誘拐中です(悪役企画)
何で?
ユキです。
「ごめんね、狭くて」
「い、いいえ。あの、どなたですか?」
急に車に乗せられて。驚きました。賀川さんの姿はすぐ見えなくなって。車内はそれなりに広いのですが、ワゴン三列の真ん中と後ろがフラットになっていて、男性二人に挟まれ、前の運転席に一人。
白服を着た左の一人は私に興味がないようです。私の鞄を暫く漁っていましたが。その後は投げ捨てて、微動だにしないのです。もう一人の真っ青な髪の人は私に興味がある様ですり寄ってきます。ゴメンネ、って言うけれど、あんまり意味はないみたい。
「何にも心配しないで良いよ、すぐに終わるから。ごめんね、長くは遊べなくてごめんね」
「いえ、でも、私、賀川さんと用事があるので……」
「君は……今日、僕達と遊ぶって、ごめんね。決定なんだよ?」
そう言いながら彼は私の髪を手に取って、コネコネと遊びます。余り触られたくないのですが、少し怖くて言い返せません。
私はポケットに入っている黒軍手君を握り締めます。彼の首の飾りには赤いネジが入っていますが、けっかい? だったか、作れるかすら怪しいし、こんな所でそんな事をしても何もならないでしょう。水羽さんは呼んでみますが、答えはありません。出来るからと言って何でもするわけではない、そんな事を言っていたのを思い出します。ここは一人で何とか逃げなきゃ、私は泣いても仕方ないので考えます。
そうだ!
ね、車の扉、鍵かかってますけれど、あけて逃げたらいいんじゃないかな? って。だって白服の人、私を見てないし。でも邪魔されたなら、このネジを握って叩いたら驚いてその隙に逃げ出せるかも。
痛いかな? 痛いよね? 私、痛かったもの……左手。可哀想かなって思うけど、ココで逃げなきゃ返してくれそうな気がしないのです。
「あの、バック、返して下さい」
中には今日の為に作った大切な物が入っているのです。私が聞くと、運転席の男が、
「何かめぼしい物があるか?」
「中には紙切れと財布、信号反応なし、目視及びスキャン済デス。体に対するスキャンにつきましては、多少の金属反応。信号反応はありまセン」
「金属?」
「たぶん、この可愛らしいボタンとかだよ、ごめんね」
「あっ」
この服はこないだ買い物で買ってきた新しい服なのに。飾りボタンが毟り取られて悲しくなります。
「今時、携帯も持ってないのか? まあ、それで暴れないなら持たせてやれ」
私は鞄を抱えて、一番今日大切な手帳が入っているのを確かめて、ジッとしておきます。手には黒軍手君から取り出したネジを握って……
せぇーのーぉーえい!
手を伸ばして、かちゃん。ガラッと。
「何やっている! 掴まえろ金剛!」
私は握られた髪を振りほどいて、鞄を抱えて、ぴょんと飛び降りました。車って結構早いんだなっと思いながら。
海が見えます、うろなの海。冬を前にしたうろなの青。ああ、これ、痛いかも。そう思ったのですが、衝撃は来なくて。
風に押し流されそうな私の体を抱きかかえる白い服の腕。細いのに力が強くて、顔色一つ変えずに、片手で車を掴みながら、私の腰を抱っこしている格好です。ふわふわスカートの裾は風を孕み、私は空を走っているようですよ?
「金剛、中に入って閉めろっ!」
「離してっ」
「金剛が離したら軽く死ねるってゴメン」
私は腕にネジを叩きつけます。でも顔色一つ変えず、金剛と呼ばれたその人は私をじっと見て、さっきの位置に私を座らせつつ、扉を閉めてしまいました。
うー失敗。
それにしてもネジが刺さった感触はしたのに、痛くないのでしょうか?
「お前、死ぬ気だったのかよ」
初めて青い髪の人の台詞にゴメン、が入っていない言葉を聞きました。それほど驚いた顔で。運転席の男は、ははははっと笑って、白服の金剛さんは無表情で自分の腕に刺さった赤いネジを見ています。ソレには血が伝っていました、でもそれは握っていた私の手の方から。彼の腕からばっっと火花が散ります。
「ショートしたのか?」
「ショート?」
金剛さんが腕をまくってみると、切れた肌から見えたのは、銀色で。血は流れていないようでした。
「アンドロイド?」
何だか映画の世界みたいです。
「アンドロイドはもうここまで進んでいるんだよ。極秘プロジェクトだけれども」
「損傷は表皮、内部共に一パーセントに満たないため、平常運転可能デス。ただ捕獲該当生物の血液が入ったため、後ほどメンテナンスを希望シマス。また、報告がありマス、この車体右扉に損傷有。表面の為、運転には支障はありまセンが、通常に比べ四十二パーセントほど人目を引く原因となっておりマス」
「それで、じろじろと……さっきから気になっていたんだ。ちっ……車を交換しないとダメか」
「どーでもいいからごめんね、そんなの。ごめんだけど、金剛、そいつ押さえていてよ」
赤いネジを刺したままのアンドロイドは、運転手の視線がミラー越しにOKを出したのを確認するや否や、私の腕を捻り上げます。
「やぁっだっ」
腕、ぱしぱし言ってるのに。床に寝そべらせた格好にねじ伏せ、私の腕を上にあげ、体を跨いで押さえます。重い、です。
「金剛、その位置、俺だよ、ごめん」
「替わってやれ、金剛」
「ごめん。ねー音声認識、僕もいれてよ」
「『手塚』さんに、もうちょっと働けるのを見せたら入れてくれるんじゃないか?」
「ふーん、わかったごめん」
そう言いながら金剛さんに腕を押さえられた私を舐める様に見ます。
「胸デカいね、これは……ごめん、逃げないようにしたらいいんだよな?」
「まあそうだな」
なら、そう言った彼はナイフで私の服に切れ目を入れます。可愛いって思って買ったミント色の服。賀川さんとお出かけにおろした服が。
「やめて」
可愛いって、言ってくれたの。
玄関を出る前、ぽそって、彼が言ってくれたの。きっと言った事も覚えていない程、小さな声で。
今日だって、町にお出かけだったのです。お買い物、一緒に行って冬のおコタツやいろいろを、そろそろ買い揃えたかったの。初めての二人でのお買い物。美味しい物を食べて、町を歩きたかっただけ。
「いやっ」
私が体を捻ったり足をバタバタさせるのが面白いみたいで、それを見下したように見られるのも嫌で止めた途端、ばりって……
「嫌だよぅ」
私の可愛い服は前開きのコートみたいになって、真っ白なペチやペチスカートが丸見えです。それもビリビリ切れ目を入れてしまいます。
「これじゃ、人前に出られないよな。ゴメンネ。さ、僕とヤろうか?」
「な、何を、ですか?」
「ちょっと待て、良い所に着いた。金剛、連絡して代わりの車を持って来させろ。これじゃ目立つ」
辿り着いたのは鬱蒼とした木と草に埋もれた廃工場の中でした。
lllllllllllllll
『以下4名:悪役キャラ提供企画より』
『雫』『治』パッセロ様より
『金剛』弥塚泉様より
『手塚』は名前のみでしたので紹介はご本人登場時に。
宜しくお願いいたします。




