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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月27日

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123/531

軟禁中です(紅と白)


あれ?

ここは……






 くるしい、こわい、いたい……



 私は目を覚まします。

 ここは、何処だろう……

 知らない天井……ではないです。

 私はここを知っています。

 私はこの場所に来た事があります。

 今の様に、誰かに押さえてたかのように動けないままに地面に転がされて。

「小角……様?」

 洞窟のような場所、遠くに水が落ちる音。暗い中、篝火の僅かな、光。

『あの日』の様に隣に居たのは『小角』という老人やヒトではなく、そこに居たのはただ一人。



「ふふふ……起きたわね」

 縄で縛られているわけでもないのに何故、動けないのか。意味わかりません。でも動けないんだから仕方がないのです。何とか首を向けるとそこには漆黒の着物を身に纏った『冴お姉様』……に、見える誰かが静かに笑っていました。



 ココに来たのはそう遠い日ではありません。



 二週間程前、小角と名乗る老人に全てを奪われた場所。『茨鬼さん』という何かと、私を混ぜる様にして、『鬼』という生き物へと導こうとした場所。

 あの時は変な文字が床に這っていました、そして今も。私の体はそれに似た何かで縛られていました。それでもあの時とは違うのは、ゆっくりと手を付いてなら、上半身を起こす事が出来た事です。

「少し、緩めてあげたのよ。感謝なさい。貴女がもがき苦しみながら死ねるように」

「さ、さえ、お姉様?」

 そう言った途端、冴お姉様の表情が急変し、私の回りの文字を踏み荒らしながら近寄ると、

「貴女にお姉様と呼ばれる謂われはないわ!!!!! 小娘のクセに、こんな胸なんかしてるから。まったく。私のあきらちゃんをこれでたぶらかしたの?」

 そう言って私の胸を掴み、爪を立てます。

「っ……あぁ」

 爪が……ナイフの様に私の皮膚をズブリと突きます。

 服に穴が開き、血が滲んで出ているのが感覚でわかります。ベル姉様が風呂で触ってきた、あんな優しさはなく、ただ痛いのと恥ずかしいので、頭に血が上ります。上に持ち上げられて痛いので、膝立ちになりながらできるだけ冴お姉様の方に体を立たせますが、足が立つほど力が入らず、宙ぶらりんで掴まれ、痛みは増すばかりです。それにしても何という力なのでしょう?

 まるで怪力を持ったか悪魔のよう。

『悪魔、アタリだな。こいつの瘴気は良いな、くくく……』

 頭の中で嫌な声がして、左の首筋までもが痛み出します。



「痛いの? それとも気持ちいいの?」

 何をどうしたら気持ちいいなんて質問になるのか、わかりません。ただただ痛くて、首を振って否定すると、嬉しそうにもっと力を込めてきます。

「このまま心臓を抉っても良いけど、それじゃあ楽しめないわね。貴女の痛がる姿は素敵よ」

「っつ……ぁぁ」

「さあ、私の心とアラストールの心、それを貴女の体で贖ってちょうだい?」

「ああ……どういう事、ですか?」

 何とか私がそう聞くと、いきなり地面に叩きつけるように私の体を捨てました。

 そして指についた血をちろちろ舐めながら、

「そうね、貴女には今から何故、その身を捌かれるのか知っておいてもらいましょうか? ねえ、『アラストール』」

 その名を呼んだ途端、冴お姉様の着物の色と同じ何かが、ぶわっと体の背後から湧くのが見えました。

 その色は漆黒。闇より生まれいでし、更なる深淵。それは確かな意志があって、それも受け入れたくない、見ただけで寒気が走る存在でした。



「私の中には私の力となってくれる子がいるの。名前はアラストール。私は名前を付けてあげたのだけれど。アラストール、意味は『復讐』……だって私は貴女を、この子は『宵乃宮』をとても恨んでいるの」

 私は少しずつでも距離を取りたいともがきますが、体は動いてくれません。

 そうしている内に冴お姉様の声が変わっていきます。

『お前の一族に弄ばれ、我が身を使った恨み、苦しめ、閉じ込めた恨み。晴らさせてもらおう。『巫女』よ。お前自身もいずれ『宵乃宮』の犠牲者になるのだ。始祖たる津姫つきの白巫女と同じ姿。良質なその力を……我が復讐に! ここは白巫女が奉じた『滝』へと続く場所。宵乃宮の巫女が散るのにふさわしいこの場所で、その力を全て寄越せ!』

 ああ、もう、何だかわからないですが、冴お姉様が、お姉様ではなく、前の私の様に誰かと混ぜられているのだと思いました。ただ、自分からの望んで。

「そんなのに身を任せたらどうなるか……」

 私は身震いします。こんな恐ろしいモノを身に宿して、正気でいられるわけがありません。側に居るだけで吐きたくなるような気分です。でも冴お姉様は嬉しそうに笑います。



「どうなってもいいのよ、二十年前、あきらちゃんを奪われてから、私の人生は終わったの。そのあきらちゃんが八年で戻ってきた時はどんなに嬉しかったか。もう何処にもいかない様に私はあの子を躾けようとしたのに、また海外に行ってしまって。私がどんなに悲しかったか、貴女にわかって?」

 声がアラストールと呼ばれる者から冴お姉様に戻り、そして切々と語ります。

 でも目がどう見ても正気ではありません。いつも怖ろしい光を湛えてはいましたが、こんなにおかしな事はなかったのに……

「また同じくらい長い月日を待って、帰って来たあきらちゃん、思った通り心がボロボロで、目も当てられなかったわ。その時思ったわ。あの子は私の所に居させなければ。自分が誰からも受け入れられない存在だって、そうでないとついまた忘れてしまうの。汚らわしい子なのよ」



 賀川さんは……汚らわしくなんてないのに。



 どこでどんなものを食べて、何を思って生きていたか、私にはわかりません。

 誰かに酷い事をしてきたのかもしれません。けれども彼は、今を生きようと必死です。目立つ事もなく日常に埋没して、出来るだけ笑って、火薬のにおいを幸せと言えるほどに。

「貴女、不気味な白だけど、その体つきなら、まあ、少し頑張れば安っぽい男が引っ掛かるのだから、私のあきらちゃんに手を出さなければ良かったのに」

「わ、私、理由なんかわからないですけど、彼の事が……うぐ、ぅ」

 冴お姉様は私の口を頬ごと掴み、逆手でバレーボールを打つように、頭を叩きます。面白いように体がすっ飛び、縛っていた文字は消えました。

 でも首筋の痛みが全身に回っており、体が痺れて、縛りが無くても逃げるほどの力はありません。頭がもともと重いのに、ガンガンしてどうしていいかわかりません。

「今更、詫びてもダメよ。私からあきらちゃんを奪おうとした罰は受けていただくわ。憎いのよ、邪魔なのよ。貴女が死ねば、あきらちゃんはまた私の所に戻って来るわ。貴女が死んだのは俺のせいだって、きっと涙を溜めて私に縋って来るの。そしたらたくさん遊んであげる」

「あそ、ぶ?」

 詫びるつもりなんかありません。だって私…………賀川さんが『好き』だから。いつの間にかそんな風に思っていた事も気付かないほど、自然にそう私に根づいてしまったから。森の中で寂しい生活を送っていた私にとって、大切な笑顔を、生き甲斐をくれた人だから。きっと賀川さんはわかってくれていないでしょうが、私は彼に笑っていてほしいのです。

 でも冴お姉様にその声は届かず、私には理解不能な計画を呟きます。



「ええ。たっぷり打ち据えて、しばらく身動きが取れない程ナイフで傷をつけて。ああ、そうね。アキレス腱を切るといいわね。アラストール。少し可哀想だけれど。そしてもう二度と私から離れない様に首輪を付けてあげる。きっととっても似合うわ」



 どうしてこんな事になってしまったのでしょうか?

 私が悪いのでしょうか?

 このまま私が『二人』の思うままにすれば、怒りを収めてくれるのでしょうか? でもたぶん怒りは収まる事なく、辺りを傷つけ、賀川さんから笑いを奪って、彼はまた冷たい目をするのでしょうか?



 私は『私』を渡せない。



 しなければならない事はそれだけ。

 立ち上がって逃げなければ。でもその場で少し移動できるだけ。やはり足が、体が言う事をききません。

 このままでは『小角』と言う老人に体を奪われた時の様に、いや、それ以上に拙いです。だって食べてしまうと言うのですから、私は跡形もなくなるのでしょう。

『頭から食べようか? それともその赤い眼からいただこうか』

「だめよ、アラストール。目が無くなったら自分がどんな醜い姿になっていくか見えないでしょう? そうね、まずその細い指から一本ずつ噛み千切るのはどうかしら。私のあきらちゃんに触れた罰に」

『指か。カリカリとしてそうだ。前菜としては良いかもしれない』

「それも確か貴女は絵描きだから指が無くなるのは恐怖よね。そうよ、まずそこからがいいわ」

『お前は俺より残忍だ』

「褒めてくれてうれしいわ」

 一人で、というか、二人の中で話がまとまっていくようです。



 まるでお姫様の手を取る様に、私の手を握ると、そっと両手で撫でまわし、

『うまそうだな』

 私はその手を振り払います。指が無くなるのは嫌です。絵も描けなくなって、賀川さんにもう触れられなくなるなんて、とても嫌です。

「泣き喚きなさい、懇願しなさい、許しはしないけど。痛みでのた打ち回るといいわ。その為の自由よ。全て撮影してあるから、あきらちゃんに全部見せてあげる」

 食べられたら、その後の事なんてわからないけれど。

 何をするのでしょう? いやな事しか思いつきません。

 考えただけで悲しくなってきます。ぱらぱらと涙が溢れます。

「怖いの?」

 蔑む様に聞いて来ます。

 怖くないと言ったら嘘になりますが、私は心の底から悲しかったのです。

 彼らに自分を奪われない様にしなければいけない、それはわかっていましたが、何もできない事も悔しく、またも私が『何か』を壊そうとする者の『糧』になる事がたまらなく悲しかったのです。



三衣 千月 様 『うろな天狗の仮面の秘密』 より、小角様のお名前。


朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、アラストール。


そう言えばアラストールは共同名義なのだろうか?


問題あればお知らせください。

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