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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月28日

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132/531

説教中です

うち関係ですが、ネタバレと思う方は読まないで下さい。

llllllllllllllll


この、ちいせぇヤツが…









 バッタはオレを『赤い宝刀』の制作者だった刀流の父親として紹介し、部屋を二つ用意させ、最初はオレとバッタで話に当たった。

 既に社長が消えた事が内々に騒ぎになっていた。

 何故かさえちゃんはぎょぎょを気に入ったらしい。二人で『ぱそこん』で色々とやるんだと、用意させた別室で待機する事になった。



 バッタは多くを語らなかった。ただこの会社の代表である時貞 冴が、神の『怒り』に触れ、記憶を奪われ、子供化されたと、どう聞いても荒唐無稽な話をポンと投げた。

「さえ、さ、冴が? 小さくなった?」

「貴方も企業の、また国のいろんな事象を知る者なら、そんな不可思議な現象に巻き込まれる事もあるのは周知だろう?」

「だ、だがだね、ぬ、抜田先生、御冗談を……」

「冗談と思うなら、それでいい。だが、こういう事象に巻き込まれた人間を、政府の中枢研究機関が放って置くと思うか? お前の娘は切り開かれて遠心分離器にかけられて、一生四角い部屋で存在を抹殺されて過ごす、それだけだ。今すぐそいつらに彼女を引き渡しても良い……話は終わりだ」

 バッタはオレを促し、席を立とうとする。

「お前も親なら、ちったーぁ自分の子の小さい時の顔ぐらい覚えているだろうがよ。ま、邪魔したな」

 ガリガリと頭を掻くと、オレもそれに合わせる。



「ままままって、待って下さい。うちは、うちは冴の商才と頭脳、そしてあの『宝刀』で守られているんです」

 小さい男だな、オレはそう思った。実際の見た目ひょろっとしていて、もし賀川のが鍛えもせずに年を取れば似ていたかもしれない。

 だがうろなを発つ数日前、ユキと森から戻った奴は、いつも以上にスッキリした顔をしていた。もともといい面をしていたが、あれなら色々期待していいかもしれない。

 変わったのはベル嬢ちゃんが来て、翌日の手合せの時だろう。ヤツの戦い方は抜身の刃、それが分かっているからこそ必ずヤツは自分に何重もの戒めをかけて戦う様にしている。確かに普段はそうでなければいけないが、それでは奴特有の勢いにまで歯止めがかかってよくない。

 だがベル嬢ちゃんと戦った時、一瞬ながら全ての制御を外した状態で戦った事、自分より格上と当たった事で見えてきた物があるのだろう。

 また何かベル嬢ちゃんと話した事で、心境にも変化があったと見えた。海外から無事帰還したら、また鍛錬に励めばきっと伸びるし、体の強さは奴自身の心の強さにも必ず役立つ。

 だが本気の頸椎切りを受けて平気なベル嬢ちゃん、その彼女をてこずらせた『悪魔』とは何者であったか。オレには皆目見当もつかない。ユキの敵があまりにも不気味で強大である事に気付かされる。本当にユキをこれからも守っていけるのか……イヤ守っていかなきゃなんねぇと気合を入れつつ目前の細っこい中年を見やる。



「何を泣きごと言ってるんだ」

「ですが冴が、冴が居なければ」

 オレは賀川のを思いながら、目の前にいる奴の父親に目を向ける。

 可哀想に、すまなかった、賀川にいずれ謝らねばと思っている。いや、謝っても済まないだろう。

 息子の刀流が作ったネジが生んでしまった、この会社の利益の為に辛酸を舐めた少年に。目の前のオヤジが奴の命を手放さねば会社は潰れ、その末端の請負工場などは間違いなく何人も首を括る羽目になっていた。

 息子を捨てて会社を守った、それは良い事ではない。が、巻き込まれる社員や関係者達からすればそれが最良だったのだろう。元来その『事件』さえ起こっていない事として抹消された。賀川のが『消えた』のは事故で、帰って来たのは消えた事が何かの手違いだったとしたか、奇跡とでもしているのだろう。

「賀川の……」

 俺は奴を思いながら拳で手の平を叩き、男を睨みつけた。







 堂々巡りの騒ぎを起こし、悲痛な叫びをあげる男を引きずる様に、部屋を移動した。そこには小さくなった彼の姉、冴がいた。

 美味しそうな菓子を出されて、至極ご機嫌な彼女は、お嬢様らしいふわふわの光沢あるワンピースにレースのブラウス、黒いエナメルの靴を穿いていた。どこぞの発表会に出るのにふさわしいような服だと言ったら、『裏の子の発表会の衣装』だと葉子は笑っていた。育ちが出るわと言いながら着せたそれを、見事に普段着として着こなした彼女は幼いながらに大会社の娘だった。

「きゃあ、魚沼様、これでいいかしら?」

 っと、何故か完全にぎょぎょに懐いた様子。

 何をさせているかと思えば、役員達に発布する文章や暫く退陣するための布石などを自分からやり出したらしい。ただ自分の為とは分かってはいないようだ。

「この子は確かに経営の神だ。会社についての把握は完全にして完璧だ。その辺りは、すべて覚えているようだ、姿さえ出さねば、普通にこのまま椅子に座る事も可能だろう」

 ぎょぎょの耳打ちに、オレは否定的な首振りをした。

「この男の元に置いていけば、また同じような女に育って行きやがる」

 それを聞くと、ぎょぎょは夢中になって色んな会社をカーソル一つで弄っていく彼女を止め、

「君は『あきらちゃん』を探していると言ったが。どうしていなくなったのか、もう一度、この人達に説明してくれるか?」

 そう聞くと幼い、いや幼く見える彼女は顔を曇らせた。

「どうしてかはわからないの。でもバスが、スクールバスが事故にあって……」

「辛いならいい」

「ううん。私、気を失ってたからよくは知らないの。気が付いたら病院のベッド。その後はお父様が。あきらちゃんはもういなくなった、あきらめなさい。もう忘れなさいって言うの……でもあきらちゃんが連れて行かれるのをお友達がいるの。ねえ、何だかお父様、年を取ってしまったみたい。大丈夫ですか? この方達があきらちゃんの行方を知っているんですって、よかったで………」

「う、ああ、ああああ」

 そこまで聞いた所で男は狂ったように叫び部屋を飛び出していく。

「お父様?」

 オレは奴を追っていく。行きついた先は先程まで話に使っていた部屋で、そこにあった調度品や置いてあった物を投げ捨て、ゴミを量産していた。

「冴が居なければこの会社は立ち行かなくなる、あのプロジェクトも、その件もああああっ……」

 態度や台詞で判断すると、この男、娘の商才を生かしてこの会社を回してきたようだ。息子の命で資材を確保し、やってきたわけだ。さえちゃんが聞いてない所でバッタに聞居た所によると、普段さえちゃんに代表を任せ、自分は愛人の所に入り浸り、顔が必要な時だけ動いていると言う。

 オレは奴の首根っこを掴んで、こちらを向けさせた。

「お前、親だろう! しっかりしろっ」

 だがヤツの目の焦点は合いやしない、人形の方がよほどマシと思われた。

「こっちを向け、お前の娘は生きている、それで十分じゃないのか!」

「か、会社が私の会社はどうなるんだ」

「知った事か! 株でも売り払ってどうにかするか、てめぇで始末が終えないなら潔く退陣してどこぞに売り払えば、家族より大切な『会社』自体は守れるだろうよっ」

「そんな、わた、わたしは……」

 我慢の限界だ、何発か殴り倒して、体を揺する。

「しっかりしろ、息子を切り捨てて守った会社、娘に任せるまではてめえの手腕で大きくしてきたんだろうがよっ。息子に守らせ、娘に育てさせ、嫁を肥やしにして、ただただ美味しい所だけ収穫してるなど、親のする事じゃねぇっ」

 オレは奴を床に捨てた。

「とにかくお前の娘は責任もって預かる。それについては他言するな。ただ一会社の代表が消えたとなれば騒ぎになるだろう。その辺は病欠だとか何だとか、あの二人がどうにかする。意地を見せろ、男だろ、親だろう! もともと何もない所から立ち上げたんだろう。その時の気概でやりゃ、どうにかなるだろうよっ」



 俺はしゃがみこむと、男の目を覗きこんだ。

「……なあ、お前の娘のさえちゃん、賀川むすこのが酷い目にあっていた事、忘れてやがるみてえだ。まだ奴が辛い目にあった事を知る寸前の可愛いさえちゃんだ。わかるか、この意味が」

 俺は思う、自分の嫁が犬すら食べない挽肉になってしまった過去を。そればかりが邪魔して幸せだった時の記憶が塗りつぶされたあの瞬間を。

「チャンスなんだよ、彼女が壊れちまっていたのはわかっていただろう? 欠けた茶碗は普通元には戻らない。いくら塞いでも水が漏れちまう。それと同じで焼き付いた記憶が綺麗に無くなるなんて有り得ない、いつまでも苦しまなきゃならない、死ぬまで付き合わないとならないんだ」

 忘れたようにふるまっていても、崩れ落ちていく息子の命が指から零れ、あいつの作ったネジと同じ色をした赤い絨毯が道路に広げられた瞬間を消せはしない。顔の無くなった妻の遺体ばかり思い出して、毎日飽きるほど見ていた筈の彼女の笑顔が見えねぇんだ。

「その苦痛から、さえちゃんは一時的でも解放されているんだ。貴重な、貴重な、彼女の時間なんだ。これでまた元に戻った時に、その間どうしていたかでこれからの彼女の運命が大きく変わるんだ! わかるだろう?!」

 オレは一気にそれだけ言い捨てると、やっと口を男は閉じた。

 こいつも冷たく賀川のを切り捨てた時点で、妻が狂い、娘の言動がおかしくなり、大会社を守る重圧から……病んでいたのかもしれない。

 まだ正気になりきれない男がそこには居たが、僅かに、僅かだけ、黒い瞳に賀川のと同じ炎が揺れたのを見た。

 この男はまだ死んでいない。



『タカさん、きっと大丈夫』

 その時、オレは僅かに、『彼女』がそう言うのを聞いた気がした。

 どんな時でもオレを信用し、立ててくれた彼女の声を……確かに聞いた……気が、したんだ。




朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん


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