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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月20日

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174/531

続・色彩中です

それは、永遠に。



 






 午前中は清水先生と、どつきあい……ではなく、特訓の手伝いをしていた。

 日曜以外、毎朝、体が持つ限り、仕事の都合がつく限りは訓練に来る清水先生。休んだのは梅原先生が倒れた土曜日だけだ。

 成長著しく、覚悟も固まってきて、素晴らしい伸びだ。

 俺も少しは成長しているだろうか?

 よくわからない。

 俺の方が先週は鍛錬の休みを入れた。痣をユキさんに見られたくなくて、家にも戻らなかった。姉さんがタカさんと結び付けてくれた事が、今、俺を穏やかな気持ちにする。





 ラッシュで倒れなくなり、最初の集中に時間も要らなくなってはいるが。

 一撃目の発動は問題ないと魚沼先生に何らかの場合の使用も許可された。



 現在、二撃目は禁手となった。



 実際それほどの物なのか、意識のなかった俺にはわからないのだけど。



 今日、俺は森から帰宅したユキさんが熱がありそうだと聞いて氷枕を持って行った。その際に聞かれる、『何をしていたんですか?』っと。決闘に望む清水先生の手伝いなんか、俺に出来るのかと言いたいのだろう。

 二撃目のラッシュ…………気付いたらすごい形相の三人に組み伏せられていた。二撃目は一撃目とは比べ物にならない程、『凶暴だ』と魚沼先生は評した。

 俺が不穏な場所で生きてきたのを知っていても、誰が好きな者に『凶暴』と称される部分を、片鱗と言えど見せたいだろう?

 そうユキさんは知らなくていい。

 俺に守られていること何か感じずに、ノビノビと彼女には絵を描いていて欲しい。だから俺は軽く誤魔化して部屋を出た。

 それが彼女を思い悩ませる事になるのだと気付くのは少し後の話になる。



「しかし、わかるのか。これ」

 俺は手の甲を見やる。

 たぶん魚沼先生に叩きあげられた殴打痕、一週間たった今になって言われるとは思わなかった。それまで微妙に意識して隠していたが、俺には消えて見えたからもう大丈夫と思ったのに。近付いたせいか指摘された。

 服を脱げばタカさんの掌底、首には不完全とは言え抜田先生の寝技で絞められた痕。戻ってからも毎日清水先生と殴り合ってるし、生傷は絶えない。

「服で隠せない所は遠慮とか、言ってられないんだけどな」

 ま、適当に誤魔化すしかない。清水先生の件が落ち着けば、鍛錬の時間もこんな荒行ばかりではなく、もっと基礎を重ねる物に戻るだろう。そう思いながら食堂の前を通りかかると、

「おう、賀川の」

 清水先生の特訓から締め出されたタカさんは不機嫌そうに俺を見た。

「俺をそんな目で見ても。仕方ないでしょう」

「まあ、な。どうだ、ユキは」

「絵を描いていたみたいです。寝る様に言いましたけれど」

「ふうん。至らない事して無いだろうな?」

 とりあえず頷いておく。

 冴姉さんは相変わらず魚沼先生にご執心だ。ペッタリと張り付いて離れない。今日も彼の元に出かけているはず。

「俺、今から商店街に行きます。なのでついでに姉さんを連れて帰ってきますよ」

「そうか、頼むな。ぎょぎょには連絡しておこう」

 本当は、手が空いたらユキさんにデートを言い出すつもりだったのに。

 もっと早く聞いておけば、筆を取りに俺が付いて行けたのに。

 ……色々、残念に思いながら俺は家を後にした。











 俺は一軒の店の扉の前に立つ。自動扉が開くとユキさんの部屋と同じ匂いがした。

「いらっしゃいませ」

 ここは『うろな文具』。カッターとネクタイにエプロンと言う姿の、気のよさそうな店主が俺を迎える。だが誰かわからないようだ。ポケットに押し込んでいた仕事の帽子を被ると、

「ああ、賀川君、私服じゃわからなかったよ。よいの先生の注文品があるけれどそれの受け取り?」

「受け取っておきます」

「頼むよ」

 俺は紙袋に包まれたそれを受け取り、店内を見回す。

「あの、篠生は?」

 そう、あいつはうろなに住みついてから、ココに勤めていた。

 姉さんはあいつを俺の『Childhood friend』、幼馴染と呼んだ。その上、少し前にユキさんの森の家で、俺は『情報源』に会い、更に宝さがしに来ると言った。

 その意味を確かめたかったのだ。だが電話は辛うじて出てはくれるが、また後日と言って相手にしてくれない。

「ああ、篠生君ね」

 店主が溜め息をつく。

「辞めちゃったんだよね~急にさ。暫く来られないので辞めますって。募集かけてるんだけど、戻って来てくれるんじゃないかって、次の子入れてないんだよね」

「そ、う、なんですか? 連絡先は」

「それが、履歴書貰っていた筈なんだけれどもね、無いんだよね。でも町外の音大の助教授していると聞いているよ。でも席だけでお金にならないからここで小銭を稼いでいたようだよ?」

「音大、ですか」

「うち、絵具とかだから、美大ならわかるんだけどね。そんな質問したから確かだよ」



 俺は店から出て、裏道を抜ける。その時、少し先にあるうろな斎場から出てくる霊柩車とすれ違う。焼き場に向かうのだろう。

 ふと今日、一週間ほど前に亡くなったという女の子の葬儀があると聞いたのを思い出す。

 その人の葬儀かは俺にはわからない。それでももしかしたらその女の子に家に届け物をしたかもしれないし、配達中に、町の中で擦れ違いくらいはしたかも知れない。

 そんな事を考えながら、ユキさんが追悼の為に描いたと言う海の前に立つ少女の絵を思い出す。

 そう、いつものように一瞬で絵がハッキリはしたが、前のように変化はないと思った絵だった。



挿絵(By みてみん)



 だが俺とユキさんの目の前で、たぶん下地に描いただろう黄色の花が、ゆっくりゆっくり光と海に溶け込む様に、見事に浮いてくるのを思い出す。



挿絵(By みてみん)



 それは誰かが誰かの為に微笑むように。

 儚くありながら永遠に輝くように。



 俺はちょうど雲の隙間から強く射したその光に冥福を祈った。

YL 様『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』清水先生。話題で司先生。

10月20日

裏の賀川の動きです。

朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。リズちゃん。特訓している頃。


とにあ様『URONA・あ・らかると』より、千秋さんのイメージと、

寺町 朱穂 様、『人間どもに不幸を!』より、お葬儀の話を。


問題がありましたらお知らせください。


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