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うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話  作者: 桜月りま
8月23日

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107/531

お話し中です(汐ちゃんと)


あれー? っと。










「えっと」

 散歩から帰ってきた賀川さんは何故か女の子と猫連れでした。

 笑、とか書く所ですね。ここ。



「こんにちはーー」

「んなぁ〜〜♪」



 女の子は海の家ARIKAの汐ちゃん。

 猫はおにぎりを持ってきてくれた、おなじみの猫、手袋ちゃん。



「手袋ちゃんに汐ちゃん? どうしたんですか?」

「一昨日お店に来た時に、具合悪そうだったから、お見舞いに来たんだよ。時雨ちゃんとは森の入口で会って、賀川のお兄ちゃんとは真ん中くらいで会って、一緒に来てもらったの」

「ただいま、ユキさん。ユキさんの友達みたいだったから、戻るついでに一緒にね」

「賀川さんお帰りなさい。そうだったんですね、嬉しいです♪」

 そう行った私に、にっこり笑いながら、彼女の荷物らしい鞄を運び入れる賀川さん。

 そうしながら彼は擦れ違い様、

「ユキさん、海に行った時、熱中症で具合が悪くなったんだって?」

「え?」

「俺、聞いてないな、そんなの……」

「えっ、わ、は、話す機会がなくて」

 こっそり耳打ちしてくる賀川さんの真っ黒い目が怖いですよっ。

 でもすぐに視線を緩めて、溜息をつくと、

「少しは自分の事を考えてくれ。考えただけでこっちが倒れそうだよ。汐ちゃん、一応、家族の人には言ってココに来たらしいけれど、ちゃんと着いたって電話しておくよ」

 この森の中、迷子になっていたらって考えますよね。手袋ちゃんが居れば間違いないとは思いますが。沢などで転落したら、助けようがないですからね。

 賀川さんは気を回して、海の家に電話かけたりしています。ついでに私が世話になったとお礼まで言っていて恥ずかしくなります。これじゃあ本当に保護者みたいです。



 私は賀川さんが一昨日の心配してくれている事に一応・・反省し、汐ちゃんに気を回してくれる事を嬉しく思いながら、

「手袋ちゃん、汐ちゃん、あがってあがって」

 そう言って招き入れます。

 汐ちゃんの藍染めのシュシュで二つに結わえた栗色の髪。あの藍染め、たぶん清水先生達が送ってくれたタオル等と同じ染織品だと思います。

 ジーンズに花柄のチュニック、とても可愛いのです。

「お邪魔しま〜す」

 栗色のキラキラした瞳が、家に入った途端、見えない壁にぶつかってしまったかのように歪みます。

「う、汐ちゃんっ!?」

「……あ、あれ……?」

 可愛い頬を突然、綺麗な涙の結晶が、零れて落ちます。

「んなぁ〜?」

 心配して、足下にすり寄る手袋ちゃん。



「……ち、違うの。何でもないのっ。何でもないから……すぐっ、泣き止む、から……っ」



 理由はわからないけれど、何かを感じたみたいで。

「……ご、めん……なさいっ……」

 必至に泣き止もうとする汐ちゃんが痛々しくて。

 何を感じたのでしょう? 

 でも無理に涙を止めないで良いんだよ、どうしてもの時は泣けばいい。そう言おうとした私の動く前に、

「大丈夫だよ」

 そう言って汐ちゃんの頭を撫でる、白い大きな手。軍手で日焼けしそこねた白い手。

 ゆっくりと優しく、撫でる賀川さんのその手は、不安を取り除いてくれるみたいで、

「……っ……ふぇっ……」

 でも、逆に泣き出してしまう彼女に僅かに動揺したものの、何かをわかっているように撫で続ける賀川さん。その視線は武骨だけど、優しくて。

 次第に落ち着いてきた彼女は、恥ずかしいと少し頬を紅潮させながらたくさんのお土産を並べてくれました。そしてマンゴーやら赤い果物。ドラゴンフルーツって言うそうです。クリンクリンした厚手の皮に包まれた、こんな形の食べ物なのですね。

 珍しいので口にすると、変わった味でしたが美味しかったです。

 沢山は食べられなかったけれど。




 食事の後、絵具を出して遊んだり、汐ちゃんは賀川さんにも懐いたようで楽しげに遊んだりしています。床を汚さないように敷く古新聞を広げて、ちょうどあった漢字表みたいなのを眺めてますよ?

「じゃ、これは何かわかる? 賀川のお兄ちゃん。よく食べるんじゃないかな?」

「うんと、さんま、かな?」

「違うよぅ。イワシだよ。さんまは秋に獲れる刀みたいな形をしている魚だから、秋刀魚サンマ。いわしは陸にあげて日持ちが良くないから魚に弱いって書いて、イワシだよ」

「あ、俺でもこれわかる、(ツナ)だ」

「ええっ、それはマグロ。ツナ缶の原料だけど、漢字でツナって読まないよ? お寿司でいうならトロだよ。 それにこの、カツオもツナ缶の材料だよ?」

 賀川さんは『そ? そうなのか……?』っと、驚いてから、

「カツオって、ちっさな袋に入った、ふわふわした食べ物だよな? お好み焼きとかにかける……堅いって字だけど」

「あ、それはカツオブシのこと? あれは乾燥させてるのを薄くしてるからやわらかいんだよ? カツオブシは削る前は打ち合わせると音がするほど硬いんだよ?」

 カツオブシを削る前の形状を見た事がないらしい賀川さんが首を捻り、汐ちゃんは何で知らないんだろうって顔になってます。でもお互い楽しいらしくすぐに笑い顔になって、

「じゃあ、汐ちゃん、これは、これは?」

「これ、ハモ。魚に豊って書くのはね、生命力の強い魚だからって言われるんだよ、こーきゅー魚なんだって、お姉ちゃんが言ってたよ。でも中国では同じ字で、雷魚の事を指すんだよ」

「ええ? 違うの? じゃ、これ」

「ええっと、魚に皮で、かわはぎだよぅ。獲って来てすぐだと肝まで食べられるんだよ。餌を突いて食べるから針に引っかからない頭のいい魚なの」

「へえーー流石、海の家の子だね」

「えへへ。でもじょーしき問題も交じっているよ」

 賀川さんは『常識を常識と知ってるって偉いんだよ』そう言って、汐ちゃんを褒めています。ぎこちない所もありますが、意外に子供の扱いが上手くて、ビックリします。と、言うか汐ちゃんが賀川さんの相手をしてるだけな気もしますけれど。



「なぁん」

 手袋ちゃんが私の腕の中でのんびりと鳴きます。このまま連れて帰りたいくらい可愛いです。

「へへ、ニコニコしてる? 私……」

 この所、いつも忙しそうな賀川さんが一日に側に居るのは珍しくて、嬉しくて。今朝は私の為にとピアノを弾いてくれて。節だったその手が盤上を撫でる……ピアノが優しく歌うのを思い出します。

 膝の上にはふわふわの手袋ちゃん、お見舞いにと来てくれた汐ちゃんの可愛い笑顔。

 とっても幸せです。

 そう思うのに、痛み出す首の傷が本当に困ります。誤魔化すように私は筆を置いて立ち上がったのでした。






小藍様 『キラキラを探して〜うろな町散歩〜』より、汐ちゃん、(8/23と、暫くリンクになります)

とにあ様『時雨』より手袋ちゃん(時雨ちゃん)

お借りしました、問題があればお知らせください。


またYL様の先生から送られた藍染、海江田染めにも少し触れました。

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