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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
9月25日

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151/531

神託中です

おっきな男……って?



 





 その日、タカおじ様から頂いた赤いお財布を開きました。

 今日は午後に葉子さんとぎょぎょのおじ様の弁護士事務所に行って、冴ちゃんを捕まえて、そのまま商店街でお買い物の日なのです。

 賀川さんがぎょぎょのおじ様と話があるとか何とかで。夕方頃、冴ちゃんは外して欲しいと言う事から、それに合わせてお買いものをこの日にしたんですけれどもね。何のお話があるかは知りません。タカおじ様も同席するとか聞きました。

「絵具を買いに行きたいのです。後、司先生に小物を作る布と……」

 バスと電車はカードにしたので、小銭は要らなくなって、洋服と絵の具などの画材を買うお金になってます。

 タカおじ様が気を使ってくれて、事あるごとに、

「足りなくないか?」

 なんて聞いてきます。お金はちょこちょこ絵を描いた仕事のお金が入って来るのですが、

「いくらあっても腐りゃしないし、おめぇは無駄遣いはしないからな」

 っと、言って、少しお金を握らせてくれます。それを思い出して、

「タカおじ様、甘いです」

「あら、お金をくれるのもあいじょうよ。でもココでもらっているのはソレだけじゃ、ないですわよね?」

 側で弁護士事務所に行く準備をしていた冴ちゃんは私の呟きにそう返します。



 彼女はここでの生活がとても気に入ったようです。でも何だか体は小さいのに、口にする言葉は大人です。

「とても、すてきな家だわ。子どものことをしんけんに考えてくれますわ。わたしたちもこんな家にいたら……」

 わたしたち、それは賀川さんの事を指しているのでしょう。きっとタカおじ様なら、賀川さんを見捨てたりせず、会社も守ったりしたでしょう。どちらもがうまく行ったかは別として。

 ただふとおかしいなと思います、冴ちゃん、賀川さんが攫われた所は覚えているとの事でしたが、その後何が起こったのかは曖昧だったはず。他にもそう思わせるような事があったのでしょうか?

 まあ、無理して聞く事ではないと思いました。きっと心あたたかくなれば、冴ちゃんも話してくれるはず。数日前に話した司先生の言葉を思い出しながら、

「冴ちゃんはぎょぎょのオジサマが好きなのですね」

 そう言った途端、冴ちゃんは下を向きます。

 実は冴ちゃん。

 昨日、ぎょぎょのオジサマから、『冴は大人の女性で、今は幾つか記憶が曖昧のようだが。戻った時に悔いのない様にしなさい』と言われたそうです。裾野の家まで帰って来た途端に泣いてしまって。そんな冴ちゃんを連れて帰って来たぎょぎょのオジサマを掴まえ、タカおじ様が事情を聞いて『まだ早い』とか『いいやハッキリ知らせるのが冴の為だ』とか。オジサマ二人がやっていて。

 最後に葉子さんが止める事態に発展していました。その手際は……語るとこちらが背筋が寒くなるような、葉子さんのにこやかさでした……



 冴ちゃんは小さな声で、

「魚沼様はわたしがちいさいからかまってくれているだけかもしれないですわ」

「冴ちゃんは戻りたくない?」

「わからない。でもあきらちゃんに謝らなければと思うけど……」

「謝る?」

 やはり何か思い出しているのでしょうか? 冴ちゃんは所在無げにクルリと後ろを向いて、私が出していた絵具を片付けながら、

「では魚沼様におべんと届けて、お手伝いしながらふたりが来るの待ってますの。魚沼様はいつもごはんもたべずに、しごとばかりなの。コンビニべんとうかコロッケ、それとお酒だけじゃ、カロリー摂りすぎなのっ」

 そう言って、冴ちゃんは部屋を元気に出て行きました。やはりいろいろ言われても魚沼先生が好きなのでしょうね。



 私は笑って見送りします。

 それから暫く要らないレシートを出していたら、一枚の紙がはらりと落ちました。

「あれ? これ……」

 それはいつぞや、森で出会ったとても体格のいい男性から頂いたチケットでした。整体院の無料券です。その紙切れに書かれているお名前を眺めて描いた藤の絵のうちの、一枚が壁にかけてあったのですが、急にカタンと音を立ててそれが少し傾きます。




挿絵(By みてみん)




「あれ?」

『巫女、これを今日、たかやりのところにきている、おっきなヒトにわたしなさい』

「何ですか? 水羽さん?????」

 余り語りかけて来る事がない彼女の声が急にします。ふわりとチケットが風もないのに舞い上がり、私の手に落ちます。

『さ、これを持って、たかやりと出かけなさい』

「タカおじ様はもう現場じゃ……」

 そう呟いた時、玄関で物音がしました。私は急いで母屋に行くと、

「葉子さん、頼んどいた弥彦の弁当はどうだ!」

「はいはい、できてますよ」

 二人の会話が飛びます。

 葉子さんは一抱えもある寿司桶の五段重ねを、タカおじ様に渡す所でした。

 中身はちらし寿司、おにぎりが各一段、揚げ物が一段、煮物などが一段、かまぼこやエビなどが一段……

 それなりの人数で宴会が出来そうなそれですが。たぶん弥彦お兄様一人のお弁当なのでしょう。

 弥彦お兄様はタカおじ様の仲間である『後剣』と呼ばれている後藤剣蔵オジサマの会社『後藤建設』で働く方なのですが。とても力が強く、タカおじ様のお気に入りで、たまに工務店の手伝いに駆り出されているようです。

 とてもたくさん食べるので、こういう弁当が作られるのですが、仕事前に平らげてしまう事もあるとか、ないとか……

 大きい男って弥彦お兄様?



「あの、タカおじ様……」

「おう、ユキか。賀川のは?」

「お仕事、お昼には戻るって言ってました」

 こないだ『会社の研修』から予定日より遅く戻った賀川さんはとても優しくて、つい甘えてしまいそうになります。仕事も押さえているのか、帰りも早いです。

 でも甘えていいのか……距離を測りかねて……

「で、何だ?」

「あ、え、えっと、あの、これ」

 私は考え込みかけた思考を戻すと、整体院の無料券を見せます。

「こりゃ、あいつの店じゃないか」

「知っているんですか?」

「まあ、あいつの中坊のコロから知ってらぁな」

「ふふ、藤堂君、元気かしら。この頃、若い綺麗なお嬢さんと居るから、聖子さんもやっと荷が下りるかしら?」

 葉子さんはそう言いながら、笑ってます。

「で、何だ?」

「あ、すみません。水羽さんがタカおじ様の所に来ている『大きい男にこれを渡しなさい』って」

「オレの?」

「はい、たぶん、弥彦お兄様の事だと……」

「神託、ってやつか?」

「わかりません」

 私がフルフル首を振ると、タカおじ様は大きく笑って、

「わかった、車に乗れ。直接渡した方が良いだろう」

「あら、そうなの? じゃあお昼くらいに工務店の方に行くわ。まだ夕飯の準備があるのよ。工務店から弁護士事務所に行って、それから冴ちゃんと動きましょうね」

「じゃ、ユキ行くぞ」

 そう言いながらお弁当を抱えて、私と商店街にある工務店の方に行きました。









「タカさん、お疲れっす」

 近くに居たお兄様がすっ飛んできたので、タカおじ様は弁当と言う名の五段重ねを運ばせながら、

「弥彦、どこにいる?」

「たぶん事務所か荷解きをやりに裏の資材置き場じゃないかと思いますけど」

 駐車場からは資材置き場の方が近いので、それを聞いてとりあえず裏に行ってみますが、お兄様は見当たりません。

「いねぇな」

「すんません、おやっさん! ユキ姐さん、タカのおやっさんをちょっと借りても良いですか?」

「あ、では私、事務所を覗いてみます」

「わりぃな。用事が済んだら茶でも飲んで、葉子さんを待ってろや」

 私は弥彦お兄様の姿を探し、事務所に入ります。その姿はすぐに見つかりました。さっきまでぎっちりだった五段重ねが、空っぽに見えるのは気のせいでしょうか? 地図やらを見ながらも、あっという間に残りも胃の中に納まっていきましたよ?

「あの、おはようございます、あの、私、わかりますか?」

 白髪は目立つので、すぐに私とわかったようです。弥彦お兄様は箸を持ったまま、無言でコクコクと頷きます。隣にいた葵お姉様が、その喰いっぷりに驚く事なく、お茶を出しながら、

「なん~? 雪はんやないの。おはようさん。どないしたん?」

「あの、これ……」

 私は何と言ったらいいかわからず口ごもりました。『うちの水羽さんが』って話しても、それこそ『それ誰?』って事になりそうです。

「えっと、何だか不思議な気配がするんです」

 適当な事を言って手にしていた無料券を、おし付ける様に弥彦お兄様に渡します。その途端、お兄様はびくりと体を震わせます。


『じょうほうていきょーぉ』


 そこぬけに明るい水羽さんの声が私の中だけで響きますが、その意味はわかりません。ただ弥彦お兄様が急激に渋い顔になっていきます。

「どないしはった? 兄貴、雪はんが綺麗やからって緊張しとってん?」

「違う……あれは、……南の倉庫!」

 この時弥彦お兄様は多くを語りませんでしたが、後から聞くと、この無料券をくれた男性が大勢に囲まれている『映像』が見えたのだそうです。それをぼそぼそと葵お姉様に告げます。

「そりゃ大変やわ! 急がな!」

 二人が慌てて出て行きます。

 がらりと扉を開けると、何だか赤い仮面の方がチラッと見えたような……

「……天狗仮面!」

「随分と慌てているではないか、弥彦殿。いったい何があったと」

「善幸が危ない!」

 その辺までは聞こえましたが、扉が閉まったので、それ以降は良くわかりません。この後、仕事に出られなくなった弥彦お兄様を、タカおじ様が思い切り殴ったとか、どうだとか。



 私は目的が済んでしまい、やる事がないので、ソファに座って、葉子さんを待ちます。

 その時、一人お兄様が血相変えて事務所に飛び込んできて、凄い勢いで電話をかけてます。

「葉子姐さん! ヒデさんとソータ、居ます? ヘルプを頼みたいんです、理由は後から、ええ、おやっさんの指示で!」

 かけた先は自宅のようです。 

「それが、弥彦にぃが急に用事とかで……あ、弁当? 空っぽっす! で、二人起こして……ん? 四人は要りませんよ? よよよ、葉子姐さん?」

 そこで会話が切れてしまったようです。

「どうしたんですか?」

「ああ、ユキ姐さん。ちょっと穴が開いたんで、ヘルプを呼ぶように頼んだんですけど、なんか……葉子姐さんが多めに寄越すって……ユキ姐さんは予定通り、そこで待っていてくれって」



 そこまで聞いていると、

『そうねぇ……いくさは、あたまかずいるかなぁ』

 水羽さんの不穏な言葉に驚きます。そこにタカおじ様が現れます。

「ユキ、用事は済んだか?」

「……あの、南の倉庫で、何かあったらしいですけれど」

「うん? まあな、ちょいと人が動いてるが……」

「何だか嫌な予感がします。何て言ったらいいのか……倉庫が危ない…………そんな気がして……」

「…………あぶねぇ?」

「あ、意味わからないですよね。だって『いくさは、あたまかずいるかなぁ』なんて、水羽さんが言うから。良いです、気にしないで下さい」

「……………………いや、わかった、おい、もう二人追加で起こせや!」

 側に居たお兄様にタカおじ様が言うと、

「葉子姐さんが多めに寄越すって言ってましたよ、おやっさん」

「さすが葉子さん、話がはえぇ。ユキ、おめぇは気にするな。いっちょオレも後剣でも誘って動くとするか」




 この後、タカおじ様や弥彦お兄様……他、たくさんの街の人達が動き、ある事件が解決に向かっていく事など私は知りませんでした。



 暫くして私は葉子さんが事務所に現れ、商店街の弁護士事務所に冴ちゃんを迎えに行って、三人でお買い物に行きました。夕飯も外食し、その夕方に裾野の前田家で賀川さんとぎょぎょのおじ様、そしてタカおじ様の前にお客が一人来るのですが……私は何があったのか知らないのでした。

綺羅ケンイチ様 『うろなの雪の里』より、伏見弥彦&葵、兄妹様を二十六~七話にリンクするようお借りいたしました。

後藤剣蔵さんのあだ名もちらっと。


三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、天狗仮面様の台詞と鼻先だけ。『9月27日 天狗、友と酒を呑む』内の二十五日回想を。


YL 様『"うろな町の教育を考える会" 業務日誌』司先生を話題として。


問題ありましたらお知らせください。

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