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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月28日

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129/531

治癒中です(紅と白)

すべて、おわったかなぁ。

あら、あら、大変


三人称で進めます。


llllllllllllll



私の作品は現在朝陽さんとコラボを深くさせていただいております。


ですが、朝陽さんサイドの更新を楽しみにしている方には当方『ネタバレ』だという話があるようです。


これはネタバレではなくコラボ作品です、お間違えなきよう閲覧ください。


また、できましたら朝陽さんサイドのお話を重点おいて、お読みになりたい方は、当方の話をお読みになる時は、

(紅と白)

が付いたお話はお読みにならない事を推奨します。

 








 悪魔と冴の『悪意』に当てられたユキは、かけられた呪いの急速な進行によって意識を失い、心音が止まった。

 それを救うべく動いたベルは、『精神世界』とも『亜空間』ともつかぬ場所で、呪いの根元『小角』と対峙し、それに打ち勝った。

 ユキもその裏で呪いの下地を作った『前鬼』と相対し、うろなの住人である汐からもらった『夜輝石』の力を借りて冴を救った。

 逃げ出した『前鬼』は傷ついたリズを次の憑代と定めるが、リズは彼がユキを苦しめた者と知り、その手で完全に葬った。

 冴から逃げ出した『悪魔』アラストールが何処へ消えたかと言う問題はあれど、当座として危機を脱したかに見えた矢先。

 現実世界に戻ったベルはリズの目の前で血の海に沈む。

 力を大量に使い切ったベル自身の赤き血の海に……






 血の海に沈む様にベルの命が掻き消えそうになる中、ユキはぱちりと目を覚ました。それに気づいたリズは青ざめながらユキを呼ぶ。

「雪姫ちゃん!? 目を覚ましたんスね! 大丈夫っスか!? で、でも、今度は先輩がやばいんスよ! 早く……」

「お退きなさいな、りず」

「は、はいっ」

 全くの躊躇なく、彼女はユキに場を譲った。だがその後、リズはどう見ても理不尽、の一言を顔に貼り付けた。でも今のユキは気にもしない。

 ユキを知る者ならば、彼女が今『ユキ』ではないのが、すぐにでもわかったろう。あらゆる意味で異質であり、何物をも寄せ付けない気高さは普段の親しみに溢れた態度と正反対であったから。リズにもそれがわかる、だが彼女の一言に抵抗出来ない……体が戦闘で傷ついているがそれで動けないのではない、近付くには恐れ多い……でもこのままベルに近付けさせて良いのか、判断がつきかねるリズ。

 ユキはそ知らぬ顔で、何事もなかったかのようにふわりと立ち上がる。左手にはネジの傷が大穴を開けていたが、何故か出血は止まっていた。

「ゆ、雪姫ちゃん……? い、いや、あんたは、『誰』なんっスか?」

 ベルに近付く事で、リズが警戒を増し、その間合いを詰める。だがソレを気にもしない。彼女はベルしか見ていない。

『あら、あら、タイヘン……』

「し、質問に答えろっス! っていうか、先輩に触るなっス!」

 心の中で彼女が考えているのを上書きするようにリズが叫ぶ。彼女はそのままユキではないユキに飛びかかろうとした。

 焦る事も無く、彼女は、



「ーー待て」



 その凛とした音に、リズは動きを奪われた上、恭しく膝を付く。それは彼女自身も驚くべき態度だったらしく、橙色の瞳は困惑に見開かれる。

 そして言った本人も驚いたようにして、

「あっ、本当に止まった。いい子ね、りず」

 ふわりと笑ってから黒髪の頭を一撫でし、ベルの血がつく事など微塵も気にせず、傍らに膝をついた。

『いい子ね、べる』

 そう思いながら、赤い髪に触れ、傷のある手をそっとベルにかざした。



 途端にベルの血が止まる。



 淡い光、命を削って降り掛ける。

 体中の傷がさらさらと、なかった事のように元通りに塞がっていく。

 ガリガリと命が削れるのを感じながら、目の前の者が癒されていく。

「だ、堕天使の自己治癒力が戻ったんスか……?」

 リズは身動きできないまま、不思議そうに呟いた。

 白い髪を揺らし、自分の握っていた勾玉を見ながら、ベルの首に輝く勾玉にも手を添える。きらっと光るその輝きを見て笑う。

「だてんしも、ねこやしゃも、いきものだから。キホンは変わらないのね、ふーん」

「ユキちゃんじゃないっスよね」

 聞かれて唸る、それは彼女にとって聞かれたくない質問であったから。

「ねえ、今、『誰か』って問題なの? 今すべきなのは、べるを治す事。たぶんね」

 リズを見やってユキの形をしたユキでない者は言う。

「ほら、いつまでそこで膝ついてるの? こっちへいらっしゃい」

 ハッとしたかのようにリズはベルの側へ近付き、跪く。

「……先輩、傷は治ったのに目を覚まさないっスね……どうしてなんスか……えーと、誰かさん?」

「……うーん、傷は治ったけど、力を使いすぎたから目が覚めないのね。しょうがないなぁ」



『巫女のいのちを、すこぉし、たましいに入れこむしかないかしら……』



 そう思いながら……



 ベルと唇を、重ねた。

















 いち、






 にぃ、






 さん、





 と、このくらいかなぁ?




 あわあわと慌てるリズ、その時間は三秒。ユキの中の誰かは、ベルの精神世界に自らを降ろし、幾つかの会話を彼女とし、意識を戻した。



「くふふ、なに言ってもべる。セカンドキスはもらったからね」

 そうベルの笑い方を模して言いながら、その唇から口を離した『ユキ』は、つっとリズを見やる。

 リズはまるで自分がキスされたかのように、赤い顔をしていた。それでもユキがユキではないと感じ、名乗らぬ『誰かさん』をまだ警戒した目で見ていた。

「きす、する?」

「へ?!」

「うそよ。りずはそこまでしなくても治せるわ。ここにおいでなさい」

 高圧的に言っているわけでもないのに、反抗も出来ないまま傅いてしまう自分にリズは驚きながら、言われるままに近寄る。プライドも何もあったものではない。ユキに対しての好ましいから懐いている、そんな感覚もない。だからと言って支配されているでもなく、強要されているでもないのに、言う事に従ってしまう。

 混乱の中で彼女は呟く。

「何で反抗できないっスか……」

「え? 何、気にしてるの? あくまで、だてんし、だからでしょう?」

「な……」

「お手っ」

 反射条件になってしまったユキの『お手』に反応してしまうリズ。



 戦っている姿で『普通』ではないのはユキにバレてしまっただろうが、具体的にベルとリズは『堕天使』という存在である。だがソレをユキに語った事はないし、語る間はなかった。だが、目の前のユキはそれを事も無げに口にする。

「何なんっスかぁぁああ……あれ?」

 混乱したリズが叫びかけたが、『お手』をした手から、少なからず負っていた傷が塞がっていくのを見て驚く。堕天使の回復力をもってしても、治りきれなかった傷が、なかった事のように失せていく。先程のベルのソレのように。

「言っておくけど、ちーと、じゃないのよ」

「えっ、どういう意味っスか?」

「かくじつに巫女ゆきのいのちをガリガリ削っているの。かきごおりみたいに」

「そんななら、治さなくてもイイっス! 堕天使っスから直に治……」

 友達ユキの命を削る……そんな怖い事を言われ、手を引こうとしたリズに、彼女は目を細くして、

「そのキズね。アナタとあいしょうがわるいわ。うんで、いずれ死にいたるけど?」

 更に重ねて怖い事を言った。

「だいじょうぶ、巫女が死なないようにはかんりしてるわよ?」

「…………ありがとう、ございます。誰かさん」

「誰か、じゃないわよ。ミズハ、水羽とよびなさい。それに治すのじたいはおわったわよ」

 今まで名乗らなかったと言うのに。ユキの形をした『水羽』は言い放った。だがそれについてリズに異論を言わさない。とても嬉しげに笑って、

「べるが決めてくれたの。『くらみづは』なんて、ちゅーにびょーみたいじゃなくていいわ、『水羽』、ふふ、かわいいわよね~?」

 っと呟き、リズが少々呆れているのにも気にせず、彼女一人ご満悦である。『さっきのキスの間に何か先輩とあったっスかね?』口には出さなかったが、何とかリズは見当をつけた。

 水羽とやっと名乗ったユキは一人、訳知り顔にしながら、「べる、は、もう無事だから。でも、めざめるのはヒルかユウガタにしたわ。そのていどに、なぐっておいたから」

「け、怪我人に何してんっスか!」

「さて、『おっきないぬさん』になるのは、そのくらいでいいかしら?」



 その一言でリズは傷だけではなく、今までの戦いで限界近くまで、すり減らしていた自分の『力』がかなり戻っているのに気付く。

「神力……っスか」

 自分に雪崩れ込んだ力を分析し、リズは呟いた。だが彼女が今まで知っている神とはもっと高慢で、もっとこう何者をも見下して、堕天使など鼻にもかけない者が大半だった。

 確かにこの水羽にも自己完結的な所はある。だが、喋り口調の端々にユキを感じ、どこか人間的な熱を帯びている。リズは戸惑いながらもそれに従ってしまい、それでいて不快感を感じなかった。それも相容れぬと思ってきた神の力が自分の『魔力』に合せて馴染むように調整されており、何の違和感もない事に驚く。

 ここで水羽がユキを『巫女』と呼ぶ事に気付いたリズは、水羽と名乗るこの『意識体』こそ、ユキの血筋が崇めていた神であったのだと結論付けた。



「さーてと。つぎは、ね。さえ、っと」

 リズの戸惑いも無視して。チョーカーを首に巻き、それからユキの大切にする黒い犬のぬいぐるみをヤワヤワと手の中でもて遊びつつ。

 悪魔に自ら好んで憑かれ、歪んだ欲望に手を染めかけた女にスタスタと近付く。闇よりも濃い、黒染めの着物ではなく、淡い色調の普通の着物を着た女性が倒れていた。

 体の傷は大した事はない。と、言うか本来はとてつもない深手をベルが負わせて悪魔を退治したのである。だが、悪魔の自己治癒能力がギリギリ働いていたらしく、それが『幸運』にも冴の命を救っていた。まさに不幸中の幸いと言えた。だが、ユキのように巫女でもなく、欲望のみで悪魔を受け入れた精神は、見た目で判断できぬほど、冴を衰弱させていた。

「えっとー、どうしようかな。もう、いそうろうには会えたわよね?」

 リズは彼女が口の端に浮かべた笑みが、ユキのそれと同質で、無邪気、そして悪意のない事に内心ほっとする。

 自分の『巫女よりしろ』に手を出そうとしたのだ、それ相応の神罰を下す事さえ水羽には許されている。神とはそう言う存在なのだから。



「なっ…………」

 だがリズが予想してなかった事態が起きた。

「な、何してるんっスか!!!!!! 水羽様っ!」

 目の前に倒れている三十歳前後の女性が、撮影したビデオを巻き戻すかのように、リズの目の前で見る間に『縮んで』いった。若返って行く、とでも言おうか、手も体も顔も完全に女性から少女になってしまう。

「これはアウトっスよ、水羽様!」

 水羽の事を意識もせず様付している事にも気付かず、目の前で起こった事が飲み込めずに。リズは叫ぶ。

「なあに?」

 何が悪いのかわからない、ユキがそんな時に出す、その同じ発音でそう言った。そして同じように緩い笑みを浮かべて、

「さえ、はね、やりなおしたほうがいいわ」

 そこには小学生程度の大きさになった『冴』が倒れていた。ゆるゆるになった着物の中で寝息を立てて彼女は眠っていた。

「ど、どうするんっスか」

 常識で考えて、あり得ない。大人が子供の姿になるなど、某アニメで充分だ。そうリズが頭を抱えると、

「だいじょうぶ、もともとあたまのいい子ってコトで」

 自立心旺盛だから、不安を感じる事はないし、小さくする事によって『負荷』を軽くできるハズだから

 ね、と、そう付け加える。

「大丈夫くはないっスよ」

「さあさあ、てっしゅう! 『おっきないぬさん』になって? 背にのせて?」

 そう言って、リズを無視し。キラキラ輝かせる赤の瞳は、どう見てもただ乗り物に乗りたがっている子供のモノだった。



 ねぇねぇ早くぅ~と、リズは急かされて『魔獣形態ほんとうのすがた』を取る。

 それは黒き獣。

 三つ首を持ち、背中にカラスの翼をもつ。尻尾まで合わせると5メートルくらいもある。地獄の魔獣ケルベロスにも似た堂々たる体躯。それを見た途端、水羽は更に目を輝かせ、

「ちょっとまってね」

 そう言うと右の首に意識のないベルを、左の首にぶかぶかの着物の子供を、どこで調達してきたのか赤い紐でリズの体躯にうつ伏せで縛り上げた。その手際の良さに、何故こんな事が上手なのかとリズは首を傾げる。リズの左側は先程の戦闘で深く傷ついていたが、もう痛みもなく、水羽の神力によりある程度回復し、堕天使の治癒力も戻りつつあるのを感じた。

「森の家に行くっスか?」

「いいえ、このまま、たかやりの家にいく。よあけまでに!」

「ええっ」

 確かに夜明けになればリズの巨体を見られずに、町へ降りる事は叶わなくなる。だが夜明けまで後僅かしかない。水羽は真ん中の首にしがみ付きながら、

「いっけーぇ……って一度やってみたかったの!」

 嬉しそうな声。それはユキが言ったのか、水羽が言ったのか、もはやリズにはわからない。

「みんな、いのちはあったんだから、後はどうにでもなるわ」

「そ、そうっスね」

 その言葉でリズは先輩と慕うベルと、友達となったユキが助かった事にやっと喜びを噛みしめた。

 逃した悪魔アラストールの事は気になるが、後の事はどうにでもなる、そう考えると気持ちが軽くなった。

「しっかり掴まっていて下さい、水羽様!」

 喜びと時間の制限が迫っている事に、リズはかなりのスピードを出して地上に上がり、森を走り抜けた。

 辺りは叩きつける様なゲリラ豪雨だったが、リズの回りは雨が避ける様に降り、気を失った二人を不用意に起こす事はなかった。



 リズの背に乗った水羽は後ろを振り返る。

「禊の雨をふらしたところで、こんぽんからやらなきゃダメね」

 巫女の大切にするぬいぐるみを握り締める。

 彼女の赤い瞳は冴えた色を放ちながら、見えない何かを見つめていた。


朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん、リズちゃん、そしてアラストール。


妃羅様『うろな町 思議ノ石碑』より、無白花ちゃん、斬無斗君


問題があればお知らせください。


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