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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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続・追跡中です(うろなの平和を守る者)

そうだよなぁ……



 










 俺が攫われた女の子に闘う姿を見せたくない、出来れば顔が隠したい。そう言うと、更に天狗仮面は怪訝そうに、

「そんな事を言っている場合ではなかろう」

 そう言った。確かにそうだし、明らかに理解はされていなかった。

「わかっているさ。それも力がある者が世の中の上を行くのはこの世界の常識で、彼女を守る、それが正義だろうが悪だろうが、俺は厭わない。そうは思っている。だけど、俺が拳を振るっているのを見て喜ぶ彼女の顔は……どうしても思い浮かばないんだ」

「男が必要な腕っぷしを誇るのは悪い事では無く、日本男児たる者そのくらいの気概は気持ちの良いものであろう」

「ニホン、ダンジ、さん? 俺は……違うけど?」

「そうであるのか? でもその容姿は日本人。賀川殿は混血ハーフであろうか?」

「あ? いや、日本人だけど。海外が長かった」

「なるほど」

 話が微妙に食い違ったまま、二人で自転車を飛ばす。途中、うろな町で『走っていた車内から女の子が飛び出し、男が腕一本で支えていた』と『ト言ッタ~(けいじばん)』で噂になっていると配車係が教えてくれた。まさかユキさんじゃないよな。そう思いながら、軽快に自転車で商店街を駆け抜けた。

 一瞬、タカさんに告げておくべきかと思ったが、先程、河原で時間を使ってしまっている。もう目撃情報が届かなくなって十分以上経つ。現在は自転車の取り締まりも厳しく、携帯電話で話している所を見咎められれば、時間のロスは免れない。隣には一際目立つ柄の緑マントに赤い面。流石にこの衣装が、普通じゃないのはわかる。

「ホントに目立つな、その格好。そういえば、コマイヌもこんな配色じゃなかったっけ? 赤と緑ってサイケだよな」

「狛犬? それは神社の前に飾られるモノであるが?」

「あれ? 正月に人が被ってカチカチやってる奴……」

「あれは獅子、獅子舞いの事であるな。もともと神社にあるモノも獅子が二頭であったのだが、片方が獅子、片方が狛犬に変化したのである。どちらもが狛犬と言う組み合わせは、唐獅子と言うべきであろうな。して、獅子舞いがどうか致したのだろうか、賀川殿?」

「いや」

 日本人としては当たり前の知識なのだろう、か? 彼が天狗だろうが般若だろうが、とにかく目立つ事は間違いがない。

「とにかく警察沙汰にはしたくないんだ。天狗仮面」

「うむ。ともかくその者を探すのが優先であるな。賀川殿は先程から何か聞いているようだが」

「無線、だよ。アマチュアとうちの業務無線と……配送員に声かけてそれらしい車を探させてる。ナンバーは隠していたけど、車体に傷を入れてやったから。警察無線も傍受してるけど、そんな車の事故とか、放置とかの報告はまだない」

 俺がユキさんの行方について話し始めた事で、ついて来るのは承知されたと認識したのか。天狗仮面は俺と並走し、道の流れによっては後をぴったりついて来た。



 そして商店街を通り過ぎ、俺達は南下した。その道が舗装工事中の為、自転車が今までになくガタガタと揺れた時だ。

「落ちそうですぜ、兄貴、夏祭りのようになるのは御免でさぁ」

 そんな声が俺には確かに聞こえた。その声は天狗仮面の自転車の籠に載せられた、古い変わった傘から聞こえた。不審に思った俺は耳を澄ませたが、天狗仮面がごにょごにょと喋っているのが聞こえただけで、それも曲がってきたトラックに間を遮られ、よくは確認できなかった。

 トラックが過ぎ去ると、俺に離されまいと追いついてきた彼の前籠に乗った傘を見る。

「なあ、今、何か言ったか? 天狗仮面? 落ちそうですぜ、兄貴とか、何とか、確かに傘が喋った……」

「な、何の事であるか? 賀川殿はなかなか面白い事を言う、ははは」

 そう言いながら、天狗仮面は前籠に乗っていた傘をとって、

「ふむ。この傘の気持ちが聞こえておるのやもしれんな。では賀川殿を心配させぬよう背負うとしようか」

「傘の声?」

 そう言うと自転車は飛ばしたまま、天狗仮面は慣れた動きで背に古い傘を背負った。そして明らかに笑った声で、

「賀川殿、古い物には魂が宿る、日本では珍しくない言い伝えである。それにこれは私の相棒であるからな」

「武器、なのか」

「そう言う事である。それよりもこれからどこに向かうのかそろそろ教えてくれぬか?」

 こんな変わった面を付け、古い傘を相棒と呼ぶ。それは俺にとってシュールな光景だったが、先程の河原で彼の力はよくわかった。あれさえもその片鱗でしかないのだろう。その彼が武器とするなら、その傘が喋ろうと喋るまいと俺には関係ない事だ。

 俺は無線をもう一度コールして情報を再確認し、最終的結論を彼に告げる。

「裾野から海岸線に出て、南に走っていた車が、町外では確認されていないんだ。海岸線にそれらしき影はない。たぶん町を出る前の辺りで右折して……車ごと突っ込んで、隠せる大きな場所がある南の区域に居るんじゃないかと思う……」

 車は裾野から、ちょうどカタカナのコの字を描くようにうろなを走ったと推測する。俺達は裾野から商店街を抜け直線に南下したので、かなりショートカット出来ているはずだ。

「工場や倉庫であるか? 今日は日曜、探すのは骨が折れる作業となるだろう。それでも、警察には知らせぬか?」

「今から知らせた所で、警察が動く頃にはもううろなに居ないだろう。それなら、自分で動いた方が余程いい」

 その認識の甘さは、該当と思われる場所に辿り着いた途端に、思い知らされる事となる。









「広いし、一つ一つ工場自体が大きすぎて、回り道が多すぎるっ!」

「休みの工場でも、門が開いている所が多いのであるな」

「それでも守衛が居る所はないだろう……」

 息を切らせ、自転車ぶれいぶごうを飛ばす。時間だけが過ぎてゆく。

「本当は、今日、彼女と楽しい時間を過ごす予定だったのに……何でだよ?」

 ここは南に密集した倉庫や工場の一角。工事現場や築港があり、普通なら働いている者の目撃が求められるだろうが、日曜日である今日は、人通りが少なかった。

 配達でここに来る事はあっても、普通出入りは事務所だけで、このように広くて入り組んでいるとは正直知らなかった。

 それでも目に付く廃工場は幾つか覗いた。だが成果はない。自転車に跨ったまま、天狗仮面も渋く唸った。

「上空から見ればどうにかなるかもしれぬな。緊迫した事態である、ココは一つ空を舞って……」

「非現実的な事を言わないでくれ! こっちは真剣なんだ」

「お、怒る事はないであろう! 賀川殿」

 この場面でよく冗談が言えるモノだなと俺は拳を振るわせながら天狗仮面を睨んだ。だがその天狗と言う非常識な姿を見て、

「マントもついているし、飛べたりして」

 呆れながら笑った俺は、その時、ふと思い出す。

「そうか! この辺なら……後剣さん……そうだ、後藤社長に連絡してみるか!」

「後藤社長?」

「ん、ああ。俺の世話になってるタカさん……知り合いで、この辺の建設会社で……わっぷ!」

 途方に暮れた俺が怒りついでにこの辺の知り合いを思い出して、電話をしようとした時、真っ白い物が俺の顔面に落ちてきた。

「何であるか?!」

「ドリーシャ! お前っ、前から言ってるが、俺は木じゃないぞ?」

 遠慮なく頭にばっさり降ってきたのは白い鳩、つい名前まで付けてしまったマメ鳥、小さな白鳩のドリーシャだった。

「さっきも言ったけど、ドリーシャ、君に構っている暇はないんだ。ユキさんを追わなきゃなんないのに」

「そう怒ってやるでない、その鳥は賀川殿が笑っているのが好きらしいではないか」

「笑ってる?」

 俺はこいつが頭から降ってくる時を思い出す。

 確かに……あの夏の日バス停で降った来た時も、ユキさんが緩く笑うのを思い出し、次に話す事を考えて俺は笑っていた。

 次に降ってきた時は、生理的悪寒に耐えきれないレディフィルドの笛攻撃に対し、心配してくれる清水先生を安心させようと笑っていた気がする。

 さっきだって、ユキさんが携帯を握ってなかった事に呆れて笑った瞬間だった。

 今も……

「笑う門には福来たるである。急ぐのである!」

 天狗仮面が急に自転車の方向を定めだした事に俺は驚く。

「急ごうってどこへ!」

「賀川殿の大切な者の所へ!」

「どういう事だよっ」

「その鳥、『鳥車』と言ったか、賀川殿の探している車を知っているとの事」

「は? ドリーシャが何だって? ユキさんじゃあるまいし、喋れるとでもいうのか?」

 俺は虫と喋れるっぽいユキさんの事を思い出し、自信満々で走り出す天狗仮面が翻すマントを眺め見る。頭上の暖かい柔らかい重みに俺は尋ねた。

「お前、俺は『構ってやれない』って言ったのに。『どうにかしてユキさんを追わなきゃ』って聞いて、追ってくれたのか?」

 ドリーシャがくるるるっと喉を鳴らすのが、俺の耳には本当に返事のように聞こえた。そんな事、あるわけないのに。

「早くするのである!」

「わ、わかっている」

 だが、今、向かえる場所の情報はそれしかないのだから。俺は天狗仮面に自転車を並べる。

「本当に……その面、貸してくれないか? 別に顔を隠して無くてもいいだろう?」

「……賀川殿」

 呆れたかのように天狗仮面は俺を見て、

「私は顔を隠しているのではない、これを付けるは何を隠そう、天狗仮面だからである。故にコレは私である。賀川殿はどうか?」

「俺は天狗仮面じゃ、ないさ。でも俺は、顔を、隠したいんだ。今だけでいい」

 天狗仮面は暫し考えて、

「先程、狛犬の話をしたが。獅子と狛犬はどうやったら見分けられるか知っているか?」

「そんなの知らないさ」

「それは口の形である。獅子は口を開いて最初に出す『』を示し、狛犬は口を閉じて出す最後の『うん』を示す。それを『阿吽』と言い、それは宇宙の始まりと終わりを示すとも言われている。私と同じ面を被ると言う事は『阿吽の呼吸』、気持ちの一致を意味する。賀川殿にとっては天狗の面は暫しの偽りの姿かもしれぬが、私にとってはそうではない。わかってくれるか?」

「…………済まなかった、安易に言ってしまったんだな、俺」

 言葉の半分も理解はしていなかったかもしれない、しかし彼の矜持は高く、まごう事なくうろなの平和を愛し守る『天狗仮面』たらんとしている事はわかった。俺のようにただ顔を隠したいだけに被るのを許す物ではないのだろう。

 俺の言葉に天狗仮面は満足そうに頷いた。

「……わかってくれるなら、この仮面に泥を塗る様な事はせぬであろう。そしてこの面を貸す事が賀川殿の助けになるのなら、この天狗仮面、手を差し伸べぬわけにはいくまい。幸い、今日は予備の天狗面も持ってきているのである。ただこれを付けた瞬間から、暫しの時、貴殿は私と同じく天狗仮面である」



 言い放ったその手には目の前にいる天狗よりも、鼻の低い、天狗の面があった。




うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/


天狗仮面様、そして鼻の低い天狗面を。



キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)

http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/


マメ鳥ちゃん(ドリーシャ)


お借りしています。問題があればお知らせください。


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