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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月23日

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続・お話し中です(汐ちゃんと)


アイスは何が好き?











「あ、汐ちゃん。アイス食べようか?」

 私がそう声をかけると、汐ちゃんがにっこりします。

「うん、いこ、賀川のお兄ちゃん!」

 賀川さんは汐ちゃんに手を引かれ、嬉しそうでしたが、彼女は彼の表情で何か気付いたらしく、

「もう少し、お兄ちゃんはココに居るの?」

 彼は、『うん、ごめんね』と謝ってから、

「もう少し、ユキさんの絵を見ていたい」

 そう言うので、彼をそこに残して、まずは二人でおやつのアイスを眺めます。



「どれがいい?」

「汐はね、バニラチョコチップなの」

「じゃ、私はうーん、キャラメル&ビターチョコかな? 賀川さんのどれがいいかな?」

 二人でアイスをじっと眺めています。賀川さんの好みなんて全然知りません。

「うん、このバニラに苺の粒が入ったの良いんじゃないかな?」

 そう言って汐ちゃんがそれを届けます。戻ってきた栗色の彼女と話をします。手袋ちゃんはのんびり尻尾を揺らしています。

「海の家、もうすぐ終わりでしょう? 汐ちゃん、その後は?」

「海の家が終わってからも、住んでる所がじーじのホテルに移るだけで、うろなには居るよ」



 また会えるね、そんな話をしながらふと質問します。

「何で汐ちゃん、賀川さんに苺なの?」

「ん? だってユキお姉ちゃんと同じ色だもの。好きだと思って」

 真っ白なバニラに赤い苺……私の髪と瞳の色合いではあります。でもそれ、食べ物の好みではないと思いますし、誤解されていますよね?

「え、ああ、私と、か、賀川さんは……」

「こいびと、でしょ?」

「ち、違いますよ。一緒の家に住んでますけど……あ、変な意味じゃなくてですね」

「もう、共生、してるんだぁ」

「え? 共生?」

「クマノミとイソギンチャクとか、エビとウツボとかみたいに、仲良く暮らしてるって事」

「仲良い、かな?」

 少しだけスプーンでアイスを掬って口に運びます。キャラメルもチョコも甘いのに、どこかに苦みを感じるビターテイスト、大人のアイスで変わっているけれど……美味しいです。

 汐ちゃんのアイスの中のチョコはただ甘いようです。



 私はスプーンを嘗めながら、

「今、私はうろな裾野辺りにあるうちに住んでいるんです。そこにはタカおじ様って言う方が居て。商店街で工務店を経営しているので、いっぱいお兄さんが下宿しているんです」

「じゃあ賀川さんもその一人? 工務店のお兄ちゃんなの?」

「賀川さんは賀川運送で宅配をしていて……」

 そう言うと、しばーらく間が開いた後で、

「ああああああっ、よく荷物を届けてくれる、緑色の水玉の……一番賀川君だぁー」

 海の家に荷物を入れているのか、賀川さんを思い出してくれたようです。

「一番?」

「そうそう、仲間内で番号で呼んでるの聞いた事あるの。うちはたまに三番君が来るけど。でも制服着ていなかったから、汐、わからなかったよぉ」

 汐ちゃんでもわからなかったりするんだ、っと思っていると、

「あれ? じゃあ、何でそこに住んでいるの?」

「うーん、工務店の人達に好かれてる、の、かな?」

 私も受け入れてくれたし、賀川さんも、ベル姉様も今いますし、リズちゃんも泊まったし。あの家はとても間口が広いのかもしれません。

「そうなんだ。ねえ、ユキお姉ちゃん、そういえばそのアイスは賀川のお兄ちゃん色だね。美味しい?」

 練ってあるキャラメル味は甘いだけではなく、複雑な苦さもあって、茶色とチョコの黒の組み合わせは、確かに彼の瞳のようで。味と言い、色と言い、賀川さんの正体不明さを表現しているように思えます。

「微妙かも知れないです」

「えーーーー」

「あ、いやその、これを賀川さんってしたらって事ですよ?」



 その後、じーーーーーーーっとアイスを眺めていると、ゆっくり溶けて黒と茶のアイスがマーブルになって行きます。



 途切れた会話、その空白に汐ちゃんが口を開きます。



「汐ねーー、一回、皆の前から消えちゃったの。いなくなったの」

「えっ!?」



 沈黙の中、汐ちゃんが急に始めた話に驚きます。



 居なくなって戻ってきた彼女、『普通の家族』みたいになるのに、結構時間かかった事。

 その時にいろんな人の助けを受けた事。

 そんな事を説明してくれた彼女は、私に視線を合わせ、



「ーー『自分を犠牲に』して、『終わらせる世界』は正しいの?」


 と。

 言います。

 その言葉で、私は私が願った事をはっきりと思い出します。




 大切なその剣で、私を貫いて。

 お願い。

 それで死んでしまっても、雪姫として死にたいの。

 人間として、在りたいの。

 アナタ達を傷つけるくらいなら。

 私は命を賭しましょう。

 だから親友として、いつまでもいつまでも。

 心だけは居させてね。



 そして全部を思い出します。

 夢だと思いたかった事を。


 ココで攫われ、何もかも奪われて、親友を傷つけ、与えられたモノをおもちゃとして殺し、嬉しげに血を浴びる自分を。

 夢ではなく、この身で感じた事を。

 老人からキスで与えられた『茨鬼さん』と混じっていく自分。



「ユキお姉ちゃんは、忘れちゃってるかもだけど……。でもお姉ちゃん『達』は、知ってるはずだよ?」



 汐ちゃんは、囁くように、静かに言います。



「一人残される寂しさを、待つ事の苦しさを……。なのにーー……なのにどうして、|『自己犠牲』《それ

  》を選び願えるの……?」



 森の中、森の中、白い髪の私はぽつんとココで母の帰りを待ちます。

 寂しいのも苦しいのも感じないようにして、絵筆を運びます。

 たくさん描けば、あの人が取りに来てくれるの、考えずともなく湧く気持ちに笑みが零れました。

 あの人に連絡がつかない時はイラッとしながら、取りに来てくれたら嬉しくて。

 もし彼が、来なくなってしまったら。

 彼が私の為に傷つくのは嬉しくありません。

 でも逆だったら? 私が居なくなったら? 賀川さんはどう思うだろう?

 無白花ちゃんや斬無斗君が、最後の始末を頼む『私』に向けた、苦しい表情を思い出します。



「お姉ちゃんは優しいから、『皆の幸せ』の為に、それを望むんだろうけど……。どうして、『自分』は、入ってないの……? 『自分を入れた皆の幸せ』じゃなきゃ……、皆、幸せになんて、なれないんだよっ……?」



 全てを奪い去られた時、私の頭に浮かんだのは赤い輝きと母の言葉。



 私達が自由になる方法は一つだけ。

 貴女がもし自分を失ってしまったら。

 もしもの時は『死』をもって、終わりにする覚悟を。



 あれは私が生を受けた日。

 それはミルクを口にするより前に刻まれた記憶。

『力』持ちし者の覚悟。

 私にはそんな力はないつもりだけれど、もしもまたあんな事があったら。もしその力を使って何か悪い事を考える人が居るならば、私は……?



「……私には……わかり、ません……っ」



 そう答えるのが私には精一杯で。



「ごめんね、ごめんね。ユキお姉ちゃんを、悲しませようと思って言った訳じゃないの」

 背伸びして、私の頭を撫でてくれる汐ちゃん。私の方が大人なのに。

「自分の事、あんまり悪く思っちゃダメだよ。この世に生まれて来るもの達はね、どんな運命を背負っていたとしても、皆神様に愛されて、天使に祝福されて、何より両親に、家族に、周りの全てのものに望まれて、生まれてくるんだって」

 汐ちゃんに撫でられながら、私は彼女の言葉を聞きます。

「だからね、皆幸せになる権利があるの。求める事は、自然な事なんだって」

 そうだといい、心からそう思います。

「お姉ちゃん〈達〉の心の〈奥底のキラキラ〉を、わかってもらえる人に、きちんと話せる人に、早く出会えるといいね……」



 私は……

 私は自分の大切な人達に、自分がやってしまった事を捻じ曲げる事無く、全てを話す事が出来るでしょうか?

「……っ……」

 賀川さんの顔が思い浮かんで、消えます。

 彼は私の絵を見ながら本当に少しだけ笑ってくれます。今日ココに来た時もそうやって絵を眺めていました。

 穏やかに、またやっと、やっと笑いかけてくれるようになった彼に『私は友人を傷つけたり、知らずにヒトを殺したりするの』そんな事、言えるでしょうか?

「……ありがとう、ございます。もう、大丈夫だから……」

 いつか、言えるようになれるでしょうか、いえ、言えるようにならないといけない。そう思うのです。

 彼がそんな事でもう笑ってくれなくなるって思いたくないのです。でも、今は、やっと笑ってくれるようになった彼との関係を壊したくないから。



 それはまた今度にしよう……その時は私の気持ちもちゃんと……



「変な話、聞かせちゃってごめんね、ユキお姉ちゃん。お詫びに、ユキお姉ちゃんの我儘一個、聞いてあげるよ〜」

「えっ! いいですよ、そんな……」

「汐がしたいの〜。だからさせて? ね」

 そう言って笑うので、私はどうしたらいいかわからなくて、でも彼女からの心からの言葉だと思い、

「……わかりました。じゃあ、今度会う時までに考えておきますね」

「我儘これね、ユキお姉ちゃんから、賀川のお兄ちゃんに、でも大丈夫だよ?」

「えっ!?」

「そろそろ帰らないとだよね? 賀川のお兄ちゃん、呼んで来るね〜」



 隣の部屋に行く汐ちゃんの花柄チュニックを見送ります。



 賀川さんが今までの会話を聞いていた事、賀川さんが汐ちゃんへ呟いた言葉。

『我が儘聞くよ?』っと賀川さんにも汐ちゃんが約束していた事。

 私はそんな事も知らず、三人と一匹で町への帰途を辿りました。





小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、汐ちゃん、(8/23と、暫くリンクになります)

とにあ様『時雨』より手袋ちゃん(時雨ちゃん)

お借りしました、問題があればお知らせください。


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