かに乗られており、その側にも別の影。
更にもっと手前に白服の人影があった。
『敵』。
俺も天狗仮面も何一つ言わなかった。
これこそ阿吽の呼吸と呼べるかもしれない。俺は態勢を低くしながら腹部に鋭い蹴りを。そして天狗仮面はその手の傘を頭へ一気に振るった。
確実にとらえた二人の攻撃で、まるで紙人形のように飛んで行く白い衣装の男。
ただその体、『人間にはない』物を蹴った感触を足に残した。それは、硬質の鉄の塊。焦りにより忘れていた足の痛みは、自転車を動かす事で確実に悪化していた。その衝撃は痛みを増幅させるのに充分すぎた。
「つっ!」
「賀三郎っ」
『アレは鉄や鉛の重さですぜ、兄貴。あっしは大丈夫でやんすが、賀三郎が人間なら骨が逝ってますよ』
「大した事はないっ、ドリーシャ、離れてっ」
俺の言葉でドリーシャが離れる。何かあってその翼を傷つけるわけには行かない。
天狗仮面以外の声が確実にしたが、気に止める間などない。お面があっても視界は何とかなる、だがマントが邪魔でならなかった。
ドリーシャの羽音と共に、天狗仮面の口上が上がる。
「我はうろなの平和を守る天狗仮面なり。悪党どもめ、その者から離れろ。容赦せん」
「ねぇ、やっぱりこのマントはいる?」
「正装である!」
そこに居た二人の男が飛び掛かって来た。
足を痛めながらも俺が蹴り、天狗仮面が殴った男はまだ沈黙している。どこからか聞こえた言葉通り、普通だったら足が逝っていたかも知れない、だが魚沼先生から貰った布を巻いていたおかげか、感覚はある。踏ん張れるなら拳はあげられる。右がダメなら左足だけででも立っているしかない。
ユキさんが不思議そうな顔でこちらを見てる。
君がこの姿の俺を、俺とわからずとも、こんな一撃で倒れるなんてみっともなくて。それはきっとユキさんの想像通りの男なのかもしれないけれど。
俺は。
拳を固め。
天狗の仮面の下で君に見せたくはない笑みを浮かべているんだ。
lllllllllllllllllllll
うろな天狗の仮面の秘密 (三衣 千月様)
http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/
天狗仮面様、傘次郎君。そして鼻の低い天狗……
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
マメ鳥ちゃん(ドリーシャ)
お借りしています。何かあればお知らせください。
lllllllllllllllllllll
『以下4名:悪役キャラ提供企画より』
『雫』『治』パッセロ様より
『金剛』弥塚泉様より
『紫雨』は二人には見えていなくて笑い声のみ。




