仲介中です(紅と白)
私の作品は現在朝陽さんとコラボを深くさせていただいております。
ですが、朝陽さんサイドの更新を楽しみにしている方には当方『ネタバレ』だという話があるようです。
これはネタバレではなくコラボ作品です、お間違えなきよう閲覧ください。
また、できましたら朝陽さんサイドのお話を重点おいて、お読みになりたい方は、当方の話をお読みになる時は、
(紅と白)
が付いたお話はお読みにならない事を推奨します。
それは誰も居ない様に見える、明け方の森。夏だがまだ日が上がるまでにはまだ時間がある上、この日は先程までゲリラ豪雨に見舞われ森は驚くほど暗かった。
『くら、ミづは……め。禊の雨など降らしよって、忌々しい』
そう呟きながら、朽ち木に身を寄せる影があった。大きさにして成人男性一人分程、この辺はクマも出没するが、まず言葉を口にする動物は居ない。だが、それはあきらかに人ではなかった。正確に言うなら人やクマなどの形ある存在ではないのだ。
それは例えるなら『煙』。
だがそこに煙を生じさせる炎はない。そしてそれは煙のように風に流される事もなく、重々しく、鈍くそこに渦巻いていた。
「お困りのようですね?」
今まで雨が降っていたハズであるのに、『煙』に話しかける男は傘も持っていないのに濡れていなかった。森の土はとても栄養豊かな柔らかい腐葉土で、濡れているのだから人が歩けば足跡を残し、靴が汚れるハズであるのに、それもなかった。
「お前は……」
「復讐できなかったようですね、アラストール……その名が泣きますよ」
その『煙』は冴と契約し、その体に入り込んだ『アラストール』だった。
赤い堕天使が放つ決定的な一撃が目の前に繰り出されようとした瞬間、何とか冴を切り捨てて逃げ出した。恨みを重ねた人間の体を得た事で戻って来つつあった力。だが体を失った事でそれは水泡と帰し、失われ、もともと憑代として向いているわけでもない人間を代用した反動が逆にアラストールを摩耗させていた。
本来なら『巫女』を手に入れた時点で、冴の全てを干乾びるまで吸収し、より強い者となる予定であったのに。
冴と自分を切り離した後、使う予定であった最後の自己再生能力。最後に現れた『鎖』はその力を吸い取って冴の方に送り、彼女の体を修復してしまっていた。結果として冴は堕天使におわされた怪我やアラストールと契約した負荷が殆ど残らなかった半面、アラストールの方にその皺寄せが来ていた。
「うるさい! その力と体をよこせ」
普通の人間なら、まだアラストールに残った『力』で欲望を探られ、冴の様に契約させられるか、意志の弱い物なら十分支配できたはず。
だが冴が『篠生』と呼んでいた男が、細い目で一睨みしただけで『煙』は身動きが取れなくなった。
「お望みなら消してあげましょうか?」
『だいたい何故、火之迦具土神が……』
「んー? そんな昔の名前を覚えているって相当ですね。まあ、この雨如きで存在が揺らぐような貴方ほど、か弱くはないわけですよ。もともと宵乃宮の産物であるのだし、ココで今、消しても問題ないのですけれどもね……」
彼が素早く動き、触れた瞬間、その部分の『煙』が勢いよく燃え盛り始めた。ひぃっとアラストールは悲壮な声を上げる。篠生が軽く手をあげると、合図だったかのように火は消えた。
「手を下すのは嫌いなのです。でも少し燃やしてしまったので、良い事を教えましょう」
『な……』
「あちらの方に、あの堕天使達が探している『物体』があります。アレは力を求めていますから、交渉次第ではあなたの助けになってくれるかもしれませんよ?」
言われた方向に『煙』が意識を向ける。すると言われなければわからない程に覆い隠されていたが、僅かにその邪悪な気配を感じ取る事が出来た。恨みを重ね邪悪の塊となったとはいえ人間であった冴よりも、大きな『魔力』が籠ったそれにアラストールは心動かされた。
『だが何の目的だ?』
「私は仲介屋ですから。必要なモノを必要な所に繋ぐのが仕事です」
意図はわからない。だが冴と言う体を失ってこのままこの姿でうろ付けば、あの堕天使を始め、この町に蠢くいろんな力の持ち主に問答無用で消される可能性も高い。
早い所、自分の意志に近い何がしかと手を結ぶ、または力を手に入れる必要があった。冴のような人間を見つけるのは簡単だが、篠生が指し示したソレは、より手早くそして強力な何かが手に入りそうな予感がした。
『煙』はゆっくりと篠生が指し示した方向へと動き出す。
一方の篠生はその姿を数秒だけ見つめた後、逆方向に歩き出す。
「今からその調子で移動してたら夜までかかりそうな場所ですけど。頑張って下さい」
その声は小さすぎて、活路を求めて動き出したアラストールの耳には入らなかった。
濡れたシダや樹は彼を濡らさないという意思があるかのように、さあっと道を開けた。その事に篠生は取り立てて感動したわけでもなく、ごく自然に森を出る方向へと足を向ける。
「これで『アレ』はアラストールを喰って、大きくなるでしょうが、後始末は彼女達がやってくれるでしょう。元々の目的と繋げてあげるのですから、良い仲介が出来ましたね。ま、一石二鳥っていうことです」
樹から降り注ぐゲリラ豪雨が残した雨だれが落ちるが、その雫さえ彼を濡らす事はない。まだ来ぬ朝日を待つ森を彼は感慨もない調子で歩きながら、
「ああ」
篠生は歩みを止める事もなく、ただ猫のような細い目を少しだけ開いて、
「そう言えば、アラストールにアレが、交渉という感覚がある物体かどうかはわからないという事を告げ忘れました」
彼は意味深に笑うと、
「どうせ伝えた所で、彼が行く道だったでしょうから、気にしない事にして帰りますかね」
そう言って、楽しそうにその場を後にした。
朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん、リズちゃん、そしてアラストール。更に魔本の存在を。
お借りいたしました。問題あればお知らせください
また、洞から滝に続く道は『篠生』によって閉ざされました。
大変危険です。
くれぐれも迷い込んで見つけたなどはないようにして下さいまし。




