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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月23日

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109/531

帰宅中です(汐ちゃんと)

暗くなってきたね。

楽しい時間はおしまい。





 だいぶ暗くなった、森。

 手袋ちゃんの姿が影に入ると溶け込みそうです。

 光が白からオレンジを帯び、森が萌木色から夜の色を纏い出した事に汐ちゃんは怖くなって来たらしく、私の手を欲します。

 それから、最後尾にいた賀川さんに向かって、

「賀川のお兄ちゃんは、……だめ?」

 コテン、と首を傾げて訊ねる姿に、賀川さんは勝てません。なかなか見れない、どうしていいかわからないような笑みをして、

「いいよ。ほら」



 手を繋いで三人で歩き出すと汐ちゃんが、

「覚えてないけど、お母さんとお父さんと、繋いでるみたい」

 何て言うので、賀川さんと同じように驚きながら。

 その彼の黒い瞳に夕方近い光が写っているのが、とても美しくて。

 彼が弾いたピアノの最終部分を思い出します。

 雨が小降りになり、大切な人が帰宅する、きっとその時に雲から差し込む光……



 入り口で手袋ちゃんと別れ、汐ちゃんに軽くなった鞄を渡しつつ、賀川さんが声をかけます。

「車に乗って行かなくていい?」

「うん、大丈夫」

 気持ちよさそうに人がキックボードに乗ってきます。何とエンジン付きみたいです。

「汐〜〜」

「あ、空お姉ちゃんだ。ユキお姉ちゃん、賀川のお兄ちゃん、またね〜」

「あれは車より良さそうだねぇ」

 そう賀川さんが呟いているのが聞こえます。

「ユキさん、行こうか?」

 そっと、手を取られて。車の助手席に私を誘導する賀川さん。その時、

「ユキお姉ちゃん、賀川のお兄ちゃん、待って〜!」

「どうしたんだい?」

「汐ちゃん? どうしたんですか?」

 慌てて戻ってきた彼女は何やら変わったペンダントから、ハートにも見える双涙型のキラキラしたものを取り出すと、

「えいっ」

「「?!」」

 と割って、それを一粒ずつに分けてくれます。

夜輝石これね、あげる。手、出して?」

 汐ちゃんが私達の手に涙型になった『夜輝石』を一つずつ乗せ、手を重ねます。そうすると、ちょうど賀川さんと手を繋いでいたので、円陣を組んだみたいになります。



「イルカさんの加護がありますように」



 汐ちゃんがそう言った途端、何かが煌めいて、ふわり、と、風が舞います。

 汐ちゃんの手、私、その後に賀川さんに何かが巡ります。



「え……えっ!?」

「……い、今の……って!?」

「それじゃあ、またね! ユキお姉ちゃん、賀川のお兄ちゃんっ」

 何事もなかったかのように挨拶と笑顔を残した汐ちゃんは去って行きました。



 車に乗って、お互いの手に乗った石を見ます。

「綺麗ですね」

「綺麗だな。俺まで貰ってよかったのかな?」

 そう言いながら、少々難しい顔をしている賀川さん。

「良いと思いますけれど。どうかしたのですか?」

「なんでこんな硬いのが、どんなに細くても小学生の手で、こんなに綺麗に割れるんだ? って……」

 しきりに触ったりした後で、賀川さんはチャラチャラと首に下げていた鎖を引き上げます。ソレには黒いカバーに入った銀色の札が下がっていました。

「何ですか? それ」

「ん? 過去の遺物だよ。ドッグタグ」

 銀色の板には何かが書き込まれているようです。賀川さんは貰った水色の結晶を、それと一緒にぶら下げます。

「ユキさんも下げておく?」

 こくんと頷くと、

「切れたやつだから短いけれど、鎖がある。ユキさんならこれでいいかな。貸して」

 サイドから、似たようなチェーンを取り出し、渡した石に手際よく通すと、私のハイネックの上から鎖を止めてくれます。首の傷が見えてしまうのではとハラハラしましたが、大丈夫だったようです。

「いいね…………似合うよ」



挿絵(By みてみん)



 鎖骨の少し下ほどの長さで輝く青い『夜輝石やこういし』。そっとそれに触れます。



 賀川さんとお揃い。



 ちょっと嬉しい……ぬいぐるみは対みたいだけど、同じモノってまた違って、とっても嬉しいです。

 それも似合うって言ってくれて……嬉し……



「ユキさん、シートベルトして?」

「え、あっ、は、はい」

 私は慌てて服の下にそれを隠すと、言われた通りにシートベルトをして。ゆっくりと発進した車の窓から森を眺めていたら、少し膨れた自分の顔がガラスに映っています。

「あれ? どうしたのユキさん。不機嫌?」

「いつも私の事、子ども扱いですよね?」

「そう?」

「今もだけど、賀川さん、汐ちゃん家に電話かけてる時、私の事までお礼を言ってましたけれど、それじゃ本当に保護者みたいですよ?」

「俺、もう二十歳も半ばだからね。ユキさんとはまだしもそう言う間柄に他の人から見えるといいけど」

 私は賀川さんに視線を向けずに、

「保護者、は、いや、です」

「ん? 何か言った? それにしても援交とかに間違われると困るんだよね」

「もう私、この冬で十七になるんですよ!」

「だからだね、そう思われかねない組み合わせだろう?」

「う……十六歳と二十五歳ってそんな年? そうですね……二十歳になったらもう賀川さん三十歳に近いんですね……」

「しみじみと言わないでくれるかい? もう少し若かったら君と歩いていても学生に見えたかな? やっぱり若い方がいいよね……誕生日、冬なんだ、そうだよね、名前が雪だから……」

「わかりやすいでしょ? ちょうどクリスマスです」

「へえ、キリスト様と誕生日が一緒なんだ」

 クリスマスと言って、キリストと一緒だとか言い返された事がなくて驚きながら。

 ちょうど信号で止まったので、顔を見合わせてみると、お互い何となく笑っていて。

「今日は楽しかったよ」

「はい」

 いろいろ話したい気はしましたが、それ以降はただ口を閉ざしたまま。

 理由もなく、ただ傍にいるだけで満たされた気分になりながら、私達は帰途についたのでした。




小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、汐ちゃん、空さん(8/23と、リンクありがとうございました)

とにあ様『時雨』より手袋ちゃん(時雨ちゃん)

お借りしました、問題があればお知らせください。


明日は納涼会です

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