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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月12日

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遭逢中です

にゃ? 



 







『お願いだにゃ、生き返らせて欲しいにゃ』

『むり。とにかく私はしない。それはインガリツにはんするから』

『出来ないわけでもないのにゃ? 流行ってるにゃ、生き返るのが定石だにゃ、性別は変わらなくてイイから、一番イイのを頼むにゃ』

『なんのはなしよ。ラノベじゃないのよぅ。しんだらオワリ、それがいのち』

 一人は水羽さんの声。水羽さん、ラノベとか知ってるんだーっと思っていると、語尾が特徴的な女の子の声がニャンニャンと響きます。

『じゃ、何でこうやっていられるにゃ?』

『ぐうぜん、よ。巫女だから、この子。でも『水』があわないから、ココにも長くいられないはず』

『じゃ、一目、一目で良いにゃ。会いたい人が居るんだにゃ。呼んでいる気がするけど、自由に行けないにゃ』

 暫く間があいた後、小さな声で、

『ぐうぜんは必然……貴女はこのまちの『ひかり』なるもの、その死をいたんで、この水羽の神の名において………………………………ちょっとお出かけするのぉ~』

『話が分かるにゃ!』





 えええええええ?






 何だか私の知らない所で話が進んでいる気がするのですが。思った時には私はふらっとレースの傘をさして外にいました。

 そう言えば、勝手に行くなって言われたのです。怒られるかなって思ったけれど、でも、でも雨が呼んでいるのです。

『いくよ~巫女。急いで。いそうろうに言うじかんがないの。『彼』が動いちゃう』

『でも、でもですね』

『はやく『彼』をかいしゅーしとかないと。これいじょう、血をながすのはのぞまないでしょ? 『彼女』もそんなに長く、ここにはいられないみたい』

『なにを、誰が、あああ、もう何なのですか?』

『巫女なんだもの、わかるよね? アレ。きょうほうちしてると、あのこは今、みさかいなく、こわすから』

 わかる? わかりません。

 けれど、確かにいかなきゃいけない方向はわかるのです。



 煙草のにおいがします。

 あまり好きではないけれど。それは私を呼んでいました。遠くからも微かに捉えられるほどで。

 私はソレを頼りに近寄って行きます。



『ありがとにゃ、会えたにゃ。やっぱり……ユキはタカトと仲間で、私とも仲間だったのかにゃ?』



 えっ? っと思いましたが、今まで居た『彼女』の気配が消えました。

 本当にいたのかも、私にはわかりかねますが。

『おしごとして。これいじょうの血はいらない』

「ど、どうすれば……」

『こえをかけるのっ。それだけでいいの』

 半ば怒鳴られる様に言われるままに声をかけます。

「あの」

 橋の下。そこにいるのはだあれ?

「そんなところで寝てしまうと危ないですよ?」

 あれ?

 私は首を傾げます。そこに居た人は、知っている人にとっても似ていたから。

 でもそれは顔立ちだけで、中身がとっても違っています。

「……すこし、少し休憩のつもりだったんです。声をかけてくださってありがとうございます」

 傘をさしかけて、笑おうとしている姿を眺めていると、

「雪姫さん?」

 と、名を呼ばれ、頷きます。

「鎮の弟で千秋といいます。兄とは会ったことがあるんですよね」

 ああ、双子だから顔は似ているんだ、そうわかってもう一度頷きます。

 


「大丈夫ですか?」



「大丈夫ですよ?」



 私はその答えはとても間違っている気がしました。その顔にそっと手を触れます。

『コノ人、イマ、とてももろい。こんばん、ほうちするのはキケンなの』

 とても冷たく、雨で冷えた体。

 それよりもざらっとした心の冷たさに、

「大丈夫じゃないです。冷え切ってるじゃないですか」

 そう言って、私はその手を取ります。



「そうかなぁ」

 そう疑問詞を投げられても困ります。とにかくおいては置けないと思って、手を引くと、抵抗なくついてきてくれます。



 雨はやむことなく、ただただ降り続いて。

 彼と握った手は、他の誰かの温もりを求めているようでした。ああ、もしかすると、先程までの変わった語尾のあのヒトがその人なのかもしれません。けれど、私には説明する術もなく、ただ黙って彼を家に連れ帰ります。

 すると、葉子さんがお風呂を沸かし、適当な衣服を用意してくれました。彼は笑って受け取って、普通そうにしていましたが、風呂から上がって温まった体は疲れていたようでした。

 その時不機嫌そうに賀川さんが現れます。

「俺が連れて行く。ユキさんは昨日、電車で具合悪かったの忘れた? いつの間に抜け出たの? 君も早く風呂に入って」

 賀川さんはとても怒ったように言って、千秋さんを連れて行きます。

「うう。怒らせちゃったです。でも何だったのでしょう?」



 私が言われるままにお風呂に入ってあがってくると、タカおじ様が電話を置く所でした。

「何でも……仲の良かった女の子が死んだらしい」

 未成年の彼だから、黙っているわけにはいかないと状況確認を兼ねて、身柄の無事をお家に伝えたらしいです。そこで聞いた訃報。

 仲の良かった女の子……不意に『お願いだにゃ』と言っていた、先程の声の主が思い起こされました。

「昨日、電車が止まっただろ? あの頃に町の公園で亡くなったそうだ。身内に会いたくねーから橋の下なんぞに居たんだろうから、こっちに『一晩任せてくれ』と言ったが、ありゃ、誰か来そうだったな」

 電話の向こうで誰かがバタバタしていたそうで。タカおじ様はしゃーねーかと言ってから、

「大事な人を失って感じる思いは……失った者にしかわかんねーし、その壁を這い上れないオレにゃ何とも言えねーな。ただ若い命が散るのなら、この老いぼれでも連れて良きゃいいのにと思うがな」

 若いうちにお別れした息子の刀流さんと奥様、葉子さんの夫で自分の親友である、おんまサンを想っての言葉でしょう。葉子さんも何も言わず、台所で仕事をしていました。

 その隣の冴ちゃんもただ黙ってお皿を拭いています。



 千秋さんが求めている温もりは、きっとその亡くなった女の子なのだと思います。

 先程、『ありがとにゃ、会えたにゃ。やっぱり……ユキはタカトと仲間で、私とも仲間だったのかにゃ?』……そう言っていた彼女がやはり彼の仲の良かった女の子ではないでしょうか? ああ、今まで居た筈ですが、もうココには居ないようです。

 彼に会えた彼女が何処に行ったのかわかりません、どうなるのか知りません。

『しんだらオワリ、それがいのち』

 現実は水羽さんが言った通りで。でも本当に彼女が彼の大切で、もしさっき、彼に彼女が会えたのなら良いなと思いました。

 そうだったなら。きっと彼女は彼の心にそのまま優しく寄り添っているのではないかと私は思うのです。気付かれても、気付かれなくても。

 きっと彼はなかなか気付かないでしょう。大切な時を過ごせた、何度やりなおしても同じ別れをするとしても、巡り会いたい相手。その思いがいつも側に居る事を。





 私がそっと千秋さんの居る部屋を覗くと、

「無理しなくて良いから」

 そう言う賀川さんの声がしました。

「何だかちょっとぼーっとしているみたいです……心配、かけちゃいました?」

 千秋さんの張り付けた表情は本人が考えているより、無理していて。食事の話をしていたので、

「動けないようならこっちに運びますよぅ」

 と、声をかけてみますが、彼は自分で食道へ行き、食品を口にしますが、何も『感じて』いないようでした。無理はダメと止めると最後には吐いてしまいます。

 彼と喋ってみますが、



「ありがとう」



 と言う言葉は、拒絶で。さっきの『声』が聞こえた話も、今の彼にどう説明したらイイか私にはわからないままで。

 更に『来なくていい』と言われたのに鎮君がきて。混乱したのか最後には千秋さんが鎮君に圧し掛かって。

 タカおじ様、賀川さんとお兄様達が抑えにかかって、ビックリしてしまいました。

『これ、外でやってたら、人ころしてた』

 なんて、水羽さんが言うので、少し怖くなりました。

 好きな人を失う辛さ……もし、賀川さんが居なくなったら?

 逆に、あの夏のように自分の死しか終わりがない迷路に迷い込んでしまったら?



 外を見ると雨が降り続いています。

 私は解けない迷路を彷徨っている気分になりました。













 そうして何も言えぬまま、千秋さんは帰っていって数日後、

「うちの子供たちがお世話になりました」

 そんな声がします。

「千秋を、とめてくださってありがとうございました」

 するとタカおじ様が静かに言葉を返していました。

「オレん所は一人二人増えても変わんねぇ。ただ、大切な者を失くした辛さはわかる分、オレは屋根を貸す以外、言葉は見つからなかった。すまねぇ」

 と。


 彼女の葬儀は同月二十日、ごく親しい方達に送られ、彼女は荼毘にふされました。それは寂しい中にも『あたたかい』お葬式であったようです。私は、玉響のように触れあった声を思いながら絵を描き、影ながら見送らせていただいたのでした。



挿絵(By みてみん)



とにあ様『URONA・あ・らかると』より、鎮君、千秋さん。『10/12  前田さんちで①②』『11/8 彩夏回想してみる』辺りとリンク中。

寺町 朱穂 様、『人間どもに不幸を!』より、彼女らしき声

お葬儀を。


お借りいたしました。


どうしても一目……といたしましたが、

問題あればお知らせください。



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