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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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180/531

膠着中です(うろなの平和を守る者)

三人称です。



 






  「そ! それ俺のだぞ! みんな、俺の自転車が盗まれる!」

 賀川は河川敷に置いてあった自転車に手をかけたポーズで固まる。彼は目の前に広がる光景に呆然として逃げ出す事も出来なかった。

 彼が先程までいた位置関係と、河原のそこには葦が生えていて。その草陰になって気付きにくかったのだが、そこには…………『赤いお面』を被った者が、1,2,……5人もいた。手にはビニール袋。

「鼻、長っ……たしか、『Japanese HANNYA』か?」

「ちげーだろ? 天狗だっ!」

 賀川が日本、うろなに居るようになって、商店街などで遠目ながら、たまにいるのを見た事がある般若……ではなく、『天狗』の仮面を被ったその男。それが何故か『五人』もいた。『天狗がうろなの治安を守る為、日夜働いている』と聞いた事が、賀川もあった。

 昔は通報される事もあったが、今ではうろなで天狗を知らない方が怪しいと言われるのだと。賀川は配送中に遠くから見たり、うろなで悪さをすると天狗に注意されるらしいぞと彼自身が言う事はあっても、それは聞きかじりの知識で、天狗仮面と名乗るその男と話した事はなかった。

 朝から河川敷にあって、葦に隠れた人影は見えず、放置自転車かと思い、ならば緊急なので借りようかと思ったのだが、その賀川の考えが裏目に出つつあった。

「盗人め。俺の『ぶれいぶ号』を盗る気だったろう?」

「ききき、緊急なんだ、貸してくれないか?」

「緊急って何だよ? 盗人。若いんだから走れよなー」

 走って追いつけるモノならそうしているさ、賀川は上手く言葉が紡げなかったが、心の中で呟く。そうしている間に赤い面が寄ってくる。

「どうしたんだよ~」

「こいつが俺の自転車盗っていこうとしたんだよ」

「それも無理・・のいいことに、貸してくれだってさ」

「それ、ムシの良い事に、じゃない?」

 天狗の面をかぶっているのは小学生のようだった。ワイのワイのと集まって、賀川を糾弾する。このままでは完全に盗人扱いされてしまう、だが四人集まった赤い面を被った少年に、異様なモノを感じる賀川は押され気味で上手く言葉が出てこない。

「お願いだ、その、悪気はなくて」

「悪い奴の言い訳は必ずそうだよな?」

「あ、待って。この人」

 四人のうち一人が、賀川のポケットから落ちた水玉の帽子を拾ってまじまじと眺めていた。だが、声が小さかったため、他の三人には届かず、

「天狗の兄ちゃん、ヘンな奴捕まえたっ!」

 お前も天狗だ、そう突っ込みたい賀川の気持ちはさておいて。



 一番遠くで、余りに熱心に何かをやっていた『彼』は、この騒ぎにやっと気付いた。天狗の中でも大きく、どうみても大人だった。たぶんアレが噂のはんにゃかめん……いや、正真正銘うろなの天狗仮面だろうと、賀川は慌てる。

「何であるか、今日、午前中のうちにコレを済ませ、渉殿の為に私なりの応援をしに行かねばならんのに。どういう事であるか小天狗達よ。折角のクリーンキャンペーンであるのに遊んでいる暇は……」

「ち、ちげーよ、サボっていたんじゃない。コイツ盗人だ!」

「自転車ドロボーだよ」

「ご、誤解だっ、これには深い事情が。ユキさんが攫われて足が欲しくて……」

「攫われ? ユキさん? ゆき? 森の幽霊?」

「盗人であると? これは立花殿に知らせねば」

「違うよ、誤解だよ、はん……天狗仮面」

「悪人に、問答は無用である」

「攫われたって森のユキねーちゃん?」

「何だと、人攫いまで? これは言語道断」

「わーーーー誤解だ!」

「俺の自転車を取ろうとした、悪い奴だから」

「任せておくのである。引っ捕らえて警察に突き出してくれる!」

「警察? 無理だね」

 そんな事をしていれば、ユキは連れ去られたまま、行方など掴めなくなってしまうだろう。賀川の耳に差し込まれたイヤフォンからは、賀川各局から回された情報が集まりつつあった。あの傷入りの車では目立つ。乗り換えを考えるだろう。乗りかえってしまったら……もう、手がかりは永遠に失われてしまう。

 ユキの力を知る者ならば、賀川の命を奪った後にユキを殺すにせよ、彼女が殺されないまでも辱めを受ける時間を与えるわけには行かない。いや、もう、あの車の中だってそれが行われていてもおかしくはなかった。気が狂いそうになりながらも賀川は呟いた。

「何でこんな事に……」

「それは己の行いによる結果である。今さら悔いても遅いのである。覚悟!」

「ココで時間は使ってられないんだよ……」

 賀川の後悔など聞く耳持たず、一番大きな天狗の男はビニール袋を他の小天狗に渡す。

 そしてゴミを拾う為に持っていた火鋏を正眼に構えた。彼のいつもの得物は古い和傘であったが、ゴミ拾いには適さないため、少し離れた場所にあった。その為、その手にあった火鋏を構えたが、本来の獲物より細いとはいえ長さは充分であった。弘法は筆を選ばず、その構えは油断なく、ただの掃除道具が、真剣のように輝く。

 回りを囲んでいた小天狗達は慌てて距離を取る。賀川の帽子を掴んでいた少年だけが動きが遅れたが、他の少年に首根っこを掴まれ、後ろに動いた。

「ねえ、あの人って……」

 その唇から洩れた言葉に、誰も気付かず、

「マズイな。言い分は聞いてもらえそうにない」

 賀川は天狗仮面の体から漂う気配に並々ならぬモノを察して身構える。天狗仮面が構えるのは掃除道具とはいえ鉄の棒であり、まともに受ければただじゃ済まない。この頃、剣の素養がある魚沼から稽古をつけてもらってはいたが、賀川にとって歩のいい相手ではなかった。

「ゆくぞ、悪党!」

「っ!」



 一刀両断、問答無用。



 小天狗四人は天狗仮面が手にした火鋏の軌道は正確に賀川の動きを捕えているかに見えた。事実、火鋏は賀川の肩を打ったかに見える状態。しかし、賀川が何処からか出した麻紐がその軌道を捕え、天狗仮面の万力がその身に降り注ぐ寸前で食い止めていた。真剣白羽取りは難しいが、多少逸れても麻紐がそれを受け止め、尚且つ火鋏の鋭利な部分で怪我する事もない方法だった。

「ぬ? お主、やるな」

「お願いだ、時間を無駄にしているわけには行かないんだ。早くしないと」

 賀川は蹴りを繰り出し、天狗の腹を狙うが、逃げられる方が早い。間合いを取られると天狗の方が棒を持つだけに断然有利だ。賀川も仕方なく、自分でカスタマイズした指示棒をポケットから取り出し、長くする。

「麻紐にはワイヤーが仕込まれており、その棒もそれなりの硬度と見た。そんなモノを常備している所を見ると、余程の悪党であろうな」

「ああ、俺は悪党だろうな」

 ユキを守る為ならば手段は問わない、そう考えて何が悪い。それが悪と言われるならば賀川は一向に構わなかった。今、躊躇もなく刃物を振る連中の元に彼女が居るのだ、ココで足を長く止めるわけには行かない。

 再び天狗仮面が賀川へ向かって飛び込み、賀川はシナりを使って打ち込みを受け流す。

 その度にきん、きんっと、河原に鋭い金属音が響く。

「コレほどの腕がありながら、悪党とは惜しい」

「悪党だろうが、善人だろうが、俺はどうでも良いんだよ、彼女以外、大切なモノはない」

「大事な者があるなら、尚更、盗みなど……」

「時間がとにかくないんだよ!」

 噛みあわない会話、焦っている賀川は天狗に向かって容赦なく細い棒を振り回す。一瞬、隙が出来たら逃げ出せばいい。賀川は時間短縮の為に慎重さを欠き、その乱れた動きに天狗仮面は訝しみながらも火鋏を横に薙ぐ。

「うわっ」

 見た目では天狗仮面の掃除道具が触れて見えたかも知れない。だが受けた賀川は当たってもいないのに、風圧を感じている事に驚いた。その抵抗は強く、体が激しく吹き飛ぶ。何とかバックステップを踏む事で耐える。だが、その隙に天狗が跳ねた。

「もらったのである!」

 火鋏が陽光を受けてきらりと輝いた。賀川に握った棒を麻紐へ持ち替えてそれを避ける隙はなかった。

 賀川はユキを思いながら、どうしてこんな事になってしまったのか、悔やんだ。

「待って! そのヒト、賀川急便のにーちゃんだっ! それなら知り合いだよっ、ごめ、てんぐのにーちゃん!」

 仮面の少年の一人が叫ぶ。その隣には帽子を持った少年がいて、叫んだのはもともと賀川を盗人と呼んだ少年だった。

「なん?」

 その声で天狗仮面は振り上げた火鋏を止めようとした。だが勢いに乗った必中の攻撃は止める事が出来ない。

「くっ」

 賀川は指示棒を横にし、両手で持ったが、天狗仮面の一撃に棒は砕け、その頭をかち割らんばかりの勢いで迫った。火鋏が見事なまでの黒髪に覆われた頭に達する一瞬、天狗仮面は信じられないモノをみた。

 今、頭を打ち据えようとする鉄の棒が迫っていると言うのに、相対する男はその顔を上げて涼やかにニコリと笑っていたのだ。砕けた指示棒の破片がキラキラと舞う中、確かにその男は笑みを見せた。その顔面を砕かんばかりの鉄の棒が迫っていると言うのに。

「喝!」

 天狗仮面は気を吐き、握りしめている火鋏を手放した。戦闘中、自分の握る武器をそれもこの近距離に飛び込んでいる今、手放す事など命を捨てるに等しい行為だ。上段に構えているが故、防御はおろそかになっている。賀川が掌底や蹴りを放てば立場は逆転する。

 それ故、渾身で握り締めている、常人であればその手の得物を捨てる事が難しい瞬間、だが天狗仮面は自分が受けるかもしれない反撃より、『冤罪』で男を打ち据えてしまう事を避けた。



 からん、からんっ……




 その長い鼻が笑む男の顔を突かぬ様に顔を少し傾ける。頭を叩く物は手放したものの、勢いは殺せていない。その為、頭上で指示棒を掲げていた賀川の胸に天狗仮面は飛び込む形となり。



 そのまま、天狗仮面の仮面越しとは言え……二人はキスをした。



うろな天狗の仮面の秘密  (三衣 千月様)

http://book1.adouzi.eu.org/n9558bq/


天狗仮面様、謎? の子天狗四人組、お借りいたしました。傘さんは存在だけ。



"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生、決闘の日、当日。

まだまだ行けそうにない会場…


問題ありましたら、お知らせください。

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