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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月25日

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遭遇中です(紅と白)(謎の配達人)

な、んだと?


 






 俺はユキさんを想いながら、首にさげたタグと青い石を取り出す。夕焼けの中でも青く色を失わないその石を見ながら、

「なぁお前……」

 鞄の上のつぶらな瞳の鳥に話しかけようとした途端、耳がおかしくなるような音を聞いた。

「ううううううううわぁ、何だ、これ!」

 殺す気か、っと思う様な音が俺の耳を貫く。暴力だ、音の暴力。

「や、やめろ!」

 そう叫んだ声を聞きつけたのか、一人の少年が目の前に現れた。

 ユキさんと同じような白髪に……青い目。日本ではあまり見ない容姿に、肩には大きく立派な白い鳥がとまっている。

 街中で肩に鳥を乗せてるってあり得ないな、そう思っていると今まで鞄に乗っていた白い鳩が、ぴょんと俺の肩に移動した。

 こんな光景ないだろう? 肩に鳥を乗せた人間が二人、見つめ合ってるとか。



「へえ? 兄さん鳥笛これの音、聞き分けられんだ? カイ以外にもいるとは驚きだぜ」

 彼が口にした何がしを思いっきり吹くと、またあの音が俺の頭に響いた。どうして楽器をこんな凶器に出来るか、全く小一時間ほど問い詰めたい。

「や、やめ……殺す気かっ」

 俺はその少年の襟首を掴んで揺らす。でも彼は涼しい顔で笑う。

「いんや〜? んなつもりはねぇんだけどな。俺様は郵便屋、レディフィルド・イルヴォーグ・レジテ。フィルでいいぜ。兄さんは?」

「と……賀川だ。で、その音は何だ?」

「これは……」

 っと、言ってまた笛を吹こうとしたのを慌てて止める。

「おおおおお、音は鳴らさなくてイイ! レディフィルド。それは何だと」

 フィルと呼んでいいと言われたが、アヤシイ奴を親しく呼ぶ気になれない。だが相手は気にも留めていない風だ。

「鳥笛さ。各地に散らばってるマメ鳥を、これ使って呼び寄せんだ。けど一羽足りねぇなってんで探してたら、カガワんトコに居たってワケさ。……カガワ、手紙持ってんだろ? 渡してくれたら届けてやるぜ?」

 俺は何を言われているかわからなかった。とりあえずその手を緩め、彼を解放する。彼の肩で白い鳥は何も揺らぐことなく大人しくとまっている。

 俺の肩に居る鳥は忙しなく俺の両肩を行き来して遊んでいる、トコトコと。マメ鳥、どこか美味しそうな響きだな……それにしても何だか懐かれているようだ。



 俺は肩の鳥を意識しながら、ベンチに置いた小さな荷物を見つめた。

 手紙、と、言われれば、鞄にニ通入っている。だが、

「郵便屋って言ったけど、君、これは宛先がないんだ」

 それはもう届かない手紙、出す宛ても、届く事もない思いを綴っている。

「わーってるって。安心しな。なんたって俺様は、そーゆー手紙専門の、郵便屋なんだからさ」

 俺が書いた手紙は『母』と『アリサ』へ書いたモノ。

 二人共この世にはいない。

 今日、暇に任せて自分の気持ちを落ち着けるために走り書きしたモノのだった。見られるのは嫌だったので、鞄に放り込んで来た。英語なので、タカさんは読めそうにないが、抜田先生辺りなら読めそうだ。

 アリサの分は墓参りが許されるなら、そこに置いてこようかと思って綴ったが……それを何故知っている?

 どういう事かわからなかった。

 わからないが、彼の青の瞳を見ていると、それが不思議ではない事の様に。そしてそれがさも自然だという感覚で、俺はそれをカバンから取り出していた。そして封筒にも入っていない紙切れを彼に手渡していたのだ。



 まるで催眠にかかったように。



 母へは葬儀にも出られず、生き延びて、今も生きている事を最後まで伝えられなかった親不孝な俺にも、ユキさんと言う大切な人が出来た事を伝えたくて何となく書いた。何をやっているんだ? そう思いながらも筆を運んだそれが『母』に辿り着くと言うのだろうか?

 そして……『アリサ』……俺のせいでこの世を去った、昔の『完璧な彼女』に向けて書いた。あの三年前に自分は死んだつもりだった。だが、愛しいモノの為に、まだ生きていく事を許してはもらえないだろうか、と。この紙切れが、本当に?????



「確かに、預かったぜカガワの〈思い〉。……って、へぇ〜? それ、セキの夜輝石じゃね? めっずらしー事もあるもんだなぁ」

 そう言いながらは、レディフィルドはイタズラに笑った。

「やっ…………」

 彼はまたもや笛を吹く。

 頭が壊れるっ、そう思った瞬間、気付くと音は消えていて、彼の姿はなく、ただ彼の肩と俺の肩から飛び立った大小の白い鳥が、赤い空に大きく旋回し、舞いながら飛び去った。



「な、何だったんだ?」

 俺はよろよろベンチに座りなおした。

 そして不思議な少年に意識を傾けていたとはいえ、俺は背後に気配を感じてゾクリとした。



 誰か、俺の背後に、いる。



 振り返りかけた時、自分が歩いて来た方向から追ってきた白と紅の影が近づいてくる。

 その逆方向からはバスのエンジン音がした。


朝陽 真夜 様『悪魔で、天使ですから。inうろな町』より、ベルちゃん。

小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、レディフィルド君、まめ鳥ちゃんと汐ちゃん海さんと『夜輝石』を。


小藍様の8/24 早朝の使いを読んだ途端、日付的に翌日、遭遇がギリギリ可能だった事から、即メッセしてコラボさせていただいたお話です。

死の瞬間に立ち会えなかった彼に、この手紙は何をもたらすのか。そして……


小藍様、ちょこちょこお世話になりますが、以降もよろしくお願いいたします。

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