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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
9月9日

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良く夢を見る子達…

 






 賀川さんが泣いてます。

 それは蒼白になるような光景。

 否、それは真紅の場所。

 赤い赤い血の海に、横たわる黒髪の女性を抱えて、声も無く泣く賀川さんが居て。

 抱きかかえているのは、あのバス停でキスをしていた人、そう思いましたが、違っていたようです。彼女自身がそこに現れて。確かに少し雰囲気が違うけれど、双子、のようです……

 彼女は賀川さんを殴り飛ばして死んだ女性を奪い、噛みつく様な目つきで睨んでいて。回りに何人かが寄ってきて、何かを言うと、無表情になった賀川さんが何も言わずに去っていきます。

 何も感じていない、そう装う彼は、とても寂しそうに見えて。



 その背に言葉をかけたい、そう思った時、私は目が覚めました。



「どうして、こんな夢……変な夢でした。何でしょうか……ね、水羽さん?」

 私、泣いていたみたいです。

 この夢、ここ数日よく見るのです。賀川さんか帰宅が遅れると聞いた日からでしょうか。

 別にこの前の鬼になる夢みたいに気持ち悪い事は無いのですが、とても暑い時期なのに薄ら寒い気分になります。

 手にあった黒軍手君を更に強く握りしめ、お守りとして戻した真っ赤なネジに触れて、『水羽』さんを呼んでみますが、返事はありません。彼女は私の問いに答えてくれる事は無く、沈黙しています。だいたいいるかもわかりません。

 左手の傷の包帯を外してみます。痕、目立つでしょうか? まだ痛むけれど、包帯を巻いているといつまでも病人みたいなので、今日からもう要らない事にします。



「おはようございます」

「あら、おはよう、ユキさん」

「おはようございますですわ、ユキちゃん!」

 左手の痛みに耐えながら洗面を済ませると、台所にふわふわ行きます。

 冴ちゃんは葉子さんのお手伝いをしながら、ココにすっかり馴染んでいます。今は弁当を二つ、イソイソと詰め込んでいて。

「冴ちゃん、今日も行くの?」

「今日はそしょうのてつづきとかで、魚沼様がおもどりになるのはおそめだけど。きっともどったら、なにも食べてないと思いますのよ」

 このお弁当を持って、魚沼先生の所に通うのが冴ちゃんの日課です。



 初めは新聞の日付を見て、何十年もたっている事にパニックを起こしかけました。

 が、葉子さんとタカおじ様が『人生そんな事もあるんだ』? などと、少しファンタジックに話して聞かせ、落ち着かせていました。流石二人共、子育て経験があるせいか上手でした。それで信じてしまうのは子供だからでしょうが、魚沼先生曰く『冴は尊敬に値する』知識やらがあるそうで。

 子ども扱いしないからか、冴ちゃんは魚沼先生を大層気に入り、お弁当の昼食後はお手伝いしているようです。

「冴ちゃん、今日は行くの遅めなら、私の部屋に来ませんか?」

 私は朝食を受け取りながらそう言うと、

「そうね、冴ちゃん今日はそうなさいな。ああ、娘が二人も居るみたいで楽しいわ。ベルちゃんとリズちゃんが居なくなって寂しいけれど。行く頃になったら私の部屋に。お洋服が縫い上がっているのよ」

 ベル姉様が帰ってからも、リズちゃんはうろなに居て、お小遣い稼ぎに工務店のお手伝いには来ているようですが。裾野の方に顔を出す事はないので、余り会う事は無いです。


挿絵(By みてみん)


 携帯の番号も教えてもらったし、何かあれば駆け付けるっスよって言ってくれましたから安心です。

 そういえば葉子さんはすっかり冴ちゃんがお気に入りです。得意の裁縫でバルーンスカートを今回は作っていました。

「男の子ってズボン作っても、何かテンション上がらなかったけれど。レースを触ってるだけで幸せだわ。それも高馬ったら小学生の中頃にはもうとても大きかったから……」

 色々言いながらも、五つで別れた息子さんに、葉子さんはそれなりのサイズになるまで手作りの服を送っていたようです。

「葉子姐さん、今度、緑のシフォンワンピースを作って下さいませ。お写真にあった巴様が着ていらした半袖のが可愛くて……」

「今時期だとジョーゼットより綿が良いかもね。ワンピースと言っても、どんな感じかしら……」

「私が後から話を聞いて、イメージ画を描きましょうか?」

 皆でワイワイ楽しくしながら、朝食を済ませます。






「……へえ、魚沼先生って妹さんが居られたんですか?」

「もう、お会いになれないって、いつも写真を見てらして。小さい頃のしか手元にないみたいですわ。しょうがくせいくらいから魚沼様は、ご実家にもどってないそうだから」

 日に焼けたセピア色の写真、相当古いそうですが、冴ちゃんが覗いた時に、魚沼先生がその服は緑だったと言っていたらしいので、そのイメージで色を付けます。

「スカート裾にはもようが入っているとの事ですわ……襟はもっと、そう、リボンになってるって……」

 言われた通りに描きこんで、冴ちゃんが満足した所でお茶を飲みながらお話をします。

「どうしてぎょぎょのオジサマが好きなのですか?」

 そう聞くと冴ちゃんはぱっと顔を赤くして、

「あたまが宜しくて、私の言っているコトをリカイしてくれますの」

「理解?」

「けいえいせんりゃくや、こんごのヴィジョン、せかい事情に。りゅうつうにかんするちしきに。私がかいしゃの話をするのに、いちど話してリカイできる大人がどれだけいるか、おわかりになって?」

 ブンブンと私は首を振ります。彼女から見るとわからない大人の一人な気がします。

「魚沼様はわかるかた、ですわ。でも、ユキちゃんはそう言うのはニガテでも、絵はすばらしいわ、そう言えば楽器は?」

「私は全然……」

「私は絵も楽器もダメ。玲には楽器はいろいろかじらせたけれど、ピアノが一番でしたわ」

「そうでしたか」

 この後は、話が賀川さんの小さい頃の事になりました。冴ちゃんがとても饒舌で、どれだけ賀川さんが好きかわかります。とても素直な愛情で、きっと攫われたりしなければ、賀川さんも冴ちゃんも普通に育って、私に会う事もなかったでしょう。

 不思議な事です。

「では、賀川さんはそんなに走り回る事は無かったのですか?」

「そうねぇ、うんどうしんけいは、おせじにも褒められなくて……」

「そうですね、体力はあるけれど、体育が得意ってイメージはありませんね」

 私はお茶を啜って、そう言うと冴ちゃんはフォローして、

「でも、あきらちゃんはおともだち思いで」

「へぇ……」

「ただし変わっているからとくていのおともだちは少なかったわ、一番の友達はま……」

 何かを言いかけた冴ちゃんの口元が言葉を紡ぐのを急にやめます。

 持っていたカップをかすかに震えながら置くと、

「そろそろ時間ですわ」

「え、ぁ、冴ちゃん?」

 追求しようとしましたが、葉子さんがノックして入ってくると、

「明日、賀川君、戻るそうよ。冴ちゃん、あきらちゃんが戻ってくるんですって」

「ほ、ほ本当ですか? うれしいです。ではユキちゃん、これありがとう。葉子姐さん、これなのですけれど、作れそうですか?」

 そう言って描いてあげた絵を掴むと、慌てて部屋を出て行くのでした。

 二人に残された私は、ボンヤリしながら、

「賀川さんが、帰ってくる、帰って来るんですね……」

 何だかたくさん話したい事があるけれど、何から言ったらいいのでしょう。そう考えるだけで何だかとってもドキドキしました。


朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん、リズちゃん

話題で。問題があればお知らせください

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