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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月25日

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121/531

裏:見送り中です(紅と白)

三人称です。



 




 暗い空。

 遠くに飛び去る飛行機の電飾を見送っていた、夜空よりも黒い、闇染めの着物を纏った女が爪を噛みながら呟く。

「あきらちゃんが行ってしまったわ」

「お見送りですか?」

 少し気取った声がかけられ、着物の女……冴は不機嫌そうに振り返った。

 彼女はうろなの賀川急便に勤める、時貞 玲の姉、細密電子TOKISADAの代表だった。

 冴はいつもなら執務室に詰めている時間なのだが、パソコンを使って遠隔で指示を与え、滞りなく業務を済ませつつ、弟が乗った飛行機を遠目ながら見送りに来ていた。

 本来なら、今頃アルビノの少女の死で、泣き崩れる玲を抱きしめ、可愛がっていた頃だろうにと思いながら。

 それも空港で見かけた弟の側には外国で近しくしていた女の姿まであって、その怒りは沸々と煮えたぎっていた。



「目的は達せなかったようですね。死体は無くても、せめて宵乃宮の巫女の血が付いた小刀でもあれば、買い取りましたけどね」

 その言い方から、冴が宵乃宮 雪姫を弟から追い払うのを失敗し、側に居た赤い少女より追い払われたのをその男は知っているようだった。

「貴方、誰に向かってモノを言っているの!」

 髪の毛ほどの傷も負わせられなかった、その事を思い出し怒りを露わにする冴に、

「もう、遺体が出ても、『食事待ち』の方と契約されてしまったようですね。先約は私でしたが、まあ、いいでしょう」



 冴は今まで自分が『見えなかったモノ』がハッキリと見え、感じ取れるようになっていた。目の前の男は自分の弟と近い年齢の普通のサラリーマンの様に見えたが、その細い目の中にある瞳孔が明らかに人間とは違っている。確かに変わった男だとは思っていたが、改めて疑問を投げる。

「篠生、貴方は何なの?」

「私ですか? しがない仲介屋ですよ?」

 そう言いながらも彼は普段細い目を開いて、気味が悪いほどにこやかに縦目の瞳孔で笑った。

「貴女こそ面白い方を味方に付けたようですね?」

 冴は右手を翻すと、手にしたナイフを篠生に振りかざす。だが彼が一睨みした途端、彼女の手がとまる。

「アラストール…『やめろ』ってどういう意味よ?」

「まだ貴女に『馴染んで』いないから、なら私が余裕で勝てる、そう言う事ですよ。アラストール……ふふ……『復讐者アラストール』とは。良いネーミングですね。貴女のセンスですか?」

「貴方……この子がわかるの?」



 冴は数時間前……常人ならざる『力』を今、手にしていた。

 切っ掛けは『些細』。



 自分の弟を奪って行こうとする白髪の女を退けようとして、側に居た赤い子供に追い払われてしまった。

 一人残された彼女は、砕けるはずのないナイフの破片、そして自分に危害を加えようとした赤きドレスの少女の形相に畏れ、慄きながらも、自分の不幸を嘆く。



 重なる妬み。

 どうして彼女だけが。


 重なる恨み。

 どうして私だけが。



 重い思いは、想いを呼び寄せた。



 呼び寄せてしまった『想い』はかつての『宵乃宮』の巫女に舞い降ろされし『何か』。それは感謝される事もなく最後の血の一滴までを『宵乃宮』に食い物にされ、殺された筈だった。

 だが密かにこの地で生き続け、耳だけを澄まし、少し前に密やかに起きた『妖怪達の戦い』に刺激され、目を覚ました……

 そして自分と『おもい』の近しい冴の声に反応し、利害の一致から、そこに『融合オモイ』を決めた。



冴は人ならざる者の力を手に入れた瞬間だった。あの白き髪の少女を確実に、かつ残忍な方法で殺すために。



 篠生はそれを知っているようだった。その上で彼は言う。

「貴女はいろんなモノを降ろす様な素養はない。だから馴染むまで最低二~三日必要だから、あの飛行機が飛び立つまでには巫女に手を下せないと言われた、違いますか? 正確にはあの子の側に居る少女達を、でしょうけど」

 冴はナイフを収めながら笑った。

「この子、名前もないから私が名前をあげたのよ」

 黒い着物、漆黒のソレは夜の闇より濃く、冴を包んでいた。草履も足袋も、髪までも。目の色だけは黒なのに、異様な輝きを帯びて篠生を見る。

「あの女だけは許さない……玲がピアノを弾くのは私と母にだけでいいの。他の人間なんて、玲には不要なのよ」

 闇色の言葉が冴の口から零れる。

「馴染んだ所で所詮は普通の人間。恨みだけでそれを宿す事の意味はわかっていますか?」

「いいのよ、私のあきらちゃんが日本に戻るまでに、あの女が死んでくれれば。後はどうでもいいの」

 そうですか、篠生はそう言ってから、

「もし必要ならお声をかけて下さい。色々『仲介』させていただきますよ?」

 彼が身を翻したと思った瞬間、もうそこには姿がなかった。

『冴』が『アラストール』と手を結ぶシーンについては、コラボ先の朝陽様が同日に書いておられますので、そこの更新をお待ちください。

自分の恨みや欲に堕ちる冴、そのぞくり…とする様な場面をお楽しみに。



朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃんとリズちゃん。それからアラストール。


少しだけ『うろ夏の陣』にも触れました。



。。。予告。。。

後、3回ほどでコラボ先様との打ち合わせにより、更新を停止する事になりました。暫しお待たせいたしますが、お話を楽しんでいただく為ですのでよろしくご理解いただければと思います。



問題があればお知らせ下さい。

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