表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
9月25日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

154/531

買物中です


それは魅力的なのかもしれません事ね。

あきらちゃんったら。


 




 今日は魚沼様がお昼過ぎから、あきらちゃんとタカさんに呼び出されている。

 何を話すか興味があって、私も本当は居たかったのだけれど、ユキちゃんと葉子姐さんに囲まれてお買い物をしている。

「ユキちゃん、おおきい……や、やわ」

「うん。これ、いいんじゃない? 賀川君、脱がせ甲斐があるんじゃない?」

「ぬが……」

「そうですわねぇ。可愛らしいベビードールもいいですが、今のあきらちゃんはこちらの方が好きかも知れません事よ?」

「……あ、あの、ふ、二人とも恥ずかしいです」

 下着専門店で色々と物色したり、秋物の服を見たり。

 私は着物である事が多かったし、服は呉服にしろ洋服にしろ、いつも決まったお店に来てもらって。その場でオーダーするから、こうやって既製品で買う体験はなかった。それはとても楽しいのを知る。

 買い物に何時間もかける話を聞いて鼻で笑っていたけれど、こうやってワイワイした事なんてなく……人生で普通に楽しむ所を楽しんでいなかった事を改めて感じる。

 いいえ、母も玲も健在だった時は楽しく街で過ごした事もあったのを、じわりと思い出した。自分が過去に捉われて生きながらも、忘れてはならない部分を忘れ、忘れても良い辛さにだけしがみ付いていた事に背筋が寒くなる。

 これからどうしたらいいか。やらなければならない事はわかっている。玲を初め迷惑をかけた者に頭を下げ、元の立ち位置に戻らなければと。でもココは暖かい、離れたくない。でもそれは記憶が曖昧だと嘘を吐き続ける事。それは心が締め付けられたような思いを感じて、酷く重い。

「これが罰?」

「どうしたの? 冴ちゃん、欲しい物でもあった? 他に買うものはない?」

「あ、え、ええ。私はありませんわ」

 タグを切ってもらったばかりのチュニックに袖を通して、髪を葉子さんに木陰のベンチで結ってもらいながら、アイスを食べて。その場の幸せに私は微笑む。

 隣でクレープを頬張っていたユキちゃんが、

「文具屋さんに行きたいのです。注文していた絵具が届いているのです」

 そう言うので、ふわふわと商店街を歩く彼女に葉子姐さん手を繋がれながら付いて行く。ユキちゃんの体の調子もだいぶ良いようだし、それを玲がとても喜んでいる。二人がベタベタするのを見るのは、弟が離れて行くのを感じて切ないけれど。ユキちゃんなら、きっと裏切らない。

 少し前、青い光に導かれる夢を見た。その時、邪魔をする声から守り、導いてくれたのはユキちゃんの声。彼女が居なければ私はココに存在しなかったと思うから。







 彼女に導かれてやってきたのは商店街にある『うろな文具店』……古いお店だけれど、入口は付け替えたのか自動ドアで、文具と言うより画材屋とか額縁屋を想像させる品がずらりと並んでいた。絵具の匂いと心地良く冷えた空調が、曇っていたがまだ熱の引かない、九月の町にいた私達を気持ちよく迎えた。



「いらっしゃい、ああ、よいの先生!」

 気のよさそうな皺深いオジさんがカッターとネクタイにエプロンと言う姿で、ユキちゃんの絵を描く時のペンネームで呼んだ。

「あの、頼んでいた絵具と、カトリーヌの新しい混素材が出たって聞いて……」

「用意出来てます、混素材も寄せておきましたよ」

 葉子姐さんは私を引っ張り、

「油絵が置いてあるわ、こちらでも見て待っていましょう?」

 隣のスペースに置いてある絵を見ている事にする。

「これネットでも品切れが多くて。良く手に入りましたね」

「カドリーヌはもともとうろなにあった看板屋の流れでコネがあるからねぇ……」

 狭い店内なので、二人の会話を聞くともなく耳に入れていると、

「よいの先生の注文品、持って来て、篠生君!」

 店主の声に私はびくっとする。

「これですよね、こんにちわ。よいの先生」

「こんにちわ、篠生さん。そうです、これです。後、トーンってありますか? 今度使ってみるつもりで」

「ああ、取り寄せられない事はないですけれど。トーンなら実物が置いてある、『アニマチオン』の方が良いですよ。店員さんも実際に使っていて詳しい人が多いと思います」

「うちは絵具や筆の取り揃えは良いけどね、ああいうのはあっちの取り扱いの方がいい」

「そうなんですか? どこの辺りにあるお店ですか?」

 和やかに話が進んでいる中、私はそっと彼らに目をやった。そこには店主と同じようにカッターとネクタイ、それにエプロンを身に付けた『篠生』が居た。

 眼の細い、少し童顔に見える普通の青年……にこやかな表情は好青年に見えた。もう『悪魔』は居ないから、私にもそう映る。けれどもう私には彼が普通の人間とは思えなかった。

 ユキちゃんはそれとも知らず、親しげに話している。

「どうしたの? 冴ちゃん」

「あ、あ、葉子姐さん、あっちの……ペンを見てきます」

 適当に言って、葉子姐さんから離れる。

 キラキラのシールが付いたノートや鉛筆など、今の年相応と思われる品を眺めていると、篠生の方から近づいてきた。

「いかがですか? 巫女の家は快適ですか」

 もう記憶が戻っている事はわかっている風だった。

「まあまあよ……貴方、何者なの? うちの玲ちゃんに何かしたら許さない」

「玲様に? どう許さないんでしょうね?」

 声を潜めているので、店主と会話に夢中なユキちゃんも、絵に見入っている葉子姐さんも私達の事に気付かない。

「ユキちゃんの事、狙っているの?」

「金になるのは間違いないですね」

 その言い草に私が睨むと、犬の子でもあやすように頭を撫で、

「あまり混ぜ返さないで下さい。私は又、巫女を殺したくない」

 彼の言う『又』……その言葉に息を飲むが、全く動けない。

「貴方は本当の『篠生 誠』?」

「ホントウとは何ですか?」

 にィ……っと笑った彼の瞳は普通の人間の物だったが、間違いなく人間ではないと肌で感じる。ワザとにそうしているのだ。

「彼のホントウで私はココに居るとだけ言っておきましょう」

 彼はそう言うと、私からすうっと離れて仕事に戻っていく。これ以上の追求は身の危険を感じ一歩退いた。








「どうかしましたか?」

「な、何でもありませんわ。あの、篠生って店員さんも、知り合いなの……?」

 文具屋で買い物を済ませて、何事もなく店を後にする。上機嫌なユキちゃんは紙袋の中を嬉しそうに覗きながら、

「あのお店は私がまだ町に降りる前、電話で画材の注文を受けてくれてたのです。受け取って届けてくれるのは賀川さんでしたけど。初めて行った時は驚かれました」

 真っ白な髪、赤い瞳の少女が現れれば普通に驚くだろう。

「この頃、店主さんも私の事を町用に作った地図で知ってくれて。親しくして下さるし。篠生さんはおまけで試供品の絵の具や筆をこっそりわけてくれるんです」

 彼女にとっては商店街にある普通の買い物場所の一つらしかった。彼女はそこまで答えて、きょとっと首を傾げ、

「冴ちゃん、何か顔色が悪いです」

「だいじょうぶですわ。ちょっとお腹が空いてしまっただけ」

「良い匂いがするモノ、ここね」

「そうです」

 商店街から離れて、私達は余りに目立たない位置にあるお店に入ろうとしていた。ユキちゃんがお友達と一度来ているらしかったが、確かにとても美味しそうな匂いのするお店だった。

 その名は『流星』。

 経営戦略的にこの裏路地に店を構えるという事は自殺行為に等しく感じる場所。

 だがそれでもココにしたという事は、隠れ家的に良いという客を支え、尚且つ店主もここで集客できる自信があるという事だろう。漂ってくる匂いは高級店に勝るとも劣らないとその存在を主張していた。

「あら?」

 店に入ろうとした瞬間、葉子姐さんが足を止めた。

「藤堂君?」

 少し離れた場所に、ガタイの良い年齢不詳の男性と、ユキちゃんよりも胸の大きい女性の二人が、微妙な距離で、でもお互いの心は寄り添うように、同じ店を目指していた。

「あらあ、そろそろ聖子さんも荷を降ろせそうな雰囲気ねぇ」

「うっせー、よーこ。久しぶりに会ったのに、相変わらずウルサイな」

「ふふ、私だけが言っているわけではないのよ? 整体院の先生二人と言えば、町役場のお二人、ペットショップの二人と並ぶ、この町でいつ引っ付くか、噂のカップルじゃないのよ?」

「だ、だ、誰が……誰がそんな事……」

「あの、藤堂さん……その方、誰なんですか?」

 葉子姐さんが『藤堂君』と呼んだ男の隣にいた女性が、控え気味に聞いた。彼が答える前に、

「確か星野先生だったかしら? だいぶ年がいってねぇ、足腰痛むからいつかお世話になるわね?」

「え、あの……」

「藤堂君とはちょっとした昔馴染みよ。気にしないで。ふふ、二人ともアッツイわねぇ。おかーさん妬けちゃうわぁ…………」

「この年になってまで、茶化すんじゃねーよ」

 ひらっと手を振って、葉子姐さんは店に入ろうとしたが、

「おい、よーこ、お前、あの……息子とはどうなった?」

「こないだ会ったのは五年前かしら? なかなか許しが出なくてね。でも手紙や小包は欠かさず送って来るわ」

 自分の息子に五年、それも自由に会える感じではない事に、藤堂と言う男は顔を歪めて舌打ちをした。だが葉子姐さんは一瞬だけ微妙な顔をしたが、そよ風のように笑うと、

「ありがとう、藤堂君。もういいの。あの子も二十歳だし、もしかしたら勤務先がここになるかも。その時は良くしてやって」

「そうなのか! そうだと、良いな」

「ええ。私は貴方と違って川を隔てたのは、うちの人だけだから。それより今度は早くキメちゃいなさい! お嬢さん先生はとにかく、どんなに若く見えても藤堂君は年なんだから」

「「な……」」

「さ、ユキさん、冴ちゃん、先に入りましょう」

 私達は頭を下げながら、その男女より先に店内に入った。




綺羅ケンイチ様 『うろなの雪の里』より、藤堂先生、星野先生。聖子さんを。

『うろな町、六等星のビストロ』店前を。

シュウ様 『アニマチオン・うろな町店』より店のお名前を。


お借りしました。


この日は『うろなの雪の里』の25日、麻生の事件を終えた夕方になります。

店も開いている事、二人も来店の流れ了承で書かせていただきましたが。

問題ありましたらお知らせください。

一応、ユキは夏に訪れている事になっていますが、私サイドでは『流星』初入店になります。

うろな有名飲食店に行くのに150話越すとは思いませんでした……

明日が楽しみです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ