表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月25日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/531

森・移動中です(紅と白)



ああ、森だね







 バスを待って、森の近くのうろな家バス停で降りて。

 森が近くなると、気温も落ちているのに、少しも具合が良くなった気がしません。バスの中で微睡んでいる間も嫌な夢を見るばかり。煮え立つような感覚が、私を苛みますが、家まで歩かねばなりません。

「ここに入るのか? 雪姫が?」

 薄暗くなった森。

 標もないそこへ電気もなく私が踏み込みのに、ベル姉様は驚いたようです。そして怖がる事もなく、私について来てくれます。

「大丈夫です。あの子達が道を示してくれますし、キノコの歌が聞こえるでしょう?」

「きの、こ?」

 森ではキノコだけではなく、鳥も虫も小動物も、草木も歌を奏でます。優しい色をした空気が私を守るように包んでいるのも感じます。いつもならもっと安らぐのですが、今は体がおかしいせいか、そう感じない事が辛いです。でもいろんな声は、鮮明だし、迷う事はまずあり得ません。

 いつものようには歩けないですが、目の前に白い蝶が舞い、私の伸ばした手に舞い降ります。



挿絵(By みてみん)



「そう、手袋ちゃんが森の入り口まで来てくれていたの? 居ないって告げてくれたのね。ありがとう」

「雪姫、気は確か、だな。……蝶と語れるのか?」

 体が揺れるので、見兼ねたベル姉様が支えてくれます。

「虫は最大の敵なのですけれど。その中にあって友と言える存在です」

「とにかく蝶を追えばいいのだな」



 ベル姉様に支えられ、とにかく気力だけで足を動かします。

 そうしながら、バス停で賀川さんが口付していた女性を思い出しました。

 日本人の血に混じった外国の血が、美しい彼女を作っていました。紺色に近い闇に光る緑が美しい人。

 私よりとっても素敵な大人の女性。

「彼女だったりするのでしょうか」

「いや、仕事関係だろう?」

 誰の事と言っていないのに返事が返ってきます。ベル姉様も気になっていた様子です。

「だが、キスしていたな」

「してましたね」

「いいのか?」

「あ、挨拶だと思います。海外に住んでいたらしいので」

「とは言え、ベルが居る間に帰ってきたら、揉んでやるんだがな」

「…………胸を?」

「う、雪姫、風呂場の件、まだ根に持っているのか?」

「いいえ、でも何か、あれで余計に服が窮屈になった気がして……」

 それは多分、具合が『呪い』のせいで優れないからそう感じるのだと思います。こないだ無白花ちゃんとの買い物で買ったばかりの、ハイネックワンピの胸回りがもうキツイ感じなのです。

 体が苦しいけれど、言っても始まらないので、笑っていようと冗談を紡ぎます。

「ベル姉様があんな事するから」

「もう揉んだりなしない。宣言する。そ、あれでもっと胸が成長したら……け、けしからん、けしからんぞ! 雪姫!」

 どうやら、ベル姉様には胸の大きいお友達がいるようで、その方を思い出しているようです。

「くふふ……」

 何だか少し楽しくなって、ベル姉様の笑いを真似してみます。

 フラフラしていて、ベル姉様に迷惑をかけて、本当に申し訳ないのですが、気持ちは明るくあろうとします。

『無駄な抵抗だ』

 そう言われている気がしますが、それでもそうするしかないのです。



 そして時間をかけながらも何とか家に着きます。私は蝶にお礼を言います。

「ベル姉様……土間のそちらがキッチンとお風呂です。自由に使ってください」

「綺麗だな、外見からは想像がつかないな。なんとかビフォーアフターとかいう番組並みの改装技術だ」

「タカおじ様が聞いたら喜びます」

「そうか、鷹槍が……まったく、いい仕事だな」

 私達は土間から上がって、食堂としている部屋、その繋ぎ部屋のアトリエに入ります。その中にあるベッドにベル姉様は私を寝かせてくれようとします。

「待って下さい、その前に……」

 私は普段使っていない、その奥の部屋を開けました。

「ずっと入っていませんしタカおじ様も必要以上に触っていないみたいですけれど。簡単に掃除をすれば使えると思います」

「ここは……」

「………………母の部屋です」



 ずっと使っていない、と言うか、入る事をはばかってきた部屋。居なくなったのだから片付けるべきでしょうが、そうするのは母が居なくなった、そして居なくなる事を事を認めるようで。

「大切なこの部屋をベルが使っていいのか?」

「母も放って置かれるより、使われた方が良いと言うと思います。私のベッドがあるアトリエは普通に寝るには匂いがきついですし」

 本当は布団のシーツなど私が敷き直すべきでしょうが、その部屋に私は何となく入れないのです。

「あの……」

「良い、後はベルがするから」

 私は笑いながらベル姉様をそちらの部屋に送り出しますが、胸が本当に苦しくて、その後すぐにベッドに倒れてしまいます。

 ベル姉様はしばらくその部屋を丁寧に片付けていました。



 けれどもふと目が覚めて起きると、ベル姉様は私の隣に運んできた椅子に腰を掛けたまま、寝てしまっていました。その手はしっかりと私の手を握っていてくれて。

 それがうれしくて、でも息は信じられない程に苦しくて。微かに涙をこぼしながら、そして微笑みながら、また眠りに身を任せたのでした。




朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。

とにあ様『時雨』より手袋ちゃん(時雨ちゃん)


お借りしております。

問題がありましたらお知らせください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ