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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月27日

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178/531

始動中です(悪役企画)

穏やかな朝。

ユキの笑顔が眩しいと、心から幸せだな、平和だなと思う。

賀川。


 







「じゃあ。行ってきます」

 ユキさんははらりと白いレースの傘を手に取る。月半ばのまとまった雨の日は過ぎ、傘はしっかり干され、日傘として機能した。

「清水先生によろしくね」


 

 今日清水先生はその義理父との間で、娘をかけた『決闘』に望むと言う。と、言ってももう籍は入れてしまっているのだが。つまりは義理の親子喧嘩なわけだ。

 開始時間は昼過ぎ。俺とユキさんはそれを見学に行く。

 主審として魚沼先生が入るので、冴姉さんが何だかうれしそうだった。

 今でもまだ八時だと言うのに。

 一時間ほど前には、商店街にある工務店へ向かうタカさんの車に便乗して、もう先生の所に出かけてしまった。タカさんは、事務所でバイトの面接と仕事があるとの事で、会場にて落ち合う事にしている。

 俺とユキさんは徒歩と電車で会場に向かう予定にしていた。途中、うろな駅で朝食を取って、少し買い物をしてから、電車で昼前に動き、会場に入る予定だった。

 葉子さんは賄いや仕事があるので、残念そうに俺達を見送ってくれる。ゆっくり朝の散歩。手を握ると柔らかく返してくれる。

「こうやって『町』に行くのって夏祭り以来かな?」

「た、っ、たぶん、です。はい」

 この所、彼女との間は穏やかな日が続いている。



 一週間ほど前、母とアリサから花が、レディフィルドの手で届いた日。

 酷く昔の記憶が込み上げて俺を退行させ、牙城が崩れた様に涙が止まらなかった。それも……ユキさんが親切で肩にかけようとした服を、移動する際に視界を遮る為に頭へ被らされる息苦しい袋を思い出して焦った。

 あの袋が取られるまで、生きている事が出来るのか。辿り着く先はどこであるのか。地獄の底で少しでも真面な地獄に着くように祈るか、音の幻想に逃げ込んでいた。あの恐怖がまだ魂の底にこびり付いているのを思い出して辛かった。

 母とアリサに『許し』をもらえたような温かい気持ちと、過去の苦しい残像がないまぜになって、俺の気持ちはまとまらなかった。それを察したのか彼女は俺の側に居てくれた。



 その日は誰もユキさんを連れ戻しに来なくて、鍛錬の時間に目覚めた時まで彼女の熱も体もそこにあって。縋ってボロボロになるまで彼女を掻き抱きたい衝動を堪えながら、布団をかけて道場に入った。

 夜の間、ユキさんを占有したのだ。

 いつまでも浴びた返り血や振りかざされた理不尽な過去にめげてなどいられなかった。俺は、彼女を守ると言ったのだから。

 タカさんは何も言わず、酷い睨みといつも以上の蹴りと殴りをくれた。それを応酬する激しい鍛錬となった。清水先生が自分の『本番』が近いからと言う以上の、何かを察したのか『何かやった? 賀川君』と聞いてくれて、『無駄口叩くなぁ、先生よっ』と八つ当たりされていたので笑ったら、いつもの倍くらい清水先生にやり返された。

 そう言えば清水先生と二人きりとか、道場とかだと、ごくたまに賀川さんではなく賀川君と呼んでくれる事があって、そんな事で親しくなった気がしたり嬉しくなったりする俺は、とても友達がいないなと思う。



 あれから鍛錬を終えて部屋に戻った頃にはユキさんは居なくて。

 彼女もタカさんも、葉子さんや他の兄さん達も。そして俺も、その夜の事は今の今まで誰も触れてはいない。

 一緒に寝たけど、いや、その寝たって言うか、その、何もしてないからね?

「今日は緊張するのです」

 ユキさんの言葉に我に返って、

「緊張するのはユキさんじゃなくて、清水先生だよ」

「そうですけれど、司先生のお父様に渡しに……あ、渡す栞……」

「どうした?」

「その、あれ? も、持ってきたつもりで忘れ物をしてきました! すぐ取ってきます」

 俺は家が見える所だったので、その背を何げなく見送る。家に入ってすぐに彼女が出てきた。忘れた物はすぐにあったらしい。そそっかしささえも可愛くてならない。そう余裕を持って考えられる俺はだいぶ正常なのだろう。

 ユキさんがトコトコと駆け寄ってくる。彼女の着たワンピースは淡いミント系で、小さな花柄が可愛かった。ワンピースにあしらわれた共布の綿のレースが揺れ、白髪を飾るのは黒い蝶のバレッタ。虫は苦手じゃないのと聞いたら、『蝶の幼虫とお友達は無理です、でも羽根が生えたら大丈夫、です』と答えた。

 俺は変わり映えのしないジーンズに洗い立てのシャツ、黒いジャケット。そして……

 そんな無駄な事を考えていた時、すうっっとユキさんの後ろからワゴン車が徐行で近寄った。そのまま通り過ぎるかと思われた黒い車がユキさんの僅かに前で止まる。

 それは一瞬の事。

「ごめんね、ゴメンね」

「え?」

「ゴメンって言ってるよね? 綺麗だね、褒めてゴメン。でも君をヤりたいな、って、思ってゴメン」

 ガラリと開いた車から出てきたのは青い、染めたのかカツラなのか、男子にしては少し長めの蒼い髪。綺麗な顔立ちをした男の手には……ナイフ。

「ユキさん!」

「来てもらってごめんね。すぐに楽しく、気持ちよくしてあげるからごめんね」

 怯えて身を竦めたユキさんの腕が引かれる。白い傘が手から零れ、舞った。俺は咄嗟にポケットからペンを取り出して投擲する。ユキさんの体を適当に刺そうとした刃物が刺さる寸前で素っ飛んでくれた。

「つっ! 御挨拶に刺してあげようと思ったのに邪魔されちゃった。ごめんね」

 腹が立つほど『ごめん』しか言わない男。その手からナイフは弾いたが、もう一人現れた白服の美青年がユキさんを素早く拘束し、青い髪の男の腕を掴む。

「やぁっ、賀川さ……」

 白服男は無表情で、人間を二人引きずっていると思えない軽やかさで車に引き込んだ。俺がダッシュしてユキさんが居た位置に立つのと、車が発車するのは同時だった。

「ユキさん!」

 スモークで見え辛いけれど窓を叩くユキさんはそれでも白く。それを引き込む男の腕と青い髪の男の嘲笑を湛えた唇。乱れる白髪、歪む赤い瞳。俺の名を呼ぶ声が、俺の鋭い耳には窓越しに微かに聞こえた。

 車は凄い勢いで走り去ろうとする。俺はポケットから出して掴んだ鍵で窓ガラスを殴り、そのままの流れで鍵は車体を渾身で傷つける。ガラスは割れなかったが、面白いほどに長く糸を引く銀色の筋を黒い車体に残す。

 更に青髪男が地面に落としたジャックナイフを拾い、タイヤに投げつけかけたが、桜色の髪に桜色の肩出しの和装衣の少女が通り掛かった事で、躊躇してしまう。流石に巻き添えるわけにはいかなかった。

「ちっ!」

 全速力の車に人間の脚力で勝てるわけはない。だがこのまま目標を見失うのを避けるため、全速力で追う。家までは数メーターだが、駐車場は奥で、賀川の車は重機の奥のスペースにあったから、取りに行って追う頃にはその尻尾は見えなくなっている。それがわかっていたから、方角だけでも掴もうと必死に走る。頭の中で地図を広げ、できうる限り最短描き走り出す。



 だから通りすがりの桜色の少女がその桜のような唇に浅い笑みを浮かべながら、ユキさんの白傘を畳んだ事。その桜色の目線を上げた先、少し高い塀の上に、似たような肩出しの和衣装の女性が居た事に気付かなかった。

 塀の上に居るのは桜色の少女よりも年上で、服のデザインは同じながら、色は青で銀糸により見事な雲の紋様が描かれた服を着ていた。年を重ねたからこその妖艶さを醸し出す女は、ふっと笑う。

「さて、今日は何人死ぬかしら? 桜嵐さくらん

余波なごり教授は何人と思うの」

「そうね、全員でもいいわ、よ」

 教授と呼ばれた女は左を長くアシンメトリーに伸ばし、その左目を隠していた。見える右の目はまるで獲物を捕まえる前の猛禽類のようにぎらりと光っていた。手にした巻物が風になびいて広がるが、それは半分くらいまでしか文字が書いていない。

「綺麗に散るといいですわね」

 命のやり取りとは思えない、まるでそれを花が散る話をしているように軽くそう言いながら傘を持って、桜色の少女は前田家の呼び鈴を鳴らした。

「どなたかしら? あら、まぁ綺麗なお嬢さんだこと」

「あの、落とし物を拾ったのですが、お宅のではと……」

「これはユキさんの。そそっかしいわね。忘れ物を取りに来てコレを忘れたのかしら? ありがとう、入って。お茶を……えっと」

「『さくら』ですわ」

 その時にはもう、巻物を手にした変わった髪型の女は塀の上に無かった。





"うろな町の教育を考える会" 業務日誌 (YL様)

http://book1.adouzi.eu.org/n6479bq/

清水先生、決闘の日、当日。

そちら側から見ると『裏』の話になります。


lllllllll


悪役企画始動中です。

(尚、『悪役』表記の方と絡む場合は当方に『コラボ申請』を。彼らには『死』が絡む事、又ぽつっと町から居なくなる事があります。それを取り立てて騒いだコラボ話などは基本遠慮させていただきます。大切なお子様としてお預かりさせていただいておりますので、事前にメッセないコラボも基本ご遠慮させていただきたいと思います。ご注意ください。)


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『以下4名:悪役キャラ提供企画より』



車内の男二人(『治』運転中)

しずく』パッセロ様より

金剛こんごう』弥塚泉様より



桜嵐さくらん』呂彪 弥欷助様より

余波なごり教授』 アッキ様より



問題あればお知らせください。

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