十七話
帰ってきたらシアがいなくなっていて、クエストはまだ終わらない。つまり今回のクエストの本当の目的は――。
「シアを守ること……!」
いやいやいや、だったら最初からそう言えっていうね。あのじじい本当に俺の人生を弄んでくれるな。
とか言ってる場合じゃない。
とにかく今はシアがどこに言ったのかを探さなければ。
部屋に戻って拳に「はーっ」と息を吐きかける。
「おい見てんだろじじい、さっさと出てこい」
「ここじゃ」
と、ベッドの下からじじいがスライドして現れた。
「さっきまでいなかっただろう、がっ!」
驚くこともなく拳を打ち下ろした。ノータイムでだ。
じじいの顔面に俺の拳がめり込んだ。しかしじじいは動じていない。いつもどおりではあるが、さすがにノーリアクションはこっちもリアクションしづらくて困ってしまう。まあ困ったらぶん殴ればいいか。
「痛いのう」
一応リアクションはあるんだけど痛そうじゃないんだよな。
もう一発打ち込んどくか。
「おらよっ!」
「おふっ、いつからヤンキーみたいなことする子になったんじゃ……」
「俺とお前のクソみたいなやり取りはどうでもよろしい。シアはどこ行った?」
「しりたいかね」
じじいはベッドの下から完全に出てきて立ち上がった。顔とかはじじいなのに、首から下が完全に俺である。俺の代わりをしていた弊害か。
「すね毛隠せすね毛」
剛毛か。もう肌色見えねーじゃねーか。
「ワシのすね毛は魔法のすね毛なんじゃ」
「だからこういうやり取りがいらねーって言ってるじゃねーかよっと!」
顔面にもう一発打ち込んでやった。
「すね毛の話持ち出したのお主じゃのに……」
「あ゛?」
「ヤンキームーヴ、どこで覚えてきたんじゃ……」
「とりあえず情報! 早く情報くれ!」
何度か地団駄を踏む。
「ヤンキーになったりキッズになったり大変じゃのう。ワシが知っとるのは自分から南の方に向かって行ったみたいじゃ」
「自分から? なんで?」
「ワシが知ってると思っちゃってる? まさかそんなゴドッ」
今日は顔面パンチデーだな。
「とりかえず南に向かうか。なんか感じられる魔力も弱いし、妙なことが起らなければいいんだがなあ」
もう一度ブラックノワールに変身して、颯爽と夜の町へと飛び出していった。
姿を隠して南下していく。いつもより魔力が弱い理由はわからないが、魔力が感じられるということはまだ死んではいないということだ。だが弱くなっているということはなにかがあったということ。
野を抜け山を飛び越え、目の前に現れたモンスターをはっ倒して前進を続けた。
そして、森の中に入った時に違和感を感じた。
「この森、こんなに瘴気ダダ漏れだったっけか……?」
ここまで禍々しい魔力を放ってたら、俺が鈍感で、かつ遠距離であってもさすがに気がつくと思うんだが。
「とにかく行くか」
この感じだと「ここに目的の物がありますよ!」と言われてる気がしてならない。あからさますぎてできれば行きたくないがそういうわけにもいかない。
動物やモンスターは普通に生きてるってことは、この瘴気はどうやら特殊なものらしいな。
どんどんと奥へと向かっていく。瘴気は濃くなっていく。俺も皮膚の上に魔法で膜を張らないと肌が溶けてしまうかもしれない。おそらくこれは魔力を持つ人間にだけ作用する瘴気のようだ。
「独特すぎるでしょ」
あまりにもピンポイントすぎるんだよなあ。
まあそこまで考えるとやはりこれは人為的なもの、と捉えるのが自然だろう。
そうして、森の中心部へとやってきた。拓けたその場所にはとんでもなく大きなトレント。紫色のオーラを放ち、木の枝のビシンバシンと振り回していた。
そしてそのトレントの中心部にマッパの女が取り込まれていた。
「なんであんなことになってるのか」
シアだった。もしかして自分で脱いでトレントと融合したってのか。シアは性質的には人間じゃなくて魔族。あれが人間であったら吸収されて終わりだが、魔族だからこそ別々の物として融合しているのだろう。
だが気になるのは「どうして上位種である魔王が取り込まれてしまったのか」である。やはりこれは作為的、人為的ななにかが絡んでいるんだろう。いくら誰かが裏で糸を引いていても、ただのモンスターであるトレントがシアを取り込むのは相当苦労するはずだ。あのトレントがとんでもなく強力、かつシアが弱っていて、なおかつ誰かの手引きが必要になる。それくらい、魔王がモンスターに取り込まれるというのはありえない話なのだ。完全に取り込まれてないのはさすが魔王と言っていいと思うけど。
それを解決するためにも、今はシアを助けるのが最善だな。
「うし、いっちょやったるか」
腕をぐるぐる回して準備体操っぽいなにかを開始した。




