追跡中です
三人称です。
賀川は必死に車を追ったが、追いつく事などやはり無理だった。
車と人、どう考えても差がある。初動で止められなかった時点で、賀川に勝ち目などあるはずもなかった。小道を駆け抜け、その車を再度発見した時は、裾野の少ない民家の間を抜け、全速力で疾駆する車が見えた。
賀川は携帯でユキが携帯を所持しているかGPSの確認をする。持っていた所で、電源落されたら意味がないが。
「らしすぎる、か」
ユキの携帯が裾野の自宅で止まっているのを見て、賀川はふと笑う。今日は一日側に居るつもりだったから……自分の不覚に臍を噛みながらも彼は笑っていた。こんな状態で笑っている場合ではないが、彼女の行動が余りに余り過ぎて笑いしか浮かばなかったのだ。忘れ物をしたと言う彼女に、一緒に携帯を持ってこさせなかった事を後悔する。
「こんな所で笑わせてくれるなよ、ユキさん」
賀川がそう言った途端、頭にばさばさっと白い物が降ってくる。
「お前は呼んでないよ、ドリーシャ……前から言ってるが、俺は木じゃないぞ?」
それは賀川が『美味そうな』名前だと思っているレディフィルドのマメ鳥だった。マメ鳥、謎の郵便屋の使う小さい鳩の総称であって個別に名前があるかは賀川は知らない。だが三度も舞い降りられた為、なんとなく名前までつけてしまっていた。
「どうにかしてユキさんを追わなきゃ。ドリーシャ、君に構っている暇はないんだ」
彼がそう言うと、ドリーシャはバサリと虚空を舞って消える。
賀川は何だったんだと思いながら、その行先を見る暇なく、近くにあったコンビニに賀川急便の水玉トラックを見つけた。コンビニは賀川にとっては荷物の集配を受ける場所の一つ。ちょうど出てきた仕事仲間を見つけ、叫ぶように、
「すまない、三番! 無線機を……」
「ど、どなたですか?」
賀川はそう聞かれて、自分が賀川の制服でないのに気付く。ポケットに入れていた帽子をかぶると、三番と呼ばれた水玉制服の男は何だと言わんばかりの表情で、
「おはようです。一番さんじゃないですか。前田さんちじゃなかったらわからないっすね~」
賀川は最後まで聞く暇もなく、トラックに載った無線機を奪い取る。本当はトラックを奪い取りたかったが、小回りが利かないので迷う。その時、賀川は近くの河川敷にぽんと置かれた自転車を見つけた。辺りに人影はない。
「あれだ!」
そう言いながら走り出そうとする。だがその賀川に三番賀川が縋る。
「ちょ! 一番さん、こま……」
「予備、後ろにある。頼む、黒のワゴン、左の扉にひっかき傷のある車を見つけたら、メイン傍受してるから、呼んでくれ!」
「どう……」
「あああ、もう、k要請だっ!」
適当に賀川は嘘をつきつつ、帽子を脱ぐ。k要請と言うのは隠語で、品物が無くなった、もしくは盗まれた事を指す。賀川にとっては、ユキを盗まれたのだ、あながち嘘でもなかった。
「それは、大変、わかりましたからっ」
賀川は三番のその声を背に走りながら奪った無線のハンディを焚き、メインでCQ、つまり呼び出しをかける。
『CQ CQ CQ
こちらは○○○ジュリエット、オメガ、ノベンバー、こちらは○○○JON、
うろな一番、k要請ポータブルです。
○○○、アルファー、チャーリー、ロメオ、○○○ACR、及びカガワ各局、
このままメインにてお待ちしております』
アルファー、チャーリー、ロメオ、『○○○ACR』、会社の配車係をコールし、その関係者を呼び出す。賀川の務める会社の配車係は、だいたいアマチュアのメインで遊んでいるから捕まるはずだ。そして予想通り、今日も朝も早くからすぐに捕まった。この時刻ならだいたい開いているサブを探し素早く誘導し、呼び出したサブで、『K要請』と言う事で、うろなの海岸方面に向け、ナンバーが見えない傷有のワゴンが走っているのを告げ、他の車や急便の関係に連絡してもらう。こうしておけば、他の近隣の『賀川』も呼びかけに応じて、気を配ってくれる。
本来ならモノを取られたとなれば警察に通報しなければならないが、それは運送屋の信用問題。まずは自力回収を目指すのが賀川急便のやり方。それに便乗し、賀川は情報を集める。後から始末書物でも構いはしない。
そうしつつ、河川敷に置いてあった自転車に手をかける。
「そ! それ俺のだぞ! みんな、俺の自転車が盗まれる!」
賀川はその声と、目の前に広がる風景に驚いた。
キラキラを探して〜うろな町散歩〜 (小藍様)
http://book1.adouzi.eu.org/n7439br/
レディフィルド君、
マメ鳥ちゃん(ドリーシャ)、ついに賀川が名前を付けました。
お借りしています。問題があればお知らせください。




