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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月20日

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172/531

心配中です

誰だろう?



 



 前の日曜から、数日家をあけた賀川さん。

 出かける時、少し様子が変でした。



 それが気になって、落ち着かなくて、ずっと絵を描いていました。森に行って絵が描きたかったけれど、雨も降っているし、黙ってどこかに行っちゃダメって言うし。葉子さんに言って行けばいいって事でしょうが、何となく家から離れられなくて。



 数日後、賀川さんが帰ってくると聞いていたけれど、朝来るとは思ってなくて、扉を開けたらお粥の入った土鍋を持った彼が居て。何故かすごく慌てた賀川さんはお盆を取り落とし掛けました。

「わ、賀川さん、熱いのにっ」

 私の体に落ちかけた土鍋の蓋を零さぬように手で受け止めて。鍋部分も体に! すぐに床に置きましたが、熱そうです。

「や、火傷しますよ!」

  冷やすために脱がせようとして、チラッと見えたお腹、包帯? 何だろうって思ったけれど、考える間もなく隠されて。

「大丈夫、それよりユキさ、ん、濡れたよっ! すけて……うっ」

 言われて気付きます。お茶の入ったコップはプラスチックで冷たいお茶なので、体にかかっても大丈夫でした。でも確かにびしょ濡れです。

「大丈夫? 火傷ない? 水はたくさんかかった? 着替えて、風邪ひくよ。脱がす想像はしても逆は……」

「え?」

「いやいや、ユキさんは女の子だからね? ダメだよ」

「あの、私は大丈夫ですけれど、賀川さんの方が……」

「俺より、ユキさん! ほら、早く着替えて。見えるから、濡れて、食べれる? うん。透けてる。作り直してもらう? ヘタに脱ぐより効果が……」

「?」

 口早に言うので何を言いたいのかわかりませんが、とにかく心配してくれているようです。

 土鍋は中に入った卵の位置が悪くなっていましたが、お粥は無事で。落ちたレンゲやコップを洗えば、お茶もこの部屋にあるし何も問題ありません。だから『大丈夫』だと告げると、急いで私とお粥の鍋を部屋に押し込み、着替えるように厳命すると、賀川さんは行ってしまいました。



 何だか、その態度がおかしくて。



 お粥を食べた後、絵を描き始めると、色がうまく載っていい感じです。

 おかげでそれからひまわりの絵は描き上がったのですが、連作の海の絵は、森の家においている筆が使いたくて。降り続いた雨も止み、二日曇りが続いて今日は晴れ。

 足場も良くなっているでしょうから、取りに行く事にしました。



「確か、今日、おやすみらしいから。賀川さんに一緒に行ってもらおうかなぁ?」

 そう思って食堂を覗くと。賀川さんと清水先生が仲良く朝御飯中です。なんとなく話しかけ辛くて。

「彼女、朝から来てくれるんだよね、賀川君。それでも時間ありそうだし、来るまでは、その、頼むよ?」

「はい。でも俺も覗いてみたいな」

「ベルさんがダメだって言ったんだろう?」

「ケチだなぁ。まあ、もう一度頼んでみるかと思います。とにかくばっちり動画が取れる様にカメラをセットしますから」

「頼むね、賀川君」

 本当は森に賀川さんと行きたかったのだけれど。二人は私に気付かず、どこかの部屋に行ってしまいました。

 清水先生は来週の日曜に司先生のお父様、と決闘なのです。その手伝いでカメラの用意があるようです。それを聞いてしまうと仕方ありません。葉子さんに尋ねてみると、今日はリズちゃんまで来て、ベル姉様が画面越しで指導するとの事。何だか賀川さんまでそれを見学したいようなのが気になりますが。

 その後、カメラの設置が終わったら戻ってくるだろうと少し待ってみましたが、賀川さんは戻って来なくて。私に付き合う暇はなさそうです。




「では行ってきます」

「気をつけてね。でも賀川君をもう少し待ったら?」

「いいえ。子供じゃないですから」

 葉子さんに出かけると言って、一人、家から出ようとしたら、玄関が開きます。

「おはようっス! 雪姫ちゃん。あれ? どこかへ行くっスか?」

「おはようございます。リズちゃん。今から森へ行くんですけど。今日は清水先生と待ち合わせですよね……?」

「そうっスけど……あの、あいつ、賀川さんは? 仕事?」

「いいえ、今日はカメラの設置がどうとかって」

「じゃ、私が森へお供するっス!」

「ええ?」

 私と葉子さんは驚いて同時に声を上げます。

「だって雪姫ちゃんを一人で行かせるのは心配っス!」

「大丈夫ですよ。どうしても使いたい筆が森にあるから取りに行くだけなのです」

「っと、言うわけで、昼には戻れるッスね? じゃ昼からって伝えてくださいっス、葉子さん!」

「本当に行くの?! リズちゃん、ベルちゃんも画面で時間合せて待ってるとか言ってなかったかしら?」

 葉子さんの疑問詞に、リズちゃんは親指を立てて、嬉しそうに、

「先輩も『賀川さんが付き添わないので、一人で出かける雪姫ちゃんの為に付いて行く』って言ったら、許してくれるどころか、絶対褒めてくれるっス。伝言頼むっスよ!」

「わ、わかったわ。行ってらっしゃいユキさん、リズちゃん」

 司先生のお父様に清水先生が戦いを申し込まれて、ココで今日は特訓らしいのに。リズちゃんはこういう流れで何故か私について来てしまいました。






「タカおじ様やリズちゃんが鍛えるなら、清水先生、強くなるでしょうねぇ」

「もちのロンっス!」

 それにしても駐車場、晴れているのに、やはり使ってる気配がないのです。じゃあ、うちのどこでやるんでしょう?

 気になりますが、私はとりあえずバスに乗ります。考え込んでいるとリズちゃんが話しかけてきます。

「どうかしたんっスか?」

「それがですね? 何だかわからないんですけど、賀川さん、今日は家に居て。清水先生のお手伝いをしているらしいのですが。賀川さん、そんなにやる事はないハズなのですが」

「え? そんなにやる事はないって……」

「動画のカメラ設置とか言ってましたが、帰ってこないのです。賀川さんがそんな特訓なんかに居たら邪魔でしょうし、何かの折で怪我でもしたら……せっかくあんなに綺麗にピアノが弾けるのに、指でも折ったら……」

 男の人なのですし、ちょっとくらいは喧嘩したり叩いたり出来るでしょうが、決闘の特訓なんて。そんな場所に、賀川さんが居ること自体が私には怖くて何だか嫌なのです。彼の昔の事を考えると、『暴力』的な行為は嫌いだと思うのですよ。だから余り近付いて欲しくなくて。

 そう言えばお腹に包帯が……何でしょうか、あれ。

「手伝いしたいのはわかるんですが……まさか、やっぱり……」

「確かに弱そうっスねぇ。私やベル先輩にかかったら一瞬で引き裂けるっスよ」

 そう言いながらどこか楽しそうなリズちゃん。



 私は更に不安になります。

 何故か私の回りには『巫女』の力を欲しいとやってくるヒトが居ます。賀川さんはそんな人の存在を知って、何か無茶をしようとしているのではないかと思って。

 焼き付け刃で何かしようとしてできるような相手ではなかったです。ベル姉様でも苦戦していたような、冴ちゃんに憑りついた悪魔や、変な呪いを使うご老人や、どう考えても普通では『ヒト』が太刀打ちできるとは思えないのです。

「わわ、どうしたっスか?」

「居ない方がいいのでしょうか? 私」

「そんな事なんで言うっスか? 雪姫ちゃんは幸せになるっス! お母さんもそう願っているっス。私も先輩も、皆……」

「ありがとう、リズちゃん」

 私は……ベル姉様やリズちゃんの堕天使モード、そしてその戦闘を見ています。水羽さんは赤いネジと血を使って、壁のようなモノを張るので精いっぱいだと言ってました。血を使わなければそれさえまともに出来ないと。

 でも自分で何もできない事はもどかしくて、司先生に『今からでも、武道をやったら強くなれますか?』って聞いてみたけれど、色のいい返事はありませんでした。

「でも、何もできないのは辛いです」

「ユキちゃん、どうしたっスか?」

「何でもないのです」

 うろなに居たい。

 皆優しいし、大好きです。けれどそれは私の我が儘ではないでしょうか?

 とは言え、何処にも行く所などありません、森のお家とタカおじ様のお家、それが私の住む場所。



 森のお家は母を待つ場所。

 離れたくないのです。



 タカおじ様の家は皆が迎えてくれる場所。

 とても暖かいのです。



 居場所だけれど。

 居心地がいいけれど。



 このまま。

 甘えて良いのか不安に思いながらバスは森に向かうのでした。






YL 様『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』清水先生。

10月20日その1辺りの前。裏のユキの動きです。

朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。リズちゃん。


問題あればお知らせください。

もう一話20日です。

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