表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
9月9日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/531

対話中です


それは『うらみ』のあまりに。

何を恨んでかも忘れるほど深く。

ソレはアレを呼び寄せた。










 八年の行方不明……奇跡的に戻った彼に、

「あきらちゃん、貴方は汚いの」

 自分が言って、彼の頬を叩き飛ばした瞬間を思い出して、私は目が覚めた。

 帰宅して、喉に棘を感じながらも、ご飯を美味しく頂き、お風呂に入ってからも工務店の使用人がカードやらで遊んでくれて。

 記憶を思い出したと言えぬまま、

「賀川君、明日帰って来るわ、楽しみね」

「冴ちゃん待ってましたからね。良かったです」

 葉子姐さんとユキちゃんに言われ、ちょっと後ろめたさを感じながらも、楽しみにしながら就寝した。そして嫌な夢を見て飛び起きたのだった。

 動悸が激しくて、息が切れている。



 誰とも知らないモノの手で傷つけられていく綺麗な指、狂う母の笑い声を思い出して耳を塞ぐ。



 彼が戻るならどうなっても良いと思った、私の好きな弟を連れて行った者を排除したくて。

 その気持ちを重ねていくうちに歪んでしまった愛情。

 せっかく帰って来たのにおどおどして、無理に笑顔を張り付ける玲。

 無理に笑わなくていいの、そう言いたかっただけなのに、私の手は彼の頬を叩いていたのだ。

「貴方は汚いの、愛するのは私だけ」

 繰り返すと無表情になっていく玲。

 どうしてこうなる前に彼を見つけられなかったのか、己を責める事に疲れ、いつしか激情となり、彼を苛め抜く事で支配下に置き、悪循環を繰り返す。



 一度は海外に逃げた彼が戻ってきた時は、怪我はないけれどもっとおかしくなっていて。

 それを見る度に辛いから、もう誰にも心が行かない様に躾け、近寄るモノは退けた。



 そんな時に現れた真っ白な髪に、真っ赤な目をした少女。



 優しい笑顔を作ろうと頑張って作っている玲。

 そんな事をしても捨てられるのよ?

 もう傷つく貴方は見たくないの。

「アラストール……」

 自分の弟に手を出す女を追い払おうと、変な……おかしな悪魔イキモノと契約した……






 

 何故か幼くなって。忘れていた記憶は二週間ほど経って、昨日ふと戻った。

 篠生 誠の姿を思い出した事で。

 ただし記憶は戻っても、体はそのまま。



 世の中も、親も、回りも、大切な弟も、全ては自分自身をも恨んで生きた二十年。

 ただ誰も『恨まない』で世の中を見た約二週間……私の手は未だ幼い。



 隣にはこの頃世話をしてくれる葉子姐さんが寝ている。

 彼女は優しくて、本当に母のようだ。そうしてもどこかに自分の『母』を感じるのは、彼女が誰かの母だからか、もともと持ち合わせているモノなのか。葉子姐さんは美味しいご飯を作ってくれる、その作り方を教えてくれる。布団に一緒に入って絵本を読んでくれた。そして掃除や洗濯、した事ないのを笑わず丁寧に指導してくれて。

 この家の家長であるタカさんは、にやっと笑って頭を撫でてくれる。お使い偉いな、とか、計算早いなとか特に何でもないような事にも褒めてくれて。今まで出来て当たり前、その上をやっていかなければならない人生だった。私もそれを誇りとした。そんな事で褒められるなんて、馬鹿にしているとさえ以前の私なら思ったかも知れない。でも彼はそうしたからとて利益はないのに、心からそうしてくれるのが嬉しい自分に私は気付く。

 玲は明日帰る。

 皆、あの子を賀川と呼んで、暖かく待っているようで、たまに話題に上がる事があって、何だか安心した。お昼に帰宅の電話があった事を皆、喜んでいた様子に、ただただ胸が温かくなった。

 うちの玲に手を出したと怒りの矛先を向けていたユキちゃんは、まるでそんな事は忘れてしまったように私にもふんわりと笑う。

 のんびりとした空気、玲が何故、魅かれるかやっとわかった。何物をも受け入れる白さ、それでいて染まらない強さ。檻の中できっと彼は彼女のような存在を夢見て、生き長らえ、そして見付けてしまったのだと、わかった。



 ベルと言う赤い髪の少女が私に放った、『……人という生き物は、成長と共に誰しも家族の元を離れ、新しい家庭を築く。それは『別れ』ではなく新たな『未来』であるというのに、そんな当たり前の事実を受け入れられないなんて、本当に愚かしい女だな』…………その言葉に真実を見る。

 私も幼くなり、玲に何が起こったか、玲に何をしたのか曖昧で、彼に会える『希望』の中で過ごした二週間、そして『未来』を感じる者に出会って、やっと……











 私は部屋をそっと出た。

 行き場もなく、何となく手洗いに行って出てくると、そこに白い少女が立っていた。



挿絵(By みてみん)



 手招きすると、ひらりと私を縁側に誘う。

「ゆきちゃ……」

『さえ、おもいだした?』

「……アナタ、は?」

『水羽』

「貴女は……水羽は『神』?」

『ヒトはわたしをかってにそうよぶコトもあるけど』

 首を傾げる様にしながら、人差し指を口元に運び、

『いまは、水羽。ただそれだけ。わたしはあなたのきおくをけして、ちぃさくしてあげたのぉ。……やりなおしてどうだった?』

「……いろいろ違う世界が見えたわ」

 聞いた事がある、世の中にはたまにこんな不思議に触れる事があるのを。国の中枢では混乱を避ける為にコントロールしているけれど。国を支えるような産業の会社代表なら、体験したことがあるかどうかは置いていても、噂として知らぬ事ではない。

 それに……この白い姿と、その赤い瞳の神聖な雰囲気。『ユキちゃん』の中のソレは、余りにも無垢で、透明で。気高さを兼ね備えていた。この世の唯一のモノだと心に存在を主張するのだ……それは『神』としか言いようがない。

『もう、からだをもどす? どうする?』

 私は首を振る。

「今、戻りたくない」

 どうしてかそう思い、答えた。

『そう、いいわ』

返事はごく軽く、水のように緩やかだった。

『そうね、『しばらく』そのままにしてあげる。でもきおくは……戻った、そのままよ。あなたがしたことのいみ、いきていく道をえらぶといいわ。『うらみ』ではなく、『げんじつ』でいきる、それがあなたが『アレ』と、けいやくした罰』

 罰、と言いながら、どこか優しく静かな慈悲を感じながら、私は頷いた。

『アナタに呪文をあげる』

「え?」

 耳の側で、キスをするかのように優しく呟かれる言葉。

『それを口にしたら、そく、すがたがもどるわ。ああ、ホンキで、ココロをこめて言わねばこうりょくをもたないわよ』

 にっこり笑う白髪の少女。赤い瞳が真っ直ぐに私の心に疑問を問いかけた。










「ただいま」











 いつの間にか部屋に戻っていた私は、帰宅を告げる小さな声と朝日が差し込んでいる事に飛び起きる。

 今月五日には戻ると言っていた玲。

 怪我したと延びていた帰宅がやっと叶ったのだ。



 あわてて走っていくと玲の姿が見えた。

 飛びつきたい衝動を抑えて、ゆっくり歩く。だって玲は早くも駆けつけていたユキちゃんを眩しそうに見てから、そっと彼女を抱きしめていたから。ユキちゃんに昨夜の気配はもうなかった。

 その顔に、私はどうしていいのかとても迷った。私が彼にして欲しかった顔を、彼女に向けていたから。

 私が今までした来たのは、必死に『普通』に生きようとした玲を邪魔して、いつまでも暗い記憶の底に縛り付けておく行為だった。正反対とわかって尚、止められなかった行為。

 でも、小さくなった今なら。傷つけた事を悔い、素直に謝れる気がする。が、一方、それはこの家での生活が終わる事も意味していた。

 記憶の戻った二十八の酷い女をココに置いてくれるとは思えなかった。



 優しい母のような葉子姐さん。

 掛け値なしに褒めてくれるタカさん。

 恨みもせず、優しく笑ってくれるユキちゃん。

 姿に捕らわれず価値を認めてくれる魚沼様。

 そして……大切な弟の玲。



 自分がどうしてすぐに元に戻してもらわなかったのか、やっと気付く。

 ここに。

 陽だまりのようなこの場所で、暫く微睡んでいたい、と。

 そう考えている事に。私は……




恨んでいたのは何もできなかった自分自身……




朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん、アラストール。

話題で。問題があればお知らせください




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ