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101回目の異世界転生!  作者: 絢野悠
七章:お見舞いは突然に
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八話

 次の瞬間、老人の目が酔っ払いのそれではなくなった。


「姫様を攫ったのさ」

「攫った?」

「そうさ。まあ姫様と言っても、王様が妾に産ませた子だけどな。それでも公式な妾だから、一応王宮には入ってた」

「でも妾の子って、その、大変なんじゃないか?」


 俺も創作物の中のことしかしらないが、実子や王妃からのあてつけとかが酷そうなイメージがある。


「そりゃもう。王族はみんな冷ややかな目で見てた。執事や侍女の中にも反発する者がいてな。なによりも、その妾が子を生む時に死んでしまったのがまずかった。守る者がほとんどいなかった」

「じゃあ生活も相当苦労だったんじゃないか?」

「苦労なんて言葉一つじゃ割り切れなかっただろうさ。王宮にいても食事を与えられなかったり、服を破かれたり、軟禁状態にされたり。学校へ行っても靴を隠されたり、泥水をかけられたりしたようだしな」

「アンタ詳しいな」

「一応姫様に近い場所にいたからな」

「なのに守ってやらなかったのか」

「妾の子を目の敵にしてたヤツは王宮にも多かった。俺が庇えば、今度は俺の立ち位置が危うくなる。それでもまあ、ちょっとだけ娘みたいには思ってたがな」

「でもその子はアンタのことをオヤジとは思ってなかっただろうな」


 自分が苦しんでいる時に見ているだけの男を慕うとは思えない。


「それでもだ。あの子は俺に勉強を教えて欲しいとせがんだ。裁縫も教えた。茶の入れ方だって、料理だって俺が教えた」


 老人は右手で目元を覆った。


「でも、救ってやれんかった」

「当たり前だろ。アンタは保身に走ったんだ。しかし、今の話と妾の子を攫った話はどう繋がるんだ?」

「その子はずっと苦労してきた。それは攫われるまで続いた。あれはいくつだったかな、二十歳そこそこだったと思う」

「二十を過ぎるまで続いて、その子はよくもまあ生きてたな」


 人によっちゃ自殺してもおかしくない。


「姫様を攫ったその男は軍人だと言ったな。いつしか姫様と逢瀬を重ねるようになって、彼女の出自を知り、同情した」

「それで姫様を攫った、と」

「そういうこった。その攫った男の名前も素性もわかっていた。そして俺はその男に魔法をかけるように言われた。だから、腰痛の魔法をかけたんだ」


 とてつもないシリアスさの中で「腰痛の魔法」っていう単語が出てくるだけで一気に台無しになるな。


「なんで腰痛の魔法なんだよ……」


 頭を抱えそうになる。


「本当は別の魔法をかけるように言われてた。筋肉が収縮を繰り返し、まともに歩くだけでも激痛が走る。神経には刺すような痛みがあり、それでいて延命処置が施される拷問魔法だ。食べず飲まずで生きながらえ、けれど痛みは死ぬまで続く。自分で首を切ろうが薬を飲もうが魔法がそのすべてを治癒する。そんな魔法だ」

「それがなぜ腰痛に?」

「術式が近かったんだ。時を経て発動する腰痛の魔法になったというわけだ。幸いと言っていいのか、姫様を攫った男の行方まではわからなかった。だからちゃんと発動したかどうかまでは誰も確認していない」

「それでバレなかったわけか。でもバレなかったのに今こんな生活してんのはなんでだ?」

「横領がバレた」

「自業自得か」


 正直コイツ自身の話はもうどうでもいい。


「姫様とやらの名前と攫った男の名前を教えてくれ」

「姫の名はアルメイサ、男の名は知らん」


 となると俺の両親とはやっぱり関係ないのか。でもシアはこの男が腰痛の魔法をかけたと言っている。


「なあシア、コイツで間違いないんだよな?」

「街がいいなくコイツよ」

「じゃあ次じいさん。本当に腰痛の魔法をかけたのは一人だけなんだよな?」

「間違いない。そんなしょぼい魔法使わん」

「そのしょぼい魔法を間違えて使ったのはお前だぞ」


 ぷいっと、じいさんがそっぽ向いてしまった。ガキかよ。


「ねえアル。思ったんだけど、その姫様と攫った男ってアナタの両親なんじゃない?」

「名前が違うだろ」

「名前なんていくらでも変えられる。あんな田舎だし、名前を変えて引っ越してましたって言えば終わりでしょ?」

「それはそうなんだが……」


 この世界に住民票だとか戸籍だとかそういうシステムも聞かない。テキトーに名前を変えて遠くにいけば別人になれる世界だ。緩い世界ではあるが、犯罪者もそれができるって考えると非常に怖い。


「こりゃ、父さんと母さんに話を訊いた方が良さそうだな」

「そうね。帰りましょうか」

「待て待て、本題本題」


 コイツ、父さんの腰痛を治すこと忘れてたんじゃあるまいな。


 元王宮魔法師のじいさんは嫌がったが、魔法の術式を俺たちに教えてくれた。術式さえわかればシアがなんとかしてくれるらしい。


 数年後に発動する腰痛、なんて魔法の割に長ったらしい術式を教わり、俺たちは父さんがいる病院へと帰るのだった。

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