十二話
と、そこで人の気配がした。起き上がると、いつの間にかじじいがイスに座ってこっちを見ていた。
「ホラーかよ」
「こんな好々爺はそうはおらんぞ?」
「自分で言うなよ」
コイツと話してると秒でため息が出てくる。
「んで今日はなんの用事だ?」
「なんてことはない。おそらくここに兵士がなだれ込んでくる可能性があるというのを教えてやろうと思ってな」
突然の告白すぎてどうしていいかわからん。
「もう、どこから突っ込んでいいのかわかんないんだけど。どこ情報?」
「ワシ情報」
「ぶん殴るぞ」
やれやれというふうに首を横に振るもんだから、少し懲らしめる意味で指からビームを出した。
が、あの光った頭に弾かれてしまった。危なく屋根に穴が開くところだったが、もう一本ビームを出してそれを阻止。
「お前の頭は反射兵器かよ」
「いきなり攻撃してくるでない」
「まさかそんなことになるとは思わない。それでどうして兵士たちが来るってわかるんだ?」
「今日は王都で休日をエンジョイしたようじゃが、そこで父上と母上の過去を暴いたのう」
「それがどうした」
「ちょっとだけ用心が足りんかったのう。あの話、軍部の関係者に聞かれていたようじゃ」
「見てたならなんでその場で言わないんだよ……」
もし教えてもらえたんならその場で記憶ふっ飛ばしてやったのに。
まあ記憶消すのとかやったことないけど。
「ハッシュドビーフ作っとったんじゃ」
「見てたんだよね?」
「お主、転生する前は料理しながらテレビくらい見てたじゃろ? つまりそういうことじゃよ」
「俺の人生はエンターテインメントじゃねーよ」
「味見したり火を調整したりするのに忙しくてのう。まあ、そういうことじゃ」
「いやいや話しかけることくらいできただろ」
「え、やだよ。家にいるときくらいお主のこと忘れたいもん」
「うるせーよ忘れたいのはこっちだって一緒だ」
話が前に進まない。数キロ先の目的地に向かって匍匐前進してる気分になる。時速1キロ以下って感じ。
「わかった、その話は置いておこう。でだ、その軍部関係者がお姫様とお姫様を拉致して男を追ってくるって、そういう話でいいのか?」
「すごいすごい、よく話をまとめたのう。神様コインを一枚やろう」
ちゃりんとコインが一枚降ってきた。これで神様コインが八枚になり、また一歩シアが人間に近付いたことになる。
ってそうじゃない。
「こんなに簡単にくれるなら俺はこんな苦労しないんだけど?」
「今日は特別じゃ」
「あと言わせてもらうけどお前が話まとめんの下手くそだから俺がまとめなきゃいけないんだぞ? しかも毎回」
「楽しいじゃろ?」
「やかましい」
「おじいちゃんと遊んでる気分になるじゃろ」
「介護の間違いだ」
だから話が前に進まないんだって。
「お前もう訊かれたことにだけ答えろ、いつまで経っても話が終わらん」
「よかろう」
「はっ倒すぞ」
偉そうなのがムカつく。
「兵士の数は?」
「約五千」
「多すぎる……」
「それだけお主の父上は怖がられてるってことじゃろうな」
「王都を出発したのはいつだ?」
「今日の夕方。人数が人数じゃし、到着するのは明日のお昼頃だと思うぞ」
「それでも一日もないか。さて、どうするかな」
町に到着してからじゃ遅すぎる。やるなら深夜の間に動かなきゃいけなくなるだろう。
しかし、ただただ壊滅させただけじゃまた兵士が派遣されるだけだ。なにも進歩しない。
俺がやるべきことはいくつかある。まず兵士を止めること、これは大前提。二つ目には兵士が二度とこの町に近づかないようにすること。最悪この二つさえやり遂げれば任務完了ってことにはなるな。それが難しいんだが。
「迷ってると大変なことになるのう」
「うるさい黙ってろ」
じじいはぺちっぺちっとリズムよく頭を叩いていた。どういう感情の現れなのか読み取れなくてちょっとだけ怖くなってくる。
誰かが言ってたな。最大の恐怖は理解できないことだって。まさか兵士が近付いてくるよりもこのじじいに恐怖を感じることになるとは――。
「お、なんか思いついたようじゃのう」
「一応な」
この方法ならまあ、なんとかなりそうな気がしないでもない。それに俺一人でも片付けられそうだ。誰かの横槍がないことを祈るしかないだろう。
こんなこと言ってると大変な目に遭いそうだから口には出さないでおこう。




