表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
10月1日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

156/531

疎通中です


どうやったらそう言う事に。



 





「は? 自分で?」

「はい」

「事故じゃなくて?」

「おかしいですか? ああ、オカシイですよね……」

 今日は森にユキさんが行きたいと言ったので、ついて来ている。

 左手の傷はもう良いみたいだが、話を聞けばネジを自分で突き刺して大量出血したというから驚いた。何だってそんな事をしたんだと聞くが、おどおどして、どう説明していいかわからないようだ。

 突拍子のない事をする子だとは認識があったが、どう反応していいか迷う。

「もう、そんな事しちゃダメだよ?」

 タカさんがユキさんの行動に目を光らせている理由が分かった。俺もこの頃、休みは彼女と行動を合わせる様にしている。葉子さんもタカさんに聞いたからか、ユキさんの外出時は気を使って定期で電話をしてくれたりしている様だ。

 ユキさん、俺の言葉ににこりと笑うが、頷かない。

「よく見せて?」

「え、あ」

「見せて」

 強い口調でそう言うと、ユキさんは言う事を聞いてくれた。おずおずと差し出される手を取ると、すぐに隠そうとするから、痛くない様に気を使いつつ掴んで動きを封じた。そしてそっとその傷を撫でる。もう塞がってはいたが、白い掌に傷が深く残る。

 何故こんな事を? 自傷行為? なのだろうか? 俺は心理学なんか詳しくはないけれど、ああいう所に居たせいで精神が壊れた人間を何人も見てきたから、自分で自分を傷つける様を見た事がある。あれは、痛い、精神的に痛い。

 俺もそんな気分に陥りそうになった事も無くはない。姉の暴力に無抵抗だったのはそれに近い感情からだろうし。

 でもユキさんがそんな感情でしたようには見えなくて、どう言って良いかわからない。

 しばし考えてから、

「とにかく、ユキさん、そんな事、しちゃ、ダメだ。わかるよね?」

 子供に言う様に、区切って、目を見て言った途端に、彼女がむくれる。

「し、仕方なかったんです。水羽さんが」

「冴姉さんを小さくしたって言うヒトの事? そのヒトのせい? じゃあ俺が文句言ってあげるから会わせて」

「わ、私が連れて行かれたせいなので、彼女のせいって訳でも。それに前に言った通り、会わせてって言われても、どこにいるかよくわからなくて」

 俺の理解力が低いせいなのか、ユキさんの話はよくわからない。

 夢見がちな少女なのは可愛らしいが、自分でネジを突き刺すというのは、やはり正気の沙汰じゃない。その頃一番近くに居たベルさんにちょっと経緯を聞きたいが、彼女は住んでいる所に帰ってしまって気軽に会えない。彼女を慕うリズさんに俺は余り覚えが良くないから近付きたくなかった。

「とにかく心配なんだよ?」

 心を込めて言ってみる。するとユキさんは慌てた様に、

「ききき、気をつけます。あの、あの、お菓子美味しいですよ? お茶もたくさん淹れますよ」

 赤い顔で手を振り払うと、クルクルと動き出す。そしてそう言って俺の機嫌を窺う。その仕草に、その眼差しに、俺は負けてしまう。

「ありがとう、ユキさん。いただくよ」

 責めても仕方ないので、穏やかに言うと、右手で左手を包み込むように撫でながら、顔を赤くしたままの彼女が笑う。

「どうぞ」

「もしかして、傷が痛かった?」

「だ、大丈夫です」

 サッと手を隠すようにして、椅子に座る。これ以上、何も言われたくなかったのかも知れない。



 まだ暑い日が続いているがもう10月になった。木々の色付きが見られつつあり、森の家はもう少し寒く感じた。もともと夏は過ごしやすいから、逆に冬は寒くなるのが早いのだろう。それでも今はタカさんの手が入っていて、そこまでないが、よく昨年は薄いワンピ一枚で、隙間風の多い小屋で過ごしたものだ。凍死しなかったのは奇跡かもしれない。

「ね、話は変わるけれど、そろそろここは暖房を用意しないとだね、今度買ったらここまで運ぶよ。他に買いそろえたいモノがあるなら一緒に。でも雪が積もったらここは閉めるつもりでね?」

 早めに覚悟させておこう、そう思って柔らかく告げると、意外そうな声を出した。

「え、でも」

 もしかすると俺の考えと逆で、冬になったら雪深くなるこの小屋で一人越冬、その為の冬籠りの支度でもする気だったような雰囲気を醸し出した。これは早く釘を刺しておく方が良いだろう。俺はその考えを修正するような言葉を探そうとして、

「流石にお母さんも雪が深かったら来ないと思うよ? ちゃんと書置きしておこう? そしたら大丈夫だよ、ね?」

 顔が曇る。しまったと思うがもう遅い。

「そう、ですよね」

 母親が消えてもう一年半になろうかというのに、何も掴めてはいない。

 今でこそ、前田家に馴染んでとても落ち着いている。タカさんや葉子さん、下宿の兄さん達……人が居る家に帰る、住むという心地良さに依存しているのは、俺もユキさんも変わらない。

 けれども具合が悪いのにここを離れないと言い張った彼女の顔は一生忘れる事はない。

 もう、と考えない訳ではないが、生きて会わせたいと思うのは、俺のエゴだろうか。

 今まで向かい合って座っていたが、俺は思い出させてしまった事を悔いながら、椅子を動かして横に座る。

「え、えと……な、何ですか、急に。賀川さん……」

「髪に触ってもいいかな?」

 彼女は言葉では何も答えないけれど、小さく頷いた。それを見てからそっとその髪に触れる。

 俺の手に、さらさらと雪のように柔らかな手触り。なぐさめたい、でも言葉が上手く紡げない。又至らない事を言わない様に、ただそっと撫でてみる。



 ただね。



 なぐさめる気持ちからした事だけれど。つい、このまま抱きかかえて、隣の部屋のベットに連れ込みたいなどと考えたりしてしまう。その体に印をつけておいたら、誰も彼女を取らないだろうか? リボンで縛って飾っておきたいけれど、奔放な彼女が彼女らしい。怪我なんかしないで欲しいけれど。

 髪を撫でながらそっと肩を抱く。

 少しだけ彼女が驚いたように体を震わせ、下を向いたから表情は見えなかったけれど、逃げなかったから。体を寄り添わせて、静かに時を過ごす。



 そのままで。ずっと居られたらいい。



 いや、…………キスくらいしても良い?



 その衝動は押さえこんで。

 ゆったりと過ごしてから、理性をギリギリ残しているうちに俺は席を立つ。

 どうして彼女と居ると、気持ちが逸るのか。今までソコソコ他の人と付き合ってきたがそんな事なくて。むしろ執着の無さに呆れられる事が多かったくらいなのに。

「じゃ、少し散策してくるよ」

「あ、は、はい。賀川さんって、森が好きなのですね?」

 その台詞は誤魔化して笑っておく。別に散策が好きなのではない。辺りを不審者がいないか見回りと警戒に行くのだ。森なんか基本、どうでも良い。そう言うのはユキさんには知らせなくていいだろう。

「行ってらっしゃい」

「行って来ます」

 それなりに良い雰囲気だ。本当に家族みたいだなどと思いながら、チョコレート色の小屋をオレは後にした。



朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん、リズちゃん


話の流れとして。名前お借りしております。

問題あればお知らせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ