表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月28日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/531

後始末中です(紅と白)

私の作品は現在朝陽さんとコラボを深くさせていただいております。


ですが、朝陽さんサイドの更新を楽しみにしている方には当方『ネタバレ』だという話があるようです。


これはネタバレではなくコラボ作品です、お間違えなきよう閲覧ください。


朝陽さんサイドのお話を重点おいて、お読みになりたい方は、当方の話をお読みになる時は、

(紅と白)

が付いたお話はお読みにならない事を推奨します。


 









 鍛錬に向かおうとしていた時間、玄関先に何かの気配に気づいて扉を開ける。

「オメぇら……何やってきたんだ?」

 別に大きな怪我をしているわけではない。だがベル嬢ちゃんもまともに意識は無いようだった。彼女を抱えて帰って来たリズ嬢ちゃん。そして何故かユキは一人の少女の手を引いている。ソレもかなり大きな着物をたくし上げて着せられていた。

「りず、べるを、はなれに寝かせてきなさい」

 オレは初めてユキの赤い瞳を見た時の様に驚いた。浮世離れしたその容姿だが、おっとりとした雰囲気がユキからは滲んでいて、恐ろしいだけではない人間に温かみがあるはずなのに。

 今のユキにはそれが薄い。それでいてユキではないとは言えない彼女らしさもきちんとそこにある。

「行ってくるっス。お邪魔するっスよ」

 彼女の言葉に従って、リズ嬢ちゃんはきびきびと赤髪の彼女を運んで行った。



「たかやり、この子たのむわ」

 そこにいた『ユキ』は、その一言でオレに引き連れてきた子供を渡そうとするので、慌てて、

「何モンだ? 少なくともうちのユキは人を呼び捨てにはしねぇぞ」

「何故、にんげんはこう『だれであるか』にこだわるのかしら?」

 そう言うと、『べるに今っぽいナマエをもらったからそれで通すわ』と付け加えながら、

「わたしは水羽、ミズハよ。『巫女とは古い古い血の契約で結ばれた者』」

 そう名乗る。

 オレの知らない事だったが、ベル嬢ちゃんに不足している『力』を彼女は接吻によって送った。その時に『精神世界』とやらで、彼女と会話してきていた。その時も名前で悶着し、最終的にベル嬢ちゃんから『水羽』と名付けられたのだった。

 どうやら気に入っているらしく、面倒そうにしながらもどこか嬉しそうに名乗ってから、

「そしてこの子は、ときさだ さえ。ここのいそうろうの姉よ」

「ここの居候の『姉』だと?????」

「かのじょはね、やり直すべきだから、ちいさくしてあげたの。もうねむくなったから、あとはよろしく……」

 ふら、ふらっとユキの体が前後に揺れ出したと思ったら、ぐらりと崩れる。オレは慌ててユキを抱きかかえた。その時、葉子さんが騒ぎに気付いて台所から出てくる。

「ゆ? ユキさん? 大丈夫なの?」

「わからん」

 掌にハンカチをくくっている以外は、余り変わった所は見受けられなかった。だが、『水羽』の気配が消えた途端、ハンカチが朱を帯び、血が零れだした。

「よく、ないか。救急箱を出してくれ」

「おじさん、これ?」

 今までユキが手を繋いでいた娘が箱を見つけてくれた。

「あら、可愛い子ね。どこかで見たような感じ……賀川君にちょっと似ているかしら?」

 生意気そうな、無表情の子供は救急箱を抱えながらも、どこかまだ寝ぼけている感じだった。だが葉子さんが近づくと嬉しそうに微笑んで、

「はじめまして、ときさだ さえ と、いいます。ここに『あきらちゃん』がいるってきいてきました」

「あ、あきら?」

 俺はだいぶ考えてから、いそうろう、賀川の、そしてときさだと言う名前を結びつけた。

「賀川の、の、本名だ」

「も、もしかして、賀川君の隠し子?」

 少女は十歳より少し下だ、二十の半ばの奴の子でも問題ない。かもな。

「そう、かも、しんねぇな。なあ、さえちゃんよ。この白髪の嬢ちゃんと二階に来てくれねぇか」

「あきらちゃんは?」

「そこがそいつの部屋だ。ただ今は家にいない。二週間くらいで戻るから待っていられるか?」

「は、はい」

「よしよし良い子だ」

 頭を撫でてやってから、ユキをお暇様抱っこして、玄関に常備してある救急箱と一緒に賀川のの部屋に入った。ユキの左の掌には何かを捻じ込んだような深い穴が開いていた。

「さえちゃんは見るなよ」

 血をガーゼで拭き取る。痛いのだろう、ユキは顔を顰めた。だが起きる気配はない。骨を折っていないのは幸いだった。

「可哀想によ、何でこんな事に。縫った方がいいか……病院は様子を見て行くか決めるか……」

 痛むだろう。しかし何をやったんだと思いながら、大き目のテープを張り付ける。それで出血を止めて、ずれないように、丁寧に包帯を巻きつけた。


 ユキの処置を済ませると、トイレの場所を教え、後から食べ物は持ってくること、毛布を渡して疲れたら寝て良いからと告げると、さえ、と名乗る少女は上品に笑って俺を送り出す。

 階段を降りながら、オレは計算しようとしてどうせできないのに気付く。面倒な事は奴らに聞く方が早道だ。降りてきたオレに、葉子さんが笑って、

「タカさん、小さい子は苦手かと思っていたのに」

「だいぶな。研修に行って馴れた。地下に居る奴らに今日は自主練、仕事は後から追ってオレの穴を埋める指示出すから待ってろと伝えろや」

「わかりましたよ。日があけたらどこかで子供の服を貰って来ます。たぶん裏の家の子のお古ならサイズが合うんじゃないかしら」



 しかし、葉子さんは受け入れ力の強い女だ。流石に賀川の姉と言えば驚いただろうか? 本当だとすればいずれ話す事になるが。たぶん涼しい顔で『ここに置くなら食費稼いでくださいね』とでも言うのだろう。俺の仲間、『おんま』の嫁だけはある。

「今からどこかへいくのです? タカさん」

「バッタ達を呼んでからな。あの子の食事を……」

「わかってます」

「すまねぇ」

 オレはそう言って自室に戻ると、仲間を電話で呼び出した。





「すまないな、リズ嬢ちゃん。」

 ポニーテールを綺麗に結い上げた彼女。耳のようなふんわりした三角がその頭にあって、注意深く見てると時折動く。少し触ってみたい気がするが、今はそんな事を気にしている暇はない。

 ベル嬢ちゃんの様子を見に行ったが、特に傷は見たらず、ただ心底疲れており、貧血気味なのか顔色が悪かった。

「たぶん大丈夫っス。水羽様が診てくれたっスから」

 そう言いながらも心配そうにベル嬢ちゃんに張り付く彼女を引っ剥がして、今オレの部屋に正座中だ。

 部屋には河童もどきの弁護士の魚沼ぎょぎょ、元代議士現不動産業の抜田バッタ、オレとこより大きな工事請負会社の後藤建設社長の後藤あとけん、それにオレと言うムサイ面々に、昨夜の事を語らせていた。

「そんで、どうも悪魔に憑かれた賀川のねーちゃんが、ベル嬢ちゃんと大立ち回りしたってか?」

「そりゃあ、お見せしたかったっスよ。地下なのに大きな滝のようなのがあるおかしな場所だったんっス」

「滝が森の中にあったんだな? 木の洞、地下か……」

 頷くリズ嬢ちゃんにバッタが難しい顔をしながら腕を組んだ。熱くその戦闘ぶりを語る彼女に、こうみえて一本持たせれば抜群の戦闘能力を誇るぎょぎょは喰いついていた。

「ほうほう、それで」

「……で、死闘の末に先輩は悪魔を追い出したッスよ。そりゃあ、見事でした」

「うぬ。ただ最後に奴を取りのがしてしまったのが残念だったな。だが女子にしてあっぱれな戦いぶりだった」

 ちょっと俺にはテレビの見過ぎだろうって描写はあったが、それは大した事ではない。

「これで終わりだと思った時に、ユキちゃんが倒れたっスよ」

「もともと首に『呪い』を受けていたってんだな、ユキが」

「そうっス、それを救うためにかなり荒療治に出た後、やっと大元を叩き潰した先輩が、大出血したんです。もう私どうして良いか……そこでユキちゃんが立ち上がって傷を触っただけで治した後、先輩とキ……」

 何か言いかけて顔を赤くしたリズ嬢ちゃんに、ぎょぎょが首を傾げた。

「いや、ともかくユキちゃんの中の水羽様が助けてくれたんっス。先輩と私の傷も癒してくれて、同じ様にあの姉さんに触ったら……何故か小さくなったのには驚いたっすよ? 今まで大人だった女性が見る間に小さくなっていくんっスから。何が起こったのかわからなかったっス」

「本当に、本当に小さくしたんだな……?」

「ほ、本当っスよ。それにユキちゃんの中にいた水羽様は『神力』を使っていたっス。何かの『神』なのは間違いないっスよ! そ、その目は信じてないっスね」

「いやいや、私は信じよう。見たままが君の真実だ」

「じゃあ」

「だが現実には即していない、これを納得させるようにはどう組み立てたらいいか」

 ぎょぎょが唸り始める。隣でまあ、世の中は色々あろうなと頷く後剣。

「ちょっと頭を整理させてくれや、リズ嬢ちゃん。どう思う? バッタよ」

「……撞榊厳魂天疎向津姫命(つきさかきいつみたまあまさかるむかつひめ

「急に何の呪文だ? バッタ」

後剣の言葉にオレも賛同するが、バッタは首を振った。

「違う、宵乃宮が代々祀っていたと言う神だ。瀬織津姫せおりつひめとも、または闇御津羽くらみづはとも呼ばれていた」

「くらみづは? で、みづは、みずは『水羽』か」

「たぶんな」

 俺は唸るしかない。

「……火之迦具土神ひのかぐつちのかみ

「また……次は何だ?」

「これは宵乃宮が御神体として祀っていた『神剣』とも言えるそれに宿った神の名だ。一応、話のついでに覚えとけや、投げ槍」

バッタの言う舌の噛みそうな名前、聞いた途端に二つとも忘れちまったんだが。

何とか当座に必要な神の名前である『水羽』と言う名前だけを覚えて、話を進める。

「賀川のの姉ちゃんが、ユキに刃物を持ってきたって聞いた時でも驚いたが、恨みの余りに悪魔なんてもんと仲良くしちまうとは」

「完全なブラザーコンプレックス、だな」

「ブラだ?」

「行き過ぎた姉弟愛って意味だ、投げ槍……」



 賀川のが攫われた時、ヤツの姉ちゃんの年はたぶんユキが連れて来た少女くらいなはず。

 自分の弟が攫われたショックは大きかっただろう。ヤツの母親なんかは発狂したまま、死ぬまで元には戻らなかったとバッタが調べを付けていた。どんな方法で賀川の身代金、いや流刀のネジの情報を奪おうとしたのか。

 と、そんな事は今はどうでもいいが、その時から既に彼女がおかしくなっていたなら、ユキ、いや水羽を名乗る神が『やり直すべきだから、ちいさくしてあげた』その意味が解る。

「しかし小さくしちまったのはイイが、ソレをどうしろって言うんだ……」

 キラキラした瞳で、『ここに『あきらちゃん』がいるってきいてきました』そう言った礼儀正しい彼女が、ユキと賀川の仲を恨んで殺そうとまでし、あまつさえ『悪魔』に身を売る。神がもう二度とそうさせまいと考え、『小さく』したならそれに応えなければなるまいが。



「彼女はTOKISADA……大会社の代表だ。放っておけば問題になるだろう」

 まさか小さくなったと想像する者はいないだろうが、何かのはずみで俺達や関係の者達が人攫いとされるのは上手くない。

「とりあえずハシを。出来るか、バッタ」

「あそこは顔が利く。刀流のおかげでな」

「俺は一応あの会社の顧問弁護士の主任だが」

「つまり普段はまかせっきりって事か、ぎょぎょ」

「ふん。暫く彼女を病気療養の形に持って行ってやるから、オヤジを黙らせて彼女の分の仕事をさせて来い」

「おうよ、リズ嬢ちゃん、助かった。後剣、済まないが今日……半日か。オレの工務店、頼まれてくれるか?」

「一日でも、一週間でも行ってこい。俺が見といてやる」

「助かるぞ、後剣。これから俺達は出かけて来るから、リズ嬢ちゃんはベル嬢ちゃんとユキを頼む。どうしてもの時は後剣に相談しろ」

 そう言って立ち上がりかけた俺達に、

「その、TOKISADAってテレビとか作っている会社っスよね? 旅暮らしの私でも知ってる会社っスよ? そんな会社の社長掴まえて小さくしたって大丈夫なんっスか?」

「大丈夫じゃねーだろうが」

 俺はリズ嬢ちゃんに笑うと、

「ここまでお前さん達にユキを守ってもらったんだ。ケツぐらいは拭かせてくれ」



 リズ嬢ちゃんの顔に笑みが戻る。

「任せたっスよ!」

 俺達はバッタの高級車にさえちゃんを乗せて、彼女の父親に会いに行った。



朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん、リズちゃん、そしてアラストール。

綺羅ケンイチ様『うろなの雪の里』より、後藤社長(後剣)さん

お借りいたしました。問題あればお知らせください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ